息抜話 夢の処女召喚
息抜話 夢の処女召喚
俺は自称勇者である。
何故自称かと言えば、異なる意見のものが多いからだ。
俺は召喚体質という珍しい能力というか、ギフトを持っている。
ある条件で召喚されるのだが、実はその時に対価が必要なのである。
そして、その対価のせいで召喚者は大抵俺のことを『魔王』と呼ぶ。
今まで多少は呼称が違うだけで例外はない。
けれども、対価をもらえば最強の勇者であることは間違いない。
絶大なパワーとチート能力を発揮し、はっきり言って無敵である。
まあ、それでも制限はついているのだが、それは仕方がないだろう。
何でも無制限では、世の中が不公平になりすぎるからだ。
俺が言うのも何だが、無制限というのは卑怯すぎて面白くない。
怪獣と戦えるのは3分間とかの制限がある方が、観客も楽しめるだろう。
そんな話しをしている間に、新しい召喚者からお召しがあった。
俺は召喚者の所へ飛ばされていく。
原理や理屈や否応などない、そう言う体質だと説明したはずである。
さて、今回の召喚者はと、いたぞあれだ。
彼女は現在、自分のであろうベッドの上で、カッパのような化け物に犯されかけている。
上にのしかかったカッパの化け物が、彼女の左脚から下着を引き抜こうとしている場面であるから明かだろうと思う。
かなり豪華な部屋で、王族か貴族の使うような天蓋付きのベッドだから、召喚者の身分はかなり高いか、お金持ちだろう。
巻き上げられたドレスも高価そうだ。
さて、契約のためのシンキングタイムだ。
時間を一応止めておこう。
もう数秒で、彼女は助けを必要としなくなるかも知れないからだ。
男は見かけじゃないから、一度そうなってしまえば彼女の方があのカッパのような化け物でも気に入ってしまうかも知れない。
時間は止めたが、彼女の意識と会話が出来る。彼女の身体は動かないが、エクトプラズムとでも呼ぶのか、一種の霊体のような形で会話することが可能になる。
これが俺の能力に含まれるのかどうかは良くわからない。
ただ、契約前に必要な事は確かだから、能力として備わっているのかも知れない。
契約前にしか意識して使えないから、召喚の条件であり、能力ではないのかも知れない。
「俺を呼んだのはお前か」
「ああ勇者様、お助け下さい。犯されるのは、いやー」
「しかし、助けるには契約しなければならない。そして契約にはある条件を了承してもらうしかないのだが、それは君にとって助けてもらう意義が失われる可能性があるんだ」
「どんな、どんな条件でも呑みますー」
「しかしなあ、かなり過酷な条件になると思うぞ」
「犯されるのはいやなんです。助けてー」
「君は13歳の処女で間違いないな」
「その通りです。早く、早く助けて」
「焦ることはない、今時間は止まっている。俺はシンキングタイムと呼んでいるが、契約が済むまでの特典みたいなものだ。どんなところまで進んでいるのかわからないが、君がまだ処女だというなら大丈夫だ」
召喚者は一瞬息を呑んで、己の置かれた状況を確認したようだ。
しかし、身体は止まったまま動かない。
俺と契約しない限り、未来は確定したようなものである。
「自分の身体から離れることは出来ます?」
「契約までの時間、その間は幽体離脱のようなまねが可能だ。何故だかは聞かないでくれるとありがたい」
召喚者は、少し動いてみて、コツを掴んだのか、ズルズルと這い出てくる。
霊体のようなものだから、当然全裸である。
しかし、薄く透けているので多少は慰めになるだろう。
「ふー、なんて化け物! このこの!」
召喚者は霊体でカッパの化け物を殴りつけるが、手が素通りしてしまう。
「気が済んだら、契約の話をしたいのだが、いいかな」
「そうね。まずはあんたの名前を教えてちょうだい」
「ユウキ、と呼んでくれ。君は?」
「ヤリ国、マクレー伯爵の長女チカよ」
「それで、チカ伯爵令嬢。君は何を望むんだ」
「まず、このゴブリンを殺して」
「カッパじゃないのか」
「何言ってるの、ゴブリンに決まってるじゃないの」
「そうか、それでそれが望みのすべてで良いのかな」
「馬鹿なの、国中がゴブリンに攻め込まれているのよ。ゴブリンすべてに決まってるでしょ」
「ゴブリンは何匹くらいいるのかな」
「5万か6万よ。あんたが勇者なら魔法で一撃でしょ」
どうやらこの少女は少し足りないようだ。
いくら広範囲殲滅魔法が使えても、カッパいや、ゴブリンだけに選択的に効果が出るわけではない。
当然近くにいる人々も巻き込むことになる。
町中にゴブリンがはびこっていれば、町ごと破壊してしまう。
それではゴブリンを殲滅できても、意味がないだろう。
「一撃は可能だが、町の人もみんな巻き込まれて死んでしまうのだが」
「使えない勇者ね。ゴブリンだけやっつける魔法とかないの」
「ゴブリンを選択する魔法など聞いたことがない。おそらくそんな魔法はないだろう。あれば一瞬でこの世からゴブリンが消滅してしまう。だが、今でもゴブリンが存在すると言うことはそんな魔法は存在しないのだ」
「それじゃ、一匹ずつ殺していくとでも言うの」
「それも面倒だ。どこかに人間とゴブリンが対峙して戦線ができているところはないのか。こちらは人間、あちらはゴブリンと別れていれば、あちら側だけ魔法で殲滅できるだろう。そうしていくつかの戦線でゴブリンをやっつければ、人間が有利になり、どんどんゴブリンは押されて敗走していくだろう」
チカ伯爵令嬢は少し考えていたが、首を振った。
「ゴブリンが館の中にまで侵入しているのだから、対峙しているような場所は期待できないわね。やっぱり見つけ次第殺していくしかないわ」
「では、その方法でゴブリンを退治するのが、君の望みと言うことで良いか」
「仕方がないわ。それ以上方法がないんでしょ」
「館以外すべて吹き飛ばす手もあるが。とりあえずゴブリンは殲滅できて、君は安泰だが」
「町中の人を犠牲には出来ないわ」
「もう、手遅れかも知れないぞ」
「望みがある内は出来ないわよ」
「そうか、それで契約の対価なのだが」
「そんなこと言ってたわね。何を払えばいいの。お金? 土地? それとも爵位か何か」
「いや、君の処女だ」
「何ですって」
「君の処女が代価だ」
「それって……」
チカ伯爵令嬢は、嫌々をしながら後ずさった。
霊体のくせに器用な奴だった。
「そうだ。君はゴブリンから助けられても、俺に犯されることになる」
「助ける意味ないじゃない。ゴブリンの代わりにあんたが犯すんじゃ」
「処女喪失という意味ではそうだが、このままでは君はそのゴブリンに何度も何度も犯されてから、次のゴブリン、その次のゴブリンと犯され続けることになる。それに比べれば俺とは一回だけだから、少しお得と言える」
「何がお得よ、この変態! 鬼! 悪魔! きっとあんたは勇者じゃなくて魔王だわ」
「その辺のことは、価値観の相違に過ぎないと思う」
実は俺にも良くわからない。
勇者の力に処女の生け贄が必要などという話しは聞いたことがないのだ。
経験はしているのだが。
これのせいで、不本意ながら『魔王』と呼ばれてしまう事は既に話したと思う。
しかし、自分では勇者のつもりなのだがな。
何しろ13歳の処女が助けてくれと召喚してくるのだから、正義の側であると信じたい。
「ロリコン、強姦魔、色情狂、淫魔」
「それでは、この契約はなかった事でいいな。俺は帰るから、ゴブリンと末永く暮らすように。ああ、その身体にはすぐに戻れるから心配しないで良いぞ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよー」
「いや、俺も結構忙しい身なんだ。次の召喚があるかも知れない」
チカ伯爵令嬢は、ゴブリンにのしかかられている自分の姿と、俺を見比べている。
霊体なのに汗もかいているようだ。
器用な奴である。
「その、処女を奪うのは、契約を達成してからでも良いの?」
「いや、すぐこの場でもらう」
「なんでよ。処女を奪って何もしてくれないかも知れないじゃない」
「その辺は信用してもらうしかないな」
「騙されるのはいやよ」
「騙すつもりはない。ただ、俺の力は特殊で、処女パワーというのか、処女を奪ってからでないと使えないんだ」
「今、変な力を使ってるじゃない」
「これは契約が成立するまでの、限定的能力なんだ。シンキングタイムと言っただろう」
「……」
「それじゃあ、さよなら」
「待って、待ってよー」
チカ伯爵令嬢は、泣き出した。
霊体なのに涙まで流している。
何度も言うが器用な奴である。
「ねえ、どうして女はこんな思いをしなくちゃならないのかしら。男とどうしてこんなに待遇が異なるの? ひどいと思わない?」
「いや、男にだってつらい事は沢山ある。女だけ不幸とは言えないな」
「でも、犯されるのはいつも女よ」
「物理的には、誰に処女を奪われても同じ事だと思うから、もしかすると心理的なものかも知れない。自分の認めた男の子供以外産みたくないという反応が遺伝子に書き込まれているのだろう。だからいやなんだ。処女喪失自体が嫌なことなら、女は結婚できないし、子供も産めなくなる。そんな事態になったことはないから、きっと、女にも処女を奪って欲しいという状況は存在するのだろう。子供については再婚したりする女もいるし、娼婦のように違う男に抱かれる女もいるから、性行為自体には、それほどの禁忌はないものと思われる」
「何が、ないものと思われるよ。私はいやだし、大抵の女は犯されるは凄くつらい事よ。馬鹿じゃないの」
馬鹿と言えば、ここで不毛な議論をしているのが一番馬鹿だろう。
契約しないのだから帰ろう。
「人生とはつらいものなのだろう。それじゃあ、さよなら」
「待って、お願いだから待って」
「契約しないんだろう。待っても無駄だから帰るぞ」
「契約…… してあげてもいいわよ」
「俺はお願いする側じゃないぞ」
「待ってよ」
チカ伯爵令嬢がしがみついてきた。
俺も今は霊体みたいなものだから、触れられるのかも知れない。
初めて知った事実である。
「ねえ、このまま、この霊体とかで経験するのはどう。肉体は傷つかなくて良いじゃない」
「無理だ」
「どうしてよ」
「契約しないと抱いたり出来ない。契約すれば、すぐに元の身体に戻ってしまう」
「そ、そうなの」
少ししゅんとしている。
良い考えだと思ったのだろう。
「ねえ、私の事好き?」
「会ったばかりでわからない」
「少しぐらい協力してよ。少しでもショックを和らげたいのよ」
「契約が済んだら出来るだけ依頼主の意見を尊重する事になっているが、契約前には協力できない」
「サービスがあっても良いでしょ」
「契約後のサービスだけだ」
「そんなこと言わないでよ。ねえ、私のおっぱいどう思う」
「少し残念なおっぱいだと思う」
「この唐変木! ノータリン! いいわ、あんたに犯されるぐらいなら、ゴブリンに犯されてやるからー」
「では、契約は不成立でいいな。ごきげんよう」
「いやー、待って、待って、待ってよー」
チカ伯爵令嬢は、再び泣いて縋ってきた。
しかし、俺にはどうしようも無いのだ。
処女をもらわないとゴブリンとは戦えない。
「もし、もし契約しても、あんたはこのゴブリンを倒さないと処女は奪われてしまうわよね。それはどうするの」
「契約してくれれば、処女パワーの一部が入り込んでくるから、こんなゴブリンの1匹や2匹、どうってことは無い」
「じゃあ、すぐに倒せるのね」
「簡単に消滅できる」
「もし、その後、私が逃げ出したら?」
「ああ、そうしたら、契約は破棄されて、自動的にこの場面に戻るんだ。その後は俺は現れない」
「そんなのひどいわー、私どうやっても犯されるんじゃない」
「だから、最初にそう言っただろ」
「聞いてないわよー。ひどすぎるわー」
「では、契約はなかった事に」
「いやよ」
「では、契約するのか」
「それも、いやー」
何と言う我が儘な娘だ。
いや、処女喪失に我が儘とかないか。
しかし、どうしようも無い事も事実である。
そもそも、この事態は俺の責任ではないのだ。
「ぐす、今までは、みんなOKしたの?」
「ああ、大体はな」
「拒んだものは?」
「契約しないと俺は消えるから、その後のことはわからない」
「そんな、ひどい」
「それが契約なんだから仕方がないだろ。お前だって、ひょっとしたらこのゴブリンが良い奴で一生仲良く暮らすかも知れないじゃないか」
「出任せだわー、いいゴブリンなんて居るわけないじゃないー、ひどいわよー」
大泣きを始めた。
モラトリアムが長すぎたか。
「じゃあ、この後、味方の兵士がなだれ込んできて助かるかも知れないだろ」
「そんなわけない。兵士どころか侍女まで来ないのに、ゴブリンが入ってきているのよ。みんな殺されたか、あっ」
「どうした」
「廊下に侍女が3人いるのよ。みんな処女なの」
「じゃあ、ゴブリンに」
「そうだわ。きっと3人とも犯されているわ」
「残念だ」
「どうして? あなたが契約すれば良かったじゃない」
「それが、俺が召喚される条件がベッドで祈る13歳の少女限定みたいなんだ」
「それだけなの?」
「今の所、それ以外はなかった」
「それじゃ、私は侍女たちより運があったと言うこと?」
「少なくともチャンスはもらえたと言うことだな。しかし惜しいことをした」
「何よ。私の処女じゃ不足だとでも言うの」
「いや、契約なんだが、君の処女だけでは7日間で切れてしまうんだ」
「7日経ったらどうなるのよ」
「俺は戻ってしまうんだ」
「ゴブリン退治の途中でも?」
「ああ、相手が魔王でもだ」
「そんな、無責任な」
「だから、延長が出来る」
「それって?」
「君が新しい処女を連れてくれば延長できる」
「あんた、魔王じゃなくて、ドラゴンか何かなの。7日ごとに処女を生け贄に捧げないといけないなんて異常よ。いつか、本物の勇者に倒されるわよ」
「そうかもな」
「それで良いの?」
「仕方がないだろ」
「駄目よ、私のためにも頑張りなさいよ」
何故か励まされてしまった。
処女さえもらえれば最強のこの俺が。
「とりあえず、私の処女どころじゃないわ。廊下の侍女たちだって、今なら助けられるかも知れないんだもの」
「急に人が変わったようだな。心境の変化か」
「自己犠牲の精神よ。侍女やまだ無事な女官たちがいるかも知れないわ。母上だって無事かも知れないし」
「そうだな。今ならまだ助かるものもいるかも知れない」
「そうよ。だから処女のキスでオマケして」
「駄目だ」
「じゃあ、廊下の侍女の誰でも好きなのを好きにして良いわ」
「おい、何処が自己犠牲なんだ」
俺は頭痛がしてきた。
早く帰って寝た方が良いかもしれない。
「具合が悪くなってきたから、帰って良いか」
「契約はどうすんのよ」
「破棄でも不調でも何でもいい。終わりにしたい」
「何よ、最強の魔王のくせに」
「最強の勇者だ」
「とにかく、私を助けてから帰りなさいよね」
「じゃあ、契約するんだな」
「信用できないわ」
「じゃあ、なかった事でいいな」
「だから、少しは信用できるところを見せなさいよ」
「どうすればいいんだ」
「この廊下の突き当たりに、母上の部屋があるわ。そこまで私を連れて行って」
「霊体のままなら出来ないこともないが。そしたら契約するか」
「わかった。母上の部屋で契約する」
「よし、行こう」
「ちょっと、待って」
チカ伯爵令嬢は、ゴブリンを指さす。
「このままじゃ、落ち着かないわ。これは消しておいて」
「まあ、契約すると言ったから、少しだけ処女パワーがアップしている。サービスにしておく」
俺は消滅魔法でゴブリンを消した。
チカ伯爵令嬢は、少し落ち着いたみたいだ。
二人でそっと抜け出すと、廊下には誰もいなかった。
突き当たりまで行き、伯爵夫人の部屋の扉をそっと開ける。
そこにも大きなベッドがあり、伯爵夫人らしき人物が、ゴブリンに犯されていた。
「ああ、助けて。ゴブリン、大きい、ああ、大きいの」
どうも、助けて欲しくなさそうだったが、一応契約があるので、消滅魔法で消した。
「ああ、まだ、まだよ」
「お母様!」
「ああ、もう少し、ええっ、チカ、無事でしたか」
伯爵夫人は、霊体のチカが見えるわけないのに、そんなことを言った。
「おい、契約は?」
チカはステッキを振りかぶると、俺を殴りつけた。
「やっぱり、犯されるのはいやー」
チカの声が遠のいていった。
あいつも、一流の魔法使いだったんだ。
偶然、ステッキを忘れてゴブリンに襲われてたが、ステッキさえあれば、あんな連中すぐに片付けられたのだろう。
俺を利用してステッキを取りに行ったな。
ステッキに触って実体化したんだ。
俺の意識はブラックアウトしていく。
畜生、殴ることないじゃないかー。
「何言ってるの? あんたが一人で勝手にイケメンから落ちたんでしょ。打ち所が悪かったの?」
チカコとイケメンが覗き込んでいる。
今までのは夢か。
「チカ、処女はどうなった」
「チカコよ。しょ、処女に決まってるじゃない。あ、あんたに犯されるぐらいなら、イケメンにあげるわ。馬鹿じゃないの!」
「キヒヒヒ」
チカコはイケメンに乗って走って行ってしまった。
4段目に取り残された俺は、チカコの走り去る美しい姿に見とれていた。
夢は知らないところまでは再現してくれない。
俺がチカコの裸を見るのは、それから2ヶ月後か、3ヶ月後か。
ずっと大きなおっぱいを目撃して、やはり夢だったと確認することになった。
俺は13歳の処女を助けるために頑張っているが、対価など求めたことはない。
ないつもりである。
俺は魔王でなく、勇者になりたいからだ。
しかし、契約したかったな。
END