42 浜辺の二美神
42 浜辺の二美神
本部のテントは屋根だけ筵で、壁はない。
左右に2つずつ同じようなテントを作り、屋根だけでなく正面以外の3面に筵で日よけ風よけを作った。
去年使った『すだれ』は、八さんの芸術作品だから量産できなかった。
筵は見習いたちの習作である。
柱は3寸4本で屋根も四角く梁を渡してあるから、少しぐらいの風なら十分に耐えられる。
シートも敷いてあるから床も大丈夫だ。
本部にはソーラーバッテリーから供給される電気により、監視モニターが3つある。
電気の半分は、冷却用の保存庫に回されている。
調理器具まで設置され、コンロは3つ作った。
燃料は炭が積まれている。
海の中は、400m四方に監視および電撃センサーを設置し、安全も確認済みである。
生鮮食料品は、熊さんが朝に届けてくれる。
侍女見習いは、先日革が揃ったので、レンが口頭試問をして、合格者は全員見習いの肩書きが取れた。
勿論、36名全員合格である。
ズルイ戦から4ヶ月以上、頑張った結果である。
キン、ギン、ドウの3人は先に合格している。
俺の心が、もたないと判断したからだ。
当然、スカートを穿くようになったが、なまめかしさは増したような気がする。
しかし、昨日の俺の試験に合格したのは13名だった。
タキ、レン、ラーマ、キン、ギン、ドウの6人も不合格とした。
タキが一番怪しいボーダーラインにいたのだが、大事を取って不合格とした。
人員構成の大体が、カリモシ族やズルイ族は北の部族である。
去年みたいに念入りに日焼け止めクリームを塗れないなら、海水浴には向かないだろう。
「横暴です」
「私たちのいないところで何をするつもりでございますか」
「ご主人様、寂しいです」
「私は大丈夫ですから」(キン)
「私も大丈夫ですから」(ギン)
「私だけいいよね」(ドウ)
などという意見もあったが、リーナさん印の日焼け止めがないので却下した。
勿論、リーナさんも『子供の世話なんてごめんだわ』の一言で不参加。
日焼けで真っ黒になっているリリが参加したそうだったが、今回は女神様の学校行事と言うことで諦めてもらった。
カズネやアンも当然落選だ。
今日の俺の補佐は、ラーマの侍女のカリス、サラス、トリスの3人で、ほか10名の混成部隊は3人の部下とした。
「私がいるから大丈夫ですぅ」
胸を張ったのは、ハインナだった。
確かに、日焼けで苦しむことはないだろう。
居残り組はいきり立ったが、
「ユウキさんの好みは、北方系の白い肌なんですね」
と、ヨリが羨ましそうに言うと、全員が納得して留守番になった。
ヨリは日焼けするタイプだったので、連日の警備と訓練で小麦色である。
いや、小麦色の肌もそれはそれで、などという事は、頭では考えていても、口が裂けても漏らさないぞ。
それにしても、今日は風もなく、雲もなく、気温は予想で33度ぐらいになる。
日の出がまぶしい。
ここの暦では8月1日である。
俺の体感時間では、来月には大学生になるはずだから、季節は丁度反対だ。
地球にいれば、きっと、彼女の一人ぐらいいて、大学生活をどうやって彼女との時間に割り振るか、などと幸せなひとときを過ごしていたに違いない。
ひょっとしたら、大学が同じで同棲生活の準備をしているとか? 高校卒業前に、あっちを卒業とか?
俺がだらしのない顔で妄想していると、ハインツが、いや、ハインナが来て、えへへへとくっついて来る。
何故かハインナはそっち方面には敏感である。
オペレッタが、俺の心を読んで教えてる可能性もあるが。
毎日構ってキスしないといけないルールなので、最近はべったりである。
意外と有能なので、そばにいると助かるのだが、侍女たちの出番がなくなる弊害もある。
日焼け前のヨリを小さくしたような感じは、ヨリ以外にはまだばれていない。
ヨリは寛大な心の持ち主だから何にも言わない。
そうか、高校の3年間、彼女が出来なくて、祖父さんの遺産を使って、美形のアンドロイドと過ごしていることもあり得るのか。
女の子なんて、一人も仲良くしたことないしなあ。
寂しくて、つい、なんてことになっているかも知れない。
でも、それだとリーナさんしかいないんだろうな。
態々他のアンドロイドを買ってくることないんだし。
毎晩、『ユウキ実験よ』とか言いながら、電気を流される姿を想像をして、ブルリと震える。
「ユウキ様ぁ、今日の分をあのその……」
ボーイの姿で恥じらうハインナは可愛い。
しかし、最近ハインナとキスしてると頭のどこかがちりちりするのだ。
それが、タキの笑顔になったり、レンの怒った顔になったり、ラーマの泣き顔になったりする。
時々、ヨリの穏やかな安心感だったり、ミヤビの好奇心溢れる顔だったり、チカコが怒鳴る姿だったりもするのだが、何故なのだろうか。
アンドロイドの愛は本物ではないと、どこかで感じるのだろうか。
「ハインナ、俺のことが好きか」
「そんなこと、急に言われても恥ずかしいですぅ」
「愛してるか」
「それは、そのですね。いつもキスしたいと思うのは愛なのですか?」
「まあ、普通はそうだな」
「なら、私、愛してますぅ」
「そうか」
「もぉう、その目は信じていません」
「だって、アンドロイドだろ」
「アンドロイドは愛してはいけないんですか!」
「いやさあ、ちょっとプログラムをいじったり、電気信号を変えれば、直ぐに気持ちが変わってしまうと思うとな」
「そんなの、人間だって同じですぅ! 頭に電気を流して、記憶を変えたり忘れさせてしまえるじゃないですかぁ!」
「おい、何怒ってるんだよ」
「この今の気持ちはプログラムじゃありません! 私が本当だと感じているのですから、本物なんですぅ!」
ばかー、とか言いながら走って行ってしまった。
「ユーキ、今のは駄目」
「そうかな」
「プログラムでするのと、したいと思ってするのは少しだけ違う」
「そうなの」
「そう。くっつけとプログラムしても、相手のことを思うと、思いやりがあるくっつき方になる。迷惑でないかと配慮したりする。それはアンドロイドも人間も変わらない。そこがロボットと異なる部分」
そうなのか。
「体験したことや感じたことは、ハインナだけのもの。優しくされたら嬉しいのは、人間と同じ」
「うん、確かに意地悪すると後味が悪い」
「生殖行動以外の愛情も覚えるべき」
「まるで、欲望丸出しみたいじゃないか」
「丸出し。生殖順位をつけている」
「うっ」
「否定できない」
「ううっ」
「愛を出し惜しみ」
「ち、違うもん」
「じゃあ、一人しか選ばない?」
「むうっ」
「ラーマにして、タキはお嫁に出す?」
「むうううっ」
「レンもお嫁に出す?」
「もふえっ」
「ヨリも」
「もうやめてオペレッタ!」
心がへし折れる。
「甲斐性があるなら、ハインナにも優しくすべき」
甲斐性無しですみません。
俺はハインナを探しに行き、ちゃんと謝って許してもらってから今日の分のキスをした。
驚いたことに涙の味がした。
一晩かけて作った氷を、ひとつはクラッシュアイスにし、ひとつは、ミヤビ設計のかき氷機用に切り分け、ひとつは予備にする。
残り二つもいらなかったかと思っていたら、食材を引いてきた熊さんが持って行ってしまった。
いったい、何に使うんだろう。
考えてもわからないので忘れることにした。
とりあえず、今日の俺の仕事の大半は、午前中までに終わる。
今日は臨海学校なのである。
朝のサンドイッチを食べ終われば出発なので、約15キロの湘南まで来る頃には10時にはなっているだろう。
軽く水泳教室をして、お昼にはお弁当の梅モドキおにぎりと、俺が作る鮭ラーメンである。
去年の海水浴の様子を聞いたカオルコが決めてしまったのだ。
当然、味噌ソース焼きそばは却下された。
美味いのに!
野菜と鶏ガラで作った出汁は出来ており、後は醤油で味をつけたスープにするだけだ。
麺は、昨夜手動のパスタマシンで作った麺の固まりを、ハインナが一人前ずつ取り分けて、両手で握って縮れ麺に近くしている。
木箱に並べると、ラーメン屋さんの感覚が味わえる。
メインの塩鮭は、保冷庫に入れてたとはいえ夏まで保つぐらいだから塩気が強いので、いったん塩抜きしてから火で炙る。
干した分も戻って柔らかくなるので、鮭好きにはたまらないのだろう。
ネギは、まだ試験栽培が始まっていないので無い。
喉にいいとか風邪に効くとかいうので考えてはいるのだが、手が回らない。
そのかわり、タルト村で作った『メンマ』がある。
タケノコは成長が早く採るのも大変だが、美味いし、皮は食べ物を包むのにも使えるので、タルト村長は大喜びだった。
「ユウキ様ぁ」
「うん、チュ」
ハインナとは仲直りの印に、1箱麺が出来たら(30食)一度の軽いキスで手を打ってもらった。
手打ちは普通、麺だから良いのだろう。
「きゃー、朝からキスしてます」
「カリス」
「違います、サラスです」
「私がカリスです」
「どっちでも同じだ。騒ぐな」
「扱いがひどいです」
「仕事中なんだ」
「キスも仕事ですか」
「お前はトリスだな」
「当たりました」
いや、消去法だぞ。
「とにかく、清潔にして飲み物の準備を始めてくれ。いきなり130人分は大変だぞ」
「はーい」
まあ、ラーマの侍女だから仕事は出来るのだ。
だが、変だぞ。今日の先頭はヨリのはずだ。
念のために、レーザーライフルを渡したのだから間違いない。
そう思って眺めると、ヨリはもう海沿いの確認をしていた。
きっと、ハインナとのキスを見て、黙って通り過ぎていったのだ。
ああ、あの明るい笑顔が何だか怖い。
やがて、ぞろぞろと小学生の集団が来て、カオルコとセルターの諸注意を聞いて、各テントに分かれていった。
暫くすると、小学校4年、5年、6年生の集団120人が現れ、背中を向けた中1のお姉さんたちの前に並んだ。
全員、初日に見た透けるパンツ一枚だった。
重ねると見えないとかチカコが言ってたような気がするのだが、一枚でどうしようって言うのか。
全員で準備体操を始めると、それはマニアに売るだけで、俺の祖父さんの財産をしのぐのではないかと思わせるような光景になった。
「ユウキ様ぁ」
「うん、チュ」
しまった! 小学生全員がこちらを向いていたのだ。
さざ波のような衝撃が集団を駆け抜けていく。
蒼くなって目を背けると、監視モニターの前に裸、いやスケルトンパンツ一枚のカナとリンが座って俺を見つめていた。
三つの混乱を同時に引き受けた俺の脳の判断は、ヨリにレーザーで撃たれれば楽になるという、実に明確なものだった。
鮭ラーメン130人前を作り終えるまで、俺の脳はラーメン作りに必要のない部分が機能停止したままだった。
カリスだかサラスだかは、笑顔で子供たちにラーメンを配っていた。
トリスはおにぎりだ。
部下たちも飲み物を配ったり、鮭を焼いたりしている。
ハインナはご機嫌でラーメン作りを手伝っていたから、別に変なことはなかったのだろう。
「この、ドールマニア。そんな趣味なら私は安全ね」
チカコが、そんな台詞を浴びせていった記憶があるが、気のせいだろう。
チカコが、スケルトンパンツ一枚で俺の前に来るわけがない。
ドールというのは性に特化したアンドロイドの別称だか蔑称だかだろうが、俺の時代より遥かに進んだ時代では、同性愛よりも社会問題になり、やがて娼婦を超高級以外残して駆逐すると当たり前の時代になり、特化したものより汎用のものが普通に存在するようになると、特化型は廃れていったそうである。
「人口抑制のため、アンドロイドとの結婚を認めた国もあるそうよ。遅いぐらいだわ」
リーナさんが仕入れた知識を聞かせてくれた。
「まだ、子供を産めた前例はないそうよ」
リーナさんの拘りはそっちか。
「その、女性用というのはなかったの?」
「あるでしょうね。でも、ボディガードとかの方が需要が高いから、兼用にしてしまえば、あまり表に出ないんじゃない。私たちの時代でもモード切替型があったし」
八さんがそうだ。
データ量が大きすぎるので、両方は処理しきれないからモード切替をつけたんだ。
「その意味では、ハインナは作られて30年ぐらいだから、八さんの10倍ぐらいの処理能力を持っているわ。量産型が特化型よりも優れていった証拠ね」
そう言われると、ハインナは八さんみたいに入力待ちみたいな行動を取らない。
専門外の会話でもNPCみたいにならないのだ。
「お前、結構凄かったんだな」
「嬉しいですぅ」
それでも人間よりは単純に見えるから、60年前のリーナさんとオペレッタがどれだけ凄かったのかという事になる。
本人たちは人間より上だと言うから、そうなのだろう。
さて、監視所を兼ねている本部テントは10人委員会のお偉いさんの溜まり場になってきて、居心地も悪くなってきた。
逃げだそうと思うのだが、逃げる場所がない。
悩んでいると、熊さんが大きな氷を担いでやって来た。
砂浜の方にそっと氷を立てる。
「うおっ」
氷で出来たラーマだった。
微笑んでハマグリを持っている。
貝の審判がモチーフだ。美しく懐かしい。
「凄い」
「綺麗」
小学生たちが絶賛している。
そう言えば、熊さんは最初からラーマ派だったな。
領地に入れることを確信してたみたいだ。
ロボットなりの好意なのだろうか。
オペレッタが言ってた、生殖行動以外の愛情というやつかも知れない。
確かに、熊さんにはラーマに好意を持つようなプログラムは書かれていないだろう。
でも、好意は存在するのだ。
やがて、熊さんはもう一つ持って来て、ラーマ像に並ぶように氷の彫像を置いた。
モチーフ、いや、モデルはヨリだった。
こちらも凄く良い出来で、ライフルを肩にかけたヨリが指揮している姿だった。
海を背景に、二人の美しい女神が並んでいるかのようだった。
全員が、題するなら『浜辺の二美神』にコメントせず、静かに眺めていた。
30分で氷は溶け、判別できなくなったが、ここにいる全員の心に刻まれたことだろう。
午後は、自由時間のようで、ビーチボールやゴムボートを貸し出した。
ゴムボートは引率が必ず一人いることと、条件をつけた。
冷やしたスイカと飲み物、かき氷はカリスたちと部下たちが担当しているので、俺はカオルコに言って休憩をもらった。
本部内にはヨリがいないので、一番大きいのはミヤビだった。
2番目はカナかサクラか、その次はミサコだろうな、などと勝手に考える頭は、徹夜で疲れているのだろう。
「ハインナ、暫く休憩する。優秀なお前にここを任せるぞ」
「はい、嬉しいですぅ」
まあ、今日はご機嫌だから大丈夫だろう。
俺は6段目に近い木陰で仮眠を取ることにした。
枕がないので寝にくかったが、途中からぐっすりと寝てしまったようだ。
気持ちよく寝返りを打つと、世界は柔らかく温かく、いい匂いまでした。
ずっとこのまま目がさめなくても良いなとか思ったが、3時を過ぎたら子供たちは帰りの道を歩かなくてはならないのだと思うと、俺だけ寝ているわけにはいかないのだろう。
やがて、俺の髪を優しく撫でる手が現れた。
レンもラーマもいないはずだし、タキは膝枕してくれたっけ、などと考えながら柔らかい世界を更に堪能していた。
いや、タキもいないはずだし、キン、ギン、ドウの3人もいないのだ。
恐る恐る目を開けると、右下には黒く淡いものが見えた。
何だろう。柔らかくて良い匂いがする。
左上を見て冷や汗が出た。
褐色の巨乳しか世界が見えない。
いや、世界はあるのだろうが覆い隠しているのだ。
「ユウキさん、そのまま動かずに聞いて下さい」
動かずにって、顔をヨリの股間に埋めているようなんですが、良いのでしょうか。
「自分たちは中1ですが、実際は高1として転校の途中だったのです。4年5年6年も、中1から中3としての飛び級が認められたものだけです。そして、ブルーホエールの学校は全寮制の女子校です。こうして男の人と顔を合わせる機会はなかったでしょう」
ヨリは軽く息を吐いた。
こんな運命を呪っているのだろうか。
「地球風に言うなら、自分は15になれば高3の教育と特務士官としての訓練が行われ、卒業式の前には准尉として任地に赴き、転任しながら士官としてキャリアを積み、少尉を2年、中尉を6年ほど経験し、大尉になって、25歳ぐらいで初めてプライベートな時間を与えられて、多分親たちの言いなりで誰かと結婚することになるはずでした」
軍のエリートとはそんなにも早くから人生を決められてしまうのか。
いや、警備隊か。
国家になれば軍なんだろうな。
「親や祖父の期待もあるし、自分にも異存はありません。けれども、結婚相手は自分で決めたくなりました。ユウキさん、私が25になったら結婚して下さい」
覗くと、ヨリの瞳が揺らめいている。
緊張しているのだ。
答えが、いや質問すら、俺などにはまねできない度胸だが、ヨリの少女の部分が今むき出しの感情におののいているようだ。
そして、その少女の部分がたまらなく愛おしいのである。
「しかし、そんな先の話、今から決めることないんじゃないか」
「いいえ、自分には今しかありません」
ヨリは少し身体をずらし、俺の頭の位置も変えた。
いつも俺に安心感を与えてくれる優しい笑顔が現れた。
もう、心を決めたのだろう。
本当に凄い娘である。
「自分には第1夫人という野望はありません。我が儘を言って待ってもらう事だけが望みです。でも、夫はユウキさんにという判断は間違いないと思います。こんな出会いは自分の人生にはあり得ません。ですから、お答え下さい。ヨリも妻にして頂けますか」
「25歳か、長いなあ」
「ええ、とても長いと思います。しかし、それだけの価値もあると思います」
「うん、そうだね。待つよ。いや、待つというのも変かな」
「そうですよ。独り身で待つのは自分だけですから。ユウキさんにはラーマさんのほかに何人も妻がいるんですから、忘れられてしまうかも知れません」
「忘れてたら、そのレーザーで撃ってくれても構わないよ」
「ユウキさん」
ヨリは俺の頭を抱いてのしかかり、初めてのキスをした。
俺はラーマ、タキ、レンとの結婚を決意してから、一番重たく感じる問題を解決した。
いや、解決してもらった。
俺の罪悪感や焦燥感の原因のすべては、ヨリを好きになったことだった。
ラーマやタキやレンを愛しているのに、ヨリも頭から離れないのだ。
何のことはない、自分が頭の中で第1夫人ごっこをしていたのだ。
罪悪感が生まれるわけである。
そして、心のどこかにあった『地球の女性に』愛されることは無いのだろうかという、怯えも消え去った。
リーナさんやラーマたちは、とても良くしてくれているが、母親を代表とする地球人の女性に愛された経験がないのである。
その後、臨海学校は無事に終了し、生徒と引率は侍女たちと共に帰って行った。
残ったのは俺とハインナと熊さんだけだった。
「まったく、ヨリに解決してもらうなんて」
「ユーキ、へたれ確定」
「別に良いだろ」
「開き直るのね」
「ヨリは偉大」
「本当。ユウキにはもったいない娘よ」
「25までにいい男が見つかる」
「おい!」
「先にユウキをレーザーで撃っておけばいいのよ」
「ヨリはそんなことしないぞ」
「あら、のろけ?」
「ユーキ、のろけ」
俺は砂浜に走って行き、太平洋に向かって叫んだ。
「ヨリー、お前を愛してるぞー」
「自分も、です」
「ごちそうさま」
あれ。
「くくく。ヨリとカオルコは、今ヘルメットを被っているのよ」
「ユーキ、格好つけすぎて馬鹿」
俺はひどく恥ずかしい思いをした。
その後、暫くヨリの顔を見れなかった。
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