29 棒術訓練
29 棒術訓練
去年の加工食品は、全部食べちゃうことにした。
早速、食糧倉庫の棚卸しを行う。
「タキ、レンはどうしたんだ」
「泣き疲れてお風呂に入ってます」
「何で泣いてるの。カリモシ祖父さんが捕まったからか?」
「いいえ、初めての純情を踏みにじられたからです」
「なんだよ、初めての純情って」
「まったく、いつもこうなんだから」
タキは、ブツブツ言いながらビンを降ろしていく。
「まあ、ご主人様は鈍感らしいですから」
ラーマまで怒っているようだ。
「ほんとに、鈍感ですよ」
「それなのに、エッチですし」
「変態よ」
「とーへんぼく」
「女の敵」
「へたれ」
「ロリコン」
「のぞき魔」
「発情期」
「童貞」
あのー、1個降ろすごとに悪口言うのやめましょうよ。
俺は5斗甕(90キロ)の小麦酒を積み込みながら、悪口を聞き続けて心が折れそうだった。
今年の分は、新規格で2斗樽(40キロ)を八さんが作ってくれているから、この重い旧規格の甕は廃止かな。
「パンを焼くのは間に合わないけどどうしようか」
「乾麺も使ってしまいましょう。鶏は村で絞めていますから、出汁を取って、豆乳のスープパスタに鶏肉をのせましょう。おかずは鮭ビンで、つまみは大豆の炒り豆をドンと置いておけばすみます。サツマイモの飴煮を、タルト家で作っていますから十分だと思います」
ラーマが直ぐに考えてくれる。
食料問題担当補佐官なのだ。
「そういえば、タルトはパンに芋の飴煮をのせて食べるんだって」
「もうあれは、サツマイモジャムですね」
タキが呆れるように言う。
やはり、イモ親父はイモ親父なのだ。
その日のサンヤ族は、驚きの連続で酔っぱらうまで皆大人しかった。
「一度で良いから見せてくれ」
サンヤ族の戦士長マリブとラシが、しつこく迫ってくる。
カリモシ、カラヌシ親子とラシは『小麦10石の刑』に処せられ、子ジャケ第3区を貸し与えられた。
毎日つらい土地作りである。
サンヤ族は作付け前までは面倒を見る事になって、ログハウス周辺に暮らしている。
食事は鮭ビンと乾麺と芋が主体だが、飢えが始まっていた部族には感謝されている。
これを機会にタルトは、冬越し村、塩、毛皮、果実、薬草と、他部族情報、鉱物資源、繊維、動物などの情報を取引する事を決め、村長と商店主の名を上げようとしている。
繊維と鉱物資源は俺の要望だが、タルトは俺が求めるぐらいだから大事なものだと推測している。
それで、一日畑仕事をしているラシだが、毎夕俺たちとマリブ隊の棒術訓練に参加してくる。
10日ほどの訓練後の番付は、大関タルト、コラノ。
関脇父ジャケ。
小結ラシ、マリブ、子ジャケと言ったところだ。
マリブ隊の兵は若い者が多く、独特のフェースペイントは年齢を誤魔化すために始めたらしい。
戦士の引き抜きが多くなされて、部族の体裁を整えるためなのだろう。
まあ、新戦法『槍衾』を覚えたので、ちょっとぐらい強いやつらでもやっつけられるだろう。
個人戦と集団戦は違うからだ。
この世界では訓練なんて概念がないから、相撲と棒術を訓練しているタルトたちには、戦士長のラシやマリブでもかなわない。
1年と10日の差が大きいのだ。
それで、若い戦士を鍛えている。
しかし、ラシは自分が敗れた槍衾に勝つ方法、マリブは敗れた場合の対策として、俺に槍衾を破るお手本を見せろとうるさいのだ。
ねえ、ラーマさん。
これって小父さんたちのイジメだと思うの。
俺が『自分で考えるのも修行だ』と突き放すが、こうして夕食の世話に来たラーマを邪魔する俺の楽しみを邪魔しに来る。
「見せてあげれば良いじゃないですか。どうせ誰もまねできないんでしょう? 若い戦士たちが、出来ないんじゃないか、なんて噂してますよ」
「なぬ、それは聞き捨てならぬ」
「格好いいとこ見せてあげて下さい。チュ」
うわー、ほっぺにチュだー。やる気出てきた。
この豹子頭林冲の腕を疑う奴らは、皆成敗してやるー。
俺がその気になって向かうと、ラシとマリブは喜んだ。
しかし、タルトが俺の顔を見ていち早く不参加を表明。
コラノも『痛い思いはしたくない』と不参加。
父ジャケは『明日の仕事に支障が出る』とやはり不参加。
子ジャケは『負けるとわかってますー』とサラサの所に逃走。
トリノはナナの影に隠れて居ない振り。
なによ、豹子頭林冲が相手してやるって言ってるのに、いけず。
ラシがマリブ隊の4人を左右に侍らせて、5人で槍衾を作った。
俺は八角に作らせた練習用の棒を一本取ると、ぐるりと回しながらラシの正面に行き、斜に構えて左手でクイクイとかかって来なさいポーズをする。
これじゃあ豹子頭林冲じゃなく、ブルース林冲だわね。
ラシは左右に声をかけると『オー』と叫びながら突っ込んでくる。
俺は一度棒をぐるりと回してから、飛び出す。
間合いを崩された連中は、直ぐに立ち直ったかに見えるが、もう遅い。
スライディングしながら5本の棒を跳ね上げる。
全員が万歳状態の中、中央のラシを蟹挟みで倒し、後ろ手の横棒で4人の脚を引っかける。
ラシは俺にのしかかられて動けない。
4人の少年兵はすっ転がって立ち上がれない。
俺は立ち上がると観客に一礼する。
どよめきが起こる。
あら、皆さん見てましたの、あら恥ずかしい。
タルトはやっぱりかという顔。
コラノは頭痛を振り払う。
父ジャケはしかと見ましたぞという顔。
マリブは信じられないという顔。
2戦目、メンバーを入れ替えたマリブが円陣を組んで作戦会議をしている。
さてと、やろうか。
綺麗に揃ったマリブ隊の槍が向かってくると、俺は横棒にしてしゃがむ。
ちょんと後ろに飛ぶと、全員の槍が揃って地面に突き刺さる。
それを左足で全部踏んづけると、勢い余ったものたちが勝手にゴロンゴロン転がっていく。
ノンノン、マリブさん。
脚を狙うときは突くではなく、払うと教えマーシタ。
基本大事デース。
俺は観客に一礼した。
3戦目、マリブ、ラシほか3名。
少年兵たちは諦めムードだ。
士気があがんないと勝てませんよ。
突っ込んでくる5人を前に左に逃走。
立ち止まり見てから左に逃走。
右に回る外側の少年兵がついてこれない。
「これはもう槍衾ではありませんね」
内側から一本ずつ弾き飛ばしては逃走を繰り返すと、もうただの乱戦。
ひとりずつ片付けておしまい。
悔しがるラシ。
しかし、マリブが何かに気づいた。
タルトに聞きに行ってる。
タルトがうんうん頷いている。
嫌な予感。
なんと4戦目、少年兵5名。
マリブが横から合図する。
前進、止まれ。
前進、止まれ。
突け、下がれ。
これは拙いぞ、近代戦か。
左右に逃げ、マリブを狙う。
しかし、上手く槍衾の後ろに回られ、拮抗状態。
互いが、槍衾越しににらみ合い。突っ込んでは来ない。
やがてマリブが笑い出し、俺も一緒に笑う。
マリブは、河原での俺の号令を思い出したのだ。
兵が勝手に戦うのではなく、指揮官が戦いを作り上げる。
それにマリブは気づいたのだ。
そうなれば後は兵の損耗を覚悟できれば戦える。
集団戦とはそう言う計算しながら冷徹に戦うもので、熱くなる個人戦とは次元が違うのである。
これなら、槍衾を上手く扱えるだろう。
正しいやり方に気づいたので、納得し笑ったのだ。
だが、豹子頭林冲がこの程度でやられると思っているのか。
張飛は曹操軍100万と戦ったんだぞ、その張飛をモチーフに姿絵が描かれる林冲が、5名の兵士に負けてたまるかい。
中国文学なめるなよ。
槍衾に突撃し、手前で棒を地面に突き立てると、棒高跳びを披露した。
槍衾を綺麗に飛び越えると、フリーズ中のマリブの肩を軽く叩き、指揮官を倒した。
少年兵は逃げ散ってしまった。
その後は、防御に難のあるマリブとラシを一時間ほどしごくと、二人は起き上がれなくなった。
「あっ、ご飯できたー」
俺はラーマの所にピョンピョン跳ぶように飛んでいき、美味しい夕食をアーンしてもらった。
少年兵たちは蒼くなり、絶対に俺に逆らわなくなった。
「ユウキ様」
俺は怖い夢を見ていた。
苦労して大きなおっぱいに出会うのだが、大喜びして揉んでチュウすると、横に伸びて子ジャケのおっぱいに変化する。
そして追いかけてくる。
空からレンが『大きなおっぱいの罰でございます』とわけのわからないことを言ってくるのだ。
「うーん、大きなおっぱい怖いよー」
毛布を被って向こうを向く。
「何、朝から変な夢見てるんでございます?」
「レンが、大きなおっぱいの罰だって怖いよー」
「そんな罰はございませんよ」
「ほんとう?」
「本当でございます」
「怖くない?」
俺が涙目で聞くと、
「ほら、見て下さい。怖くないでございますよ」
レンが、小さなおっぱいを見せてくれる。
「さわったら、子ジャケにならない?」
「う、大丈夫でございますよ」
「チュウしたら追いかけてこない?」
「ええっ、ああ、駄目でございます。そんなこ、つ、強くはだめ、ああ弱くも、だ、だ、両方はダメー」
ベチ!
「ユウキ様」
「うーあ、おはよう、タキ」
「それで、どうしてレンが気絶してるんです?」
「さあ? さっぱり」
「顔に手形が付いていますよ。また変なことしましたね」
こいつ昔から俺のこと、変な奴だと思ってるんだ。
「いくら俺でも、寝てるのに変なことは出来ないと思うぞ」
「きっと出来ます。いえ、してます」
「えー、どんなことを」
「えーと、胸に触るとか」
「さわったぐらいじゃ、気絶しないだろ」
「そうですねえ」
タキは整理箪笥から俺のパンツを取り出しながら、悩んでいる。
俺はレンをベッドに寝かせ、毛布を掛けてやった。
タキがくるっと振り向く。
この年齢のおっぱいは日々成長するようだ。
少し揺れるようになった。
「タキ、お前随分と大きくなったな」
「136センチだそうです。カカの次なんて部族だったら苛められてます」
しかし、俺の視線が別の所にあるのに気づく。
「こっちは、まだ成長中です。まだ止まっては困るんですが」
タキがパンツを渡しながら、朝のキスをしてくれる。
俺はキスを返しながら、思いっきり抱き寄せた。
ベロチューに切り替えタキの胸も揉む、揉む、揉む。
タキは『んんん』と口を塞がれ声が出ない。
バリッ!
俺はメディカルにいた。
目の前にリーナさんが来る。
「ユウキ。レッドカードよ。良い機会だから実験に協力してもらうわ。少し抜いておきましょう」
ええっ、実験って、何を抜くんですか、と叫ぶがアーチ型のガラス越しでは何も聞こえてないようだ。
身体の自由も利かない。
「心配しなくても、この前の猪の種付けで実証済みだから」
それって、電気を流して強制的に種付けするやつですよね。
野生の猪専用の。
凄く暴れましたよね。
「今回は特別に、麻酔してからにしてあげるわ」
暗転。
風呂に入ってもちっとも気分が冴えない。
目の前にラーマのお尻が見えても、カズネのおっぱいが揺れても何にも感じない。
世界が灰色になって、味気ない。
「ユウキ様、あの、今度は夜にして頂けるでしょうか。そしたら私、頑張ってみますから」
「そう」
目の前にタキの股間があったが、自分の股間だって良く見たこと無いのに、何でひとの股間があんなに気になったんだろう。
「ユウキ様ったら、私が勇気を振り絞って、あれ、何でこんなにゲッソリしたお顔なんですか。あれからリーナ様に何されたんですか」
「いや、大丈夫」
風呂を出て部屋に戻る。
ボケーと窓の外を眺めてみるが、気になることは何もない。
首をかしげる夫人たちが帰って行く。
裸なんだから風邪引かないようにと思う。
ラーマが紅茶を持ってきてくれる。
ズズーと啜るように飲む。
たまには緑茶のが良いかな。
タキが焼きたてのクロワッサンを運んできた。
サクサクしてるのだがボソボソに感じる。
「二人とも、湯冷めするからスカート穿いた方が良いよ」
俺は将棋盤を出して、ひとりで回り将棋を始める。
世界はとても平和だが、孤独を感じる。
リーナさんが、蒼い顔して現れた。
「リーナ様、ひどくありませんか」(ラーマ)
「そ、そうね。ちょっとひどいかしら」
「いつものユウキ様じゃありません。何とかならないのでしょうか」(タキ)
「だから、10回分で止めるよう言った」(オペレッタ)
「でも、いつもより重症だったでしょ。いっぱい出るからもうちょっとと思ったのよ」(リーナさん)
「あれは面白がってただけ」(オペレッタ)
ああ、金が全部裏返しだ。
これって2コーナーまで行けるんだっけ。
良し、桂馬に換えられる。
「ユウキ、何だか右のおっぱいが固いような気がするのよ。ちょっと揉んでみてくれる」
リーナさんがシャツを片肌脱いで寄って来る。
「はいはい」
揉みながら桂馬を探す。
「ちょっと、ラーマ。ユウキにお尻を突き出してくれる」
「こうでしょうか?」
「もっと脚を開いてみて、そうね。ユウキ、ラーマのお尻があんな事になってるわよ」
「ふーん、そうなの?」
俺が駒を振り、桂馬を3つ動かすとラーマが泣き出した。
「ご主人様が壊れたー、うあーん」
「完全に枯れた」(オペレッタ)
「だ、大丈夫よ、男子高校生なんだし、サルなんだから。10回したって翌日には何度もしたがる年頃なのよ。明日には元通りになってるわ」
俺はひとりに飽きて、タキに付き合ってもらう。
タキは赤い顔をして将棋盤の向こう側にあぐらをかいて座った。
「じゃあ、これはタキの歩な」
タキはがっくりとうなだれている。
歩じゃ気に入らなかったのか。
ラーマがまだ大泣きしている。
心の奥底で警鐘がが鳴っているような気がするが、意味がわからない。
「隅田川に未知の部族が侵入。数、およそ400」
「オペレッタちゃん、こんな時に冗談は止めて!」
「本当。今、マリブがタルト村に走り込んだ」
「サンヤはどうしてるのよ。今日出発したんでしょ?」
「対岸の北西側。隠れて様子見」
「ユウキ。大変よ。400の部族が攻めて来たのよ」
「大丈夫だよ。タルト村長が話し合いで決めてくれるから」
リーナさんは蒼い顔して、タキやラーマを見る。
「400と言うと北の大部族長『ズゥゥルゥゥィ』しか考えられません」(タキ)
「うえーん、ご主人様が壊れたまま死んじゃいますー」
「ユウキ、友好的な部族だったら、サンヤ族が隠れるわけ無いわ。きっと攻め込んで来たのよ」
「へえ、この良い天気に暇なんだなあ。俺はこれから八さんと3段目で田植えするんだ。今年はササニシキが食べられるよ。やっぱり田植えしないとさあ、きちんと農民だって胸を張って言えないよね」
「あなたは領主なのよ。領民を守らないと」
「そう言うのは、タルトに任せるよ。俺はこれから米作って生きていくんだ。立派な農民になるぞー」
「ユウキ!」
バチン!
リーナさんが叩いた。
親にも叩かれたこと無いのにって、両親には会ったこと無かった。
「立派な農民と言うなら、ちゃんと土地を守って見せなさい!」
ズガーン。そうか、農民は土地が大事だ。
「でも、まだ敵かどうかわからないよ」
「敵よ。サンヤは何しにここに来たの? カリモシは? カカは?」
放火と誘拐と家畜泥棒だな。
後は、その幇助だか主犯だか。
「スルトだって、良くしてあげてもラーマを殺そうとしたわ」
ラーマと目があった。
泣き崩れそうだ。
そうだよな。
あの時俺はラーマが死なないのはわかっていたけど、他は全員、タキまでもが死ぬと思っていたもんなあ。
「まだ仮説だけど、ひとつ可能性を見つけたわ。聞く?」
「教えて!」
おーし、目が覚めてきたぞ!
「カリモシが陰謀を企んだのは、ここに猪が20頭以上いると聞きつけたからよ。それを知っている外部の人間は、スルト族を除けばカカしか居ないわ。でもスルトは怯えて攻めてこないでしょう」
「でも、カカが攻めてきたときは、まだタルト村には猪舎は無かったけど」
「だからよ。カリモシもサンヤも勘違いしたの。カカはここに猪はいるって情報を流したのよ。それがタルト村に猪舎があったんで間違えたのよ」
「何でカカは、そんなことするんだろう」
リーナさんは、泣き崩れているラーマを見る。
ラーマが泣くとカカが攻めてくる?
でも、カリモシやサンヤは?
今回のズルイは?
「カカの狙いはラーマよ。自分だけでは取り返せないから他の部族を使ってここを攻めさせてるの」
カリモシもサンヤもカカが嗾したのか。
それでラーマが泣いているんだな。
カカ警報機か?
「じゃあ、今ズルイが現れたのはカカが裏にいるって事?」
「推測だけどね。カカはユウキからラーマを取り返したかったけど、実力ではかなわないと思ったの。それで貝の審判に賭けたのよ。ラーマが食べずに許しを請えば、スルトの命令どおりにカカに嫁ぐしかないわ」
「でも、ラーマは無罪」
「もうスルトは当てに出来なくなったわ。それで独立して自分の部族を作り始めた。でも、ユウキはタルトやコラノを味方にして戦力を拡大し始めた」
それで、コラノの娘たちを襲って挫こうとしたのか。
それも失敗すると、今度はサンヤとカリモシに攻めさせた。
「ところが、サンヤとカリモシも失敗して、もう最大部族を使うしかないと思ったのね。今度こそユウキ領になだれ込んで、ラーマを取り戻そうと思っているはずよ」
ラーマは泣き顔で驚き、そのままフリーズしている。
「確かにあいつは最初から、ひとりでは攻めてこない奴だったな」
「男は野望のために、どんな策も取ってくるって最初に言ったでしょ」
「だとすると」
「そうよ。ここが男子禁制でなければ、今頃カカの手の者であふれかえっているでしょう。それが子供でもね」
タキとレンが蒼い顔をしている。
「女を送り込むって事はないの?」
「タルトが言ってたでしょう。カカは女性に、あまり人気がないのよ。無理に送り込んでもユウキに寝返ってしまうわ」
「それで、外から力押し?」
「東も南も海があるから、泳げないカカは検討しないわ。西の岩場は十分な戦力では攻めきれないし、侵入できてもラーマを連れて逃げられない。それに自分が捕まる恐れの方が大きいわ」
確かに、西の岩場から侵入出来ても戻れない。
神田川を越えて逃げられるぐらいなら、最初から神田川から侵入出来るだろう。
海側は、例え泳げてもオペレッタ砲の威力を知っていれば検討しないだろう。
カカは十分に知っているはずだ。
「私が出て行けば、攻めてこなくなりますか?」
ラーマが、とんでもないことを言い出した。
ここで少しでも躊躇したらラーマは生きていけない。
俺はラーマを立たせると抱きしめた。
「俺がラーマを殺すようなことはしないって、わかってるよね。砂浜を思い出して欲しいな」
「でも、いつも私のせいで」
「ラーマのせいじゃないよ。カカがやってる事なんだ」
「でも、それは私が原因で、全部私が」
「違うよ。それともラーマがカカを呼んだの? カリモシやズルイに助けてとか言ったの?」
「そんな! 絶対にそんなことしません。ただ、私はどうしたら良いのでしょうか。ご主人様にも皆さんにも迷惑をかけて……」
まだ、涙が流れてる。
「ひとつだけ、俺を信じてやって欲しいことがあるんだけど。怖かったらちゃんと断ってくれる?」
泣いているラーマの心に、火が付いたのを感じる。
「何でも、どんなことでもします。怖くても我慢します」
「一緒に行ってくれるかな?」
「ユウキ! あなた何を…… そうか、カカをおびき出すのね。でも失敗は許されないのよ」
「うん、でもラーマがここにいたら、絶対に戦場ではないタルト村やここを襲ってくるはず。けれど、戦場にラーマの姿があれば、こっちには手出しするどころじゃないと思う」
「でも、それはラーマをエサにするということよ」
「私やります。村が替わりに襲われるなんて耐えられません」
「じゃあ、ラーマは戦場の一番目立つところで俺だけ見ていてくれるかな」
「もし、ご主人様が……」
「そんなことにはならないようにラーマが応援してくれないとね。俺、力が出なくなっちゃうよ」
「わかりました。頑張って応援します」
「よし、良い子だ」
俺はラーマの頭を撫でると、オペレッタの情報をリーナさんと検討し始めた。
30へ
毎日、毎日、読んで頂いてありがとうございます。




