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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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06 基盤整備

 06 基盤整備




 翌日、工作船、資材船を次々に着陸させると、俺たちはとてつもなく忙しくなった。


 リーナさんは、サンプル調査と研究。

 熊さんは木樵。

 八さんは木材加工と家造り。

 そして、俺は何でも屋状態だった。


 最初は、神田川沿いに番線による柵作りである。


 下側50センチまでは目隠しとしてスギ板を打ち付け、上部は2ミリの銅線を20センチ間隔で横に張っていく。

 張り終えたら、50m間隔でセンサーを設置し、オペレッタにリンクさせる。

 250mごとにパネル式のソーラーバッテリーを設置し、高電圧低電流が流れるようにする。


 これもオペレッタに制御を任せる。


 常時電気を流すのは効率が悪いから、センサーが異常をとらえたときに流すようにプログラムしてもらうのだ。


 下のスギ板を外すような大胆なやつがいても、センサーでの警告があるから備えられる。

 10個に1個は電撃ショック(スタン)を撃てるセンサーを混ぜてあるし、いざとなれば、オペレッタのレーザー砲が無力化する。


 次は、水まわりである。


 西側の岩場はあちこちに清水が湧いている。

 これを効率よく集めて飲料水にする。

 神田川も飲めるぐらいきれいだが、川は色んなものが流れてくるので洗濯ぐらいなら問題ないが、飲料水としては不安定だ。

 なら源流の石清水をそのまま持ってこようと考えた。

 それには竹のパイプが役立つ。


(金属は入手可能になるまであまり消費しない方がいいのだ)


 北の森に竹林が2つあり、太いやつと細いやつが群生している。

 これを伐採し節をくり抜くと簡単にパイプになる。つなぎ目も細い竹を削って利用する。


 これを持って岩山に登る。


 清水の湧き出ているところに、レーザーで2mほど奥まで穴を開けると、結構な水量が確保できた。

 ここに竹のパイプを差し込み繋いでいけば、領地に水道が引ける。

 安定した水量を確保するため3箇所は必要だと思ったが、2箇所で十分だとわかった。


 ここで、思わぬボーナスが手に入った。


 予備水源を調べておこうと岩山探索をするうちに、隣の岩山が触れると熱いのがわかった。

 オペレッタに精密スキャンをかけてもらうと、中に温水だまりがあるという。


「やったぞ温泉だ!」


 喜んでレーザーを使って岩をくり抜くと、95度もの温泉が噴き出し両手は火傷状態になった。

 オペレッタとリーナさんにひどく怒られるし、火傷で一晩眠れぬしと痛い思いもしたが、温泉の魅力に勝てるものはそうはいないだろう。


 翌日から岩山の陰に露天風呂作りを始めた。


 地面を整地し、湯船や洗い場、シャワーの位置を決めて、排水路まで作っておく。

 大きな隙間は石で塞ぎ、漆喰で平らにしておく。

 原始的な漆喰は、石灰岩で作った。

 ここまでで4日以上かかった。


(仕上げは八さんに手伝ってもらったが)


 それから6輪大八車(車輪はゴムタイヤ式で板バネによるショックアブソーバーまで組み込んである。八さん作)を1台借り出し、木樵の熊さんの所へ行き、熊さんを石工モードに変更する。


 二人で北の森側にある岩山の砂岩が採れるところに行き、熊さんに砂岩で四角いタイル(30センチ角)を作ってもらう。

 これを一度持って帰ってから、もう一度出かけて今度は大理石が採れるところに行き、また四角いタイルを作ってもらう。

 これでOKと熊さんを木樵に戻して、大八車を苦労して引きながら領地に戻る。


 さて、歩き回るところは全部砂岩を敷いていく。

 湯船の底はどっちだろうと考えたが洗いやすいのは大理石と思い、湯船には全部大理石を敷く。

 縁が30センチと大きめになってしまったが、その分座りやすいと納得する。

 後先考えなかったので、240×210の巨大湯船になったが、24時間掛け流しなのでいいだろう。

 その代わり深さは60センチで妥協する。


 ここに竹パイプで温泉を引いてくる。


 直ぐに失敗がわかった。

 95度は熱すぎるのだ。

 色々と考え、5m上の岩棚に湯溜まりを作ることにした。

 ここに石清水と温泉を引いて混ぜ、温度を下げるのである。

 苦労して熊さんを上に連れて行き、岩場に水槽のような穴を開けてもらう。

 ここで水と温泉を混ぜ、それを湯船に入れてみる。


 まだ微妙に熱い。


 仕方がないので温泉の竹筒を1本外し、湯溜まりまでの2mを、岩場を削った段々に流れるようにしてみる。


 空気と岩場で冷やすのだ。


 これでなんとか入れる温度になった。

 温度計で測ってみると43度になったり41度になったりするが、それは温泉や石清水の水量が微妙に変わるからだろう。


 岩壁にデジタル温度計、液晶照明、アクリル鏡、ソーラーを設置して完成と思ったが、その後も、


 屋根(雨の日は湯冷めするから)、

 板塀(風の強い日用。リーナさんは目隠しという。どっちが入っていても見えるのは嫌だそうだ)、

 脱衣所(ないと不便)、

 渡り廊下(風呂上がりに歩くと足がドロドロ)、


 と、工事は散発的だが2ヶ月も続くのだった。

 まったく大変だよ。


 全国のお風呂屋さんと温泉業界の皆様の御苦労に、感謝を申し上げたい。

 ありがとうございます。


 リーナさんは毎日入るので気に入ったのだろう。何もコメントしてくれないが。


 可愛く覗いちゃ駄目よ、とか。


 ちなみに、大理石が余ったので水場に贅沢をした。

 あと、湯船からオーバーフローしたお湯で、簡易トイレを作った。

 お尻をお湯でジャバジャバ洗えるだけだが、リーナさんは死んでも使わないと言っている。

(あの人、本当にトイレが必要なんだろうか)


 水の次は火だ。


 実は、汎用液晶パネルという便利なものが存在する。


 これは、無機液晶というか金属液晶で、電気が流れると液晶化して発光したり発熱したりする。

 有機液晶が立体化しているのに対して平面でしか運用できないが、照明器具、テレビ、端末表示、冷暖房に使え、最高温度120度に達するため簡易ではあるが調理用にもできる。

 反対に冷蔵庫にもなる。箱に液晶サイズの穴を開け、パネルの冷却側を向ければ中を冷やすことができる。好きなように切っても使えるため、大変便利である。


 部屋中に貼り付けて照明、冷暖房、テレビと簡単に運用できる。

 通常、ソーラーバッテリーとケーブルで繋げて使用する。

 今では単価も安いため、センチ単位ではなくメートル単位での価格取引になっている。


 とはいえ、調理に使うには火力が低すぎる。

 精々部屋の中でポットのお湯を沸かす程度の能力しかない。

 シチューなら温め直し、ホットケーキは大丈夫だが、お好み焼きは少しじれてしまうぐらいの火力だ。


 しかし、生きていく以上火は必要だ。


 今俺に必要なのは、パン焼き窯、汎用調理台、陶磁器を焼く窯なのだが、これを作るために煉瓦を焼く窯が必要という矛盾にぶつかってしまう。


 これは文明にはよくあることだ。


 金を作るには金がいるし、鉄を作るには鉄の溶鉱炉が必要だし、原子力発電を行うにはウランを抽出するための電力が必要なのである。


 俺が最初に作ったのはパン用の石窯である。

 自然石と漆喰で作った。

 燃料は、木材加工の端材が沢山あるからそれを使う。


 石窯1号は、それなりだが効率が良くなかった。


 予熱時間が長すぎ、廃熱で作ったシチューのほうが早くできてしまうくらいだった。

 薪の調理台に毛が生えたようなものだった。

 まあ、鉄板の仕切りに代えるだけでかなり効率は改善されたが、陶磁器や炭焼きなども視野に入れると煉瓦はどうしても必要になる。


 最初に泥をこねて、日干し煉瓦を作った。


 これは直ぐにボロボロになるため、これを石窯1号で焼いてみたが、とても実用に耐えるものにならなかった。

 ここでリーナさんが登場する。


「あなたは縄文人?」


 陶磁器以前なら土器か。

 オペレッタも登場。


「レーザー砲で焼いてあげようか」


 これで解決するほど俺の頭は良くない。


「まさか、船のエンジンを使うとか言わないよね」

「文明を飛ばすという意味ではオペレッタちゃんと同じことを言ってる。彼女はジョークで言ったのよ。エンジン使ったら石窯からプラズマアーク炉に飛ぶようなものよ。温度は二千度を超えるけど耐えられる窯がこの世にないじゃない」


 そうなのだ。燃料と素材、どちらにも問題があるのだ。


 俺がしゅんとしていると、リーナさんが見かねてヒントをくれる。


 一、人は何故、木を焼いて炭にするのか。


 二、窯は壊れるほど良くなる。


 三、あなたが見つけた松の樹液は、接着剤、撥水剤、塗料、防音防熱樹脂素材としてとても優秀。軽量の屋根瓦くらいは作れる。


 四、白い砂浜は石英と炭酸カルシウムが豊富。


 五、鉛、錫、鉄、アルミ、ガラス。


 そうだった。

 初めからコークスと耐火煉瓦が存在するわけない。

 まずは炭からだ。

 人は、炭だけで鋼鉄を作り出せたのだから。


 石窯1号を炭焼き用に改良し炭焼きを始め、合間に、何本もの松に空き缶を取り付け、表皮に切れ目を入れて樹液が流れ込むようにした。

 まるで昔のゴム農園である。


 また、大八車で白砂を取りに行った。

 熊さんに途中の段差を坂に変えてもらい、怖いのでいくつか防犯センサーを取り付けた。

 持ってきた白砂を神田川で洗い塩分をできるだけ抜いていく。

 目が細かい方が良いのだが、細かい方から水に流されてしまう。

 結局、目の細かいザルに入れて、川に任せるのが一番効果的だった。


 石窯1号の隣に炭焼き窯1号とパン焼き窯1号が完成したのは、2週間後だった。

 両方とも容量が3倍になり、特に炭は質が良くなった。


 石窯1号は改良された炭を使用し更に程度の良い煉瓦を焼き上げると破損して撤去となったが、その場所に煉瓦で、送風機を取り付けた耐火煉瓦1号が新たに設置され、新たなる耐火煉瓦の完成を目指している。


 水、火、土、風の4種類を制覇するのに2ヶ月以上かかった。


 これは人類の歴史としては画期的だったが、宇宙航行種族としては落第点かもしれない。


 さて、次は文字か農耕か。


「次はお休みです」

「まだまだ大丈夫ですよ、リーナさん」


 表面の2割がガラス状になった最新の煉瓦をなでながら、リーナさんに強気の発言をした。


「まったく、ひとりで突っ走って。この辺で長期計画に切り替える頃合いよ」

「長期計画?」

「そう少し冷静になって計画を練るの。今まで頑張ったから当面の生活は良くなったわ」

「でも食料生産は?」

「だから身体を休めて話を聞きなさい。頭はいっぱい動かしていいから」


 リーナさんは紅茶を淹れてくれた。今日はレモンティーだった。


「まず、この部屋のご感想は?」


 ここは木造新築の15畳のワンルームだが、クローゼット、整理タンス、ベッド、テーブル、二人用ソファーが2つで4人用が作り付けでできていて、更に情報端末用の机と椅子まであった。

 オペレッタ設計、八さん施工の最新型である。

 窓は、はめ殺しのアクリル製で虫除けらしい。

 カーテンまで実装している。


「凄いね。居住区画よりも熟睡できるよ」

「じゃあ、ちゃんとお礼を言わないと」

「そうか。ありがとうオペレッタ」

「どういたしまして」


 机の上の情報端末からではなく、天井の液晶照明付近から返事が聞こえた。

 どこかにセンサーがあるのだろう。


 やっぱりプライベートはないのね。


「最近、自分以外の進捗状況を把握してないでしょ」

「何かと忙しかったからさあ」

「それは殆ど、耐火煉瓦作りにかまけていたってことよ」

「そうなんだよね。何のために耐火煉瓦が必要なのかもわからなくなっちゃって」

「だから、耐火煉瓦のために耐火煉瓦を作るって正しいけど、本末転倒でしょ。別に地球文明の復習をしに来てる訳じゃないのよ」

「そうですよね」


 俺は段々小さくなっていく。


「ま、まあ、お風呂も煉瓦も良くやったと思うけど」

「そうだよね。お風呂は気持ちいいよね」

「ごほん」


 オペレッタが咳払いした。


 話が進んでいないと催促だ。

 オペレッタは風呂入らないしなあ。

 何か彼女の喜ぶことって、考えても何も思い浮かばない。

 これはやばいかもしれない。

 優先順位の一番にオペレッタと上書きする。


「では、八さんの成果から。小麦が2トン半に大豆が2トン、小豆は600キロ」

「えええええっ!」

「何驚いているの。少ないじゃないの」

「だって小麦2500キロだよね」

「だから、2段目の草原は、土地的に100石取れるって言ったでしょ」

「100石って?」

「1石3俵だから、18トンぐらいよ」

「すげっ」

「凄くない。1万石って言ったのは誰よ」

「いや、その場の勢い?」

「2トン半じゃ14石よ。村としても小さいわ。開発しないと村長に負けちゃうじゃない」

「負けちゃうって言ってもさ。別に勝負じゃないんだし」

「どうせ、いきなり勝負になるんだから、頑張って勝ちましょう」


 何この人、やっぱり女神? 予言者? 


 生きているかもわからない両親と勝負してどうすんのかな。

 何か確信でもあるのかな。


「そういえば、ベテルギウスか委員会かで、何か気づいたことあったんだよね?」

「推論よ」


 リーナさんは言いたくないようだ。


「オペレッタ、何か知ってる?」

「校長の年齢がおかしい」


 何言ってんの、この人。ジョーク?


「校長って、あの校長?」

「そう、中田中正志」

「伝説のアストロノーツでしょ。誰でも知ってるよ」

「でも、あの人は祐介の2歳下だった」


 うーん、でもあの人もG船乗りだし。ウラシマ効果で若いだけじゃ。祖父さんは77で死んだけど、2歳下なら75歳で最低20年の効果があれば55歳。五十代前半に見えたからあってるんじゃ。


「いや、そうか。祖父さんもウラシマ効果で16歳若いんだ。となれば20年くらい若いぞ!」


「そう、あの人はもう一回飛んでる筈」

「そうすると、校長も『あれ』の経験者?」

「多分、あれで地球に帰ったと推測」

「ゲートを出たら地球だったってこと?」


 そりゃびっくりだ。

 奇跡の上に奇跡がのってるよ。

 こっちはぶっ飛ばされて310光年なのにさ。

 しかも俺が初めてじゃなく両親も入れれば3回目って、ああ、そうか。


「するとリーナさんは、俺の両親も飛ばされた先で生きているって確信してるんだね」

「そうよ。校長も無事。ユウキも無事で、しかも委員会はゲートを使用している。いや、新たに作っているわ」


「サンプルは校長が持ち帰ったってことか。でも消えちゃったよ。俺たちのゲート」

「きっと消えずに残ってるの。それを探す方法を校長は知っていたから、委員会はゲートを使えた可能性が高いのよ」


 すると、俺たちももう一度ゲートに入れれば。

 いや駄目だ。

 また、ベテルギウスで死ぬ思いをする。

 今度はきっと死ぬ。


 ならば俺の両親も同じように、もう一度ぶっ飛ぶか、王様やるかの2択か。

 あの人たちなら王様が本業だな。

 それを望んでいたんだし。


 って、そうかそれでリーナさんは勝負とか言ってんだ。


「リーナさん」

「はい?」

「俺たちもここで勝負しよう。オペレッタもそれでいいよな」


「いいわ、ユウキ」

「了解、ユーキ」


 そうだ。委員会がゲートを解析してるんなら、助けが来るかもしれない。

 こなけりゃ、死ぬ前にもう一度ベテルギウスに挑戦してやるさ。

 祖父さんだって77歳で飛ぼうとしたんだから、俺だってそれぐらいは待ってやるさ。



 07へ

ファンタジーなら1ページで済むところを、6話も使ってしまいました。

申し訳ありません。

あのー、今更ですが、馬鹿なSFですよ。

真面目な方は、いませんよね?

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