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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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43 第2と第3と

 43 第2と第3と




「あーあ、結局本命のヨリが第1夫人か」


 ミヤビがため息混じりに言う。

 俺は今、風呂の上にある岩棚の温水溜まりで工事の真っ最中だ。

 それなのに何人も風呂に入ってくる。

 会話に参加するには少し大声を上げなくてはならない微妙な距離なのだが、何故か話は良く聞こえる。


「まあ、本人は先の話だって言ってるけど」(カオルコ)

「でも、決まりは決まりよね」(ミヤビ)

「結局は、おっぱいなのかしらね」(カオルコ)

「おっぱいなら、ミヤビだって大きいでしょ」(リン)

「サクラコだって結構凄いわよ。まだ成長しそうだし」(ミヤビ)

「私は成長しそうにもないな」(ルミコ)

「ルミコはこれからなのよ。可能性の方が高いの」(リン)

「あの、ユウキさんのいるところで、そう言う話は……」(サクラコ)

「何言ってんのよ。おっぱいならサクラコは第2夫人を狙えるのよ」(リン)

「ミヤビを抜くかしら」(カオルコ)

「いや、第2も第3もそう変わらないからいいわ」(ミヤビ)

「じゃあ、サクラコが第2夫人で良いの」(リン)

「そう言われると微妙ねえ」(ミヤビ)

「カナにも抜かれて第4夫人とか」(カオルコ)

「それはちょとねえ」(ミヤビ)

「ユウキ様! ミヤビとサクラコのどっちのおっぱいにするー」(リン)


 こんなところでそんな質問に答えられるか。

 そうでなくとも、散々恥ずかしい思いをしてるんだぞ。

 それに、ミサコとチカコが脱衣所にいて、こちらを見ているんだよ。


「仕事中だ。集中できないから、余所でやってくれ」 


 この温水は、宿舎のトイレ用なのだ。

 今のところトイレはここの風呂のオーバーフローを使って3つばかり作ってあるが、人数が多いのと、下流側を嫌がる子が多くて不評だ。

 一応、大の方が下流側となっているのだが、まあ、間に合わずにトイレの下流で済ます子もいるし、森で済ます子もいる。

 俺が使用すると大騒ぎだ。


 それなのにだ。

 10人委員会の要望は、5台以上の洋式トイレ、温水付き個室、などという贅沢なものだった。


 オーバーフローを利用した横並びの和式などという俺の案は、検討もされずに却下された。


 トイレ用にポンプを設置するのは贅沢だし、水車小屋の動力も遠いから上手く行かない。

 しかも温水である。

 金属液晶で温水を作ることは可能だが、水をくみ上げることはできない。

 そう考えるとソーラーの無駄遣いである。

 調理場の廃熱と排水を検討したのだが、安定性が悪すぎた。

 いいところ和式の川にしかならず、オーバーフローの方が良いくらいだった。


 風呂用のお湯は24時間流れているし、幸いにも貯水槽は高い位置にあった。

 それを宿舎に引き込めば、温水と揚水とが両方解決する事になる。

 結局、この風呂用の貯水槽から直接パイプで宿舎の屋根まで引き込むことにした。


 後はハイタンクからシャワーヘッドまで用意すれば、女たちは自分で工夫をすると言うので、どう使うのかまでは立ち入らなかった。

 24時間流れる音が気になるかも知れないというと、流れる音がある方が良いのだという。


 洋式便器は煉瓦と樹脂製の焼き物で作った。

 流れる先は風呂のオーバーフローと同じで、2段目の奥である。

 変な池が出来たりしないことを祈るばかりだ。


「あんた、仕事の振りをして覗いてるんじゃないでしょうね」

「お前たちが贅沢なトイレを要求するから頑張って作業してるんだ。文句ばかり言ってないで少しは協力しろ」

「贅沢じゃないわ。最低限よ」


 マッパのチカコが風呂場から怒鳴る。

 俺もつい怒鳴り返してしまう。

 ミサコが何か言いたそうだったが、結局赤くなってセルターと引き返していった。

 彼女の治療はもう終わりそうだった。

 セルターもリーナさんも大丈夫だと保証してくれたので、大丈夫なのだろう。

 リハビリは歩くことになるので、友人たちの多いミサコなら心配いらない。

 下級生に、世話を命じても構わないくらいだ。




 宿舎の検査は、無事に10人委員会より合格のお達しがあった。

 広い厨房と食堂と玄関で1棟、中庭をはさんで宿舎が2棟、奥にトイレと洗面台に個室のシャワールームまで作って1棟。

 中庭を四角に囲み、中庭には洗濯物を干せるスペースがある。

 玄関から風呂場までの渡り廊下まであるから、雨の日でも足がドロドロになることはない。


 引き渡して俺の仕事は一段落である。

 全員の引っ越しが終われば、ユウキ邸に戻れるのだ。


 ここ、迎賓館の待遇は悪くないし施設も文句はないのだが、直訴が多くなるので忙しい時期は勘弁してもらいたい。

 ユウキ邸にいれば大体タキが処理してくれるので、俺は楽が出来るし、何となく落ち着くのだ。


 侍女21人の、お尻を眺めることは、できなくなってしまうのだが。


 特に現地人は早く寝るので、侍女の部屋を覗きに行くと楽しい光景がいつでも見られたのだ。

 夜の見回りと称してはいるのだが、実はバレバレである。


「私たち3人だけで、覗きはつまらなくなるのではございません?」

「私もいますぅ」


 ハインナが文句を言う。


「そうだな。つまらなくなったら、迎賓館に遊びに行こうかな」

「ユウキ様。タキはいつも見せてるじゃないですか」

「おい、誤解を招く言い方をするなよ。夜はみんな裸だろ。暗いから関係ないじゃないか」

「ご主人様。見られるだけでは不満なのですが」

「じゃあ、ラーマはこうしてやるー」

「きゃー、そこはお尻ではありません。せ、背中は駄目、脇はもっと、だめー」

「私も触って欲しいですぅ」

「うははは、ハインナ背中はだめだー、や、やめてー」


 仕事が終わり、秋の収獲を前にして、俺たち農民のテンションは上がり続けた。



 翌日は、タルト邸で過ごした。

 ユウキ邸も宿舎も引っ越しの真っ最中で、居心地が悪かったのだ。

 昼休みの縁側で干し芋を囓りながら、タルトと将棋を、コラノと囲碁を打っていた。

 2面うちである。

 父ジャケと子ジャケとラシがギャラリーだった。

 木材が豊富なので、樫とサクラで碁盤と将棋盤は作られている。

 カヤは見つからなかった。

 碁石は黒が黒曜石で、白は石灰に樹脂を混ぜて焼いたものである。

 お陰で黒石はいびつで、四角に近いものまで混ざっている。

 石切という奴を引っ張り込めなかったからだ。


 まあ、そのうちに何とかなるだろう。


 将棋の駒は、見本があるので父ジャケがコピーして作った。

 村でも、タマウの中でも流行っている。


 女たちが畑で働いているのに、戦士は駄目だな。


「待った!」

「待っても詰みだぞ」

「何でだー」

「飛車を上げたところからやり直さないとな」

「うーん」

「俺もここまでのようだ」(コラノ)

「コラノは置き石3つだな」 

「二つでは勝てる気がしない。しかし、囲碁は戦士の忍耐にいい」

「えー、コラノはもう3つか、俺は4つでも勝てないぞ。将棋もボロ負けだ」

「村長は守りを考えてないからだ。攻め手だけじゃユウキ様には勝てない」(父ジャケ)

「わかってはいるんだが」

「領内には、俺より強いのが3人はいるからな」

「女神様か」

「いや、新しい方で3人だ」


 ミヤビと妹のカレンは俺なんかじゃ話にならないくらい強い。

 カオルコにも勝てる気がしない。

 あの3人と勝負できるのは、リーナさんとオペレッタだけだ。

 まあ、将棋はメモリーを多く使えるリーナさんが有利だが、囲碁になると定石を外せるミヤビが有利みたいだ。


 俺は腹を立てて、ミヤビにチンチロリンで勝負に挑んだが、負けたら脱ぐルールでマッパにされてしまった。


 くそう、今度は麻雀牌を作るか。


 ヨリも強いらしいのだが、


「ユウキさんと差し向かいなんて」


 と可愛く拒否されてしまった。

 まあ、俺も集中できそうもないから仕方がない。


「ところで、カリモシが湿地帯を越えたらしいぞ」

「何故、戻ってこないんだ?」

「それが、泥炭地がわからないから、先まで行ってるらしい。メープル村にも興味があるのだろう」


 確かに泥炭を知っているのは、熊さんを除けばチカコぐらいだな。


「よし、明日にでも見に行くか」

「小麦の刈り入れにまでには帰りたいのだが」(コラノ)

「イケメンに長男と次男を借りるさ」

「鹿モドキをか」


 タルト村の男連中は、あんまりイケメンを信用してない。

 まあ、獲物だったのだから仕方がないか。


 翌日、鹿モドキ用改造馬車2頭立て(縦並び)に食糧を満載して、ログハウス前に集まったコラノと父ジャケとラシと合流して出発した。


 隅田川は渇水期で、簡単に渡れた。


 簡易舗装道路は快適で、カリモシは草地にもきちんとローラーをかけていた。

 この星の草は燃えないように内部に二酸化炭素の気泡があり、栄養はあるが、すかすかという変なものである。

 その代わり発泡スチロールのような保温性がある。

 手触りも見た目より軽く感じるのだ。

 繊維質が弱くて、麻みたいな草は見つかっていない。

 牧草にはなるが、沢山必要になる。

 ワラの方が、しっかりしている感じだ。


 まあ、お陰で良く潰れていて道路がわかりやすい。


 イケメンの長男と次男は、何も言わずとも走っている。ついて行けないぐらいだ。

 親父3人組も持久力があり、かなり速い。

 でかい俺は、エネルギー効率が悪いのだろう。

 長距離走は不利なのかも知れない。


 こまめに水分を補給したのは俺だけだった。


 昼過ぎにラーマの愛情がたっぷりとこもったサンドイッチを泣く泣く親父たちにも配り、イケメンの息子たちに水とトウモロコシを与えると、やっと休みが取れた。

 3時間で40キロ近い。


 フルマラソンか!


「この道路って、こんなに凄いとは思わなかった」

「部族なら急いでも2日はかかる」

「森があるから、ここまでは来れないかも知れない」

「戦士だけで2日だな」

「それぐらいか」


 親父たちが感想を述べてくれるが、俺は少し休憩だ。

 コラノとラシは同じ部族だったから、大体の感覚は合っているだろう。

 1日20キロと言うのは、森を抜けるのだから仕方がない。

 警戒したり、獲物の気配を探したりなら、もっと時間がかかるだろう。


 午後は少しペースダウンした。

 イケメンの息子たちも気負いすぎていたのだろう。

 元々長距離ランナーではないのだ。

 身体がでかい分、疲労もでかい。

 普通に歩く速度で4時間、22キロって所まできた。

 しかし、そのペース方が、色々と見つけることが出来て良かった。


 特に、水である。

 コラノが2箇所、ラシが1箇所、父ジャケの記憶が確かなら、道路から離れたところに2箇所ほどあるという。

 一応、オペレッタに記録しておいてもらう。

 他にもブドウとモモは見つけた。

 やはり、丘があるところが良いみたいだ。

 水も平坦な場所には、あまりないようだ。


 そう言えば、今年のブドウ狩りはタルト村に任せた。

 宿舎の建築工事で忙しかったからだ。

 タマウ族を引き連れていき、3日間もブドウ祭りをしたらしい。

 桶と石で絞ったワインとブドウジュースを何十樽ももらった。

 勿論、ブドウも毎日子供たちの食事を彩ってくれた。

 タマウの女たちは、もう狩猟民族には戻らないだろう。

 ワインが出来れば、男たちも戻らないかも知れない。


 夕食は、ハムステーキに、サラサが焼いたパンと温めた豆乳である。

 鹿モドキは、キャベツとサツマイモだ。

 食後にワインを温めてやると、親父たちは喜んで飲んで寝てしまった。

 朝が早いのは、部族時代と一緒のようだ。


 翌日の昼にはタキとシャワーを浴びた駐屯地に着いた。

 道路は続いているが、カリモシたちの姿は見えない。

 昼食後、そこから先を見に行った。

 草原、林、橋、森と抜けていくが、道路が続いていくだけで、カリモシは更に先に行っている。


 泥炭地の説明を後回しにして、追いかけることにした。


 タマウと会談した場所から、チカコが襲われた場所まで行っても道路が続いていて、カリモシに追いつかない。


「どうやら、本気でメープル村を目指しているようだな」

「年のくせに、張り切りすぎだ」


 コラノは非難するような言い方をするが、嬉しいのが丸わかりだ。

 ツンデレめ。


「しかし、材料が持たないだろう」

「ラシの言う通りだ。樹脂の消費量は上がっていないぞ」

「調達できるところを見つけたのかも知れない」


 コラノの意見は納得できる。

 舗装が、手抜きどころか良くなってさえいるのだ。

 結局、俺の記憶にある水の補給地でカリモシを見つけた。

 カリモシは分業体制を採っていたのだ。樹脂班と薪割り班、道路整備班か。

 カカに嗾されなければ、凄い族長だったのだろう。

 一時の欲が、裏目に出たのかも知れない。


 その夜は、カリモシたちにご馳走を作り、ワインを好きなだけ飲ませた。

 どうも道路造りが気に入ったようで、肝心のメープル村の村長のことを忘れてしまったかのようだった。


 だが、カリモシはこの世界ではもう年寄りに近いのだ。

 調子に乗らせると良くない。

 じっくりと腰を据えてもらった方がいいだろう。

 翌朝、メープル山まで道路が出来たら必ず連絡するよう念を押して、俺たちは泥炭地に戻った。


 泥炭をコラノたちに試してもらいながら、俺は泥炭村の開発を考えていた。

 やはり湿地帯は農業には向いていない。

 村を作るなら、駐屯地に戻るべきだろう。

 あそこの小川を利用して貯水池を作り、草原を開発して農地にする。


 一方で、泥炭を掘り、乾燥させて商品化する。


 商品化は儲けるためではなく、品質を保証するためだ。

 品質を劣化させても、買い手は買い続けるしかない独占市場になってしまうから、一定の品質は保たなければならない。

 炭があるからある程度は大丈夫だと思うが、炭自体は高級品である。

 安く手軽な泥炭があれば、風呂が一般化する可能性がある。

 一番の買い手は今のところ迎賓館だろう。

 あそこの風呂は泥炭で、かなり維持が楽になるはずである。

 きっと、タルトは直ぐに村に風呂を作るだろう。

 内風呂を作るかも知れない。

 農民には風呂が必要である。

 俺たちは駐屯地に戻り、新たな村の縄張りをして領地に戻った。



 秋の収穫を終えた。

 タルト村は、小麦60石、大豆20石、ジャガイモ20石が税の対象となり、更に猪1頭に鶏30羽が一緒に納められた。

 多分、来年は2倍以上になるだろう。

 ユウキ領では小麦が200石、大豆が50石、赤米40石にササニシキが5石収獲できた。

 芋や野菜類や胡麻とヒマワリ、トウモロコシなどは2毛作3毛作となり計量することも出来なくなっていた。


 ササニシキは流石に優良品種で、収穫量が1反当たり赤米の1・3倍になり、来年は2期作可能と八さんのお墨付きをもらった。

 また、赤米の中にササニシキとのハイブリッドが自然発生し、八さんすら唸らせた。


 俺はアカニシキと、まんまの名前をつけてミヤビに笑われ、チカコには『バカニシキ』と揶揄されたが、全然気にならなかった。

 早速試食し、特に卵掛けご飯がもの凄く美味くなるので、ドンブリ5杯を平らげてラーマに呆れられた。

 チカコもラーマに進められると断れなかったのか、ドンブリ2杯も食べて、逃げていった。


 アキとサクラコは、メープルが入って来ると余っている小豆を利用して、お汁粉、おはぎ、あんパン、金鍔、硬めの羊羹らしきものを作り出した。

 時々お赤飯も作っているらしいが、サクラコは『内緒です』と赤くなって教えてくれなかった。

 赤米は、餅米にはならないのだが。

 ラーマ隊は、二人に料理を教わりに行くようになっている。


 夕方まで、冬小麦用の土いじりをしていると、時々ヨリがミサコを連れて来ては置いていってしまう。

 リハビリを始めたので帰りは俺が連れて帰るが、セルターはいつもいなかった。

 何度かヨリに尋ねたが、キスするだけで教えてくれなかった。

 だが、ミサコの両脚は少しずつ力を取り戻していくのが実感できた。

 段々遠回りするようにもなった。


 そんな謎はともかく、第2の村はカリモシが村長となり、タマウの元戦士や見習いと、タキ、レン、ラーマがそれぞれ推薦する侍女一人ずつと迎賓館の侍女二人を連れて行き、メープルと畑作りに頑張ってくれている。

 父ジャケが弟子の一人を大工として派遣してくれたから、家や調理場も大丈夫だった。


 問題は第3の村である泥炭の方だ。


 実は、先日、パルタがスルトを連れて現れた。

 モリト族を抜けて、30人もの部族を引き連れて来たのだ。

 これで泥炭を任せられると思ったのだが、タルトが反対した。


「パルタは一年間、俺のところで修行させる」


 人事権は俺にあっても、タルトがそう言うのであれば、その方が良いことなのだろう。

 俺の希望は潰えた。

 俺はタルトの言いなりに侍女だけを補充し、泥炭村の開発は棚上げ状態にしていた。


「ああ、いっそのことキン、ギン、ドウの3人で村長をやるか」

「領主様は何かあると」

「いつも私たちに」

「扱いがひどい」


 ミヤビが紅茶を飲みながら笑っている。

 宿舎では、紅茶は週に一回しか飲めないので、時々抜け出してユウキ邸の食堂に飲みに来る。

 今は朝食後だ、武士の情けで黙っていてやっている。


「しかし、タルト村の小作も全員開発にまわり、自作を目指しています。新たな村に開発に行かせるのはどうかと思いますが」


 タキがもっともな意見を言う。

 レンも賛成みたいだ。


「農業経験者の数が足りないなあ。女ばかりだ」

「村を作らず、泥炭だけ掘るわけにはいかないのですか」

「ある程度は食料を生産できないと、供給過剰になったときに生活できなくなるんだ。狩猟民に戻ってしまうかも知れない」

「ユウキさんが行って畑を作ってしまえばいいんじゃないですか。後の作業は女だけでもできるでしょう」

「今度はハインナもお供しますぅ」


 ハインナが抱きついて来て、真面目な話が台無しになる。

 キン、ギン、ドウの3人も、その手があったかと悔しがっている。


「開発した土地は、開発した者のものなんだ。それが第1のルールだから、領主が率先して開発すると手伝いばかり作ることになって、農奴制度に発展してしまうんだよ。手伝うのは1石というルールも女たちだから何とかなってるが、男たちが小作のままだと上手くないんだ」

「年賦払いは」

「物々交換をこれから発展させていくのに、貨幣経済は拙いよ。先物も駄目」

「難しいんですね」

「ああ、自作農と特産品に物々交換。これだけで世界を築こうとしてるんだからな」


「ここの特産品は女ですね」


「こら、ミヤビ。彼女たちは侍女だ。知識を持って嫁ぎ先をみつけるんだよ」

「でも、自作農や村長には、なれないんでしょう?」

「ああ、今のところ女の安全は確保できない。部族ではなく村が守るようにしないと」

「でも、いずれは寡婦とか跡継ぎとかで、所有権が曖昧になってきますよ。村長は民主的に決められても、畑の跡継ぎは民主的には決められないでしょう」

「やはり長子相続か」

「貴族制度の第一歩ですね」

「村営か国営か」

「封建制度の始まりですか。国営なら帝国が出来ますね。国民は全員農奴と同じです」

「物々交換なら、食える以上ため込まないだろう?」

「どうでしょう。食べられる以上の妻を持っている人もいますし」


「今日はやけに絡むね。ミヤビくん」


「そりゃそうよ。毎日ミサコとデートして、第2夫人に決定? 次は第3夫人?」

「デートではない、リハビリだ」

「デートよ!」

「ヨリが連れてくるんだぞ」

「ええ、キスするためにね」

「なっ!」


 部屋の空気が一変したかのようだった。


「私も毎日キスしてますぅ」


 空気の読めないハインナの声だけが流れた。

 キン、ギン、ドウの目が光る。

 いや、俺は彼女たちにキスはしていない。

 してないと思う。してないことを祈る。

 朝に寝ぼけて誰かもわからずにしていることはあるが、俺的にはノーカウントである。


 ミヤビが頭をかきむしる。


「お前、変だぞ」

「ええ、このところ毎日毎日、あれがない、これがないって言われ続けて、おかしくもなりますよ」

「外出てないんじゃないか」

「外には出られないでしょ」

「日差しを浴びたり、散歩したりだよ」

「そんな時間が取れません。生活必需品って言われ続けて」


 また、頭をかきむしる。


「お前、キャビンフィーバーみたいだぞ」

「異常に頭がかゆくなるんです。ワラの寝床のせいかも」


「私、それ知ってます」


 キッチンからラーマが現れた。

 ミヤビの頭をを覗き込む。

 髪をかき分けると、ため息をついた。


「頭の血を吸う虫がわいてます。凄くかゆくなりますよ。しかも人に感染うつります」

「きゃわー、ユウキさん、取って取って取って」

「落ち着け! それよりラーマ、ここではどうやって治すんだ」


 騒ぐミヤビを抱きしめて黙らせる。


「髪を出来るだけ短くします。それで産み付けられた卵が大体はいなくなります。それから泥を塗り付けると二晩ぐらいでいなくなります」

「予防は? ワラが駄目なのか」

「いいえ、ワラとか草ではありません。普通は人から人へ感染ります。毛皮にいるのではと思われていますが、良くわかりません。でも、祈祷師が毛皮を水で流しますと、減ることはあるみたいです。古い毛皮では起きません」


 地球で言うところのケジラミの仲間だな。

 頭髪に感染るんだっけなあ。

 性感染症みたいに言われてたけど。


 ああ、ここの人は下の毛がないもんな。

 何故だかわからないが。


 中学の時、悪友たちと未開地の映像を見たのだが、裸族というのは毛が生えてない。

 いや、俺は興味などなくて、文化人類学の重要な資料だからと言われて見ただけだから絶対とは言えないが、見た印象ではそうだった。


 ここではその通りだからあまり気にしてなかったが。

 まあ、大人と判断する材料が少なくなったのは確かだ。


「全員、丸坊主だな」


 俺が言うと、赤くなっていたミヤビは腕の中で震えた。



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