53 絶頂期
53 絶頂期
タキとレンの懐妊は、本人たちの希望もあり、できるだけ小規模での御祝いと言うことになった。
まあ、本人が飲み食いできるわけではないし、夏場に入るところで駐屯している部族はないし、各村は忙しい時期だと言うことで、それとなく迎賓館で侍女を中心として厳かに御祝いした。
子供のお披露目は派手にしようなどと、タルト村の連中は十分盛り上がっていた。
一番の問題は、イリスだった。
ミヤビ命名の『イリスショック』は、主に侍女を中心にして、波紋を広げた。
能力、容姿、年齢、地位、実績のどれもが上回っているキン、ギン、ドウの3人は、3日間ほど寝込んだ。
カリス、サラス、トリスの3人も、かなり落ち込んで、仕事に気合いが入らないようだった。
カズネとリリは苦笑いを繰り返し、アンは良くわかってないのだろうが、不安でユウキ邸から出て行かなくなった。
侍女たちは、ニタ村に出て行ったイリスよりチャンスがあると思っていたので、旅先でのアクシデントとは言え、イリスの幸運に嫉妬しているようだった。
イリスはラーマに祝福されると、偉ぶる様子もなく昼間は3人の妊婦に仕え、夜は俺に仕えていた。
役職が中途半端なのはわかっていたが、人事は暫く中途半端なままだった。
タキとレンは懐妊したとは言え、ラーマみたいにひどいつわりではなく、まだ普通に仕事をしていたし、部下の配置も新規のままだったからだ。
キン、ギン、ドウの役職も、領主直属の侍女に戻してある。
イリスは、ミヤビやヨリが泊まっていくときは、サブルームで寝起きして世話してくれた。
「イリスの野心は、ユウキに抱かれることで達成したみたいなのよ」(ミヤビ)
「妻とか、補佐官とかは望んでいないの」(カオルコ)
「飽きられたら、どこかの村に行かされて、そこで妻に望まれるだろうと言うビジョンしか持ってないわね」
「ユウキさんと一緒になりたいって思わないの?」(ミサコ)
「それが、現実には思えないみたい」(ミヤビ)
「普通に第4夫人じゃ駄目なんですか」(アキ)
「第4から第6までは、キン、ギン、ドウで埋まっているらしいわ」(カオルコ)
「何だか、どっちも可哀想です」(ミサコ)
「思い切ってキン、ギン、ドウの3人も抱いてしまえばいいのよ」(ミヤビ)
「ひえっ」(サクラコ)
「そんなやけっぱちじゃあ余計に可哀想よ」(カオルコ)
「イリスは、ユウキさんを愛しているのでしょうか」(アキ)
「その愛が、こちらでは曖昧なの」(ミヤビ)
「処女にも拘りないし、同部族じゃないと結婚の縛りもないのよ」(ミサコ)
「しかも、ユウキのお手つきの方が侍女の価値が上がるとか言われてる。信じられないわよ、戦国時代の価値観だわ」(ミヤビ)
「自分の気持ちで嫁げない弊害ですね」(ミサコ)
「一番の弊害は、はっきりしないへたれにあると思うわ」(カオルコ)
「そのへたれ男に言い寄れないへたれ女もいるけど」(ミヤビ)
「だ、誰の事よ!」(カオルコ)
「誰でしょう。ただ、我慢してるとドンドン順番が下がる事は間違いないわね。ねえ、サクラコ」(ミヤビ)
「ひえっ」(サクラコ)
「おい、今日呼んだのは、そんな話のためじゃあないぞ。お茶とハーブはどうなんだ」
イリスはタキやレンと同格になるのを戸惑っているだけだ。
愛情は毎晩確かめているから、間違いない。
疑わしいのに毎晩愛し合えるか。
俺が避妊していることは、やばいからこいつらには言えないけど。
ヨリが決断しそうだし、笑顔が怖いんです。
カナとリンは、畑の警備に行って留守だった。
「ええと、お茶と紅茶は同じものよ。摘んだ後発酵させるかさせないかの違いなの」(カオルコ)
「それは、摘んでから時間が経っても大丈夫なのか。すぐに発酵させるのか」
「普通は摘んだ後、乾燥させます。萎れて3割ほど軽くなったら潰して発酵させるのです」(アキ)
「発酵期間は?」
「それが、茶葉の大きさや種類、枝の割合などで違ってくるのです。現代なら茶を摘む時期や大きさ、部位が決められて、後は機械で乾燥、揉み、発酵と最適な加工が決められるのですが、こちらでは部位も大きさもわかりませんよね。セカンドフラッシュを知ってると良いのですが」
「緑茶は、すぐにできるのか」
「摘んだのを乾燥させて蒸してしまえば、発酵は止められます。それを再び乾燥させれば一応緑茶になります」
「絶対に紅茶よ!」
ミヤビがテーブルをドンと叩き、おっぱいを上下させる。
「見本を見せて、まねさせるしかないな」
「まずはそこからね」(カオルコ)
「じゃあ、次はハーブだな」
「レモンバームとローズマリーです」(アキ)
「レモングラスじゃあないのか」
「レモングラスはもっと強い匂いがします。葉も葉っぱではなく長い草です。使い勝手が少し違うだけで、レモンバームもハーブです」
「あると、助かります」(サクラコ)
「よし、輸入決定だな」
結論が出たので、俺は立ち上がった。
「ちょっと待ってよ。イリスとキン、ギン、ドウとどっちが大切なの」(カオルコ)
「そんなの、比べられないだろう?」
「でも、どっちもなんて」
「キン、ギン、ドウの3人は大事な部下だし、イリスは俺の妻だ」
「なっ!」
唖然としているメンバーのうち、ヨリは納得している。
ミヤビは聞いてみればそうだなと合点がいったようだ。
一線を越えないとは言え、夜を一緒に過ごしているのだ。わかるだろう。
後の連中は色々考えているみたいだから、ほっとく。
「キン、夏場の泥炭が安くなる理由は正当か」
「いえ、ただ消費が落ち込むことは確かなので」
「北のニタ村が冬場に備えて安いうちに貯め込んだら困るぞ。相場を安定させろ。カマウの運搬費にも影響が出る」
「わかりました」
「ギン、カリモシにモモのお礼を出したい」
「は、はい」
「散々食っておいて、お礼を考えて無かっただろう」
「申し訳ありません」
「ドウ、両国橋の進捗はどうだ」
「見てないので、わからない」
「完成したらすぐにサンヤ牧場に、2番目にいい母猪と父ジャケ自慢の雄猪を送る。橋を見て、予定を組んでおけ」
「はーい。すぐに調べるー」
まったく、3日も休んだのだ。こき使ってやる。
食が戻ったラーマと、イリスを連れて2段目を散歩した。
ハウスでイチゴを食べさせると、ラーマは嬉しそうにした。
「初めてイチゴを食べたのが、遠い昔の事のように感じますね」
「まだ、3年も経ってないよ」
「でも、何だか凄く遠くに来たような気がします。タルト村もまだなくて、私はお風呂に入ったこともなかったんですよ」
ラーマと初めてデートして、俺は初恋を経験した。
タキもレンもまだ幼くて、大切だが恋の対象にはならなかった。
「でも、こうしてユウキの赤ちゃんが出来て、ラーマほど幸せな女はこの世界にいません」
「ラーマ、これから子供が産まれて、もっと幸せになるんだよ。お願いだから変なフラグを立てようとしないでくれよ」
「フラグですか」
「ああ、何かここまで来たからもう十分みたいな言い方は、不吉なんだ。これからもっと先があるんだからさ」
「いいえ、私は不満なんです」
「えっ?」
「あの時、ちゃんとラーマを可愛がって頂ければ、今頃は二人目、もしかしたら3人目の赤ちゃんがいたかも知れません」
「それはまあ、何と言うか」
「イリスもちゃんと赤ちゃんが欲しいと言いなさい。そうしないとユウキはいつまでも先に延ばそうとしますよ」
「はあ、でも」
「ユウキを愛しているのでしょう。ちゃんと、はっきり言いなさい」
「あの、イリスも子供が欲しいです」
イリスは赤くなって小声だが、領地に来てから初めて自分の意思表示をした。
時々、内心を吐露することはあるが、イリスの場合は要求ではなく不満とか不安なのだ。
おかしなことがあると、悪いのは自分の方だと思い込んでしまい、限界が来ると少しだけ爆発してしまう。
でも、俺の前でだけだ。
俺以外には怖くて出来ないらしい。
それも信頼のうちだろうと思う。
自信がついてくれば、イリスは優れた人材だと思う。
「ユウキ、今夜からちゃんとして下さいね」
ラーマはそう言うと、自分の指輪を外し、イリスの薬指に指輪をつけてしまった。
「これで、あなたも私の姉妹です」
「ラーマ様」
「様は要りません」
「ラーマ」
「イリス」
「夢のようです」
「夢ではありません。あなたはユウキの妻なんですよ。あなたの子供はラーマの子供でもあるんです。しっかりしなさい」
「はい、頑張ります」
それから、イリスをリーナさんの所へ連れて行き、結婚式をお願いした。
無事にイリスに指輪をつけ終わって、リーナさんが文句を言う。
「まったく、忙しいんだから、どうしても式を挙げたいなら森で毎日唸っているタンゴにでも頼みなさい。現地式の初夜も経験できるわよ」
タンゴは自らが信じる神に、まだ期待しているらしい。
森で新たな呪術を研究している。
「いや、それは遠慮したい」
「じゃあ、自分で決めて披露宴で良いでしょ。はい指輪」
「これは?」
「キン、ギン、ドウと、カズネとリリとアンでしょ。それにカリスとサラスとトリスの分。後は足りなくなったら暇なときに作るわよ」
「何だかひどく投げやりのような気がするけど」
「うるさいわね。現地人たちが、私みたいに無限の時間を持ってないのだから仕方がないでしょ。チャッチャと済ませ、ドンドン先に進まないと時間がなくなるわよ。それとも、リータと式を挙げとく?」
「うっ、それは遠慮する。それじゃ研究頑張ってね」
俺はイリスを連れて逃げ出し、ラーマとタキとレンの部屋に行く。
ラーマの指輪をきちんとつけ直し、イリスと結婚したことを伝えた。
3人は俺の報告なんかどうでも良いらしく、イリスと抱き合って祝福をしていた。
確かに姉妹と言えそうな羨ましい雰囲気だった。
タキの指示で熊さんが御簾馬車で待っていた。
やはり、空き缶が一つ繋げてある。
俺とイリスは3人に見送られ、迎賓館に行った。
大広間で、キン、ギン、ドウが
「イリス様、おめでとうございます」
と、挨拶すると、次々に侍女や見習いが来て挨拶し、その後はタルト村の者たちが来て大宴会を始めた。
こいつら、本当に宴会が好きだよな。
イリスは風呂に入ってから部屋に戻ってきた。
俺は我慢できずに抱き寄せた。
このところ、イリスとしかしてないのに、足りないような不思議な感覚だった。
「領主様、何か夢の中にいるようです」
「イリスは俺の妻なんだから、領主様はおかしいぞ」
「でも、恐れ多くて」
「ユウキと呼んでくれ。ほら」
「ゆ、ユウキさま」
「様はいらないよ。ユウキでいい」
「ユウ、キ」
「もう一度」
「ユウキ」
「良くできました」
俺はキスしてから、イリスを抱きしめた。
「イリスは、ズルイの戦いの時、ユウキを見ていました」
「あれは、ひどい戦いだったな」
「いえ、あの時神様はいるんだと思ったのです」
「俺は人間だぞ」
「でも、強くて、そして凄いご馳走を出してくれました。敵だった私たちにまで。あの時、初めてユウキにクレープを渡されたのです。私、心臓が爆発するかと思いました」
「そんなに美味かったか」
「全然味なんかわかりませんでした。その後、侍女見習いになれると知ったときは嬉しかった。私なんかでも神様のお役に立てると思うと、毎日が楽しみでした。でも、料理が出来なかった私はカリスたちと別れて、神様の側には寄れないのが悲しかった」
「そんなことないだろう。ずっと迎賓館でも畑でも役に立ってくれたじゃないか」
「輝いているカリスたちに比べて、自分は抱いてももらえないんだと思うようになったのです。それでタキ様たちにニタ村へ行って役に立ってくれないかと言われたときに、すぐに承知したのです」
「十分ありがたいけどな」
「ええ、頑張ってみようと思い直しました。ニタ村長には何度も感謝されましたし、侍女として尊敬もされました。ただ、女としては誰にも求められないとがっかりもしていたんです。ズルイに攫われたときも、私は母たちのついででしたから」
「まだ、子供だったんだろ。女として攫われたら大変だったんだぞ」
「そうなんですけど、でも、神様に抱かれるぐらいに価値があればとも思うんです。それで、ニタ村でタキ様、レン様に領主様の世話をしてくれないかと言われたときには、これが最後の機会だと思いました。勇気を振り絞ってお側についたのです」
「イリスが承知してくれて良かった。タキもレンも感謝しているぞ」
「ただ、イリスはすぐにまた追い出されるだろうと思っていました。ユウキが抱いてくれるのも領内に帰るまでで、帰ればキン、ギン、ドウや女神様たちまでがいるのですから、イリスの場所などないと」
イリスは泣き始めた。
良くわからないが、不安だったのだろうか。
あんなに愛し合ったのに、何が拙かったんだろう。
「私、最初からユウキが大好きでした。何度も愛してると言いました。イリスの身分なりに頑張ってみようと思いました。ただの侍女でも、ずっとお仕えしたいと思ってました」
「うん、俺も愛してるよ」
「なら、どうして、どうして子供が出来ないようにしていたのですか。イリスじゃ駄目なのかと思いました。ユウキのバカー」
大泣きである。
誤解だと言いたかったが、子供が出来ないよう避妊していたのは事実だ。
ただ、イリスに説明してなかった。
まさか、避妊して怒られるとは思わなかったのだ。
行為だけを楽しむという概念は、この世界にはない。
当然、子供を作るのが目的でするのだ。
特に、経験のないイリスに説明もせずに避妊して理解出来るわけがなかった。
ただ、子供を作るのが嫌だと思われても仕方がない。
結婚してからという、俺の拘りは理解されないし、言い訳にもならない。
イリスはどれだけ不安だったのだろう。
不信感を抱いたまま、ずっと堪えてきたので、爆発したのだ。
イリスの信頼を回復するのにひどく時間がかかった。
ラーマが男の子を出産すると、その日に隅田川で鮭の遡上があった。
秋の収穫とも重なり、息子『祐馬』は神の子と呼ばれ、ラーマは神母とも呼ばれるようになった。
俺は何度か神の呼称はやめるように通達したが、殆ど無駄だった。
信仰が出来ないよう厳しくはしている。
両国橋は既に開通していて、湿地帯にある『女神橋』、荒川上流の『サンヤ橋』とつながり、領地からニタ村まで400キロの北森街道は完成した。
隅田川から北へ30キロほど行ったところには、カマウ村ができはじめ、流通の拠点となっている。
カマウはイケメンを口説き落とし、鹿モドキに馬車を引いてもらっている。
ただし、非常時以外には人は乗せない。
あくまでも、一緒に歩くしかない。
それでも、街道での輸送力は鹿モドキの方が遙かに高いのだ。
イケメンも人類との共存を望み、友人待遇でなら協力するらしく、カマウ村の草原はイケメン2世とカミナリ3世に妻や知り合いが集まって、新しい一族を形成し始めている。
今ではニタ村付近にも鹿モドキの集落があり、行きと帰りで違う鹿モドキが馬車を引くようになった。
イケメンは相変わらず3段目や4段目でのんきに妻たちと暮らしている。
新しく子供たちが出来、チカコも喜んでいる。
ニタ村の砂金は毎週運ばれ、金はオペレッタに、銅は農機具に化けている。
タマウの遊び人やカカの部下はニタ村で働き、ニタは侍女たちを独身のカカの部下にも積極的に嫁に行かせている。
息子たちには嫁をもらったが、ニタ自身は元からの妻だけで暮らしている。
サンヤは広大な牧場を作り出し、毎月、猪と鶏を増やしている。
手間のかからない芋とトウモロコシだけで経営し、森のドングリや、あちこちの村の野菜などを安く仕入れている。
サンヤ兵は見回りをしているが、ギルポン族を上手く使って防壁にしているので、今のところ被害はないようだった。
ギルポン族も、サンヤを見習って拠点を設けているらしい。
小麦や大豆、メープルを知ってしまうと、狩猟だけの生活はつらくなるらしい。
今では生け捕りにして、サンヤと交換することの方が多くなっているとのことだ。
イタモシも、いくつかの簡易芋畑が成功し、東に村を形成し始めている。
3箇所の拠点を設けてまわるように移動しているが、女たちは少しずつ拠点に残るようになっているという。
カマウは、東のイタモシ村と、西のギルポン拠点を結ぶ国道2号を計画している。
その東西の国道と、南北の北森街道が交わるところが、現在のカマウ村であるわけだ。
商売上手だった。
今年二度目の鮭の遡上が終わった頃、村長や部族長たちが御祝いに集まってきた。
タルト村、村長タルト。
カリモシ村、村長カリモシ。
ラシ村、村長ラシ。
ニタ村、村長ニタ。
サンヤ牧場、牧場主サンヤ。
カマウ村、村長カマウ。
イタモシ族、族長イタモシ。
モリト開発村、代表モリト。
ギルポン族、族長ギルポン。
ナルメ族、族長ナルメ。
元族長、タマウ。
元族長、スルト。
以上の12名である。
ギルポンは30前後の戦士タイプだったが、サンヤに呼ばれて来て冷や汗をかいている。
妻たちと侍女たちを初めて見て驚いているのだ。
美しさもそうだが、体格が自分以上の女が沢山いるからだ。
何とか、見本に近くなった紅茶とハーブを持って来た。
お礼にハサミと、リヤカーに小麦とメープル酒満載して渡したら、大喜びしていた。
ナルメは、ギルポンと姻戚関係にある西の小部族で、やはりサンヤの推薦で訪れた。
40ぐらいの渋い親父だったが、毛皮を20枚ぐらいしか用意できなかった事を恥ずかしがっているようだった。
お礼にリヤカーと小麦、大豆、ワインと鮭ビンを渡すと更に恐縮していた。
ギルポンとナルメは小部族であり古いタイプなので、戦士長とか戦士見習いとかの役職はない。
族長がすべて取り仕切り、成人はすべて戦士である。
姻戚関係というのも部族内で婚姻がないから、娘たちを交換するだけである。
何故かというと、基本的に女はみんな族長のものである。
とは言え、独占するわけではない。
森に行くときに族長が一人の女を選べば、力の順で戦士たちが次の女を選ぶ。
強いもの順に女を選んでいく感じだろう。
だが、次に森に行くときに族長が別の女を連れて行く。
当然、戦士たちも別の女を選ぶ、所謂雑婚状態になる。
この時に、族長のお手つきから取り合いになるから、イリスなどが思い込んでいる、『領主のお手つきが格上』という価値観ができあがるらしい。
妊娠するとお休みにまわり、次の女たちが選ばれる。
第2夫人の原型である。
これが1世代交代すると、異母姉妹や異父姉妹が森に行く相手になる。
実姉妹でもおなじである。
誰の娘かなど男たちは気にしてないからだ。
族長が若く交代すれば、まだ若い母親ですら族長の相手に選ばれる。
女は意見など言えず、従うだけである。
こうして母や娘や姉妹など関係なく子供を作れば当然血が濃くなって部族が危うくなるので、時々娘たちを交換するのだ。
まあ、猿山のボスザルと同じで、部族は皆同じ一族という考え方に近いだろう。
カリモシやスルトは婚姻制度を部族内に取り入れていたが、部族が大きいから交換相手など見付からないので、内部で遣り繰りするための制度である。
それでも、外からの血を混ぜたいという本能的なものを持っていたのだから、小部族が平和的に外の血を求めるには姻戚の部族が必要なのだろう。
ズルイはそれを力ずくで行った。
敵対する男は排除し、従順な男だけ仲間にして、女たちを集める。
ある程度大きくなれば、周囲の小部族など好き勝手に出来るようになる。
遭遇する小部族から若い女ばかりを吸収し、従順な男ばかりを仲間にしていく。
数の暴力で大部族になるが、中身は大したことはなかった理由である。
掟や忠誠心などはなくなって無頼の輩になってしまうのだ。
ハーレムは男の夢だが、個体数が少ない部族では、次の世代が大変なことになる。
子作りの相手が妹たちばかりになるなど、悪夢、いや、日本人は大好きか。
宴会に入る前に人事を発表した。
ラーマとタキとレンは、相談役として事実上実務から離れる。
イリスは、まだ現役なので領主館世話役とし、ユウキ邸の管理を任せた。
4人は妻である。
キンを侍女筆頭にし、妻と分離して代官とした。
ギンとドウ、サラスをキンの補佐官にした。
キンは村長たちへの指示と、物流や情報の管理、更に侍女の管理者となる。
ギンは、領地と村々の農業指導と農民の管理。
ドウは、法律と税と教育。
サラスは、食料と備蓄の管理。
カズネとリリは、あらためて教育顧問とし、引き続き侍女教育を頼んだ。
空いた席は迎賓館の侍女を専従にし、見習いの試験をして侍女に昇格させる。
そして、新たに見習いを募集し、年齢制限は撤廃した。
やる気のないものは侍女昇格試験に通らないから構わないのである。
各村の侍女も見習いを教育出来るようにした。
育ったら、侍女試験を受けに来ればいいのだ。
今まで使われていなかった迎賓館の領主や補佐の執務室は、キンが使うよう指示した。
人事が終わると、村長たちに、
「今年は祐馬が生まれた御祝いに、税は免除する」
と、発表して、宴会が始まった。
「タルト、こうしてみると、もう敵対する部族は残ってないんじゃないか」
「西のロン族と、東の荒川と利根川の間にいる部族以外は小部族しかいないな」
「北の部族も纏まらないだろう」
「ニタ村を見たら、部族をやめそうだな」
「とりあえず、村の脅威になるような部族は2部族か」
「ロン族はサンヤがいるから出てこないだろう」
「東も荒川を越えたらイタモシに引っかかるから、出てこない。カリモシやラシを見たら逃げていくだろう」
「自分の部族を立ち上げようと放浪している奴は、みんなカマウの馬車を見て村に入ってしまった」
「イタモシが村を立ち上げたら、事実上農民の世界だな」
タルトとコラノの二人はご機嫌だった。最初の農民としての誇りもあるのだろう。
「だが、山を越えれば他の部族がいるんじゃないのか」
「山越えなんて見たこと無いぞ」
「夏でも雪が積もっているし、冬は簡単に凍死すると言われている」
「2000mぐらいの所もあるから、越えられるんじゃないのか」
「山一つなら食糧も持つかも知れない。しかし、次の山、その次の山となると誰も越えられない」
「向こうから来た奴の話などないぞ」
「そうか」
東北や日本海、関西地方やボルネオ島も見てみたかった。
ロシア大陸や中国大陸にも未練があった。
だが、130人の少女を助けないとどうにもならない。
俺の予想が外れてれば、そんな時間が出来たかも知れない。
しかし、ミヤビの予想と計算は俺の考えと合致した。
俺は、人類の文化圏に帰る試みをしなければならない。
農民文化が、発展の絶頂期を迎えているからこそ出来る贅沢なのだ。
少女たちが徐々に大人びて来ている。
男が俺だけしかいないのでは、選択肢がなさ過ぎだろう。
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