表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の処女惑星  作者: 菊茶
67/90

65 合金発見

 65 合金発見




 現在抱えている、帰還のためのプロジェクトは以下の通りである。


 1番目は、プラズマエンジンの試験。

 2番目は、往復可能な通信プロープの開発。

 3番目は、オペレッタのスリム化。

 4番目は、トレインの内装と制御。

 5番目は、宇宙服の制作。

 6番目は、ベテルギウスでのウラシマ効果対策。

 7番目は、下級生の決断。


 1は、ミヤビの担当。

 これから完成品を見に行って調整する。

 試験飛行はやらなくてはならないが、安全性を確信できれば、赤城山から4段目まで飛行する予定である。


 2は、カオルコが担当だが、こちらにいるミヤビとカレンと技術班が協力している。

 まだ、何故往復できないのかは不明である。


 3は、リーナさんとオペレッタ自身が考えているし、形になりつつある。

 時間はかかるが、トレインを内包する形でのドッキングも考えている。


 4は、ミサコが取り組んでいるが、エンジン制御はやはりミヤビだ。

 制御部を残した形だが、内装は殆ど完成したらしい。

 ただし、エンジンの影響で変更もあり得る。


 5は、カレンとその友人たちが担当している。

 1気圧は重くて難しそうだ。

 減圧するのは身体の負担が大きくなるから、非常用にしか役立たないかもしれない。


 6は、現状ではどうしようも無い。


 7は、みんなで悩んでいるところだ。


 ゲートを利用した時にベテルギウスを経由すると、ウラシマ効果のリスクだけは回避できない。

 40年か50年か分からないが、地球なりホエールなりにたどり着いても、知り合いというか家族は年老いてしまっていることだろう。

 一方、このまま救助を待つとしても、女ばかりで年を重ねていくことになる。


 現地人との結婚や生活など、誰も望んでいない。


 どれだけ仲良くなっても、お嬢様方は『異星人』との結婚や生活など、常識の外なのである。

 ほぼ、人類だろうと確信しているミヤビですら、『ちょっと無理』と言うぐらいだから、異星人だと信じている者たちでは、どんな啓蒙活動をしても、まず無理だろう。


 問題点は、結局ウラシマ効果に耐える価値があるかどうかだ。

 だが、流石に再会する母親が、80歳とか90歳とかだと、考え込んでしまうのだ。


 最下級生は6年生になっている。

 彼女たちの意見の大半は、『もう少し待ってみる』だ。

 5年待っても17歳とかは、ある意味余裕なのかも知れない。


 中1の意見は半々だった。

 待てると言うのと、リスクを負っても帰りたいと言うのがである。


 中2の意見も半々ぐらいだろうか。

 半分は待てる、と言う。

 残りの半分は、『お姉ちゃんばっかり狡い』というカレンの意見と同じだ。

 要するに、俺を独り占めするなと言うことらしい。

 何しろ、娯楽が少なく、肉体労働が多いせいか、


 『デートぐらいしたい』

 『ラブラブしたい』

 『経験したい』

 『妻になりたい』

 『子供を産みたい』


 などと、カオルコが恥ずかしくて言えないような要望まで押し寄せているらしい。


「複数でなんて!」

「現地人としてるのを見たいなど!」


 カオルコはブツブツ言っている。


 半分の待てると言うのも、どうやら救助ではなく、経験の方になっているらしい。

 半分がどうなるかを見てから決めたいという。


「ユウキさんが大好き、というわけではありませんよ」

「ああ、何となく分かるよ」

「比較対象が異星人しかいないからでしょう」

「ああ、別に勘違いはしないよ」

「時々、まとめてゲートの向こうに放り出したくなります」

「俺も、時々そう思う」

「もし、私だけ残ったら……」

「カオルコは帰りたくないのか?」

「この唐変木! 色情狂!」


 最近、カオルコはきれやすい。

 色々と大変だからだろう。

 責任がある立場は、かなりのプレッシャーがあるからなあ。


 それでも、これらの問題は、現地人には関係のない話である。


 もし、俺がゲートで40年も50年も飛ばされれば、サンヤが危惧する通りで、俺の不在期間は村長たちにとっては死別と同じ事である。

 勿論、彼らは自立して生きていくだろう。

 ある程度の繁栄は約束できるし、保証できる。

 それでも、見捨てられたと感じるだろう。

 そこはつらいが、割り切るしかない。

 議論ではなく、決断が必要な部分だからだ。


 エンジンが完成してから、ラーマとタキとレンを優先している。

 彼女たちは、俺に二度と会えないとしても、子供だけは二人は欲しいと言う。

 当然、一人目の祐馬とユキとランは、現地人として生きていくことになる。

 実は、祐馬が少し心配だ。

 俺も両親に置いて行かれて寂しい思いをした。


 だから、我が儘で甘えん坊の部分があると思う。


 祐馬も同じような問題を抱えるだろうが、どうもまわりに甘やかされそうである。

 母や妹たちを守れるように育って欲しいが、どうにも分からない。

 環境が特殊すぎるからだ。


 ラーマは妊娠しやすい方法を色々考えて試してくるが、俺が強くすると我を忘れてしまい、いつも恥ずかしがった。


「これじゃあ、森でしたら、大勢集まってきてしまいます」


 と、涙目だった。


 タキは落ち着いていて、絶対に上手くいくと信じている。

 二度と会えないなんてことは無く、終われば笑い話になると笑っていた。


「それより身体が感じやすくなって困りますね。今は順番が回ってくるから良いのですが、暫く離れていると、つらくなります」


「父親は必要です」


 レンはそう言うだけだった。

 何があっても帰ってこい、という意味だと思う。


 とは言え、俺にとっても一番大切なのは妻と子供である。

 だからこそ、130人の少女を最優先しなければならないと感じている。

 これを譲ってしまうと、何か心の中の自分が死んでしまうような気がするのだ。


 サラスとイリスは少しだけ待ってくれている。

 エンジンの試験で、赤城山に連れて行くことにしたから、それからである。

 それまでは、ラーマたちを優先してくれる。

 もっとも、イリスはサブルームにいるので、いつも隙を突いて強烈なキスをしてくる。

 ラーマが来る前とか、タキやレンが朝起きてからとか、時々少し発展してしまったりもする。


 とは言え、ヨリは謎の週一を崩さない。

 一度、何故なのか聞いたのだが、


「これでも、我慢しているのです」


 と、やはり謎の回答を得ただけだった。


 ミヤビも時々乱入してくる。

 あらゆるプロジェクトに頭を使っているせいか、我慢できないという。


「俺はストレスの発散のために必要なのか」

「時々、頭を空っぽにしないと、良い考えが浮かばないのよ。ケアレスミスも増えるし」

「何だか、なあ」

「ええ、おばさんくさいでしょ。分かっているけど、大事なことばかりでしょう。それとも」

「いや、ミヤビに抜けられるとすべてが破綻する。オペレッタのスリム化も時間がかかるし、スリム化できても最後の勝負というのは、現時点では考えたくない」

「なら、私を大事にしなさい」

「はい」

「私の事、愛してる?」

「はい、愛しています」

「私の何処が好き?」

「えーと、ここ」

「あん、そう言う意味じゃなくて」

「えーと、ここもいいな」

「ああっ、そう、そうじゃなくて」

「ここをこうするともっといい」

「あー、本当にいいわ」


 ミサコは、少し遠慮している。


「だって、私たちの問題でラーマさんたちが哀しい思いを堪えているのに」

「完全にお別れと決まったわけじゃないさ」

「それでも、どうなるか分からないだけで、十分にひどいです。私だったら耐えられません」

「しかし、子供を置いて、ついていく訳にはいかないだろう」

「それは理屈です。納得はできません。ユウキさんを置いて、我々だけでゲートに挑戦する事も可能ですし、救助を待ち続ける事だって選択できます」

「しかし、下級生も大人になっていくんだ。恋もしないで青春を棒に振る訳にもいかないぞ」

「だからと言って、誰かを不幸にするなど……」

「逆だよ、ラーマたちはお前たちを不幸にすることができないんだ」

「そんな!」

「そういう人間なんだから仕方がないだろ」

「うわーん」

「まだ、決まった訳じゃないから、泣くな」



 吉報と言うべきものは、続いてきた。

 最初にレンが妊娠した。


「今度は上手く出来ましたね」(レン)

「ユウキが頑張ったからです」(タキ)

「お手柄には違いないですよ」(ラーマ)


 すぐにラーマが妊娠していることが分かった。


「私、下手なのでしょうか」(タキ)

「この星は続くのが特徴だろ」

「そうですね。タキも調べて貰いましょう」(ラーマ)


 セルターが調べると、タキも妊娠していた。

 それも、どうやら先に妊娠していたらしい。


 御祝いどころではなかったが、俺は妻たちと子供たちに囲まれて一日過ごした。

 ラーマの健康については、セルターが見守ってくれることになった。

 タルト夫人たちとコラノ夫人たちも請け負ってくれた。


 それから、ニタが来た。

 自ら砂金を持ってくるのは珍しい。

 吉報なのか?


「実は、少し秘密のお話を」


 もったいぶっているが、ニタは利口な男である。

 迎賓館のVIPルームで歓待する振りをして、ススとナミに頼んで人払いした。


「実は、新たな村のひとつで特殊な石が採れました。研究しましたが、こんな結果に」


 革袋から、ゴロゴロと金属塊が出てきた。

 金合金、銅合金、それに亜鉛か、こっちは錫だろう。


「炭を使ったのか」

「泥炭でやりました」

「炉は」

「?」

「何を使って融かしたんだ」

「何もない村でしたから、石で囲んで鍋を使ってたのです。そのうち鍋を融かす石があると言うことでおかしいと思ったんですよ。それでどうせ駄目になった鍋なんで、色々試したら、軟らかいうちなら他の鍋を直せる事が分かったのです」


「それで、何を試した?」


「工夫をして包丁を作ってみました。大きくして草を刈ったりもできます。鎌と鍬はまだ上手く出来ません」


 簡単な鋳造に、研ぎを入れたな。


「良いかニタ、これで武器を作れば戦争が起きる。そして大勢の人が死ぬんだ」

「棍棒や槍でも人は死にますよ」

「だが、これほど強力ではないんだ」

「私は非力ですから、戦争はまっぴらなんですが」

「ニタがそう思っても、相手が攻めてくるかも知れない」

「売り買いじゃ駄目なんですか」

「それは相手次第だな。あんまり期待できないぞ」

「しかし、実際に農機具がありますから、秘密にしてもそんなには持たないと思いますよ。それに砂金を運んでるのは誰もが知っていますし」


 俺はため息をついた。

 どうせ、後戻りはできないんだ。

 ニタを脅かしても仕方がないだろう。

 ニタが金を見つけたわけではなく、金はずっとそこにあったのだ。

 それを欲しがり、炭や泥炭を提供したのは俺だから、それはいつかは金属を融かすだろう。


 原因は全部自分にあるのだ。


 ただ、金属産業はまだまだ先になると思い込みたかっただけだ。


「ひとつだけ聞かせてくれ。もし俺がいなかったら、ニタはそれをどうした?」

「農機具を作って畑を広げていたでしょう」

「他の村長たちも欲しがるぞ」

「作れるだけ作って配りますよ」

「サンヤが兵を連れて全部よこせって言ったら?」

「渡しますよ、怖いですから。でも、ユウキ様はサンヤを誤解していますよ。あの男は本当に争いが嫌いなんです。ただ、平和に暮らしたいからロン族やギルポンを大人しくさせたんです。飢えは、どんな部族より恐ろしいですから」


 戦争は、どんな名目でも起こるんだよ。

 たった一人の女の為でもな。


「スス、ドウを呼んでくれ」

「はい」


 戸の外にいたススにお願いする。

 公文書館は近いから、すぐにドウが来る。


「何です」

「掟を二つ増やしてくれ。それを守るための掟をドウの権限で増やしても良い」

「右筆を呼んできます」


 ドウの指示で、ススが下がっていった。


「ドウ、ニタの妻になり、監視する気はないか」

「無理。妻になったら監視なんかできない」


 そりゃそうか。

 ニタがしょぼくれている。

 そう言えば、この親父、キン、ギン、ドウが大好きだったな。


 やがて右筆が二人来る。


「一つ、金属で武器を作ったものは追放する」

「一つ、金属を作るために、木々を伐採してはならない」


 この二つを新たな掟とする。

 すると、ドウは少し考え、


「金属で武器を作るよう命じたものは追放する」

「金属を作るために炭を大量に購入、または使用することを禁じる」

「作った金属は、量と用途を必ず届け出て許可をとること」

「許可された用途以外に使用した者は処罰する」


 ドウはすらすらと付け加えた。


「これで一応は大丈夫」

「ありがとう。やはり凄いな」

「そう思うなら、妻にする」

「うっ、ちゃんと考えとく」


「サナイ」

「はい」

「あなたは今からニタの妻になる。侍女の誇りを忘れずに」

「はい」


 ドウの右筆であるサナイがニタの隣に座る。


「領主様、御祝いを」

「ええっ、それで良いの?」

「いい」

「えー、サナイ、おめでとう。御祝いに1万リナと猪一頭贈ろう」

「ありがとうございます」

「スス、酒と料理を頼む」

「はい!」


 ニタは何も言えずに受け入れた。

 ドウ直属の右筆が妻になるなど凄い名誉だからだし、監視に文句を言えないし、サナイが美人だからでもある。


 次々に同僚たちが酒と料理を運んできて、ニタは侍女たちのお酌と祝福で酔いつぶれた。

 俺も付き合いで、2杯だけ飲まされた。


「本当に良かったのかあ」

「侍女の絆は男たちより協力、平和には不可欠」

「サナイの意志は? どうなるんだあ」

「元ズルイの女は北に帰りたがる。ニタは北で裕福。新たな3つの村もサナイの指導下に入る」

「出世かぁ、いいなあ」

「大出世。喜んでいる」

「へえ、それならいいかあ。おっぱいも良いし」

「それより、私をどうにかする」

「おい、サナイのおっぱいが見てるって」

「構わない。しゃんとして」

「2杯しか飲んでないろ」

「2時間も飲み続けで、2杯のわけない」

「しょーかな、確かに2杯だと思うが」


 しかし、俺も十分に酔っぱらっていた。


「もう、チャンスだったのに」

「こんないいおっぱい、これ以上、飲めましぇん」

「馬鹿」


 翌日は、色々と取り決めてニタを送り出した。

 お互いに二日酔いだから、頭痛を堪えてドウとサナイの話し合いを聞いている状態に近かった。

 それでも出かける時のニタは、サナイと仲良さそうだった。


 この後、ニタ村から錫と亜鉛が入って来るようになると、カレンたちの開発する宇宙服の強度が上がっていった。

 鉄やニッケルの加工がしやすくなったからである。



「スス。カズネやキンのために、お前が責任を持って侍女教育に当たってくれ。ナリとナミは助手に使え。春には見習いが来るから、よろしく頼む」

「ススは妻になれないんですね」

「スス以外に人材がいないんだよ。先輩たちはロンや北の村に行くんだ。ススはいやだろう?」

「領主様以外は絶対にいやです」


 金属材料の関係もあり、侍女の人事を少し前倒しして、新規の村に派遣することになった。

 侍女は数を減らし、見習いはまだ育たない。


 キンは銀行業に人手を増やしたいほどだし、商売の認可は増える一方だ。


 ギンは春の農業指導、秋の徴税と年に2度にわたって各村をまわらなければならない。

 移動にカマウ、警備はサンヤが協力してくれるらしい。


 ドウは村と村民の法整備をしている。

 侍女だけの掟も作っている。

 各村の侍女を引き上げるだけで、大打撃を与えられるらしい。

 領地法大全、村民法解釈、侍女辞書、妻と女官の境界、などという恐ろしい文書も編纂している。


 カズネは、畑の認可とユウキ領の生産で目一杯働いている。

 良い子だから、時々哀しそうな目をするだけである。


 もう見習い教育の効率を上げないと、人材不足は深刻になる。

 俺はプロジェクトにかかり切りになるから、ススを手伝ってやれそうもない。




 食堂に10人委員会が揃った。


「エンジン班、ミヤビほか4名。船体班、ミサコほか3名。通信班、私が責任者で部下3名。警備班ヨリほか2名。宇宙服開発、カレン他2名。生活支援、アキコほか3名とします」


 こっちも決まるまで色々あったらしい。

 理系が少ないのは、お嬢様でも同じようなものらしい。

 自然と、ミヤビの負担は上がっていく。

 俺は理系というよりは体育会系で、文系にも役に立たないが。


 しかし、涙目のサクラコ以外は、みんな納得しているようだ。


「帰還できるように準備はしますが、優先は通信による救助要請とします。勿論、ゲートの向こうがベテルギウスでない場合は変更もあり得ます」

「居残り組は、田畑の世話と食料品や生活用品の管理をきちんとしてくれ。そうすれば、週に2回は商店街への外出を許可しよう。グループ行動を取ることと、警備班を連れて行くこと、許可を取って外出時間を守ること。勿論騒ぎを起こさないことも守って貰うぞ」


 居残り組は、まあいいかという感じだった。


 移住組は遊びに行くわけでも、楽なわけでもないからだ。

 恐ろしいのは、退屈に押しつぶされることだろう。

 危険な遊びを始めるのは、退屈だからだ。

 ある程度は発散させないと、何をするか分からない。


 出発は2日後に決まった。

 今度は、何かしらの結果が出ると思う。



 66へ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ