40 領地見学会
40 領地見学会
冬小麦の収穫はもうすぐなので、全員でこれを刈り取るのだと説明すると、大半の子供は無理だと思ったようだ。
機械化された農業しか見たこと無いのは仕方がないが、脱穀し、ワラを布団にしたり帽子や雨合羽、草鞋にするのだと説明すると、自分たちがとんでもない世界で生活しなければならないことを実感し始めたようである。
まあ、領主館19人、タマウから60人弱、迎賓館の20人を合わせれば200人を超えるので、絶望する必要は無いのだ。
八さんと熊さんなら、直ぐに刈り取ってしまうし。
あまり苛めるのも拙いので、ハウスに連れて行き、新鮮なトマトとキュウリとイチゴを好きなだけ食べさせた。
ヘチマのたわしは、半数が絶対に使わないと顔に出していたが、農作業するようになれば自然と使うようになるので黙っていた。
痛そうにしていたタキでさえ、今ではへたばったヘチマたわしより新品を使いたがるのだ。
その後、3段目に移動した。
まずは家畜である。
鶏は白くなく、黒や茶なので違和感があるようだったが、既に肉や卵を食べているので納得するしか無かったようだ。
1年前の野生に近い頃から比べれば、随分と食用らしい品種に見えるのだがなあ。
猪は、雄を野生種で追加しているので、雌の大きさに驚いているようだった。
雄は120キロ程度だが、エサを毎日たっぷり食べられる雌たちは300キロはある。
ここで生まれた子供たちも最初から大きい。
ニオイも野生種に比べれば随分とマシなのだが、こればかりは慣れてもらうしかない。
家畜担当のチカコは平気なようだ。
八さんの説明を黙って聞いている。
うるさいのでは無く、やはり男が駄目なのか。
熊さんからリヤカーを受け取り、警戒を任せると、タキとラーマと見習いたちを連れて池の畔へ向かった。
レンとカオルコが先導して、トウモロコシ畑や水田をまわってくることになっている。
その間に、昼食を作っておくのだ。
鮭バーガーのハンバーグの部分を焼いてもらい、パンも切って軽く炙ってもらう。
俺はコーン油でポテトフライを作る。
ジャガイモの皮は芽の部分以外はいい加減に剥いて、適当に切って油で揚げる。
ザルに入れ軽く塩を振るだけだ。
難しくはないが面倒ではある。
トマトソースは香辛料がないので少し酸っぱいが、メープルが手に入るようになればケチャップに近い味が再現できると思う。
チリとかサルサも欲しいのだが。
まあ、塩だけでも十分美味いから、適当に使ってもらおう。
レタスはデフォルトではさんであるが、タマネギのスライスは好き嫌いがあるので、好みにしておく。
自分たちでのせて食べさせるのだ。
マヨネーズもビンに入れてあり、スプーンですくえるようにしてある。
やがて見学を終えた子供たちが集まり始め、カオルコの指示で順番にバーガー、豆乳、ポテトフライを持って湖畔に腰を落ち着ける。
10人前後のグループごとに車座になっておしゃべりしながらの昼食となった。
最後に幹部たちが集まると、警備班の連中を呼んで食事にさせた。
タキとラーマと見習いたちは暫くおかわりに対応してもらう。
俺はヨリたち警備班の輪に加わった。
最近、ヨリ成分が足りないからだ。
補えるときに補っておきたい。
「池と言うよりは湖という感じですね。鴨やサギもいて、何だか凄く平和そうです」
「ここ1年ぐらいで集まってきたんだ。水草とかはどうやら鳥に運ばれて来るらしい」
「鷹を見かけましたが、襲っては来ないのですか」
「下の段に住み着いているウサギの方が魅力的のようだ。年に鶏が1羽程度の被害しかないよ。八さんが言うには繁殖期の母鳥だから、鶏の1羽ぐらいは大目に見てやろうと言うことだけど」
「確かにお供え物としては少ないぐらいです。父の従兄弟が農家をしていますが、ウサギやネズミの被害は猛禽類とは比較にならないそうです。狼や鷹は守り神みたいなものだそうですよ」
そうか、確かに猛獣ばかり警戒していたが、そう言う被害は地球では何度か聞いたことがあった。
ネズミか雀かイナゴがやっかいだと言ってたっけ。
そこへラーマがおかわりを沢山持ってきてくれた。
警備班は身体を張っているせいか良く食べる。
しかも成長期である。
見ていて気持ちがいいくらいだ。
「ああ、ラーマ。正式な紹介がまだだったが、この娘がヨリだ。最初からずっと俺を助けてくれて、本当に助かっているんだ」
「ラーマと申します。いつもご主人様を助けて頂きありがとうございます。とても立派な体格で本当に頼もしいですね。戦士なんかじゃかなわないのが良くわかります」
「こちらこそ、いつもご馳走して頂いてありがとうございます。とても美味しくて、ありがたいです」
「いえ、料理は全部ご主人様に習ったのです……」
どうやら、ヨリとラーマは波長が合うようだった。
身長は40センチも違うが、大人と子供が同居しているような心映えの二人は、何処か似ている感じがする。
「こちらの第1夫人とあちらの第1夫人が」
「向こうも美人だね。手強いかも」
カナとリンが変なことを言い始めた。
「あんまりからかうなよ」
「あら、ユウキ様。ラーマさんは奥さんなんでしょ」
「まあ、俺はそうするつもりだが」
「異星人と結婚していいのか、ですよね」
「一番大きな問題はそこかな」
カナはおかしそうにリンを見る。
「愛していれば関係ないですよ、そんなこと」
「そうかな」
「でも、地球出身の奥さんも必要ですよ。地球での跡継ぎとか問題を解決しないと」
「人種差別があるからか」
「多分、まったく新しい人種差別が起こる可能性もありますよ。ラーマさんが子供を産んでも、人類と認められるのに何十年も争うのは時間の無駄でしょう」
そうなのか。子供が出来れば解決じゃないのか。
「そこで人類の子供を何人か作って誤魔化すのですよ。だから私も第2夫人として子供を産みます」
「ずるいわよカナ。リンも第2夫人として子供が欲しいです」
「私が第2夫人ですよね、ユウキ様」
「リンが第2夫人ですよね、ユウキ様」
「こら、カナ、リン。ユウキ様を困らせるんじゃない」
「あら、第1夫人に怒られました」
「じ、自分は別に第1じゃなくても……」
「そちらでは、第1夫人が偉いのでしょうか」(ラーマ)
「こちらでは違うんですか」(リン)
「そうですね。こちらでは姉妹として協力し合うのが普通です。子育てなんかも一緒に力を合わせないと。子供が育つのが難しい環境だからでしょうか」
「ユウキ様が来てからは変わったんじゃないですか」
「そうですね。タルト村では今年生まれた6人の子供が全員元気に育ってるので喜んでいます。タマウ族の子供たちもミルクや水飴、豆乳で凄く元気になりました。これを聞きつけたら、どの部族の女たちも、ここで子供を育てたいと思うようになると思います」
どうも女だけの話で盛り上がり始めたので、俺は切り上げて、湖畔の周りを調査し始めた。
渡り鳥なんかが、どうやら植物の種を運んで来るらしい。
時々珍しい植物が湖畔に育っていることがある。
八さんが見つけたトウモロコシが典型である。
梅モドキとモモの若木を見つけたが、メープルは木の実がないのか見つからない。
あれは北の方が育ちやすいのだったか。
リンゴとメープルは山か北の寒冷地が適しているのかも知れない。
モモはこの辺でも大丈夫だろう。
ブドウはどうだろうか。
移植して育ててみるか、などと考えていると、チカコがキン、ギン、ドウの3人を引き連れてやって来た。
「何だか珍しい組み合わせだな」
「彼女たちは、あんたの直属の部下なんだって?」
「預かりものだがな」
「領主様、冷たいですよ」
「領主様、連れないですよ」
「領主様、ひどい」
「で、何の用事なんだ」
キン、ギン、ドウの3人は『軽く流されました』などと言いながらショックを受けていた。
「この3人を私の部下にもらうわ」
「何だって?」
「だって、ミサコがあんたにくっつくなと言うし、ヨリコは警備班で忙しいから私を守ってくれる人がいないのよ」
「領内にいれば安全だぞ」
「でも、あんたがいるでしょ。見張れないといつ襲われるかわからないわ」
「それで、3人を部下にするのとどう繋がるんだ?」
「馬鹿ね。この3人が私の代わりに犯されてくれるんじゃない。3人ともあんたならいいと言ってたわ」
キン、ギン、ドウの3人は、赤くなってモジモジしている。
いい加減、見習いたちにもスカートが必要だと思った。
130人もがジャージ姿でいる中で、見習いの18人だけが裸なのはかなり違和感がある。
儀式も終わったのだし、オペレッタもリーナさんも文句は言わないだろう。
早速今夜にでも縫製機で作るか。
「あんたも、こういうおっぱいが好みなんでしょ」
確かに3人のおっぱいは身体のバランスを考えると、かなり立派である。
ヨリはともかく、そうだなミヤビが大きい方か。
サクラコも温和しそうな性格に似合わず大きかったような…… いや、そうじゃないぞ。
「えーと、俺は別に犯したりはしないぞ」
「嘘よ、現地人に3人も妻がいるくせに、ヨリコを犯したでしょ。ミヤビも。ひょとしたらカオルコやミサコも。次は私の番かも知れないじゃない」
近くの小学生たちが仰天している。
おっぱいを見つめたり、隠したり、揉んだりと忙しいが、ジャージを着ているから大丈夫だ。
こら、ジャージの前をはだけるんじゃない。
また、変な噂が流れることだろう。
しかし、さっきまで真面目だったのが、また残念な頭に戻ってしまったらしい。
ランビキの所で見せた、あの頭は何処へ行ったんだ。
こいつの頭は何かに使ってないと駄目なのか。
それとも何かから解放してやるべきなのか。
チカコの腕を掴むと4段目への入り口に引き摺っていった。
チカコが叫んで暴れるが、情け容赦なく連れて行く。
全員の視線が集まってきたが、概ね温かい視線だった。
チカコが変な奴なのはもう知れ渡っているし、俺が暴力を振るう事がないこともみんな知っているのだ。
キン、ギン、ドウの3人も大人しく着いてくる。
レンの視線だけは氷点下だったが、これから起こることを知れば赦してくれるだろう。
4段目へのダラダラ坂が見えるところまで来ると、チカコが涙目で訴えてきた。
「お願い、許してちょうだい。犯すのはやめて、いやなのよ」
うるせえ、黙って見ていろ。
「イケメーン!」
俺は湘南にも届くのではないかという大声でイケメンを呼んだ。
3段目にいないときは、大体4段目か5段目で子供たちと走ったり遊んでいたりすることが多いのだ。
しかし、驚いたことに、イケメンは坂を下りきった直ぐ側のトウモロコシ畑(正式な畑ではなく、種を蒔いておいたら勝手に繁殖した)、からヒミコと一緒に現れた。
俺を見上げて少し不満そうだ。
イケメン、お前昼間から何やってたんだよ。
俺は心の中で突っ込んで、頭を切り換えた。
幸いな事に、イケメンとヒミコは直ぐに上がってきてくれた。
イケメン、またでかくなってないか。中年太りか。
「キヒヒ」
俺は先に、イケメンとヒミコに芋飴を二つ食わせて機嫌を取った。
「おい、チカコ。こいつはイケメンだ。領内に棲んでいる鹿モドキの親分だな」
チカコは驚いて声が出ないようだった。
鹿顔でまあるい二股の角があるが、身体は馬に近い。
チカコの趣味は乗馬だから大丈夫だろう。
「イケメン、こいつを乗せて一回りしてくれ」
俺が手で4段目をぐるりと回すと、イケメンはわかったみたいだ。
「鞍も手綱も無いし、鐙も無いじゃない。無理よ」
「こいつは頭がいいから、お前を振り落としたりはしないさ」
俺はチカコを抱え上げ、イケメンの背中に乗せる。
「その鬣の部分を掴んでいれば怖くないぞ」
チカコは恐る恐るイケメンの鬣を掴む。
イケメンは巨大な瞳でチカコを眺めると、トコトコ坂を下りだした。
ヒミコが俺の腕に噛みついて振る。
どうやら乗れと言ってるようだ。
「いいのか、俺は重いぞ」
「ヒンヒン」
俺はヒミコに跨った。
イケメンの後を追いかける。
坂の下でイケメンに並ぶと、2頭は駆け出した。
ヒミコの胴体をはさんでいないと浮き上がりそうだ。
チカコは我を忘れて夢中になっている。
「凄い、凄いわ。この先を左に曲がって」
チカコが左手を出すと、イケメンは直ぐに左回りを始めた。
梅モドキと松の林の間を抜けていく。
「おい、チカコ、あんまり無理するなよ」
聞いちゃいなかった。
イケメンは更にスピードを上げていく。
チカコは少し前傾姿勢になりながらも上手く乗りこなしている。
俺はヒミコの首を撫でて、無理してついていかないように伝えた。
ゆっくりと草原の広いところへ向かう。
やがて、予想もしなかった所からイケメンとチカコが飛び出してくると、あっという間に通り過ぎていった。
次に出てきたときはイケメンの妻たちや子供たちを引き連れていた。
チカコは黄金の髪をなびかせ、笑顔を見せている。
いつもあんな顔をしていれば、と思いながら俺は少しだけ、ほんの少しだけ綺麗だと感じた。
呆れたことに、チカコはそれから30分以上もイケメンを乗り回していた。
3段目にいた全員が4段目に降りてきている。
ミサコがセルターに支えられながら近づいて来た。
「ユウキさんには随分とご迷惑をおかけしました。あれで本当は優秀なんですよ、チカコは。どうにもブレーキが利かないというか、人の話を聞かないというか、思い込みが激しいので手を焼く部分があるのですけれど」
「心の傷を癒すのは、楽しいことが一番です」
セルターがメディカルアンドロイドらしいことを言う。
チカコを降ろしたイケメンは、疲れた顔もせずにじゃれついている。
あれはイケメンの秘技『おっぱいつつき』だ。
同じおっぱい好きだから良くわかる。
イケメンは女の子には必ずやるのだ。
何故か、羨ましいことに気にするものはいない。
ああ、ヨリがチカコに話しかけている。
ヨリも餌食になるぞ。
ああ、駄目だ、手遅れだった。
ヨリも嬉しそうにイケメンを撫でている。
「まあ、人には欠点もあるものだからな。元気になってくれればそれで良いさ」
「ユウキさんの欠点は、おっぱい好きですか」
「ええっ、何それ!」
「色々と噂を聞いています。現地人にスカートしか穿かせないのは、おっぱいが見たいからだとか」
「ご、誤解だぞ。裸にスカートを穿かせるのだって、命がけだったんだからな。革は男にしか許されないとか、無茶な掟があったんだ」
「革のチョッキぐらいは作れたのではないですか」
「チョッキは族長のシンボルみたいなもので、それこそとんでもない事になる」
「そうですか、おっぱいが見たいからでは無かったんですね」
「そうだ。こっちの風習をすべて知っているわけじゃないが、女が何かを着るのは、どの部族も禁止みたいだ」
「でも、おっぱいを見せていないのは私だけだって言われました」
「だだだ、誰がそんな馬鹿なことを」
「チカコです」
あいつ、欠点しかないんじゃないか。
「ミサコ様、はしたないですよ」
「そう、セルターの言う通りだぞ」
「しかし、それで助けられたお礼になるなら、私」
「そ、そんなお礼はない!」
「そうですか?」
「ああ、そうだ」
「やはり、全裸でなければお礼にはなりませんか」
「ち、違うぞ」
「脚の治療器が外れるまで待って頂けますか」
「だから、お前も人の話を聞けー」
イケメンとその息子たちや娘たちは、子供たちをのせて梅モドキ林を一周するを繰り返していた。
ヒミコが監視しているから事故は起きないだろう。
ミサコの話だと、梅モドキではなく、スモモの亜種だと言うことだが、名前はそのままでもいいだろう。
梅干しにも出来るんだし。
結局、今日の予定はここで終わりそうだった。
「レン、3段目で栗拾いの話をし忘れてきたよ」
「レンが話しておきましたわ」
「そうか、助かる。梅モドキと松の樹脂は実技で覚えてもらうか」
「一応、モモ、ブドウ、梅モドキ、栗、リンゴの順と話しておきましたが、領内にモモとブドウはございません」
「タキとラーマは?」
「夕食の準備の準備をすると言って、戻りましてございます」
そうだ、今日の夕食から料理班が作るんだった。
湘南の海を眺めると、午後の日差しがやや傾いている。
2年近く前にこれを見たときは、リーナさんと二人きりだった。
今は150人近くもいる。
しかも同じ人類が130人。
ここに来るまでに奇跡は使い果たしたとリーナさんは言ってたが、これもまた奇跡ではないのか。
「レン、いつか俺の故郷に連れて行くぞ」
「レンはユウキ様の妻でございます。何処までもお供する覚悟でございますよ」
きっと、これからも色々な苦労があるだろうが、乗り越えていくしかない。
その日の夕食は、アキがトンカツにすると言うので手伝ったが、慣れないお嬢様が多くてどちらが手伝いかわからなくなった。
油がラーマのおっぱいに跳ねたときは動転して、おっぱいを氷で冷やそうとして、ミヤビに叱られた。
裸エプロンって正しいのだと、その時初めて実感した。
しかし、キャベツの千切り150人分というのは、色々な苦労のうちに入るのだろうか。
やめてよ、もう。
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