18 儀式
18 儀式
「ユウキ様、朝でございます。起きて下さいませ」
「うーん、何時」
「もう、7時45分でございますよ。起きて下さいませ」
一番おしゃべりなレンは、一番丁寧な話し方をする。
通訳としての能力こそタキには及ばないものの、リーナさんとオペレッタの厳しい指導を一番マスターしていると思う。
何故か時代がかった話し方だけど。
「今朝は大事な儀式がございます。ユウキ様がお起きにならないと始まりませんわ」
ぼーっとする頭で上半身を起こし伸びとあくびをする。
「儀式ってなにかな」
「新たな領民の受け入れでございます」
「タルトなら毎日一緒に仕事してるし、家族も頑張っているよ」
「もっと大事なものでございますよ。さあ、時間がございません」
レンが差し出すパンツを受け取ると、朝風呂に向かう。
風呂にはラーマと復活したタキが既に来ていた。
「おはようタキ、ラーマ」
「おはようございます、ユウキ様」
「おはようございます、ご主人様」
二人とも湯船から一度出てきちんと挨拶する。
リーナさんの教育の賜物だが、風呂場ではやり過ぎのような気がする。
しかし、日本語が通じるというのは楽でいい。
「湯冷めするから、湯船にちゃんと入って」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとうございます。失礼します」
シャワーを浴び、毎朝恒例の『うおー』をしても見ないふりをしてくれる。
実際はチラ見して赤くなっているが、俯いて見てなかったことになっているようだ。
俺はこれをしないと目が覚めず、あれも終わらないのでやめられない。
女性陣が必ず朝風呂に入ってくるので、もはや隠しようがないのだ。
シャワーを浴びながら歯を磨くのもやめられない習慣になっていた。
途中から湯船で磨くのも癖になっていた。
タキもラーマも湯船で磨いている。
衛生的だが「不潔!」とか言われそうな光景である。
「ユウキ様。連れて参りましたわ」
裸のレンがタルトの下の娘を連れて入ってきた。
何か、凄く張り切っている。
そのまま、シャワーを一緒に浴びてる。
頭を軽く洗ってやっているようだ。
お姉さんしてるみたいで頬笑ましい。
「儀式、しなきゃいけない?」
一応、聞くだけ聞いてみた。
「当たり前ですわ。ユウキ様の領地内に入れてもらい、女神様たちから直に言葉を学ぶのでございます。領民とは言え儀式を受け、身を綺麗にするのは何よりも大切でございますわ」
「でもなあ、毎回俺がやらなくても」
「ユウキ様から授かる名誉なのでございます。私たちもそうでございました。今でも誇りに思いますわ。仮にユウキ様に磨かれないうちに女神様にお会いするようなことになれば、死んでも消えない汚点を残すことになるでございましょう。ユウキ様に磨かれ、女神様にお声をかけられれば、きっと、きっと、この子にとって生涯忘れ得ない経験となり、誇りに思うことでございましょう」
レン、芝居がかってない?
「そうかなあ」
「そうでございます。タキもラーマもそうでしたよね?」
「確かに女神様にそのままは、考えたくないですね」
とラーマ。
「その通りです…… 」
と何だか恥ずかしそうにするタキ。
何故か儀式が大好きなオペレッタの洗脳教育のような気がするのだが。
前時代的な宗教か、初夜権を主張する狂った領主か。
魔女かあいつは。
「はい、準備は整いました。ユウキ様、お願いいたしますわ」
はいはい、やればいいんでしょ。どうせハサミは誰も使えないしな。
(今でも3人の髪は俺が定期的にカットしているのだ)
しかし、3ヶ月以上磨いてきた3人と比べると、やっぱり凄い状態だよな。
「ユウキ様、まずは命名をお願いいたします」
命名ではないんだよね。俺が発音できないだけなんだ。
「リャィリャァ」
うーん、「リャリャ」か「リリャ」にしか聞こえない。
フランス語で『シルブプレ』とか『セシボン』とかが実は3つの単語で、しかも中には色んな母音や子音が混ざっているのを知っていると、この感覚はわかってもらえるかも知れない。
しかも目上とか目下とかで母音が変化するらしい。
タキは俺には『タァキィ』なのだが『タァキィゥ』や『タラキュゥ』になったりするらしい。
俺が決めた名前は、あだ名や愛称みたいな扱いだったが、今では名誉称号に変化している。
カリモシ、スルト、タンゴなどとお偉いさんを呼んでしまったからな。
「リリ」
「リリ?」
「うん、リリ」
レンがリリを椅子に座らせ、何やら色々教えている。
張り切って見えるのはお姉さんだからだろう。
いつもは最年少だからな。
でも、胸は同じぐらいだぞ。
まず、シャンプーを2回。
1回目は泡立たないが満遍なく広げ、2回目は頭皮から汚れを落とすようにもみ洗いし、固まっているところもほぐすように洗う。
一度ブラシを入れ引っかからないのでリンスする。
肩までの黒髪ストレートだ。
前髪を眉のところで切りそろえ、後ろも短めにおかっぱにする。
洗顔して良く洗い流し、軽くボディー洗いをして湯船に入れる。
自分を洗い終えたレンが一緒に入って何か話している。
その間に自分の頭を洗いボディーも念入りに洗ってしまう。
タキとラーマは足先を念入りに洗っている。
土との生活は足に汚れが貯まりやすい。
江戸時代に下女が足を洗ってくれる光景が普通にあるのが理解できる。
ここのところタルト領で土まみれにして帰ってくるとラーマやレンが足先を洗いに来たりする。
スニーカーで出かけると土が半端なく入って来るのだ。
タルトや夫人たちには麦わら製の八さんジカタビを使わせているが、俺も作ってもらおうかな。
さて、リリを上がらせ念入りにボディを洗う。
色黒と言うより小麦色という感じになったので満足すると、タキが泡立てたスポンジをよこす。
ああ、やっぱりやらないといけないのね。
レンはリリを座らせると何かを言い、一歩引いてタキやラーマと並ぶ。
ぱかっと両脚を開いて涙目のリリを、念入りに洗ってあげた。
タルト家建設を進めていると、連日の土篩いで泥だらけになったタルトが飛んできた。
最初の畑は第1区と呼ばれ、半分は草地だったが、夜中に八さんと熊さんが木を引っこ抜き材木と炭の原料に変えて行く。
草は刈られ堆肥の元にしてある。
既にリンゴ街道からの通路も貯水池も、木が抜かれている。
お陰で俺は建築、タルトは土作りに専念できている。
そのタルトが何かを伝えて来るのだが、通訳がいないのでわからない。
様子からすると良い話みたいだ。
手を引っ張られ、ログハウスへ行くとコラノがいた。
タルトとコラノは抱き合って再会を喜んでいる。
「オペレッタ」
「何」
「タキをログハウスに寄越してくれ」
「了解」
タキが来るまで休憩することにした。
タルトとコラノはこんなに仲良かったのかと眺めていると、やがてタルト夫人たちが現れ、コラノの奥さん三人と長男、長女、次女、三女、に第三夫人に抱かれた赤ん坊が現れた。
どうやら、水汲み場にいたようだ。
タルトは俺の所に来て、コラノを挨拶させると早速タルト領を見せて回るようだ。
俺が手で行けと振ると喜んで二人で出かけていった。
やがてタキが来たが、俺が誰の通訳を頼むか悩んでいるとタルト第一夫人が提案してきた。
「何か甘いものを食べさせたい」
銅製のフライパンでクレープを焼き、蜂蜜を片面に軽く塗って四つ折りにして食べさせると、納得してくれたので、第一夫人と第二夫人に共同で作らせ、監督にあたった。
最初のうちは横穴から蜂蜜が漏れてベタベタになったりもしたが、何枚も焼いているうちに出来が良くなってきた。
コラノの第一夫人や第二夫人も参加するようになると、俺のやることは(裸の観賞以外)なくなった。
どうでもいいけど鑑賞って漢字、幾つもあって難しすぎるよね。
芸術と自然と本質で字が違うってさ、女の裸は芸術か自然か本質かわからないじゃない。
何とか統一してくれない、引っかけ問題ばかり考えてないでさあ。
どうせこんな漢字書けたって、ろくな官僚は生まれないって。
パイが3でいいとか出来るなら鑑賞も一つで良いとかどれでもいいとか出来ると思うんだよね。
ねえ、関係者の人たち。
ちなみにパイは2だぞ
頭が女の裸に浸食され過ぎたようだ。
現実逃避してしまった。
関係各位と無関係各位にお詫びする。
申し訳ない。
時々、ログハウスの中からタルトの長女が覗き見ているので、タキに具合でも悪いのか聞きに行かせた。
知り合いだったよね。
あんなに大きく無かったような気がするけど。
「明日まで寝てれば治ります」
タキは恥ずかしそうにそう報告すると、その後挙動不審になっていった。
暫く観察していると、コラノの長男が熱い視線でタキを見つめているので、何となく察して黙っていることにした。
タキは美人だからな。
タルトとコラノが戻ってきたので話し合いの場になった。
夫人や子供たちと離れたところで、タキに通訳させる。
「スルトはカカが独立し、モリトは危なそうだ」
途中、コラノは様子を見る機会があったらしい。
カカはシャケの川一族を連れてスルト族から独立し、西の方に向かったらしい。
「カカがいなくなって結束できるんじゃないのか」
「いや、モリトは年寄りの言うことを聞かん。スルトはもう孫に頼っての旅だから何の力もないが、経験はモリトより上だ。意見を聞くべきだったんだ。だが、パルタを敵視し、スルトにも警戒している。あれじゃ、部族が動揺してまとまらない」
タルトも色々鬱憤が溜まってそうだ。
「俺が見てきたのもそんな感じだった。パルタもそのうちタルトの所に来るだろう」
「どういう意味だ。というかコラノも独立したのか」
「コラノは俺と一緒にあんたの所に来る予定だった」
「遅れてすまなかった」
コラノも領民になりに来たってこと?
「でも、コラノはカリモシの跡取りだろ。そんなことカリモシが認めるのか」
「俺の母が死んでから、カリモシが期待するのは母の妹が産んだ弟たちだ。下の弟は、この前の相撲でスルトから嫁をもらったばかりだが、あいつならカリモシを率いていける。ラシもあいつを気に入ってるから大丈夫だろう。俺は上の弟と仲が悪く居心地が悪い。それでタルトと話したんだ。ユウキは凄いと。ここに来れば新しい道がきっと見つかる」
頭が痛くなってきた。
タルト領の開発だって未だ始まったばかりなのだ。
自分の領地も来月には作付けが始まり、なかなか時間が空かなくなる。
「コラノと二人で作るのは駄目か。全部二人でわけることにすれば」
「簡単に言うけど、共同統治ってのは難しいものなんだ。ちょっとしたことでけんか別れになる。争いは禁止なんだぞ」
「俺はコラノと争ったりしない」
「俺もだ」
「だから、そう簡単なんじゃないんだよ。土地は部族と同じで族長は二人に出来ないんだ」
「じゃあタルト族長で良い」
ああ、どうしたら、こいつらを説得できるんだ。
「今年はコラノを小作農にしましょう。どうせ二人を別々に育てるなんて出来ないのだから、一緒にたっぷり勉強してもらいましょう。出来が良かったらコラノ領を開発するってことで良いじゃない」
リーナさんが助け船を出してくれる。
つまり俺は難破してるってことか。
「どうしたんだ。ユウキ」
「今、女神様と話をしている。時々ああなる」
タルトが見透かしたように言う。
当たってるけどな。
俺は立ち上がり歩き回った。
「自作も小作もまだ理解出来ないよ。後でもめることにならない?」
「もめたら出て行くルールなんだから大丈夫よ」
「でもなあ、やっと個人所有の概念が出来はじめた所なのに」
「その個人所有がもめる元なんでしょ。理解出来ないうちに独立させればいいのよ。どうせコラノに帰れなんて言えないんだから、今年は両方養うつもりで行きましょう」
「しかし、何とかなあ」
「領主なんでしょユウキは、きっちり領主の裁定をつけてきなさい」
小石を10個拾って戻る。
「土地はタルトのもの。それは変わらない。しかし、コラノが手伝うのは認める。タルトとコラノが上手くできたら、新しい土地をコラノの土地とする。その時はタルトが手伝う。いいか、これは女神様が決めたことだ」
「俺たちはそれで良い」
「文句は言わない」
「では分け方だが、10出来たら1は税で取られる」
10個の石を並べて説明する。
「税?」
「女神様に捧げる分だ」
「残り9のうち、5はタルトの分、4がコラノの分だ」
「そんなにもらったらタルトが困らないのか」
「コラノが手伝えばタルトの土地が早く出来る。早く出来ればいっぱい食べられる。そしてコラノの土地を作るときにタルトが手伝い、コラノが4渡せば困らない」
理解より、仕事を覚えてもらう方が先だな。
まずは、一つ作ってみせることだ。
「ユウキ様。起きて下さい」
「何時だ、タキ」
「もう、8時になります」
「そうか。起きないとなあ」
タキがパンツを出してきた。
顔が真っ赤である。
恥ずかしいなら出さなきゃ良いのに。
「そう言えばタキ気づいたか」
「何のことですか?」
「コラノの息子が熱心にお前を見ていただろ」
「えっ?」
「タキも熱心に見られて、赤くなってたじゃないか」
タキがパンツをつかんで離さない。
ちょっとタキさん離してくれないと、受け取れませんよ。
「そんなこと……」
「何だよ、動揺してるのか。あいつもコラノの息子だからきっと良い奴だぞ。今日も呼んでやろうか」
「ち、違います。ユウキ様のばかー」
あれ、パンツ持ったまま逃げてっちゃったぞ。
仕方がない。自分で出そう。
風呂に行って愕然とした。
レンの隣におっぱいがいるのだ。
タルトの長女だ。
ラーマよりも遥かに大きなおっぱいを洗うのか。
儀式か、儀式なのか。
洗い甲斐のありそうなのを洗わないといけないのか。
いかん、頭が回っていない。
それとも錯乱か。
とりあえず、歯を磨こう。
歯ブラシを取るとレンが長女を湯船に連れて行く。
シャワーを浴びながら歯ブラシし、頭が少し冴えてくると、ウオーとやってしまった。
タキは泣きそうなのか怒っているのか恥じ入っているのかわからない顔をしている。
ラーマは見ていませんよ、という態度で流してくれた。
レンは長女を宥めているようだ。
すみません、習慣なので。
ていうか、朝はいつもこうなんだからさ。
みんなで確認しないでよ。
とりあえず湯船に入って歯磨きを流す。
長女が逃げるようにビクつくのが悲しい。
やがてレンが長女を湯船から上げると、定位置に座らせた。
俯く長女に何やら説明している。
何かこれって、嫌々お殿様に夜伽を命じられた下働きに来ている娘みたいな感じになってない。
「ユウキ様」
はいはい、儀式ね。
オペレッタが最近大人しいのは、これを予想してたからだね。
何しろコラノには、娘が3人もいたからなあ。
きっと毎日お祭り状態のオペレッタの前で、リーナさんは渋い顔してるんだろうな。
今晩、キスしに行っちゃおうかな。
いや、真面目にやろう。
これは、ぎ、儀式なんだからね。
「まずは命名をお願いします」
「ニャーニャ」
うーん、ニャーニャとしか聞こえない。妹はリリだったか?
「ナナ」
「ナャナ」
「ナナ」
「ユキさま」
「ユウキ」
「ユウキさま」
レンがシャンプーを取ってくれる。
鏡で目を閉じているのを確認し一回目。
代謝が高いお年頃だから髪が重たく感じる。
2回目でも少し足りずに3回流す。
黒髪に小麦色の肌は、妹と同じだな。
リンスして柔らかく揉んでいく。
流さずに軽くブラシですいていくと、まっすぐな感じになってきた。
洗い流すと、ラーマからハサミを渡される。
本当に儀式っぽいなあ。
真面目にいこう。
この前髪にハサミを入れるのを失敗すると、大体上手くいかない。
慎重に大胆に。
はねそうな髪だから、妹よりも少し長めにカットする。
ふー、一度流して洗顔、流して次はボディーって、この子立ち上がれない? 湯あたり? 緊張? とりあえず顔だけ流さないと目が開かないよね。
抱っこしてシャワーを浴びせる。
良く流して、顔をタオルで拭う。
タキが横向いている。
どこか気に入らなかった?
「レン、大丈夫か聞いてくれ」
「大丈夫でございます。緊張が解けたのですわ」
「立ち上がるように言って」
レンが話しかけると大丈夫なようだ。
タキがスポンジを渡してくれる。
手が震えているぞ、大丈夫なのか。
ラーマが軽く首を振る。
どういう意味だろう。
ボディー洗いを一度で済ます為、念入りにこする。
肌の張りというのか抵抗感が違う。
圧の高いゴムボールみたい。
柔らかいのに反発する感じ。
しかし、こんな大きなおっぱいを洗うのは初めてなんですけど。
でも、まだ子供なんだよな。
男は馬鹿みたいに巨乳とか騒ぐけど、これ以上大きいとブラのない世界では大変だろうな。
どうすんだろう。
ざっと流すと綺麗になってる。
少し赤くなってるが大丈夫だろう。
スポンジをゆすぐと、タキが新しいのを渡してくる。
受け取ってタキを見ると一筋の涙が、ああ、またしても出て行った。
ため息つくと、既に長女は涙目で俺を見ながら足を開いてるー。
大丈夫だよ。
背中こするみたいに強くはしないからね。
優しく洗って、後はレンに任せる。
19へ
いつも馬鹿な話におつきあい下さり、ありがとうございます。
異文化なので、公衆衛生です。お間違えのなきよう。
ああ、犬耳や猫耳にしたかった。