23 隅田川国技館
23 隅田川国技館
夏には湘南で海水浴をした。
リーナさん以外、水着なんてないから凄い光景だった。
領民からナナとリリ、アンとルルネ、カズネとタバサが参加した。
俺の作った焼きそばは、不味いと評判になった。
スイカ祭りもした。
スイカ割りをしたり、スイカの早食い大会をやった。
優勝は子ジャケで、優勝商品は3日間の腹痛だった。
ブドウ狩りではワイン30樽を仕込んだ。
八さんが仕上げてくれたから、きっと美味くなるだろう。
そして秋、俺の領地は小麦が100石を越えた。
特筆すべきは八さんの実験で、現地産の赤米が3石と、3段目の飼料用トウモロコシが2回で40石取れたことだ。
今度はハニー種とひまわり、胡麻にも挑戦するという。
来年は陸稲ではなく水田にも挑戦したい。
タルト領でも小麦が4石、大豆が2石、ジャガイモが2石、サツマイモが5石収穫され、冬小麦は14石になる予定だ。
キャベツやタマネギ、ニンジンも大量に出来、料理にもレパートリーが増えそうだ。
タルト領のトイレは汲み取り式で、壺にためるようにしておいた。
それをリンゴ園とオレンジ園に撒くように頼んでいたのだが、子ジャケが嫌がらずに続けてくれていた為、少々酸っぱいオレンジと昔風の実が小さい、しかし立派なリンゴが出来た。
ラーマがマーマレードや肉用のオレンジソースを開発し、俺はリンゴの蜂蜜付けやアップルパイを沢山作った。
みんな幸せそうだった。
特にお風呂効果で美しくなった夫人たちは全員が妊娠していて、来年の春頃にはベビーブームが到来しそうだった。
(独身の叔母ジャケは除く)
息子や娘たちは栄養の為か一回り大きくなり、美しくなった。
勉強も進んでいる。
言語と農業関係だが。
タキは俺の秘書兼アドバイサーとして、レンは領地と領民の法的な専門家と領民の会話の先生として、ラーマは食糧管理と料理人として、俺を補佐するようになった。
もちろんリーナさんとオペレッタが、彼女たちをこうなるように育ててきたのだ。
タキは1石180キロを200キロに改めたいと提案した。
小麦の大体の収穫量がそれくらいで、芋類は220から250キロになっている。
畑がメートル法なのと、作物の比重の差で収穫量が大きく異なるのだ。
目安として、180キロを200キロにしても問題はない。
200キロ以下の時に、凶作指数が上がるだけだ。
俺は逆に、領民たちの身体が小さいから、食べる量は160キロ目安でも大丈夫じゃないかと提案したが、計算が面倒なのでタキ案が採用された。
これによって、1升は2L、2キロ、コップ一杯の水は200CCで、200gとなった。
目安なんだけどね。
俺は暫く1・8Lマスと2Lマスの二つを使っていて、間違うことたびたびだった。
領民で一番成長したのは、父ジャケだった。
彼はタルトや俺の指導で農作業は一通りこなし、鶏や猪の世話も上手く、卵や肉の量などは、彼の手に任せた方が効率が良かった。
他にも俺が家造りをしているのを観察し、見よう見まねで自分の家を建ててしまった。
タルト家、コラノ家を建てている間にだいぶ出来ていたので、仕上げを手伝うだけですんだ。
水場、調理場、トイレは共用にしたのだが、野菜洗い場に屋根が付いたり、トイレが一つ増えたりしたのは父ジャケの功績である。
今は炭焼きまで覚えたので、彼に任せて他の仕事に専念できた。
領地の橋は熊さんが改造してしまい、門には4輪のゲートが作られ、橋の向こう側にも門柱と閂の両開きが作られていた。
すべて銅線が張り巡らされているので視界は確保されている。
橋の向こう側の草地に四阿が建てられ、俺に面会に来た男は四阿で自分のネームプレート(木の板にカタカナ)を下げれば熊さんが連絡をくれることになっている。
俺が不在の時は巫女のどちらかが対応してくれる。
女たちは毎朝風呂に入りに来るがな。
まあ、四阿より峠の茶屋の方が似ているかも知れない。団子でも売るか。
新案の軽量樹脂屋根瓦を、
(八さんシート原料に石灰を混ぜて焼き固めたもの、シートと違いアルコールで混ぜ合わせ焼いて揮発させる。四角い板を片側くるっと輪っかにし、反対側は少しの反りを入れただけ)
焼いているときに、四阿を見てピンと来た。
早速八さんに相談して準備を進め、3日後の朝から熊さんを混ぜた3人で、リヤカーや大八車を資材満載にして現地に向かった。
毎朝恒例の『ウオー』が気に入った夫人たちが現れる前に出かけるのだ。
妊婦の趣味は良くわからん。
アンも恥ずかしいなら見ないでよ、もう。
隅田川の土俵は1年近く経つのに、未だ原型を留めていた。
タキを追ってカリモシとの戦闘をやめさせ、ラーマやコラノと知り合い、シャケの川親子の印象を改めた場所である。
タキ以外の知り合いを初めて持った場所とも言える。
縄張りして四本の柱を打つ。
それからが本番だ。
熊さんは土俵の土作り。
八さんは屋根作り。
俺は基礎と俵用に河原の小石と砂や土を集める。
どちらも仕上げまでは俺には出来ないので、土俵周りに排水溝を掘る。
八さんはもう屋根板を打ち付けている。
お昼前に、シャケ親子がやってきた。
言葉は通じないがやっている意味はわかるのだろう。
土篩い、土運び、土掘りを3人でやる。
途中、限界が来たので人間3人組は休憩を入れる。
お茶を出してやり、シャケドッグを食わせる。
何か二人でやりとりを始めるが、大体意味はわかる。
今年の鮭は未だ見えない。
シャケドッグをあるだけ出して、草地で寝転がる。
11月に入ろうかというのに暖かく気持ちいい。
冬と雨がなければ家など不要かも知れない。
目を開けるとラーマがいた。安心して目を閉じる。
目を開けるとラーマがいる。安心して目を閉じる。
いや、待て。ここは隅田川じゃなかったか。
センサーもここまでは感知出来ないだろう。
身動きしようとすると頭を止められた。
「もう暫く、休んでいてください」
「ラーマ。一人でこんな所に来たら駄目じゃないか」
「タルトとコラノに連れてきてもらいました」
「それでも、カカの襲撃でもあったらどうするんだよ」
「ご主人様が守って下さいます。違いますか」
ポスッ。後頭部が太股にはさまれる。
横を向きたいがどっちも太股状態だ。動けん。
「ラーマ、スカート穿いてるよね」
「さあ、どうでしょう」
「あのー、凄く拙い気がするんですが」
「私は平気です。むしろ、嬉しいです」
「この世界には、こうした行為はなかったのではないでしょうか」
「私が初めてとは言い切れませんが、ご主人様と二度目ですね」
いいや、あの時より過激だ。
もの凄く過激だ。
頭の天辺が触れてる場所はどこだと思ってるんだ。
しかも、目の前がおっぱいなんだぞ。
絶対二度目なんかじゃない。
「あの、どうすれば許してもらえるのでしょうか」
「アンと同じにして下さい」
意味がわかりません。俺、アンに何かした?
「アンは、妻で子供がいて二人目が出来ました。私もそうなりたいんです」
「つつつ、つまり、つつつ、妻になりたいと?」
「いいえ、私はご主人様の妻です。今度は母にして下さい」
「俺も、出来たらしたいんですが」
「じゃあ、して下さい」
「しかし、そう簡単にはいかないというか、障害とか垣根とか塀とか壁とかがございまして」
「知ってます。リーナ様からお聞きしました。遺伝子の乖離性? とかが偶然に依るものまで特定できないとか。難しいことはわからないのですが、子供がちゃんと出来るかわからないんですよね」
「そ、そうなんだよ。とっても危ないからね。作ってから失敗しましたじゃ困るんだ」
「それじゃあ、実験? と言うのをしましょう」
「だから、危ないかも知れないんだよ。子供だけでなくラーマだって不幸になるかも知れないなんて」
「でも、試してみないと分からないじゃないですか」
「失敗してからじゃ遅いんだって」
「もう、私じゃ駄目なんですか。私なら失敗しても何度でも頑張りますから」
「何でそんなに危険を冒してまで」
「わからないんですか。ご主人様を愛しているからに決まってるじゃないですか! 愛する人の子供を産みたがる女のどこがおかしいんですか! 失敗とか危険とか、そんなの普通です。4人子供を産んでも二人は育たない世界なんですよ! 危険なんて言ってたら誰も子供なんか産めないじゃないですかー。私にはご主人様しか子供を作る相手がいないと言うのに! 馬鹿。意気地無し。とーへんぼく。うわーん」
大泣きだ。どうしよう。
ラーマの涙は変な脳内物質の原因なのに。
ああ、見ない振りしてくれてる男たちの優しさが痛い。
カカ、いないのか。攻めて来いよ。攻めて来て下さい。
駄目か、駄目なのか。これがへたれ男の実態かー。
俺はラーマを抱っこすると、男たちに『また明日やるから』とジェスチャーでわびを入れる。
タルトは見ないで『早く行け』という態度で、コラノはひどい哀れみの目で、シャケ親子は見ない振りで送り出してくれた。
ラーマを抱っこしながら領地に帰るまでの間、俺が言えたのは『もう一度リーナさんに詳しく調べてもらうから』という約束だけであった。
ラーマは泣き疲れて眠ってしまったので、そっと部屋のベッドに寝かしてきた。一応風呂に入ってから、リーナ女神様の所へ。
トントン。
「入ってます」
「リーナさん、冗談はやめてよ。今の俺は言うなればブロークンハート状態なんだからさ。所謂、心臓病と同じなんだよ」
「あなたが悪いのは、頭よ。ラーマに泣かれたってどうしようも無いこともあるでしょ」
「ラーマに泣かれるのがどうしようも無いことなんだって」
「それなら、男気を見せればいいじゃない。いつもみたいに俺に任せとけー、ぶっ飛ばしてやるって」
「それが、ぶっ飛ばす相手が自分だからさ」
「死んでお詫びすれば?」
「ハラキリ?」
おもしろがってない、君たち。
「ラーマはアンを見て羨ましくなってしまったのね。自分がもっと若かったらと可能性を目の当たりにしたのよ。アンは二人目どころか五人ぐらい産めそうだから、何故自分には無いのかって。少しぐらい自分も幸せを味わっても良いんじゃないかって。まあ、不幸から助けられたのを忘れるぐらい幸せなのよ」
「ユーキにもっと甘えたい。不幸から救って!」
「オペレッタは不幸じゃないだろ」
「不幸。ユーキの子供産めない」
「別に俺以外でも産めないだろ」
「ほら、そこ、女心がわかってない」
「オペレッタちゃんに指摘されるぐらいに唐変木なのよ。自覚しなさい」
「そう言われても」
「子供を産みたいとユウキの子供を産みたいじゃ、意味がカミノテとカメノテぐらい違うわよ」
ハンドしても、ゴールだってか?
「せめてウサギとカメぐらいにしてよ」
「ウサギとカメは競争できるけど、カメノテは競争できるの?」
うーん、カメノテは走れそうもない。
海岸を移動するくらいは出来るのだろうか。
「そこでカメノテの考察をしてても、女心から離れていくだけよ」
そうだ。女心なのだ、問題は。
「とりあえず、子供を3人ぐらい作ってみるという解決策もあるわ」
「それって解決策とは言えないよね」
「じゃあ、上手く避妊してラーマとやりまくればいいわ。結果出来ませんでした。おしまい」
「ちょ、それは騙してるだけだよね。あと表現をもう少しオブラートに」
「ラーマとしまくる?」
「全然変わってない!」
「ラーマとはめ……」
「もうそこは良いから!」
「もう、注文が多いわね。ラーマとの相性を調べれば良いんでしょ」
「そんな感じで、お願いします」
「じゃあ、ユウキの子種を出して」
「へっ?」
「だから、精子よ。早く出して」
「そんな、ここで? 直ぐ出せるようなものでは無いのですが」
「何よ、男なのに精子も出せないの。それじゃラーマと子作りなんて、永遠に無理よ」
「いやそれなりの手順というか準備というか時間がかかるというか」
「ここの男たちは、ポンと出すわよ。遅くても30秒かしら」
いやいや、無理だって。
「ユーキの精子。見たい!」
「勝手に期待すんな」
「ケチ」
「別にケチとかじゃなくてな」
「毎朝、人妻の前であんなになってるんだから、直ぐに出せるでしょ」
「あんなになっても、簡単には出ません」
「もう、じゃあ、ここにラーマのお尻でもあればいいの?」
ちょっと、反応してしまった自分が悲しい。
「いや、そのですね」
「早くしないと、ラーマに言いつけるわよ」
「でも、その、あの、リーナさんのバカー」
走って出てきてしまった。精子がじゃないぞ。
結局、からかわれただけだった。
翌朝。
「ご主人様、昨日は申し訳ありませんでした」
朝から、うるうるのキラキラだよ、ラーマさん。
「俺の方こそごめん。気を遣わせて」
「いいえ、今朝早速リーナ様に呼ばれて調べるといわれました。ご主人様が頑張ってくれたお陰です」
「もう、調べたの?」
「はい。何だか口の中をこすられましたが」
「ああ、子供の相性の為に遺伝子を捕られたんだよ」
何だ脅かしやがって。
遺伝子なら普通の細胞でも調べられるんじゃないか。
「子供のですか。それならこっちの方が」
ぴら。
「ラーマ、めくらないで良いから」
「でも、女神様は調べるのに私のお尻が必要だとおっしゃってましたよ」
後ろでぴら。
「いや、今ので十分出せ…… ごほん。十分だからね」
「そうですか」
しょんぼりしないで。何でこの人は大人なのに子供っぽいのかな。
料理より先に羞恥心を教えるべきだったんだ。
翌日、隅田川国技館は完成した。
土俵には軽く樹脂をスプレーして、風雨に耐えられるようにした。
天幕みたいなのはないけど、菊の御紋の代わりに薔薇の紋章。
ラーマの胸に描いた鴇色のバラ。
八さんも良く覚えているよな。
リーナさんの入れ知恵かな。
うちの領地の一段目の奥の方、熊さんの見張り小屋の奥の方は、ノバラやハマナスが群生していて、トゲトゲが天然の要害になるのでそのままにしている。
6月から10月まで色々咲き誇って結構綺麗なんだ。
だから、バラはうちの領土の象徴でもおかしくないんだよね。
「ユウキ様、皆さん何やら話があるそうなのですが」
今日はタキを連れてきている。
「あとあと。これから大事な実験なんだ」
革のまわしを作ってきた。
パンツ型で簡易タイプ。
後ろで締め上げられるのでサイズも関係なく使える。
急ぎだったので色は茶色だけだけど。
タルトに付けてやる。
おお、毛皮の腰巻きよりずっと格好いいぞ。
次はコラノ、父ジャケ、子ジャケ、そして俺。
おお、何か大相撲になってきた。
観客は熊さんと八さんしかいないが。
女神様も見ているか。
ついでに髪を大銀杏は無理だから茶筅曲げにする。
コラノは長いからポニーテールみたいになってしまった。
そうだ木板に姿絵を、八さんに描いてもらおう。
八さんはするすると描いて南の梁に掲げていく。
虎裸埜、樽戸、子鮭ノ川、父鮭ノ川、四股名入りだ。
まわし姿だが特徴がずばり描かれているので漢字が読めない連中もわかったようだ。
感心したり、照れたりしているが嬉しそうだ。
よし、本番だ。
東にタルト、父ジャケ。
西に子ジャケ、コラノを座らせる。
俺はまわしを脱いでいつもどおり。
タキは北側で呼び出しと審判。
「ひがし、タルトー」
タルトが立ち上がった。
水を柄杓で飲み、塩をつかんで土俵に投げる。
「にしー、子ジャケのかわー」
子ジャケが立ち上がり、タルトのまねをする。
二人が仕切り線で一回仕切る。戻って本番。
「見合って、はっけよい、のこった!」
おお、子ジャケ突っ張りを覚えたな、
しかし、職人タルト、いなしながら四つに持って行く。
下手投げー、残した子ジャケの浴びせ倒し。
タルト前まわしを引いて残し、左上手投げー、だが子ジャケも残す。
こいつら練習してたな。
さて、子ジャケもまわしの意味に気づいたぞ。
タルト引かれる。
すかさず下手投げ、が返される。
下手の投げ合いだ。
だがタルトが土俵際に追い詰められる。
ああ、タルトが引いた。
そこを両手で突いて押し出し。
「子ジャケの川ー」
俺は軍配らしきものを西に上げる。
タキが勝ち名乗り。
まさかの番狂わせ。タルトが負けるとは思ってなかった。
タルト自身も少しビックリしている。
子ジャケはそのまま力水をさせる。
「ひがしー、父ジャケの川ー」
「にしー、コラノー」
子ジャケがコラノに水を渡す。何か声をかけたようだ。
塩を撒いて仕切り。
本番。
うわー、凄い熱戦。
小柄だがテクニックのコラノとパワーと体格で圧倒しながらも器用さを持つ父ジャケ。
絶対こいつら練習してるって。
四つになりお互いの息が荒い。
どちらが仕掛けるか、回復力の勝負か。
父ジャケが先に仕掛けた。
追い詰められるコラノ。
押し出しか、吊り出しか。
片足で粘るコラノが必死の外掛け。
父ジャケの軸足がかかり、後ろに倒れる。
軍配を西に上げると
「コラノー」
と、タキの勝ち名乗り。
おかしい、これじゃあ伝統の(?)タルト・コラノ戦が見られないじゃないか。
疲れているコラノをもどして、俺がまわしを着けて土俵に上がる。
タルトを呼ぶ。
タキに軍配を渡して行司をさせる。
練習なので、水や塩を省く。
タキに伝えてもらう。
しかし、タルトは本気モードだ。よしよし。
「はっけよい、のこった」
タキの行司で始める。
タルトの突っ張りを受け、前回よりだいぶ強くなったのを感じる。しかし、強引に四つに持ち込む。
タルトが十分にまわしを掴んだのを確認して右下手投げ、タルト予期していたのか必死にこらえるが、それが徒になるのです。左上手投げで転がった。
悔しがるタルト。
勝てるとは思っていなかっただろうが、もう少し、良い勝負になると思ってたのだろう。
タキは名乗りはしないが、軍配だけ上げる。
力が余ってそうなので、タルトにもう一度付き合わせる。
2番、3番、4番、5番、6番でタルトの息が上がった。
タルトをもどして、今度は父ジャケを呼ぶ。
緊張しているのがわかる。
最初は軽くひねる。
2番、3番、4番、5番、6番、7番目はもう握力が限界のようだ。
しかし、ワザを覚えればラシにも勝てそうだ。
恐るべしシャケパワー。
さて、子ジャケとコラノが唖然としているので、まわしを外して、行司に戻る。
タキに頼んで子ジャケを東に移す。
「ひがしー、子ジャケの川ー」
「にしー、コラノー」
優勝決定戦だ。
子ジャケはフーフー荒い息をしている。
平静になろうと努力しているようだ。
一方のコラノは何か複雑そうだ。
どう仕掛けるか考えているのだろう。
水、塩、仕切り、そして塩を撒くと本番だ。
「はっけよい、のこった」
俺のかけ声で両者凄い飛び出しだ。
真っ赤な顔で押しまくる子ジャケ。
コラノは双差しだ。
しかし、コラノが下がる下がる下がるー。
そのまま押し出して子ジャケの勝ち。
「子ジャケの川ー」タキの勝ち名乗り。
八さんに渡された筵の化粧まわしを子ジャケに着けてやる。
そのまま子ジャケを中央に立たせると、下からみんなで拍手する。
子ジャケは照れて、四方に頭を下げまくった。
八さんは南の梁の子ジャケの姿絵を化粧まわし付きに描き直し、東の梁に掛け直した。
第一回優勝と書かれていた。
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