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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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34 試練の始まり

 34 試練の始まり




 髭親父は『ニャィッツァェー』という名前だったので、密かに考えていた金沢村はボツになった。

 新田村なら場所的に俺はOKなのだが、俺命名ルールにより『ニタ村』になった。

 髭親父の名前は『ニタ』に決めた。

 三国山(俺命名)の金の沢が流れる途中に扇状地があり、そこに山間の隠れ里があった。


「ズルイが麓で狩りをすると、獲物が迷い込んでくる」


 ニタはそう言うが、ズルイ族はもう解散したので、これから獲物は少なくなるだろう。

 そこで、ジャガイモとサツマイモの栽培を指導した。

 山間部に来るため、芋だけは用意してきたのだ。

 短期間で収穫できて、作るのも比較的容易だからだ。


 洞穴に住んでいる住民全部を並べると、男はニタの他は年寄りと同年配が一人ずつで3人。

 若者がニタの息子2人にもう一人で3人。

 年配の女が2人。

 ニタともう一人の妻が3人。

 娘が5歳から13歳ぐらいまで4人。

 合計15人である。


 扇状地を全部畑には出来ないが、段々畑にしていけば20石ぐらいの面積は簡単に取れそうだ。


 全員を動員し、二日間で2反の畑を作り出した。


 幸いにも土の質は良く、草を取り、根を除去すればあちこちにある腐葉土を混ぜるぐらいで済んだ。

 今後も男たちには開墾を続けさせ、女たちに畑の世話をさせれば、徐々に食えるようになるだろう。

 レンは特に女たちを教育し、今後男たちを厳しく働かせるように注意している。

 まあ、秋に一回収穫できれば、考え方はガラリと変わるだろう。


「落ち着いたら、ニタの息子たちに嫁を出されてはいかがでございましょう」


 レンとシュラフで眠るのも3泊目になり、少し慣れてきた。

 明日は領地に帰る予定だ。

 当初の砂金の源流については、かなり沢を登る必要があり、途中で諦めた。

 三国山は2000m以上有り、人跡未踏の地である。

 命がけで三国峠を越えるものも越えたものもまだいないらしい。

 日本海に出るなら、もう少し楽な場所があるのだと思う。

 ホバーを使うにしても、十分な準備が必要そうだ。


「娘たちは、みんなニタの娘なのか?」

「ニタの娘が二人、ニタの姪が二人にございます。残りの一人は拾った子らしいのですが、まだ幼すぎでございますわ」

「姪って、父親はニタの従兄弟だったよな」

「このままでは、次の世代は大変なことに」

「これから畑を増やそうと言うときにかあ」

「妻たちは、ズルイから逃げてきたり、追われてきたりした女でしたので、これからは期待できないかと思われますわ。やはり原因を作ったユウキ様のお力が必要でございます」

「ふん、キン、ギン、ドウの3人でも嫁に出すか」

「また、そのようなことを仰って。3人にすれば、冗談事では済まないのでございますよ」

「けれど、俺が説得できそうなのは、あの3人ぐらいで、後はろくに話したこともないしな」

「元ズルイ族のものなら、覚悟は出来ているはずでございます。私とタキとラーマの所から一人ずつ選んでみますわ。北の土地を、懐かしんでおるものもございましょう」


 何だかレンが頼もしくなった気がする。

 頭の良い娘だし、話が上手いだけあって良く考えている。

 法律と言うより人材運用に向いているのかも知れない。

 流石は族長の孫娘か。


「それよりも、もう少し強く抱いて下さいませ」

「寒くはないだろ」


 最初から抱っこして寝ているのだ。

 おっぱいがあれば潰れているぐらいに。

 いや、結構とんがって、いや、まだまだこれからくらいか。


「何か変なことを、お考えでございますね」


 良くわかるな。顔も見えないのに。

   

「何だか、お腹が時々チクチクとするのでございます」

「今日捕った、鹿の肉が悪かったか?」

「違うと思いますわ。少し疲れが出たのでございましょう。不安なので強く抱いて欲しいのでございます」


 俺は少しギュッと抱く。柔らかいし、骨がないみたいだ。


「こんな感じでいいかい」

「ありがとうございます。どうかレンが寝るまでそうしていてくださいまし」

「おやすみ、レン」

「おやすみなさい、ユウキ様」


 実はそのまま俺も寝てしまった。

 連日の畑作りで疲れていたのである。


 翌朝、寝ぼけ眼でレンを探すと、川沿いの草地で蒼い顔して蹲っている。


「レン、何かあったのか」

「暫く、寝てて下さいませ。もう少ししたら、レンが後始末をするでございますから……」


 シュラフを開いて驚いた。

 これは、レンの初潮が始まったのだ。

 こうしたことに、男は無力である。

 声もかけられない。


 黙って、川の水で洗い流すと、ついでに顔を洗い歯を磨いて、レンの復活を待った。


 暫くすると、レンが近づいてきて笑顔を見せた。

 無理してるのが見え見えだったが、ここは流しておこう。


「申し訳ありません。初めての事なので、上手く対処出来ないのでございます」

「謝ることないだろ。めでたいことらしいぞ」

「しかし、何も二人きりの時でなくとも……」


 確か、レンも親兄弟がいないんだったよな。

 やはり帰って、タキやラーマ、カズネでもいいか、誰か先輩に付いててもらおう。

 初日のレンだったら、八つ当たりしたり、泣いたりしたかも知れないが、随分と落ち着いている。


 まあ、苦しそうではあるけれど。


 幸い、ニタとの打ち合わせは終わっているし、今日は帰ることも伝えてある。

 見送りとかの習慣はないことだし、このまま消えても大丈夫だ。

 俺は荷造りとホバーの点検を始め、医療キットに包帯と脱脂綿があるのを思い出した。


「とりあえず、これを使ってみてくれ」

「こんな貴重なものを……」

「まあ、緊急事態と言うことでさ」


 レンは悩みながらゴソゴソやっているようだが、俺には知識も経験もないので見ないようにした。

 やがて、俺の準備が整うと、レンの準備も整ったようだ。

 蒼い顔も少し赤くなり、蹲っていたときほど悪くなさそうだ。


「帰りも少し辛くなるけど大丈夫か」

「きちんと後ろで耐えて見せますわ。領内の者たちに、しがみついて震えてた何て思われるのは嫌でございます」

「よし、じゃあ帰ろう」


 レンを後ろに乗せ、再び重要部分だけ再点検して、問題がないのを確認する。


「オペレッタ、帰還するからよろしく」

「高度300」


 ホバーがドンと加速する。

 相変わらずのじゃじゃ馬だ。

 高度300で安定したので、南の領地に向かうコースを計算する。


「オペレッタ、キャノピーを閉じたら高度8000まで1Gでいく」

「……」

「オペレッタ、どうした聞こえないのか」

「……」

「オペレッタ!」

「南から侵入警報」

「カカでも攻めてきたのか」


 いや、南は湘南だ。

 カカは無理だろう。

 別の部族がいたのだろうか?


「タイプは不明。大気圏に突入する」

「何だって、宇宙から来たのか!」

「通信波なし、緊急信号なし、推力見あたらず。墜落と推定。軌道計算中」

「ユウキ、宇宙船よ」

「リーナさん、墜落してるのか。何処に落ちるんだ。規模は」

「……」


 そうか、タイムラグがあるんだった。

 今のオペレッタは衛星軌道の方だ。

 領地からここまでは回線がない。


「墜落場所は赤城山の南方2キロ以内。緩衝装置展開を確認。有人船と認定する」


 有人船が何故墜落するんだ!


「レン!」

「はい」


 俺が振り向くと、再び蒼い顔をしたレンに戻っていた。

 だが、気丈にもしっかりと俺を見ている。


「すまない。緊急事態だ、我慢してくれ」

「レンの事はお気にせずに」

「ありがとう」


 俺はホバーのコントロールを手動に切り替え、安全装置を起動させる。

 レンのシートが沈み込み身体を拘束していく。

 地上走行時に使うハンドルが出てきて、手元と足下のセンサーが反応する。

 キャノピーが閉まり加速を開始する。

 200キロの距離なら亜音速で10分から12分だ。

 弾道飛行に近いコースで飛び、頂点で無重力が来ると南の空にそれが見えた。


「火龍か!」


 燃え上がり、のたうつようなそれは、伝説の龍に見えた。

 しかし、登っていくのではなく下に流れていく。

 こちらの高度30000を直ぐに下回り、バルーンやパラシュートを火の粉に変え、振りまきながら赤城山の麓に落ちていった。


 爆発や衝撃波はなかった。

 しかし、コントロールされているようにも見えなかった。

 現地到着までの時間がもどかしかった。


「6両編成の列車のように見えたわ」

「燃え上がる龍にしか見えなかったよ」


「多分、これもゲートを通って来たのでしょう」

「ゲート用の列車か、随分と進化したもんだ。だけど大気圏突入型には見えなかったよ」


「ベテルギウスに耐えられるようにも見えなかったわ。何か手違いがあったのね」

「ゲートのシステムがわからないから、どんな手違いかも想像できないよ。ただ、推力のない宇宙船ってあり得ないと思うな。動力車を切り離したのかも知れない」


 リーナさんとの通信にも間が出来る。

 お互いが、静止軌道を経由して話しているからだ。


 飛行は安定しているが、高度が下がってきたので現場が赤城山の影に入っている。

 飛行速度を落とし、赤城山の尾根をなめるように飛び越えると麓から山を駆け上がるように帯状の事故現場が出来ていた。

 1キロは引き摺り、山を300mぐらい駆け上がって止まっている。

 4両にしか見えない。


「現場を目視。火事は起きていない。煙も殆どなし。オペレッタ、異常高温状態は起きているか」


「摩擦熱以外は感知出来ない。客車2両は分解の模様。動力部は、ないものと推定」


「動力部なしと判断。これより生存者の確認作業に入る。オペレッタは軌道上をもう一度確認してくれ」


「了解」

「ユウキ、何だか不安だわ」

「事故はもう起きたんだよ。これからは後始末だけだから」


「けれど、やっぱり不安だわ」

「飛び散った破片は金属やプラスチックの日用品に見える。貨物だったのかも知れない。それならパイロットが何か理由があって切り離して、軌道上に残っていることも考えられる」


 耐衝撃用のバルーンも地上を引き摺られた衝撃まで引き受け切れなかったのだろう。

 前側の2両には亀裂も見える。

 後ろの2両だけが奇跡的に損害を免れたようだ。


 全部が貨物列車なら良いのだが。


 近くの比較的傾斜が少ない地面を探し、着陸する。

 ホバーの手動を自動に切り替えると、キャノピーが開き、レンがシートから浮き上がってくる。


「レンは暫くここに残ってくれ。いいかい、絶対に外に出るなよ」

「はい」


 レンは涙を浮かべていたが、意識はしっかりしている。

 俺はハンドレーザーと救急キット、それに樫の棒を持って現場に向かった。

 レンの安全はオペレッタに頼む。


 前の2両は後回しにする。

 焼けて亀裂が入った状態でへこんでいては、人が生き残れるとは思えないからだ。


 生存者がいるとすれば後ろの2両だった。


 耐衝撃用バルーンをレーザーで焼き切る。

 まったく窓のない列車を思わせる形状である。

 窓があれば、都会を走っていてもおかしくないだろう。

 ブルーのラインが入っていて『WGT Blue Train』と文字が入っている。

 ライン上にハッチがあった。

 電子式か、パッド式か、触っていると声がした。


「原住民の皆様、私はハインツと申します。どうぞよろしく」

「おい、ハインツ。中に人がいるのか」

「どうやら宇宙では日本語が使えるようなので、私、とても安心しました。原住民の方、あなたに教える義務も義理も資格もありません」

「これは事故なんだぞ。大惨事だ。救える人はみんな救いたい」

「我がWGT社のゲートトレインは事故など起こしません。過去50年間無事故でしたとも」


 どうやらこいつは人間ではないらしい。

 列車の管理AIか、中にアンドロイドでも乗っているのか。

 人間ならこんなおかしな対応はしないはずだ。

 それともこいつが壊れているのか。


「ハインツ。事故マニュアルがあるだろう。こういう時は人命を優先するはずだ」

「確かにそうですな、原住民の方。しかし、事故とかそうした判断は船長がすることになっております」

「船長がいるのか、何処にいる。無事なのか」

「これだから無知な原住民は困るのです。船長なら先頭のドライブのコクピットにいるに決まってます」

「ドライブなんて何処にもないぞ」

「そんなわけがありません。ドライブ無しではゲートトレインは動きません。そして船長は乗客がいる限りコクピットにいることになっています。万一事故が起きても、乗客の安全を確保するのが義務づけられていますので。違反すれば罰金がもう凄いことに」

「そのコクピットがないんだよ」

「それは面白い冗談です。コクピット無しで地上には降りられません。最もゲートトレインが地上に降りることは通常はないのですが」


 どうもおかしい、こいつ現状を認識できていないようだ。


「船長がいないときは誰が指揮を執るんだ?」

「副長ですとも原住民の方」

「副長もいないときは」

「あり得ませんが、もしもそんなことになったら、チーフパーサーかと」

「チーフパーサーは何処にいるんだ」

「最後に確認できたのは、コクピットでしたが」


 駄目だ、これでは堂々巡りだ。


「ハインツ、お前この現状が見えていないのか。これは事故で、ドライブもコクピットも見あたらない。救助はお前の権限で行うしかない」

「まあ、確かに私の入出力系統には些か問題は起きておりますが、暫く待てば復旧する可能性もありますし、私には僅かな権限しかありません」


 やはり、こいつの目は見えていないんだ。

 それなら見せるしかない。


「オペレッタ、ハインツのインターフェイスに接続してくれ。外部映像を流すだけで良い」

「原住民の方。あなたにそのような権限はありませんよ」

「とにかく見ろ!」

「……」

「どうだ」

「先頭のドライブを見せて下さい、原住民の方」

「これで見えるか」

「いえ、そちらは後ろです」

「何だって、ここが最後尾ではないのか?」

「あちらは後ろの貨物ですよ、原住民の方」

「だが、ここが最後尾のはずなんだが」


 俺は最後尾の後ろを見る。

 引きちぎられたケーブル類が何十本と伸びているだけだった。


「なんと!」


 ハインツは驚いているようだった。


「どうした、ハインツ」

「ドライブがありません。船長たちはどうなったのでしょうか、原住民の方」

「俺に聞くなよ、ハインツ。それで、これで権限は誰にあることになるんだ」

「誰になるのでしょう。前例が見あたりません」

「お前に権限はないのか?」

「私? 私の仕事はエアロックの管理です。主に乗客を外に出さないように見張る役目です」


 やっぱり乗客がいるのか。

 何で、誰も騒がないんだ。


「なら、乗客の代表をここに呼べ。隔壁越しなら話ぐらい出来るだろ」

「それが、全員PLVに守られておりますので、話はできないかと」

「PLVとは何だ!」

「緩衝材ですよ」

「リキッドベンチレイターか?」

「パーフェクト・リキッド・ベンチレーション・システムですよ。最新型です、原住民の方」

「ちゃんと動いているんだろうな」

「それが、先ほどから電源を失いまして、後5分もすると危険かと」

「馬鹿野郎! 直ぐにハッチを開放しろ。乗客が死ぬぞ」

「そうは仰いましても、外には呼吸可能な大気があるか確認できませんし、有害なガスやウイルスでも存在すると、責任を取れません」

「俺がこうして外にいるだろうが」

「それは原住民の方が、特殊な環境に適応しているだけです」

「俺は地球人だ!」

「何と。こんなところで何しているのです。最もここがどこかはわかりませんが」

「とにかく、話は後だ。ハッチを開放して乗客を救助する。もう時間がないぞ」

「ええ、後4分と35秒です」


 ハインツは身長150のボーイ型アンドロイドだった。

 昔からあるありふれた量産型で、あまり頭は良くないが、簡単な命令なら仕事をこなせる。

 船内は電源を消失した後、バッテリーで動いていたのだろうが、ベンチレーションのためにすべて消耗してしまったようだ。

 俺は強制排出されるリキッドに備えて、ハッチの外で待機していたが、乗客が流れ出てくることはなかった。


 皆、シートに括られていたからだった。


 乗客120人は、小学生の女の子だった。

 ハインツと二人で、外に連れ出して草の上に寝かせていく。

 数が多いのでレンも呼びつけて、呼吸が再開してるか確認してもらう。

 呼吸が止まったままの者には、人工呼吸を行う。


 ハインツはマウストゥマウスが出来ない。

 レンと二人でやり抜くしかない。


 2両目の一番奥に少し大柄な女子たちがいて、ハインツが言うには中学生の引率だと言うことだった。

 何故、大人が引率していないのか疑問だったが、後回しにするしかなかった。

 最初に気づいた黒髪の中学生に状況説明を省いて、外に出した全員の確認をしてもらった。


 見逃して、死んだりする子供が出ると困るからだ。


 やがて、気づいた上級生たちも救助側に回り始め、全員を救出し終えた。

 中学生10名、小学生120名、アンドロイドがハインツを入れて2台。

 これからどうすれば良いのか、教えてくれる者は何処にもいなかった。



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