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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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44 剃髪

 44 剃髪




 ミヤビに口止めして、10人委員会を招集した。

 2階の廊下から、集まるメンバーをラーマと共に観察する。

 ケジラミはともかく、髪を切るのには反対のメンバーが多いからだ。

 シャンプーとリンスの消費量削減のために協力を仰いだことがあったのだが、簡単に却下されてしまったのである。

 お嬢様の最後の拘りみたいなものかも知れない。

 お陰で侍女たちは、みんなショートカットばかりだ。


 カオルコが長い黒髪をなびかせて歩いてくる。

 知的な感じは変わっていない。

 お嬢様学校なら、チカコと並んで人気ナンバー1か2だろう。

 癖のない美人なのだ。能力も高いし。


「大丈夫みたいです」

「俺もそう見た」


 ラーマと笑いながら観察し、OKのサインをタキに出す。

 タキはカオルコを食堂ではなく、俺の部屋に連れて行き待たせる。


 カナとリンが現れた。

 背丈は標準だが、武道の心得がある感じは頼もしく見える。

 髪はカナがポニーテールで、リンはヨリと同じショートだ。

 健康そうな二人もOKだった。

 怪しい気配はない。


 アキとサクラコが現れた。

 二人とも料理班だから清潔にしているはずだが、ミヤビと仲が良い。

 気をつけてみてるとアキが櫛で頭を掻いているし、サクラコは頭に何度も手を持って行く。

 ラーマを見ると頷く。

 タキに指示し、食堂へ行かせる。


 ルミコが頭を掻き毟りながら現れた。

 これは間違いない。


 ミサコはセルターに付き添われてきたが、やはり頭を気にしている。

 セルターはメディカルアンドロイドのくせに、遺伝子治療に特化しすぎて使えない。

 直ぐに薬だ、診断機器が必要だ、道具がないと言い出す。

 ミサコが治ったら改造決定だ。

 タキに合図して食堂に行かせる。


 チカコを間にはさんで、ヨリとミヤビが来た。

 ヨリを見るが、おっぱいがやはり一番大きい。


「ご主人様。今はいけませんよ」


 ラーマに怒られた。


 チカコを先にしよう。

 うーん、見た目は完全なお嬢様だ。

 金髪も手入れされていて、綺麗になびいている。

 ヨリも健康そうで笑顔も明るく気配がない。


「どうだ、ラーマ」

「お二人とも大丈夫に見えます。感染うつれば一日でかゆくなるはずですから、ミヤビ様だけでしょう」


 俺はタキに合図して、3人を引き留めると、下に降りていった。

 ミヤビとラーマに食堂のメンバーを紅茶でもてなして繋いでおくように言って、自分の部屋にヨリとチカコを連れて行く。


 部屋には俺とタキを入れて7人。

 レンはリーナさんのところで、バリカンとかカミソリとか軟膏を用意してもらっている。


「何か重要なお知らせとか」

「何よ、もったいぶって」


 俺は、タキを見張りに立たせ、お嬢様方に静かにするように合図して、部屋の中央に集まらせた。


「絶対に大声を出すなよ。特にチカコ」

「わかったわよ」

「実はミヤビがケジラミに感染した。人に感染るものだ。大騒ぎになる前に、対応策を検討したい」

「ケジラミって何よ」


 チカコが小声で尋ねる。


「毛根に巣くって繁殖する寄生虫ですね」(カオルコ)

「ああ、もの凄くかゆいらしい。お前たちは大丈夫みたいだが」

「ええ、そんな症状はないです」(リン)

「でも、ケジラミって性感染症じゃなかったかしら。まさかユウキ様」(カナ)

「馬鹿言うな。俺はどちらも無実だ」

「何よ、性感染症って」(チカコ)

「エッチするとうつるんです」(ヨリ)

「じゃあ、私は大丈夫よ。ヨリコが一番危険じゃない」

「残念ながら、まだ」

「おい、ヨリ」

「すみません」

「ここのケジラミは、頭の方が好きみたいなんだ」

「ミヤビは頭がかゆいって言ってたわね」(カナ)

「さっき調べたら、寄生虫を発見できた。間違いない」

「どうすれば駆逐できるんです?」(カオルコ)

「まずは、髪を切り坊主にする」


 衝撃が走った。


「それから、頭に泥を塗っておくと駆除出来るみたいだ」

「髪を切らなくても、泥を塗れば良いのでは」(ヨリ)

「長い髪で泥だらけなんて、生活出来ないでしょう。他の人にも迷惑がかかりすぎるわよ」(カオルコ)

「確かに食事とか困りますね。当番はどうします」(ヨリ)

「料理班に入れるわけにはいかないわ。差別やイジメが起きると困るし」

「長い髪に卵が産み付けられて、振りまかれるそうだぞ。泥と卵が振りまかれるのはいやだろう。髪を切って2日間は隔離だ。発見、処置、隔離、清掃、消毒の順にしてくれ。蔓延したら困るだろ」


 髪を切るのは嫌だが、泥や卵まで振りまかれるのを想像したのだろう、反対意見は出なかった。


「しかし、どこから感染したのでしょう」(カオルコ)

「野蛮人が怪しいわね」(チカコ)

「ミヤビとしてたんですか」(ヨリ)

「おい、ヨリ」

「冗談です」

「とりあえず、5人の感染者を待たしてあるが、どうする」

「お風呂場で、全員検査します」(カオルコ)



「かゆみ止めはありますが、軟膏は熱を出した者だけに限るそうでございます」


 風呂場でレンが準備していた。

 軟膏は寄生虫によるアレルギーを起こした者専用と言うことである。

 ショックを起こす者はまれだが、高熱が出ると重症になるので、発熱してる者だけは薬物を使用すると言うことになる。


 5人の感染者は蒼くなっていたが、覚悟は出来ているようだった。

 セルターが一番やかましい。


「ミサコ様、私がお仕えしながら、何と言うことでしょう。○○剤や○○薬があれば直ぐに処置できるものを、申し訳ありません」

「セルター、仕方がないのです。人に感染すぐらいなら、髪など何でもありません」

「しかし、折角の髪を」


 ミサコは普段編んでいるが、一番長い髪の持ち主である。

 戻るには何年もかかるだろう。


 惜しいよなあ。

 あの黒髪がベッドに広がるところを、一度で良いから見てみたかった。


「ユウキ様、不謹慎でございます」


 レンに叱られた。


 診断はカオルコがやり、次にセルターが熱を測る。

 平熱を確認すると、カナがもう一度状態を確認してから、ビニールのポンチョを着せ、俺の前の椅子に座らせる。

 俺がバリカンで坊主にし、シャワーに向かわせ、それからヨリがかゆみ止めを塗る。

 タキが髪を集めて燃やしに行く。

 レンはポンチョを洗いに行く。

 ラーマとハインナが、食堂で泥の準備をしてくれている。

 リンには軟膏を預かってもらっている。

 重傷者は屋敷の2階に連れて行くしかない。


 最初はミヤビだった。

 カオルコが慎重に診る。

 サンプルとして間違いないので、確認後セルターが熱を測る。

 首に触るだけでわかるようだ。

 平熱なので、カナがポンチョを着せ、俺の所に連れてくるはずが、一度脱衣所に戻り、透けるパンツ一枚の姿でポンチョを着込み現れる。


 確かに髪を切ったらシャワーしかないか。

 ジャージ姿では困るかも知れない。

 しかし、ポンチョも透明だった。

 童顔のミヤビが大きな胸を隠しながら歩いてくる姿は、かなりドキリとする。


「ミヤビ、ごめんよ」

「笑わないで下さいね」


 ミヤビは笑顔で涙を零した。

 俺はまずミヤビの長い髪をハサミでカットする。

 見学していたチカコが、それを見て逃げていった。

 短くしてから、バリカンで刈り込む。

 3ミリ程度まで情け容赦なく刈るのは心が痛んだ。

 しかし、フケのようなケジラミがポトポト落ちていくのを目撃すると、治療のためだと思えるようになった。


 タキが土間箒で素早く集めていく。


 ミヤビはポンチョごとシャワーを浴びて洗い流すと、脱いだポンチョをレンに渡して、ヨリにかゆみ止めを塗ってもらっている。


 その間に、俺はミサコの髪を切っていた。

 おっぱいを両腕で隠すミサコは可愛かった。

 毎日リハビリして頑張っている姿を見ているから、冷徹な委員長ではないことは分かっている。

 他人を優先する責任感のある良い子だ。

 長く美しい黒髪を覚えておこう。


「ユウキさん、お礼は髪が伸びてからで良いですよね」

「馬鹿なことを言ってないで、ちゃんと治せ。リハビリも続けような」


 バリカンが終わると、ヨリが支えながらシャワーを浴びさせる。


 直ぐにサクラコの番だった。

 真っ赤になって俯いているが、俺が髪に触る度にビクリと動く。

 ふんわりとサラサラの髪が、お嬢様を感じさせる。

 毎日手入れしてんだろうなと思うと、もったいないが仕方がない。

 まあ、とんがった大きなおっぱいがあるから大丈夫だろう。


「恥ずかしいです」

「治療なんだから、我慢してくれよ」

「はい」


 消え入りそうなサクラコの返事と共に、バリカンで容赦なく刈り上げる。


 アキは、温和しい印象を受けるが、明るい無口である。

 世話を焼いてくれるが、出しゃばらない感じの良い子である。

 妹にこんな子がいたら、実に楽しい生活になるだろう。


 彼女を作って焼き餅を焼かせたい。


 しかし、髪を切るのには抵抗があるようだった。

 焦げ茶の髪は母親ではなく、大好きなおばあちゃんと同じで密かな自慢なのだそうだ。


「アキがちゃんとしてないと、みんな食事が楽しくないと思うぞ」

「そうでしょうか」

「お前は、みんなの笑顔を引き出す貴重な人材なんだ。落ち込んだりしてくれるなよ」


  最後はルミコだ。


「これで坊主頭じゃ、男の子にしか見えないよね」

「きっと、下級生にもてまくるぞ」

「そうかなあ」

「美少女はたくさんいるが、美少年は貴重だからな」

「うーん、褒められてない」


 5人が終わると一度食堂に戻る。

 4人目のアキがラーマに泥を塗られていた。

 ミヤビの頭は黒い泥が乾き始めて部分的に薄茶色に変わり始めている。


「ミヤビ、どんな感じだ」

「かゆみは治まってきたけど、癖で掻きたくなるわね。むずむずするの」

「二日辛抱すれば、呼吸困難で死滅するそうだ。髪もないから新たな卵が孵化することもない。我慢できそうか」

「かゆみが治まれば我慢できそうです。髪を切られるショックは下級生の方が少ないと思いますよ」

「だそうだ、カオルコ。下級生に取りかかろう。選別方法は任せた」

「では、カナとリンは一緒に来て下さい。一部屋ずつまわって、大丈夫な方は清掃と消毒をさせましょう」


 それからが大変だった。

 侍女たちを総動員し、案内役、掃除役、焼却役、もてなし役などに割り振り、ユウキ邸の2階に4人ずつ入れても間に合わないので、旧ユウキ邸にも隔離施設を準備した。

 途中からヨリもバリカンにまわり、かゆみ止めはタキの仕事になった。

 カオルコは、疑いのある者はすべてまわしてきて、髪を洗わない不精者がひとり、感染者じゃないのに坊主頭にされた。


 料理班は責任者二人だけでなく、補佐の6年生2名まで隔離されて指揮が執れなくなり、カオルコによりラーマ隊が料理班として徴発された。

 まあ、ラーマたちは、普段から料理の時に協力し合っているから問題は起こらなかった。

 翌日、発症する者が一人を除いて、皆無だったのは、カオルコの判断が良かったからだろう。


 最後の一人は俺だった。


 朝食後、コーヒーを泥頭の幹部たちと飲んでいるとき、むずがゆくなった。

 気のせいだろうと思い込もうとしていたら、サクラコが気にしてミサコに言い、ミサコがアキとミヤビに言いつけると、ミヤビはラーマの侍女カリスに言ってカオルコを呼び出した。(サラスだったが)


 カオルコはヨリを連れて来て、一緒に診断して、にんまりと笑った。


 3次感染を恐れた髪の長い連中がギャラリーとなり、復讐鬼と化したミヤビがバリカンを使って俺の頭を刈り上げると、見事な虎刈りになった。

 だが、俺の不幸はそれで終わらなかった。


 下もかゆくなったのだ。


 俺は、泥をラーマに塗られているときに我慢できなくなり掻き毟ると、ラーマが優しく風呂場に連れて行き、診断した。

 ラーマの小さな手ではハサミが使えないのでヨリが呼ばれて、ラーマと協力して安全カミソリで剃り、ついでに頭の虎刈りも剃り上げられた。


 俺が見事につんつるてんにされる光景は、ミヤビやカオルコたちに覗き見されていた。


 ヨリとラーマの息がかかるほどの状態だった俺の下半身については、興味がある人もいないだろうから割愛する。


 翌日、泥から解放された尼さんたちの集団と感染経路について考えた。


「ワラは安全なんですね」

「ワラは意外と抗菌力があるらしく、虫がわきづらいらしい。週に一度ぐらい干しておけば、虫はわかない」

「でも、毛皮は使っていないし」

「家畜はどうなのでしょう」

「八さんが管理しているから、間違いないし、報告にもなかった」

「野菜についていることもないんですよね。肉は生では食べないし、魚も殆どが加工された鮭だけですね」

「イワシが捕れるんだが、今のところ田んぼや畑の肥料なんだ。地元民が魚を食べないから、安全性を重視している。毒ハマグリの例もあるし」


「渡り鳥が原因でしょうか。地球でもインフルエンザの原因とか言われてますよ」

「渡り鳥なんて誰も接触してないし、3段目の池に行くこともないだろ。それに、接触があれば家畜が真っ先に発症すると思う」

「水を嫌がるから、水源ってことは無いですね」

「そう思う。発症順から言えば、ミヤビか同室の者か、仲が良い者だな」

「殆ど我々ですね」


 確かにそうなのだ。

 ミヤビと仲が良い者がこの部屋にいる。

 だが、そのミヤビですら原因はさっぱりだし、特にここの所は、日用品の開発で引きこもっている。

 再び発生したら困るのだが、感染経路が特定できないと予防できない。


「ミヤビやミサコの頭で考えつかないものを、俺の頭で考えるのは無理だし、無駄だ。俺は猪の出産が予定されているから、3段目に行ってくるが、お前たちは今日一日はのんびり過ごしてくれ。それで、何か思い付いたら教えて欲しい」




「それは何かのお呪いでやしょうか、若旦那」


 八さんは、俺の泥頭を見て仰天していた。


「ケジラミがわいたんで、その処置なんだ」

「それは難儀なことで、どうして梅モドキを使わないんでやしょう」

「梅モドキが何だって?」

「へい、梅モドキを潰して塗れば、皮膚につく虫どもはみんなやっつけられまさあ」

「そう言えば、春と秋に梅モドキを使うって言ってたっけ。虫除けになるって、家のまわりに撒くんだよね」

「へい、お陰でうちの家畜は健康でやすよ」

「でも、毛皮にわいたら駄目なんじゃない」

「シャンプーにして塗り込んで乾くまで待てば、一晩ぐらいで駆除できやす」

「ひょっとして、毛を剃らなくても良かった?」

「まあ、大体は。時々ぶり返すのもいやすが、その時は卵胞を疑った方がいいかもしれやせんねえ」

「卵胞?」

「毛根に卵を産み付ける奴がいるんでやすよ。見つけて潰すか、隔離して産まれた頃、梅モドキをもう一度使いやす。冬越しされたらたまりませんや」


 猪の出産を手伝いながら、俺はミヤビの幼い笑顔、ミサコの長い髪、サクラコのふんわりとした感触、アキの大事な茶髪、ルミコのガキ大将のような頭を思い出していた。

 髪を切らなくても済んだかもしれないと思うと、今から背中を戦慄のようなものが駆け抜ける。

 だが、今はまだ無事の人間が、半分以上残っているのだ。

 それが発症することを考えると、嘘や隠し事など出来そうもない。


 重たい脚をトボトボと引き摺りながら歩いて戻り、タキとレンと侍女たちに手伝ってもらい、梅モドキシャンプーを作り上げた。

 それから、食堂に行き、尼さん5人に土下座した。


「すまない、髪を切らなくても処置できたかもしれない」


 経緯を説明すると、暫く室内は静寂に包まれた。

 誰もがどうして良いのかわからないのだろう。


 泣くか、怒るか、殴りつけるか。


 やがて俺は優しく起こされて、柔らかいおっぱいに顔が沈んだ。


「ユウキさんのせいじゃないです。私怒りません」


 驚いたことにサクラコだった。

 はっきり喋るのも、率先して行動するのも初めて見た。

 ミサコがアキに連れられて抱きつき、ミヤビも後ろから抱きつき、ルミコも抱きついて来た。

 大きさが違ってもみんな優しくて柔らかいおっぱいだった。


「仕方がないですよね。でも、ひとつ貸しでしょうか」(ミサコ)

「まあ、赦してあげるから、私を第2夫人にね」(ミヤビ)

「じゃあ、私は第1夫人でよろしく」(ルミコ)

「ずるいわよ、ルミコ」(アキ)

「どさくさに紛れて」(ミヤビ)

「私も……」(ミサコ)

「私は……」(サクラコ)


 その時、俺の頭の泥が割れて左右に落ちた。

 剃り上げたつるつるの頭が露出すると、全員が驚いた後、大笑いを始めた。



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