24 バラの結婚式
24 バラの結婚式
国技館からの帰り道、皆でリヤカーや大八車を引きながら歩いていると(子ジャケだけ化粧まわしのまま。気に入ったのか)、タルトとコラノが話しかけてきた。
「結婚式をやりたいんだが」(タルト)
「誰の結婚だ?」
ナナとコラノの長男らしい。
ナナは13ぐらいだが、偉大なおっぱいを持っているから大丈夫なのだろう。
「サラサも子ジャケに嫁ぎたいようだ」(コラノ)
「へえ、いいのか?」
「子ジャケは食えれば良く働く。うちも子供が増えるからサラサの独立には丁度良い」
子ジャケはスルト族出身だから、コラノにはあんまり子ジャケに対する偏見がないのだろう。
カカ来襲の時も、子ジャケは直接コラノに襲いかかったわけじゃないし。
子ジャケ良かったな。
相撲の優勝より嬉しいだろう。
「しかし、サラサは美人だし、性格も穏和だし、もったいないな」
「あはは、ユウキ様に横槍を入れられたら、誰も逆らえないな。まあ、だが今回は勘弁してくれ。サラサも子ジャケが気に入ってるみたいだ。その代わり、カズネはユウキ様にぞっこんみたいだぞ。アンと二人でユウキ様の話ばかりしている」
コラノは慎重な性格だが頭の良い男だ。
子ジャケの可能性をちゃんと見抜いているのだろう。
それからカズネはともかく、アンは妊娠中の妻だからね、コラノさん。
「うちのナナもほっとくとユウキ様の所に行きそうなんだ。だから、ここで嫁がせたい」
ナナは長女のせいか我慢してお姉さんしているが、親父譲りの熱いところが見え隠れする。確かに何かきっかけがあれば、俺の所に飛び込んできて、それなりに重要なポストを占めてしまうかも知れない。
タルトはコラノとの関係を大事にしている。
両家の婚姻は仕方がないことだろう。
それから、タキ。
睨みながら通訳するのやめてね。
タルトは良く見て観察するが、イケイケドンドンの部分もあり、見極めたら後先考えずに突っ走るところもある。
大損する替わりに、大儲けもする商人タイプだと思う。
コラノは慎重で、良く考え無理はしないタイプだ。
頑固な農民に向いている。
保守的で思い込みも強そうだが、ここに来た時点で、無理なことまでは抱え込まない思い切りの良さがあるのだろう。
そんな正反対のような印象の二人だからこそ、仲が良いのかも知れない。
「タルト、俺は具体的に何をすれば良いんだ」
「俺たちは領民だ、女神様が認めてくれれば良いと思っているが」
「俺は、今日さんざんやっておいて何だが、相撲で決めたい。ユウキ様がカリモシとスルトに提案したんだろう。ずっと続けるべきだ」
「子ジャケに、また負けるぞ」
「今度は負けない。きっと勝つ!」
タルトがやめとけって言いたそうだが、慎重なコラノが熱くなっているのだから、口出ししなかった。
どうせタルトの相手はコラノの長男だ。
「条件は3つだ。一つは納税の日に行うこと。午前中に相撲をやり、午後には披露宴の会場で納税式もやること」
「披露宴とは何だ」
「まあ、全員で結婚のお祝いをすることだな。宴会だ」
「それは良い。やろう」
「二つ目は、男どもの散髪だ」
「散髪?」
「散髪とは何だ」
「髪が汚くて臭いから、短く衛生的にするんだ」
二人とも、そうかなという顔をするが、タキはうなずいている。
「3つ目は、すべてが終わってからにしよう。冬に部族が来る前に話し合いたい」
「わかった。とりあえず婚姻と納税だな」
「俺もそれで良い」
結婚式(相撲だが)は、3日後の11月初日に行った。
来年はカレンダーを作って、領民に配らないとな。
八さんに協力してもらって、農民用の暦にしようか。
年間の大まかな予定がわかれば、農作業を空けられそうな日程も調整しやすくなる。
ちなみに1年は364日で、ひと月は30日だが、3月、4月と、9月、10月は忙しい時期なので31日にしてある。
3毛作と冬場で4期にして、1日を足した感じの方が使いやすいかも知れない。
春夏秋冬に1日増しか。
まずは、朝一番に男どもを水場で朝シャンさせ、バリカンで短めのシンタロウカットにする。
前髪がない父シャケは坊主頭だ。
出てきた耳と首を念入りに洗わせる。
さて、朝飯とお披露目だ。
披露宴会場になるタルト家横の共同炊事場前に座卓の長いやつを幾つも用意してある。
女たちは朝風呂で綺麗になって待っていた。
タルトを先頭に歩かせると、女たちは父や夫に群がって喜んだ。
俺の公衆衛生の概念が根付いて来た証拠である。
羞恥心は未だ浸透してないが。
皆で朝飯を食ってから、全員に八さん特製の雪駄と草履を履かせる。
草鞋の底に樹脂シートを貼り付けた感じのものだが、鼻緒が切れないよう革で工夫してある。
男は四角い雪駄で、女はまあるい草履である。
花嫁以外は全員出発させ、俺は花嫁の化粧をする。
花嫁たちの要望なのだ。
ラーマはぎりぎりまで料理の下拵えをすると言って残り、タキとレンは俺の助手で残っている。
花嫁たちの要望とは、戦化粧だったが、よくよく聞いてみると、『ラーマ様のようなバラ』と言うことだった。
まあ、一生に一度の結婚式だしラーマが良いと言えば構わなかった。
「私にも描いて下されば」
ラーマはそう言ってきたが、
「結婚式なのに、花嫁よりラーマが目立って困るだろ」
と説得すると、遠回しにラーマを美人だと言ってるのが嬉しいのか、上機嫌であった。
サラサは白い肌なので、薄いピンクのバラを、ナナは小麦色の肌なので、濃い赤のバラを描いた。
唇も少し赤くした。
描いている途中、仕方が無く、どうしても仕方が無く、花嫁たちのおっぱいを触りまくったが、タキに睨まれただけで、花嫁たちは何も気にしなかった。
むしろ、ナナの熱い視線が少し気になった。
俺も何だか二人を花嫁にするのが惜しくなってきた。
男というのは総じて未練がましいものである。
雰囲気を敏感に感じ取ったのか、ナナが涙を一粒流すとサラサまで泣き始めて、タキやレンももらい泣きをしている。
ガーゼ(化粧の時は用意してある)で、一人ずつそっと拭ってやることで、一つの区切りをつけていった。
泣き終えると女は強いのだろう。
もう、次の準備が整ったように見えた。
「ユウキ様、今まで言えませんでしたが、私と家族を守って下さりありがとうございました」
カカが攻めて来た時の話だろう。
サラサは一歩前に出て、俺にキスをした。
全員がフリーズしていると、一歩戻りナナを前に出した。
ナナは俺の首に手を回して情熱的なキスをしたが、表情は晴れやかだった。
残った全員を引き連れ、隅田川国技館に向かった。
勿論、熊さんが馬車を引いてくれる。
到着して花嫁をそれぞれの母親に引き渡すと、俺の仕事は進行係兼行司である。
今日、余っているのは父ジャケしかいない。
父ジャケを呼ぶと、わかってた感じだ。
3番続けて転がり、未だやる気だ。
子ジャケが少し蒼い顔になっているのは自分を重ねているからか。
しかし最年長者なのによく頑張るなあ。
この世界では修行すればだが、ラシとカカが横綱だろうが、父ジャケは長く大関を続けるタイプだ。
ある意味、横綱の方が楽である。
更に2番やって、区切りにした。
父ジャケは俺に頭を下げた。
体育会系だな、この親父。
空気を読んだのか、花嫁席にサラサが来て座った。
キラキラ輝くように美しい。
風呂に入るようになってから半年ぐらいだろうか。
当時とは比べものにならないと思う。
栄養状態も良く、健康そうだ。
温厚な性格なので、若くて元気いっぱいという雰囲気はないが、年長の娘という雰囲気がむしろよく似合う。
子ジャケがいなければ、うちで秘書か何かをやってもらいたかった。
周囲を落ち着かせる時などに凄く役に立ちそうな人材なのだ。
畜生、子ジャケめ。
とはいえ、男が少ない領内だから、サラサが子ジャケに嫁いでくれるのはありがたいのだ。
頭ではわかっているが、まだ何となくむかつく。
サラサを助けたのが俺で、子ジャケが攫いに来た側だからだろう。
子供っぽい、正義感だか自己顕示欲だかかが、感情的にさせているのだ。
それとも、性的欲求か? 独占欲か? ハーレム願望か?
どうやら、俺はお姉さんタイプに弱いらしい。
リーナさんに育てられたせいだろうか。
それとも、日本の倫理観が縛っているのか。
12歳から15歳で嫁に行くどころか、子供がいる世界なのである。
18禁なんて言ってたら、嫁は子持ちの未亡人しかいなくなる。
まあ、ラーマは最高だけどな。
今回の花嫁席は丸太を輪切りにして立てたやつだから上は平らで座りやすい。
横にコラノ第2夫人が控える。
未だ呼ばれていないのに子ジャケが立ち上がった。
入れ込んでいるというやつだ。
仕方がないので、急いでまわしを脱いで、タキから軍配を受け取って土俵に上がる。
「ひがしー、子ジャケの川ー」
タキが呼び出すが、親子シャケの川だけ四股名なんだよね。
父はロロで子はロモらしいが、本人たちは俺がそう呼んでいるからか父ジャケ、子ジャケを本名にしてしまった。
やはり、名誉称号みたいなものなのだろう。
「にしー、コラノー」
二人が水を飲み、塩を撒く。
一度目の仕切り。
髪が短くなってコラノは元イケメン、子ジャケはぷっくらしているが、青年らしく紅潮している顔が好印象だ。
花嫁の穏やかな顔で良くわかる。
さて、本番。
「見合ってー。はっけよい、のこった」
張り手無しのぶつかり合い。
どちらも負ける気がない。
体重が勝る子ジャケが有利だったが、コラノは前まわしを掴んで崩れない。
直ぐに四つになり子ジャケが押し、コラノが投げ。
そのまま土俵を一周するが決まらない。
やがて土俵際まで追い詰められたコラノがうっちゃり、子ジャケかろうじて残し、また押し込んでいく。
反対側まで押されたコラノが粘って、最後は豪快な左上手投げ。
子ジャケが倒れ、コラノが後を追う。
軍配は西。
「コラノー」
両者中央で礼。
コラノが子ジャケの肩を抱いて観客に笑顔。
拍手が沸く。
両者が席に戻ると、花嫁の判定だ。
わかっていても判定だ。
第2夫人が花嫁の意見を聞き、子ジャケの所に、子ジャケ付いて行くが、夢心地か。
しかし、美しい花嫁が立ち上がるのを見て、感激の涙だー。
少しだけどわかるよ、その気持ち。
新郎新婦はゆっくりと俺の前に来る。
そうか、俺が領主だもんな。
「カカが助けに来なくて良かっただろ」
右手を差し出しながら言うと、タキの通訳を聞いた子ジャケが一瞬ビクリとするが、俺が笑いながら右手を出しているのを見て、膝をついて頭を下げる。
花嫁が少し驚いた顔で見てくるので、笑って子ジャケの頭を撫でてやる。
子ジャケ嗚咽、花嫁が背を撫でると更に嗚咽だ。
父ジャケも、スレンダー母も泣いている。
まあ、紆余曲折あったと言うところか。
タキにおめでとうと通訳させ、二人を北側の席に移動させる。
後は二人に任せる。
さて、ナナが花嫁席に座る。
皆の声なき声が聞こえる。
サラサと違う魅力で美しいからだ。小麦色の肌に真っ赤なバラが浮かび上がっている。
更に、おっぱいは領民最大だ。
「ユウキ様。真面目にやって下さいませ」
レンに怒られた。
レンも巫女なので、2番はレンが巫女役だ。
初めてだけど、緊張してないようだ。
「ひがしー、トリノー」
レンは冷たい感じの美声である。
どんどんオペレッタに似てくる感じ。
トリノはコラノの長男で、なかなかの美少年だ。
2年もしたら美形が約束されたレンとよく似合いそうだが、本人はタキが気になるらしい。
まあ、今はナナに釘付け状態みたいだがな。
「にしー、タルトー」
タルトはコラノから力水を受けると不敵に笑う。
コラノは呆れたように苦笑する。
何も言わないがわかり合える男友達とか、息子を預けられる友人とか、子供同士を結婚させる親とか、羨ましい関係である。
塩を撒いて仕切る。
タルトの腕の太さはトリノの2倍ぐらいに見える。半年の農作業を朝から晩まで続けてきた腕だ。
長男で少し甘やかされたトリノでは勝負にならない。
しかし、わかっていてもトリノも成人したのだから、頑張らなきゃならないのだ。
何しろ、あのおっぱいが待ってるのだ。
領民最大の、縦にも横にも揺れる、あの。
「ユウキ様」
レンが小声で言う。わかってるって。
本番だ。
「見合って。はっけよい、のこったー」
必死で出て行くトリノをタルトがドンと受け止める。攻めずに十分にまわしを取らせる。
こいつ、この前俺に遣られた通りやる気だな。
つまり、タルトは余裕だ。
俺のまねをしていると言うことは、相手の力を全部受け止める気だ。
まあ、それだけ実力差があると言うことだ。
このサル顔の親父は、農民になる決心をしてから、一皮剥けたのだ。
元々スルト族でも族長になっておかしくない男である。
それが腹を括って農業をやっているのだから、気迫ではかなわない。
やがて、トリノはワザをすべてつぶされ、力押しに出た。
それしかないのだが、若いっていいよね。
タルトも押しに出る。
疲れは見えない。
いつか、俺をぶん投げてやるとか決心してんだろうな。
順調に押しだし。
「タルトー」レンの勝ち名乗り。
観客のため息が聞こえるようだ。
二人とも中央で礼。
拍手。
トリノががっくり肩を落とすが、タルトが支え、背中を叩く。
花嫁の母が少しおかんむりか。
婿に花を持たせなさいかな。
トリノの手を掴んでナナの所に連れていく。
ナナが立ち上がると、少々気落ちしていた花婿に気合いが入る。
まあ、あのおっぱいを見たら仕方がないよね。
男の子だもんね。
ナナが笑顔で連れ立つ。
いい嫁になりそうだ。
レンが冷たい目で見てる。
「レンの声は涼やかでいいね。美しい声だったよ」
「練習いたしましたから」
こういう冷たい性格のやつって絶対美人になるから困るんだよね。
近寄りがたいが2倍になる感じ。
「ユウキ様。領主らしく出迎えを」
はいはい。
おしゃべり相手がオペレッタしかいなくなった時点で気づくべきだったな。
リーナさんに相談しとこう。
トリノは真っ赤になって花嫁を連れてくる。
花嫁、確かにキラキラしてるよね。
サラサが身内だと、美人とかわからなくなるか。
全然違うタイプだから、世界が変わるようなのか。
結婚してから恋をするのか。
羨ましい。
「ナナと一緒に歩いて行く決心は付いたか?」
「は、はい」
何だよ、通訳いらないのか。
随分勉強したんだな。
花嫁も少し驚いている。
原因は明らかだが、言わぬが花か。
「ナナは美しいな」
「はい」
赤い顔してるが、はっきり答える。
コラノより素直だ。
「ナナを守って行くんだぞ」
「はい」
レンの通訳なしで、ナナが少し赤くなる。
「私、お願いがあります」
ナナが言う。
「何かな」
「タルトを投げ飛ばして」
夫の敵討ち、父の傲慢を諫める? まあいいや。
「一度だけだよ」
そう言って二人を北側に座らせる。
「タルト」
俺が呼ぶとタルトはやっぱりか、という顔をする。
俺の性格をよく知っているのだ。
しかし、甘いぞ。
「コラノ」
コラノは間違いじゃないかという顔をし、タルトはしまった、という顔をする。
「花嫁がタルトを投げ飛ばして欲しいと言っている」
しぶしぶ水を飲むコラノだが、仕切りの後はいい顔をしている。
息子の花嫁の最初の願いだ。
無碍には出来ないし、意地も張らなくてはならないだろう。
伝統の一番は、白熱したものになり、観客は盛大に盛り上がった。
最後にはコラノがタルトを投げ飛ばし、花嫁を喜ばせた。
立ち上がる花嫁の胸の赤いバラが印象的だった。
25へ
馬鹿で、すみません。
ルビはふらない方針なのに、自動でルビになるなんて知らなかったんです。
でも、変換はAT○Kに任せてあるので、変な所は私の頭が悪いせいではありませんから。言い訳は見苦しいな。