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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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58 女神フェスタ

 58 女神フェスタ




 赤城山の現場付近には、もう長屋が建っていた。

 水は湧き水があり、それが竹パイプを通して厨房と風呂へ行き、排水は沢のように下って、草原に僅かな池を作っていた。

 長屋まで歩きづらいところは階段が設けてあり、長屋からトレインまでの100mにも所々に階段が設けてあった。

 特に草原から長屋までの最初の百段は、見上げると山寺か何かを想像させる。

 入り口部分に山門を作ると雰囲気が出そうである。


 だが、これでは荷運びが大変だ。

 ここはカートに頼るのが一番だろう。

 前回はトレインの引き摺った後を坂道として利用したので、今回も利用したい所だが、長屋が少し坂道から離れている。


 水の関係だろう。


 仕方がない、取りあえずハインナとイケメンたちを平地に留守番させて、少女たちと階段を上る。

 ヨリたち警備班は早速付近を調べてまわり、ミヤビ班、ミサコ班、支援のサクラコ班は、早速長屋の割り当てを決めていく。

 俺は、まずは最初に父ジャケと弟子たちに挨拶をしなければならない。


 父ジャケたちは最後の風呂場を作っていた。

 山の中なので露天ではなく丸太の小屋、ログハウス風だったが、中はしっかりと板張りで、スギの香りがする。

 湯船はサクラ材か何かであるが、釜の部分が自然石で、脇の煙突部分が天井まである。

 だが、格子で釜の上が仕切られていると言うことは、熱くなるから触るなと言う意味だ。

 態々外に出さずに中にあると言うことは、きっとあれだ。


「サウナ風の風呂なんて、凄いな」

「若旦那」

「ユウキ様」


 八さんは相変わらず工夫が好きで、同じものは作りたがらない。

 父ジャケが勉強というのも頷ける。

 毎回新たな工夫が見られるのだから、大工仲間としては見逃せないのだろう。


「山颪がやっぱり厳しいでやす。湯冷めされちゃあ堪りませんや」

「助かるよ。ありがとう、みんな」


 八さんは『へへっ』とした顔でいるが、父ジャケと弟子たちは恐縮する。

 領主に頭を下げられるのに慣れてないからだ。

 まだ作業中なので中断させずに出て、熊さんと農業用アンドロイドたちとで坂道までの道路を作る。

 夕方までの作業により、何とかカートが上がってこれる道ができあがった。

 荷車とカマウが運んできてくれた資材と、カリモシ村からもらった食材を運び上げ、ミヤビやサクラコが厨房や倉庫に整理して何とか今日の作業は終わり、食事の準備が始まった。


 食堂は大きく、10人掛けのテーブルが3つ有り、30人が座れるので、父ジャケと弟子たちの4人も呼んだ。

 まさか、女神の食堂に呼ばれると思わなかった父ジャケも、目を白黒させているようだった。

 まあ、下級生たちには怖がる連中も少しはいたが、何故か現地人には普通に振る舞えるサクラコが、肉のソースのステーキという現地人には初めてのご馳走を出し、俺がメープル酒を振る舞うと、少なくとも大工連中は落ち着きを取り戻した。


 その後、ヨリが酒をついでまわると、流石の父ジャケも目がハートになった。

 面白いから、ミサコ、ミヤビ、サクラコにも酒をつがせてみた。


 ヤモメ山は、途中から『夢か、夢か』を繰り返すようになり、他の一人は震えながら酒を飲み続け、もう一人は酒の味がわからないようだった。


 ミヤビは調子に乗り、一人一人に何度もついでまわり、とうとう全員を酔いつぶしてしまった。


 幸せそうな顔で酔いつぶれた大工たちを担いで作業小屋に運び、寒くならないように毛皮や筵をかけてやった。

 明日は全員が夢だったと思うかも知れない。


 その後、全員を風呂に入れて、俺とヨリは警備にまわった。

 ヨリが、どうしても今夜だけは寝ずの番をすると言い出したからだ。


 酔いつぶれたとは言え、男たちがそばにいる状況は初めてでもあるからだろう。


 俺は自分でデザインした革のマントと毛皮のケープをヨリに着せた。

 長いマントを羽織り、ケープで肩を覆うと外の寒さが気にならない。


「これは、とても良いです」

「タルト村の特産品を考えてて作ったんだ」

「態態、ヨリのためですか」

「ああ、たまには良いだろ」

「ありがとうございます」


 ヨリは軽くキスすると、『お礼は明日にでもたっぷりと』とか言いながら、持ち場についた。

 オンになったヨリは、仕事に忠実である。

 しかし、少しだけ笑顔が崩れているような気がした。


 ハインナにもキスして風呂場付近の警備を任せた。

 メイドロイドは侍女に食事をさせた後、屋内の警備にまわるのが日課だからその通りにさせた。


 八さんは農業用アンドロイドたちと、平地に行き畑を作っている。熊さんが同行し、馬車や階段などの入り口付近は見張ってくれるはずだ。


 俺はヨリとハインナの位置が、正三角形になるような配置で久しぶりの歩哨に立った。

 明日からが、帰還のための本番だと思っていた。



 翌朝、夢と二日酔いに悩まされている大工たちは起きるのが遅かったが、今日はカリモシ村へ行き、新たな仕事をひとつ片付けると言って旅立った。

 サクラコがお別れにお弁当を渡すと、シャッキリしたようだったので大丈夫だろう。

 張り切って階段を下りていった。


 今日は全員でトレインに向かった。

 留守番はメイドロイドに任せた。


 ハインナは朝からカートで領地に補給に向かった。

 オペレッタが監視しているから大丈夫だ。

 各村には姿を見せているし、協力も頼んである。


 サンヤ兵が、既に街道沿いを見回っているはずだ。

 それにイタモシ村が出来て、関東平野南部には既に敵はいない。

 カカはニタ村預かりになったし、ズルイはサンヤ預かりである。

 今はギルポンでお茶を育てているらしいのだが。


 とにかく、心配することはない。


 しかし、事故現場の光景は相変わらずだった。

 既に来ているヨリ、ミヤビ、ミサコは大丈夫だったが、サクラコや、カレンを筆頭とする下級生たちは涙ぐんで見ていた。


 俺はミヤビとミサコとヨリという同じメンバーで再びトレインの調査を開始した。

 今度は4両目の搬入口も開けられた。金属材料を熊さんと八さんが運び出してくれる。


 ミサコは未練がましくリータの格納スペースをあさり、今度は寝具類を幾つか見つけ出した。

 全部が王族の寝具と言って良いような最高級品だった。

 真空パッケージだったので、板状で箱詰めされていたのである。

 最高級マットレスが5個、絹のシーツや毛布が20枚以上、和風の布団が絹と綿製で3セット、枕、カバー類も沢山あった。

 下級生たちは、本物の寝具に釘付けとなった。

 天日乾燥してふんわりとさせると、順番に感触を味わっていた。


 ミヤビはもっと凄いものを発見した。


 水素プラズマ発電機である。

 これも板状になっていて、隔壁の間なんかに収納できるタイプだ。

 燃料は水だけで、起動時にソーラーの電力をまわしてやればよい。

 これを5枚も見つけ、トレイン再生に拍車がかかりそうだ。


 八さんにガレージを幾つか造ってもらい、ミヤビ班とミサコ班はトレインに電力を送りながら、作業を開始した。



 侍女のススはサンヤ出身の少し気弱な子だった。

 まだ12歳ぐらいで、キンが薦めるぐらいだから良いところもあるのだろうが、何度かミヤビに怒鳴られて泣いていた。


 見習いのナミは更に幼く、ギルポン族出身である。

 もう一人の見習いはナリで、ナミとよく似ているが、ナルメ族出身だそうだ。

 ススが毎日二人に言葉を教えている。

 だが、まだ片言である。


 週に一回ずつヨリとミヤビが来るので、部屋の端っこで毛布を被って怯えるようにしている。


 いつも俺にくっついてまわっているが、農作業はともかく、先端の技術では出番はないし、理解も出来ないようだ。

 金属板や電力のケーブルをおっかなビックリ眺めてはいるが、どう思っているのかはわからない。


 平地の農作業に行かせようかとも思ったが、警備がいないので少し心配だし、多分、キンがサンヤとギルポンとナルメの名誉のために、この3人を選んだのだと思うと無碍にも出来なかった。

 取りあえず料理班の下働きと、風呂当番には定着している。


 ただ、カリモシ村に行くときは、彼女たちも晴れやかである。

 一応、領主付きの侍女と見習いなので、村ではかなり偉い部類になる。

 別に威張ったりはしないが、赤城山では一番下っ端だから、息抜きにはなるのだろう。


 モモの季節になると、彼女たちにも異変が起こった。

 赤城山もあちこちでモモが取れ、侍女たちはモモを取るのが上手かった。

 毎朝、毎晩、厨房にはモモが置かれるようになり、女神たちも侍女たちを褒めるようになった。

 そうこうしているうちに、主にカマウのリヤカー引きたちが女神を見学に来るようになり、100段の階段を上ってくるようになった。


 勿論、悪さをするような奴はいないし、女神たちを見られるのは、朝食が終わって仕事に出かけるときだけである。

 ススが100段上った記念にモモを渡すと、直ぐに情報があちこちに流れるようになり、女神詣・女神参拝が始まった。


 特に年配の者たちが芋の収穫後に旅してくるようになり、朝は門前に(山門はないが)人が集まるようになった。

 俺はチャンスだと思い、領内にハマグリの佃煮を作らせ、米も送らせた。

 ナナとサラサにも計画実行をしらせる。


 父ジャケと弟子をすべて集め、門前に市場と休憩所、簡単な宿泊施設を作らせた。


 一種の万国博覧会である。


 門前に最初の店が完成したのは、ナナ&サラサのスカートとケープのブランドである。

 これは、俺たちがスカートの啓蒙を始めるチャンスなのだ。

 以前作った焼き鏝で、スカートやケープには『ナナ&サラサ』のロゴマークが入っているし、作りはタルト村でのノウハウが蓄積されている。


 俺は最初の客になり、スカートとケープをススたち侍女に纏わせた。


「また、ずいぶんと可愛い子を選んだことですこと」


 ナナとサラサには嫌みを言われたが、侍女たちはとても可愛い姿になった。


 この3人が朝は参拝客にモモを配り、昼からは門前市でユウキ領の名産ハマグリご飯を販売し、衣装の広告塔にもなった。

 販売と言っても、名産品の知名度を上げるためだけなので、代金は旅行客が何かしら置いていくだけである。

 損得はあまり関係ない。

 特に子供たちは食べ物は無料にし、腹一杯食べられるようにした。

 お陰で、侍女の人気は更に上がっていった。


 俺はカマウに頼んで、ギルポン茶の喫茶店をギルポンに出すよう要請し、ラシには鰻丼とウナビンを要請した。

 徐々に店が出来て、会場の体裁が整ってくると更に人が集まってくるようになった。


 特に、ナナ&サラサブランドの反響は凄まじく、朝にススたちの可愛らしい装いを見た女たちは、何が何でもスカートを手に入れたがり、20枚分の毛皮と交換するものまで現れた。


 他の村の売り子として来ている侍女たちも、既にスカートを持っているというのにナナ&サラサブランドの新作を買いに来た。

 交代で村に帰って見せびらかすから、次は2倍の数の侍女が来る。

 侍女たちの次は農民の妻たち、その次は年頃の娘たちと続いてくる。


 ナナとサラサも俺の要請で手伝いに来ていたはずが、毎日販売と制作に追われてしまい、タルト村からの応援も予定の3倍の人数になった。


 タルトは商人気質なので、便乗してワイン店も広げ、夫人たちに食べ物屋をやらした。

 竹細工、草履、雪駄、サンダル、草鞋、ジカタビも売り始めた。

 ラシ村は泥炭を披露し、一方で女たちが侍女を中心にウナギ料理を展開した。

 お土産にウナビンも販売している。


 ラシに鰻丼を取られたカリモシは、蒼くなって俺の所に相談に来た。


「すまない、地元のカリモシを忘れていた」


 カリモシには、メープルとメープル酒の販売所を許した。

 居酒屋は、タルトと共同経営になった。

 ワイン、芋焼酎、ウメモドキ酒、小麦酒に、きついメープル酒が加わり、男たちは世界中の酒を飲み比べて、幸せそうだった。

 つまみは、タルトの夫人たちの食べ物屋から何でも持って来れた。

 カリモシは地元なので、食材の調達に貢献してタルト村のみんなから感謝されて、得意になっていた。


 サンヤが来て、肉を焼き始めると、フェスタらしい雰囲気になってきた。

 参拝客は、何日も食べたり飲んだりするようになった。


 武闘派のサンヤは、夕方には棒術訓練を行い、観客を集めていた。

 棒を買い求めに来る連中もいて、マリブやラシの名前を彫り込んだ棒が人気だった。

 何故か俺の名前の棒はなく、一番売れたのは軍神ヨリの名の棒だった。


 ギルポンも喫茶店を開いたが、ナミをウエイトレスの手本に派遣せざるを得なかった。

 お菓子部門は、うちの侍女を派遣して教えて商品にした。


 キンは領地で情報を仕入れていて、領地にいながら派遣してきた侍女たちを自在に操った。

 ススたちは、自分の部下に先輩の侍女たちがつく事に恐縮していた。

 啓蒙のため、ベーカリー、鮭ラーメン、シャケドッグ、鮭バーガーも販売した。

 味噌、醤油、油も売れまくった。


 キンは、更に超高級店舗である農機具屋を俺に出すよう要請してきた。

 代価が払えないだろうと危惧していたが、キンの読みどおり農機具は凄い高値で売れていた。


 この市場で儲けた村長たちが、自分の村の発展のために、出費を惜しまなかったからだ。


 鍬や備中鍬、石臼、リヤカーや馬車まで売れた。

 鎌や真鍮製の土篩も人気があった。


 カマウは自家製の廉価なリヤカーを売りまくり、うちの高級な馬車やリヤカーを買いまくった。

 街道は、物と人の流通で毎日賑やかになって、若い娘のグループが歩けるぐらい安全になっていった。 


 ニタも老いた母親や妻たちを連れて来て、十分に楽しんだようだった。

 当然砂金は、俺が小麦や毛皮や酒に交換した。

 そう言う意味でニタは金持ちだった。

 ニタは、宿泊施設のそばに囲碁、将棋道場を開設し、元タマウの遊び人たちを教師に派遣した。

 ついでに碁盤と将棋盤を売り出した。

 村長クラスの人間たちが集まって、勝負を始めると観客も集まった。


 ニタの母は毎朝女神を参拝し、美味しいものを食べ、父ジャケの宿泊所に泊まり、大工たちの目玉商品である風呂にも入り、ナナ&サラサのスカートとケープを着込んで、最後は俺に挨拶に来た。


「豊かな時代をありがとうございました。一生に一度きりの思い出にします」

「俺には、ニタのお袋さんが初めて作った例の『芋の煮物』の方が良い思い出だよ」

「恥ずかしいから、忘れて下さい」


 母が笑い、息子のニタが泣いていた。

 ズルイに追われ、山中で穴居人のような生活をしていた頃から、夢のような進歩である。


 サクラコがモモの蜂蜜付けをお土産に渡すと、ニタの母は跪いてお礼をした。

 このことにより、サクラコはモモ(命)の女神として軍神ヨリと並び立つ存在になった。


 ニタが帰ると入れ替わりにイタモシとパルタがやってきた。

 最も新しい村長だが、最も貧しい村長でもある。

 俺は挨拶を受けると、イタモシとパルタを各村長たちの所へ勉強に行かせ、その間にイタモシとパルタの妻や侍女を父ジャケの風呂に行かせ、出てきたところでナナ&サラサでスカートとケープをあつらえた。


 初めてスカートを穿くカラに対して、ナナとサラサは俺に着けてやるように言ってきた。


 カラは少し赤くなりながらも嬉しそうだった。


 まあ、女たちの地位向上にカラは貢献したので、恭しくつけさせてもらった。

 ケープも掛けてやる。

 カラはタキより1つか2つ年上だが、子持ちのせいかむっちりと色気のある下半身をしていた。


 次は美おっぱいのパルタ第1夫人が並び、段々ナナとサラサの機嫌が悪くなってきた。

 美おっぱいを見過ぎだったからだろうか。

 そして、終わると第2夫人のカリスとトリスだった。

 俺には同型艦のサラス、姉妹艦のイリスがいるので、このふたりにはそんなに緊張しなかった。

 しかし、恥じらうふたりを相手にして、何となく感傷的な雰囲気になってしまったので、ギルポン茶を飲みに連れて行った。


 ちなみにギルポン茶は、現在の所、超高級品である。

 ギルポン茶1石は小麦換算10石で、全部女神が買い占めている。

 しかし、ここの運営費は俺が全部負担して、無料で飲める。

 今後のための宣伝なのだ。

 お菓子はギルポンの女たちも大分上達してきたが、ベーカリーで焼き上げた何種類ものパンの再現はまだ難しいようだった。

 ナミはウエイトレスとしてギルポン娘の手本となり、看板娘としても男たち女たちの憧れになっていった。


 やがて、イタモシとパルタが戻って来ると、自分の妻たちが最新の美しい装いになっているので驚き、そしてお礼を言ってきた。


 ここに来て、自分たちが貧しいのを理解したが、それでも妻たちには恥ずかしい思いはさせたくなかったのだろう。

 イタモシとパルタの所にはまだ父ジャケの弟子がいるから、これからは風呂作りを目指すように指示した。

 毛皮も工夫すれば、こんな商品になることを教えると、二人の村長は未来を考え始めた。

 俺は革紐をより合わせたロープの開発と、ナップザックの開発を依頼した。

 特にロープの需要はうなぎ登りになるだろうから期待できる。

 来年は自分たちの村からも店を出すことだろう。


 しかし、泥にまみれて裸であることが、恥ずかしくなる時代になったのだ。

 俺とナナとサラサが計画してきたことが、ここに来て実を結んだのだった。

 あのふたりは、相変わらず俺の前では裸でいようとするのだが。

 嬉しいけど、人妻なんだからさあ。


 皆でお茶を飲みながら市場の活気を眺めていると、見たこともない部族の連中も見学に来ていた。

 ギルポンを呼んで話を聞くと、もう定住してない部族は人が離れだしているそうだ。

 小部族でも、カマウのリヤカー引きが必ずいて情報を与えているから、各村には農民希望者が押しかけているらしい。

 排他的なロン族ですら、サンヤと肉の取引をしに現れたという。


 キンが、侍女希望者たちをさばききれないと言っていたのは本当だったのだ。


 酔っ払ったカリモシが現れたので、来年の市場はカリモシが指導して開催しろと言うと、仰天していっぺんに酔いが覚めたようだった。

 市場がこんなに凄いものになるとは考えてなかったし、それを自分が取り仕切れるのか不安でもあるのだろう。

 まあ、知恵はサンヤとかカマウが出してくれるだろう。カリモシは仕切り屋だから大丈夫だ。


 タルトが不満そうだったので、冬には隅田川国技館で各村対抗の相撲大会でも開いてみろ、と言っておいた。

 タルトは相撲好きだからそれで通じた。

 囲碁と将棋の大会もしようとコラノが言っている。

 これで、冬には相撲と市場が同時に行われることになった。


 ちなみに、今回の観客動員数は推定だが2000人を超えている。

 各村の人口の2倍である。村人全員が2回は来たのと同じである。

 売り手はそのまま買い手になったし、物々交換だから誰も損はしていない。

 一番値崩れしていた毛皮が、今回は目玉商品となり、値を戻していた。

 女たちが殺到し、スカートだけでも600枚以上売れていた。

 それ以上は、製作が追いつかなかったのだ。

 キン、ギン、ドウの3人も、ちゃっかりと黒、茶、白の上下3セットを侍女に買わせて届けさせている。


 ギルポンは俺からもらった謝礼で、小麦や大豆にメープル酒を山ほど仕入れられたし、ラシはウナギで儲けた上に、今後は村の名産を街道で売ることに自信を持ったようだった。


 タルトは何でも持っているから、今回はあまり旨味はなかったが、物々交換の基礎を支えているから、他の村の活性化はタルト村の拡大と発展に必要である。

 もっとも、ナナ&サラサの売上はタルト村の小麦の生産量を上回ってしまった。

 俺と一緒に計画したことだから、多分ナナとサラサは、この世界で最もお金持ちの女になってしまっていることに気付いてない。


 俺が渡しておいた200枚の毛皮も1200枚に増えてしまっている。


 しかし、それも今度は冬用のスカートで大分はけてしまうだろう。

 次は子供用も売り出さなくてはならない。

 次はブーツにポシェットかバッグか。

 帽子にベルトも必要だろう。

 その頃には、今回は売り物が毛皮くらいしかなかった人たちも違う商品を持ってくるぐらいは豊かになってることだろう。


 ナナ&サラサの目的は利益ではなく普及なのだから、何も心配していない。


 サンヤは肉の常時販売を印象づけたし、こうしたイベントでは必ず儲かるのだ。


 カマウは輸送費だけでもどれだけ儲けたことか。

 街道の安全性が、女たちの旅を保証したので、リヤカーでの人員輸送まで仕事に入ってきた。

 懐が豊かな侍女たちは相当カマウのリヤカーを利用したのだ。

 東西の街道整備を続けているから、今後も需要は伸びるだろう。


 大工たちは風呂を、ニタ、サンヤ、カリモシ、カマウの各村から請け負い、更に長屋と食糧倉庫も何件か請け負っている。

 来客用の宿泊施設建設の注文も次々に舞い込んでくるだろう。

 弟子たちが一人前になるための経験値は保証されてしまった。


 しかし、今回一番儲けたのは、キンである。

 本来、褒美や御祝いとして渡すはずの農機具を商品として売り出したのである。

 高級で供給が安定してない商品を、儲けを抱えた村長たちに売ってしまったのだから、各村の儲けを全部持っていったようなものである。


 だが、農機具を手に入れた村長たちは喜んでいるのだ。

 手に入らないものが、小麦や酒などで手に入ったのだから誰も文句など言わない。

 農業の世界で一番必要とされるものを売りに出したのだから、文句の出ようがないのだ。

 多分、今度はスカートを手に入れた女たちが、包丁を売れと言ってくるだろう。


 俺はベッタベタに甘えてくるようになった、今回のMVPであるススたちを更に甘やかしながら、キンにもこんな頃があったのではなかったかと思い出そうとしていた。



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