52 村々視察(後編)
52 村々視察(後編)
カリモシ村より先は、俺にも未知の場所だったが、舗装道路が続いているので心配はなかった。
荒川沿いを近づいたり離れたりしながら4時間近く進むと、幾つもの支流に分かれて湿地帯の小川の数を多くしたような、開けた場所に着いた。
作りかけの橋が延びている。
幾つもの中州のような場所があり、それを上手く利用しているようだ。
サンヤの兵の他に、カマウ隊もいた。
父ジャケの弟子が挨拶に来た。
握手して労をねぎらい、父ジャケの師匠である八さんに後を頼んだ。
弟子のそのまた弟子の少年は、レンに声をかけられ、革袋一杯の甘い炒り豆をもらうと嬉しそうだった。
上気した顔は、レンが偉い人だからと言うよりは美人だからだろう。
レンは計算して行動したわけではないが、これで少年は将来名のある大工になることだろう。
カマウが来て平伏するのをとどめ、握手をした。
男同士はこうして挨拶し、女には頭を下げるだけで良いと教える。
仰々しいのは、迎賓館での儀式の時だけで十分である。
「ニタは、北の部族の一つを取り込んで、守りは強くなりました。平地での畑を広げています」
「ロン族とか言う連中の動きはどうだ」
「ル、いやロン族はサンヤに手ひどく負けて以来、湖の奥から出てこないようです」
タキは俺がさりげなく命名したのを悟り、通訳で名称を切り替えた。
「しかもサンヤは、自分たちの狩り場の一部を小部族である『グゥィルゥェポォンン族』に譲り、同盟を結んでロン族への備えにしたようです」
ギルポン族に決めた。
「そのギルポン族は、信用できるのか」
「ギルポンは60人ぐらいの部族で、サンヤがバックについて安心しているみたいです。それに、去年からサンヤはあまり狩りをしないし、狩り場を離れている期間が長かったので、獲物が濃く収穫が良くなりました」
確かにサンヤは去年から俺の領地に長くいたし、鮭加工も覚えたので、狩りの回数は例年の半分ぐらいだろう。
小麦や酒も持っているから、狩り尽くすような事はしない。
サンヤは戦士としてはからっきしだが、商人か外交官か軍師としては使える人材のようだ。
本人は小心者だと思っているが。
農民が増えると、野生の獲物も増えるのだろう。
これは、タルトの狙いどおり、肉を持って来て小麦と交換する時代が来るかも知れない。
「更にギルポン族は、山でこうしたものを見つけるのが得意です。サンヤから、ユウキ様に渡すよう頼まれたのですが」
カマウが差し出したのは、本物のシメジとマイタケである。
地球では超高級品で、店に並ぶようなことはない。
これは凄いぞ。
俺はカカをサンヤ兵に引き渡し、軽作業をさせるように指示すると、タキとレンに手伝ってもらって、ご飯を炊き始めた。
夕食は、ご飯とキノコ汁、それにハマグリの佃煮、それだけだったが極上の食事になった。
サンヤ兵もカマウ隊も驚いたように食べては、タキとレンにおかわりしてもらっている。
ハマグリの佃煮は、最初カマウ隊がどん引きしたが、みんなが平気で食べているので、恐る恐るだったが箸をつけた。
いや、箸は使える者がまだ少ない。
しかし、一度食べると次々におかわりしてきた。
囚人たちが、おかわりしづらそうだ。
こうなることを予期して、タキとレンには先に試食させていた。
二人もぱくついて、恥ずかしそうだったが、それだけの価値はあるのだ。
「キノコなんて力も出ないし、お腹の足しにもならないと思っていました。飢えたときに仕方なく食べるぐらいで」
「美味しゅうございます。何とも言えない味がしみ出して」
食後、カマウ隊にメープル酒を振る舞い、サンヤ兵にも一杯だけ飲ましてやると、満足したようだ。
焚き火を囲んでカマウ隊と宴会していると、囚人代表が話したいと言ってきた。
一人だけ許可した。
タマウの遊び人だった奴は、平伏すると真面目に話し出した。
「今日の飯は心に染みました。俺たちが何一つとして女に取ってきてやることが出来ないものばかりの食事です。女たちが何を望んでいるのか、わかったような気がします。ユウキ様が俺たち戦士を堕落させると言っていたカカの野郎はあの有様で、ユウキ様の食事はいつも極上です。これなら馬鹿でも妬みだって気付きます。俺たちも少しは頑張って、妻や子供にこんな美味いものを食べさせてやりたいと思います」
「農民は女の力を借りて豊かに暮らすものだ。女たちが頑張っているのだから、男はもっと頑張らねばならない。約束どおり、橋が出来たら妻たちの村に行かせてやる。橋はお前たちの村を豊かにするものだから、将来のためと思ってやり遂げて欲しい」
「この橋が、俺たちのためになる?」
「この世界で暮らす全員が豊かになるんだ。その中にはお前たちも入っている。村で暮らすようになれば、この橋がどれだけ重要か実感できるだろう。いつか、子供や孫の誇りになるぞ」
囚人代表はさめざめと泣き、メープル酒を一杯振る舞うと更に驚いて泣いた。
一樽渡して『生まれ変わったお祝いだ』と言うと、泣き笑いしながら仲間の所に戻っていった。
上手くいけばカカ派も取り込んでくれるだろう。
少々せこい手だが、まあ仕方がない。
夜は熊さんに警戒を頼み、御簾馬車の中で寝た。
「今日は、まわりが妻と離れているものばかりだから、遠慮しておやすみにしよう」
「わかりました」
「残念でございますが」
しかし、しないと決めると逆にしたくなるものである。
意志薄弱か。天の邪鬼か。
タキのおっぱいを触って怒られ、レンのおっぱいを触って叱られた。
「まったく、もう」
「ちょっと、見直したのが馬鹿でございましたわ」
美少女二人に背中を向けられて寝るのは、ひどく寂しかった。
八さんが橋の工事に問題なしと報告してきた。
熊さんと橋の材料を沢山切り出した。
角材、板、杭を沢山作ると、囚人たちも喜んだ。
午後は、八さんと熊さんに幾つか小屋を造るように頼んで、タキとレンを連れて、川の上流を探索した。
武器も装備し、オペレッタに付近のサーチもしてもらって、誰もいないのを確認してもらった。
サンヤもカマウも俺が強いことを知っているので、何も言わなかった。
カカには見張りがついているし、あの脚では歩くのも苦労する。
細かく分かれた川の上流には、白糸の滝のような崖がいくつかあった。
高低差20mぐらいだろうか。幅は200mぐらいから、先には1キロ以上ありそうな所も見えた。
水量が多ければ、ナイアガラみたいになったのだろうか。
とりあえず、3人でシャワー替わりにした。
そこから苦労して登山をすると、1時間ぐらいで、景色が一望出来る場所に出た。
七つの湖が見えた。
そのうち一つは中国の有名な観光地である黄龍のように、棚田みたいな流れでとても美しい。
色もグリーンやブルーなど微妙に違って見える。
俺は命名をしようとしたが、良い名前は浮かばず、その後は「七湖」とか「七湖地帯」とつまらない呼び方を続けることになる。
どう考えても七つも湖がある場所は考えつかなかったのだ。
タキとレンも初めて見る光景に声もなくボーとして見入っている。
いつかは、ラーマにも見せてあげようと思った。
夜は、甘い感じに見せかけた、恐怖のジャージャー麺大会にした。
何故かこの星では、唐辛子は辛くなるばかりでコクがない。
それを逆手にとって激辛唐辛子料理を作り、ラーマなどには大顰蹙をかったこともある。
しかし、メープルと合わせ、適度な辛さは心地よい味付けになることがわかってくると、色々やり出すものだ。
このジャージャー麺も、辛いけど耐えられる程度の辛さと甘さが混ざり合った、止められない料理なのだ。
タキとレンは知っているので黙らせた。
最初は皆『ふんふん』といった感じだが、段々『ぴりぴり』してくる。
もう少し食べると、突如辛くなり、水を求めてジタバタする。
しかし、水を飲んで一息入れるとまた食べたくなる。
以下、ジタバタ、水、食べるの繰り返しである。
汗をかきながらも食べるのをやめられない。
囚人たちなど、走り回る奴までいた。
皆、満腹になるまでやめられなかった。
唐辛子初体験である。
ああ、忘れていた。
メープル酒は、口の中に火がついたようになる。
手遅れだった。
橋は未完成だが、舗装道路はニタ村まで続いていた。
カマウは砂金を積んでいて、帰りだったのでここで別れた。
カリモシ村のモモを運ぶように頼んでおいた。
イケメンたちは、行く先々で草原の草を食べていたので、飼料があまり減らなかった。
トウモロコシはおやつのようだ。
イケメンは、どうやら子供たちの独立先を吟味しているようだった。
良い土地があれば、一族を分けるつもりなのだろう。
まあ、今すぐにではなさそうだ。
カミナリ3世は、ヒミコの指示を良く聞く良い奴のようだった。
まだ、子供なのかも知れない。
やはり、一日でニタ村に着いた。
平地には大きな畑が出来ていて、ニタのやる気が良くわかった。
ニタの一族は、最初に来た時に老若男女関係なく土地の開墾をさせたから、そうした気風が残っているのだろう。
今でも、畑の開墾は男女の別なく行っていた。
ニタも、イタモシも、ズルイも、タマウも関係なかった。
勿論、軟らかい草原の方を女たちが鍬をふるい、男たちは林にかかるところや、岩があるところ、用水路掘りなどを担当している。
しかし、全員が明るい顔をしている。
ラシ村の一生懸命さや、カリモシ村の豊かなのんびりした雰囲気とも違う村になっているようだった。
タマウの女たちに、夫たちは橋の工事を終えれば農民としてここに来ることを伝えると、抱き合って喜んでいた。
まだ、ニタの妻に転向していないらしく、安心した。
侍女たちも、まだ誰も妻になっていなかった。
「みんな、私が良いみたいです」
相変わらず、惚けた親父だった。
「でも、私はレン様が一番良いのですが」
「前にも説明したでしょう」
「思うのは勝手ですよね」
「もう一度、ユウキに叩きのめしてもらいますわ」
「そう言うところが、とっても良いんです」
レンも流石にお手上げ状態らしい。
だが、好かれて悪い気がする奴はいないから、レンも本気で怒ったりはしていない。
むしろ、心を許している感じだ。
冷たい感じのレンは、恐れられることの方が当たり前になっているので、本当は嬉しいのだろう。
だが、レンは俺の嫁だ。
「それで、ニタ。今年の作付けはどんな感じだ」
「扇状地の方は、全部小麦にしました。順調に育っています。秋には10石収獲できるでしょう。平野部は今のところ芋を40石収獲し、今は半分に大豆と野菜類を育ててます。残り半分は冬小麦にして、新規開発は全部サツマイモにします。来年は小川沿いを水田にして、米を20石作れそうです」
1年あったとは言え、素人農業だったのが大したものだ。
カリモシ村より成績が良い。
「本拠地は平野部に移すのか」
「いや、まだどこかの部族が現れたら怖いですから、上にいます。砂金取りもありますし」
八さんと熊さんに頼んで、長屋と食料倉庫の建設を始めてもらった。
積んできた50キロ規格の米俵を、砂金との交換としてニタに渡すと、米好きのニタは喜んだ。
メープル酒の樽もすべて降ろし、やはり宴会になった。
タキとレンは女たちにせがまれて、その後の情報を話に行き、俺はニタや老人たちに色々な話をした。
通訳に選ばれた侍女は、何故か俺にベッタリとくっついていた。
「ロン族は引きこもり、サンヤはギルポン族と同盟して侵攻に備えさせているようだ」
「サンヤは、定住を決めましたね。縄張りをギルポン族に委ねるつもりなのでしょう」
サンヤが定住?
村はまだないぞ。
いや、橋の建設現場辺りに村が出来ると街道警備も流通も助かるか。
土地はいくらでもあるんだ。
足りないのは働き手の男たちだろう。
サンヤ村を作るか。
半猟半農で、牧畜なんかもやってもらうと助かるしな。
酔っ払って、サンヤが雄大な牧場を経営している夢を見た。
イケメンが猪たちを連れて散歩していた。
散歩から帰ると、カリスがイケメンを風呂に入れてシャンプーしていた。
「カリス!」
「違います。イリスです。カリスは従兄弟です」
何故か侍女が同じシュラフで寝ていた。
昨夜から世話をしてくれたんだと思うが、記憶にない。拙いことをしてしまっただろうか。
頭痛がする。メープル酒の飲み過ぎだ。
「カリスが従兄弟なら、サラスは何だ」
「カリスとサラスは双子ですよ。トリスはイリスの同い年の姉です」
「何故、イリスはこっちにいるんだ」
「イリスは料理より農業を選んだんです。失敗でしたね」
「失敗じゃないぞ。農業が一番大事だ。侍女ならわかるだろう」
「でも、領主様のお子を懐妊するチャンスがなくなってしまいました」
「そんなチャンスはないぞ」
「でも、サラスは補佐になるって言ってるらしいです」
「補佐と懐妊は、関係ないじゃないか?」
「補佐はみんなご懐妊ですよね。タキ様やレン様だって」
「何だって!」
「だから、ご懐妊ですよ」
俺は飛び出して、小川で休んでいるタキとレンを見つけた。
「タキ! レン!」
「ユウキ」
「ユウキ」
「本当なのか?」
「昨夜、宴会のご飯を炊いているときに」
「気分が悪くなったのでございます」
「……」
俺は全然考えて無かった。
朝、知らなかったとは言えイリスといたのだって、普通なら怒りに来るはずだ。
「すまない。ニタ村の事ばかりで」
「良いのです」
「謝らないで欲しいのでございます」
「私たちは、これから子供が一番の生活をするのですから」
「ユウキの子供を大事にしとうございます」
「タキ、レン、ありがとう」
タキとレンは微笑むと、イリスに向き合った。
「イリス」
「はい!」
「これから、ユウキの面倒をよろしくお願いします」
「領内に戻りましょう。別の侍女をニタには送りますよ」
「タキ様、レン様、頑張ります」
考えてみれば、イリスを推薦したのはタキとレンだ。良く知っているのは当たり前だった。
しかし、帰り道でタキとレンの世話をするものは必要である。
大事な身体なのだから。
ニタに状況を説明し、急遽帰ることになった。
八さんだけは建設に置いていき、帰りに橋の工事にも寄るように伝えた。
充電用ソーラーを渡しておく。
後はオペレッタと繋がっているから心配ない。
「ニタ、悪いが侍女のイリスは戻すことにした」
「はい、お手つきですねえ。羨ましい」
違うと思うが、酔って寝たので良くわからない。
どちらにせよ、イリスにはタキとレンの世話を頼まなくてはならないから、ここでの言い訳は見苦しいだけだろう。
「替わりの侍女を何人か送る事にする」
「楽しみにしています」
荷物を減らして大分軽くなったが、砂金を積んでいくのはやめて、ニタに梅モドキを沢山もらって帰途についた。
橋の工事現場には随分と早く戻ってきたので驚かれたが、サンヤ兵と囚人だけのはずが、サンヤ本隊が駐屯していた。
手早くサンヤと打ち合わせし、サンヤ牧場計画を実行に移すことにした。
サンヤも猟と家畜の世話が自分たちには合っている事を認め、喜んだ。
小屋を拠点にして、牧場とサツマイモ畑、トウモロコシ畑の縄張りをして、その日はおしまいになった。
ギルポン族とのキノコなどの取引もサンヤが請け負ってくれた。
「ギルポン族の方が喜ぶでしょう。これなんかはどうです」
そう言うとサンヤは干し草の入った革袋を二つ出してきた。
ニオイは、レモンとローズマリーだった。懐かしい。
「これはハーブだ。助かる」
「緑色の紅茶も、少量ですがあるそうですよ。山の上の方でしか取れないそうです」
「緑茶か、いや紅茶も同じ種類なんだよ」
「ならば、それも取引しましょう」
「ギルポンは何を欲しがるのだろう」
「山の貧しい部族ですから、何でも欲しがりますね。小麦とメープル、鮭と酒などが喜ばれるでしょう」
サンヤとニタは、腕っ節で評価される社会の出身だからか、自己評価が低い。
しかし、十分経済が発展した社会なら大物に化けるだろう。
早速、ハーブティーを入れてみた。
レモン風味の方は、レモングラスという奴みたいだ。
俺は紅茶好きだが、あまりお茶の知識はない。
宇宙旅行やサバイバルをしていると、飲めればいい程度になってしまう。
お嬢様が130人もいるから、お茶とハーブに詳しいのはいくらでも見付かるだろう。
タキとレンは、つわりで苦しんでいたが、ハーブティーは喜んだ。
気分も良くなるようだ。
その夜は、御簾馬車の外で熊さんと警戒しながら寝た。
翌日にはカリモシ村に戻った。
サンヤ牧場計画を話すとカリモシは驚いたが、家畜の世話に力を注がなくても良くなることを説明すると賛成し喜んだ。
肉が手に入るなら、小麦やメープル酒と交換するのは悪くないのだろう。
再び長屋の一室を借りると、タキとレンはキスして別の部屋に行ってしまった。
やがて、手桶に水を汲んだイリスが来て俺の身体を丁寧に拭ってくれ、自分自身もスカートを脱いで身体を綺麗にする。
すべてが細身の身体は、ちょっと幼く感じた。
ただ、夜の薄明かりのせいで陰影が強調され、色気と言うよりは少女の持つ清涼感のある美しさみたいなものを感じた。
ただの性欲かもしれないが。
俺は少し呆けて見ていた。
その後は当然の展開だが、案の定イリスは処女だった。
曖昧な顔をして、惚けていたのである。
だが、タキとレンの公認なので、後ろめたい気持ちはなかった。
俺の何かの拘りは、今度はタキとレンの思いやりで崩れ去った。
俺はタキとレンのためにイリスを連れて来たが、タキとレンは俺のためにイリスを連れて来たのだ。
「噂には聞いていましたが、凄いです」
「つらかったか」
「いいえ、嬉しいです」
「そうか」
「その、イリスは良かったでしょうか」
「誰かと比べたりはしないが、イリスは好みだな」
すべてに控え目なのに、従順で気配りできるイリスは、惚れて抱いたわけではないのに愛おしく感じた。
俺よりタキやレンのセンスがよいのか。
まあ、かゆいところに手が届く感じだ。
「あの、これからも時々可愛がって頂けますか?」
「ああ、こちらこそよろしく」
「カリスたちはずっと、こ、こんなことしていたのですね」
「誤解だぞ。あいつらとはしてない」
「何ででしょう、一年以上も放っているのですか」
「いや、あいつらは侍女だからさ、誰かの嫁にならなきゃならないだろ」
「領主様に抱かれもしない侍女を、嫁に行かせるのは可哀想じゃないでしょうか」
「ええっ?」
「あのその、領主様の侍女を何年もやっていて、抱いてもらわなかったなんて恥です」
「処女で嫁に行く方が良いだろう?」
「侍女としては恥なのです。イリスも恥ずかしい思いをしてました。ニタ村長が、レン様やキン、ギン、ドウが欲しかったとつぶやくのを聞いてしまいましたし。だから、今回がチャンスだったんです。これでイリスも格が上がると。はしたないのを承知でお側に来ました」
うーん、また価値観の違いがある。
前からあったのだろうか。それとも、侍女限定の話だろうか。
「じゃあ、キン、ギン、ドウはどう思われてるの」
「それは、領主様のお気に入りで、毎晩抱かれているからあれだけ美しいのだろうと評判です。嫁に出すなんて言ったら、どの部族も大騒ぎですよ。猪10頭出しても欲しい男が大勢出るでしょう」
「イリスはどうなるの」
興味本位で尋ねてみた。
「あの、これから暫く可愛がって頂ければ、ニタ村長だってきっとイリスを認めてくれます。タルト村に嫁入りは無理でしょうが、それ以外なら村長クラスにも嫁げると思います」
「でも、イリスに子供ができたらどうするんだ」
「それは領主様の子供付きなんて、この世界では大変な出世です。タルト村長ですら敬ってくれるでしょう」
「処女に拘らないのかなあ」
「領主様は女を攫いに行くとき、子供が産めるかわからないようなのを狙うんですか」
「いや、攫いに行かないから」
「そうですよね。でも、例えばの話です。子供や処女よりも、ちゃんと子供が産めそうな大人の女や、子供を産んだ女の方が確かですよね」
「そうかな」
「子供を産まないで良いなら、攫いに行かないでしょう?」
子供を産む以外の価値を求めないのだろうか。
性の快楽を知らないのに、女を求めると言うのは、やはり子供を作るという本能なのだろう。
女が労働力や快楽の対象にならないとすれば、やはり子供を産むかどうかなのか。
そう言えば、妻とイチャイチャして喜んでいるのは、子ジャケぐらいなものだな。
どうやら、子ジャケ、カカ、ズルイ、俺の4人は、この星では変態の部類に入るような気がしてきた。
ああ、ニタの親父もか。
少数派過ぎるし、あんな連中と同族というのも、少し嫌かも。
5人で、変態戦隊チチレンジャーとか、結成すべきだろうか。
しかし、全員巨乳好きというわけではないなあ。
どちらかというと、小さい方が好みなのか?
「でも、領主様だけは違うのだというのがわかりました。こんな事が女の身体に起こるなんて、聞いていてもわかりませんでした。子供におっぱいをあげるときに、こんな事になったら困りますね」
イリスが薄いおっぱいを持ち上げる姿を見て、つい2回戦に突入してしまった。
だが、俺はイリスを愛する時には避妊するようにした。
これから3人も生まれるときに、不謹慎な気がしたからだ。
それから毎日愛し合い、俺はイリスを愛するようになったし、イリスも俺を愛してくれるようになったが、イリスは妻たちによく仕えてくれて、侍女としての態度は崩すことはなかった。
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