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夢の処女惑星  作者: 菊茶
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11 食品加工

 11 食品加工




 それから1週間、川辺で鮭大会である。

 鮭は毎日、恐ろしいほどの数が遡上してくる。

 人間たちが捕れるだけ捕っても、全体的には殆ど影響がないほどの数だった。

 そして、部族の者たちは恐ろしいほど食べるのだった。

 親の敵か何かのようである。


 お陰で2つの部族は、争うことよりも目の前の栄養を選んだようだ。

 食べることが最優先のようで、食べられるのなら争う必要は無いようだった。

 毎日、捕れるだけ捕って、焼けるだけ焼いて、食べられるだけ食べている。

 きっと、今年最大の収獲で、今年最後の獲物になるのだろう。


 彼らがどうやって鮭を保存するのか興味はあったが、俺も単なる好奇心からだけで、この好機を逃すわけにはいかなかった。

 できるだけ保存食を作っておきたかったのだ。

 夜中や明け方に上流で鮭をこっそりと捕り、熊さんたちを使って領地まで鮭を運んだ。


 そして、領地で八さんの知恵も借りながら、塩漬け、日干し、燻製、フレーク、瓶詰、ジャーキーと考えられるだけの保存食を作った。

 缶詰がまだ不可能なので、ガラス質を強くした半透明の壺と、樹脂コーティングした木蓋の栓で、一種の瓶詰めにしてみた。

 缶詰と同等の保存効果があると、八さんが太鼓判を押す程のものなので、鮭缶が食べられそうだ。(鮭ビンだけどね)

 ほぐした身を乾燥させ、シャケフレークやシャケジャーキーにして瓶詰めにしてみた。


 壺や瓶の開口部を統一するというアイデアを出してきたのも八さんだった。

 蓋や栓が、共通で使用できる利点は大きい。念のための針金の蓋抑えも共用にできた。

 そのため、大きいものほど壺に近い形状になり、小さくなると広口瓶に似てきた。


 八さんは、独自にオイルサーモンにも挑戦していた。


「新巻はうめえが日持ちがねぇ」


 などと言い出す八さんは、いったい誰が作ったんだろうか。


「祐介は、掘り出し物を見つけたと騒いでいたわよ」


 というのがリーナさん情報である。


 そのリーナさんは、鰹節ならぬ鮭節というのがあるとかいってカビを研究しているが、今のところ上手くはいかないらしい。


 俺は、桶と塩でイクラ作りをして、両部族から絶賛されたりした。(主に酒飲みたちで、一部の子供たちの口には合わないようだった。ご飯がないからだろう)


 昼間は、両陣営の監視と手伝い。

 夜は、独自の漁と食品加工と、忙しく過ごしていた。

 五日目には、北森街道が直ぐ近くまで延びたので、鮭の運搬は八さんや熊さんに任せられるようになった。

 スルト族(スルトが族長なので、そう呼ぶ。もう一つは当然カリモシ族だ)が、リンゴ園に戻ることになれば、新道路に驚くかもしれない。


 そうだ。

 両陣営に大漁の鮭を与えて、皆がつかみ取り大会に夢中になっている隙に、俺がイクラ作りや塩鮭作りに挑戦していると、例の白髪混じりのおばあさんがあまりに熱心に観察しているので、助手に採用してみた。


 銅製の出刃包丁を渡し、テーブルの向かいで魚さばきをまねさせる。

 半日もすると彼女の方が腕は上になってしまった。

 内臓をきれいに抜くのも、エラを取るのも、塩をすり込むのも、三枚に下ろすのも、切り身にするのも直ぐにマスターしてしまった。

 悔しいので、刺身や包丁研ぎもやってみたが完敗だった。


 特製簡易コンロで石焼きソテーを教えると、俺より焼き加減が上手で微妙に美味い。

 族長たちに食わせると、やっぱり俺のより美味いと絶賛しやがった。

 それからは俺のほうが助手みたいで、精々力が必要なイクラ作りぐらいしか彼女に勝てるものが無くなってしまった。


 まあ、塩鮭作りが進むから嬉しいけど。

 いつの間にか、おばさんや妙齢の女たちが彼女の部下にとして現れたので、塩のすり込みや、3日つけた鮭の塩抜き後の陰干し、開いての天日干しなどの実験を手伝ってもらった。

 夕方、鮭漁に励んでいたタキが様子を見に来てびっくりしていた。


 この人はタキのお母さんなのだそうだ。


 俺もびっくりだ。

 おばあさんじゃなかったし。


 髪をわけるとかなり若い何てもんじゃない、近所の女子大生のお姉さんレベルである。

 薄汚れていても、美人だとわかるから、凄い美人だろう。

 しかも、元はカリモシ族出身だったらしい。

 それで髪が白髪ぽいのだ。

 あちらには赤髪や砂髪、栗色や金に近い感じの髪がスルト族より多い。

 美形も多いと感じる。

 色白の方が何かと有利だからな。


 カリモシ族では鮭は女の仕事の基本らしく、それでこんなに腕がいいんだと納得した。


 タキが鮭に目の色を変えても仕方がないよね。


 旦那(タキの父)が死んでからは、カリモシ族出身ということで村八分の日々だったという。

 今回の両部族の友好関係と、今日の料理に対する両部族長の絶賛により、一部の嫉妬を除いて彼女の評価はうなぎ登りとなり、カリモシ族の方では大絶賛となったそうだ。


 さすがはカリモシ出身の女だってことだろう。


(向こうに帰ることにならないよね)


 この人の名は『ィリァャァミィャァ』とかいう。

 今までで一番難しい発音で、色々と試してみたのだが、タキと二人で首をかしげるばかりである。

 最後はめんどくさくなって『ラーマ』でと、殆ど強引に決めてしまった。


「ラーマは、一流の料理人の素質がある」

「すごい、すごい」


 今までのラーマの立場が不満だったタキは、大喜びした。


 ラーマは、鮭の頭と骨だけ使った吸い物に白子を浮かべて白子汁(俺の命名)を作りだし、まわりの女性たちを唖然とさせたりした。

 本当に美味い。


 俺は、その汁にイクラをのせて、ラーマとタキだけに食べさせて親子を驚かせたが、つまらない男の意地だった。

 でも一勝ね。


 しかし次の日には、それがカリモシ族に伝わっていて、ラーマ汁という名前になっていたらしい。

 ラーマがひどく恐縮していたが、良かったね(通訳、タキ)と言ってあげると娘譲りって変だな、さすがこの娘の母という感じで、タキとよく似たいい笑顔をしてくれた。


 ちょっとドキッとしたのは、タキには内緒にしとこう。


 そんなこんなで、鮭の遡上も終わりが見えた頃、両族長に呼び出された。タキを連れて行く。


 彼らの相談は種族の将来のことだった。


 友好関係はいいのだが、一緒にはなれないという。


「共同で狩りを行うのは良いとしても、お互いの行動範囲までは合わせられん。一方の狩り場で十分に獲物が得られても、もう一方の狩り場までまわる時間がない。両部族とも十分に広い狩り場を持っているのでな」


 更に、狩り場を合わせても、不作の年に当たると内紛して殺し合いになる可能性があるというのだ。


 今年も鮭の遡上回数が少ないという。


 秋に一回から二回、冬場に一回と多いときには三回あるが、今年は一回だけらしい。

 しかも北の二つの川では、僅かしか遡上がなかった。


「鮭と、鮭に似たマスの遡上もあるの。ウナギやアユも遡上するけど、サケマスは七年から八年で回帰するから外れの年もあり得るわ」


 リーナさんが解説してくれる。


 本来スルト族はもっと人数が多かったらしい。

 流行病で大分人数を減らしたのだ。

 小さな子供が少ないのは、それが原因なのだろう。

 動物もだいぶ死んだらしい。

 動物の影が、植物の豊富さに比例していないのもそれが原因なのか。


「島国は、あまりに個体数が減るとなかなか戻りにくいの」


 リーナさんは、そう言っていた。


 族長たちの悩みは部族間の婚姻だった。

 血が濃くなるのは、スルト族のように人数を減らすと弊害が出るのだ。

 それはカリモシ族でも懸念される。

 この好機に、婚姻を両族間で取り交わしたいらしい。

 勿論、嫁取りである。


 それで、相談は二つあった。


 要約すれば、近親婚をどのように禁止するかと、両族の結婚に賛否が割れるのをどう防ぐかということだ。


 近親婚については、俺の答えは簡単だった。


 『氏または姓』を作ることだ。


 子孫は父の姓を必ず受け継ぐことにする。

 スルトの子孫はずっと『何とか・スルト』と名乗らせる。

 カリモシの子孫は全部『何とか・カリモシ』になり、男も女もすべて一緒である。

 そうした血縁で支族を形成して、同姓の者の結婚は禁止する。

 カリモシは、タキが汗かきながらの説明を聞いて、


「しかし、ずっと下の子孫の中には同姓での結婚を望む者が出てくるかもしれない」


 と、もっともな懸念を表明する。


 しかし、その時は族長の判断で新たな姓を与えることにすればいい。

 族長が十分に血が離れたと判断すれば許可できる。

 これは族長の権限の強化にも繋がるかもしれない。


「ズルしなければね」


 これはリーナさんの見解。


「ついでに、今回のように別の部族と婚姻を果たした者は、新しい姓を与えることにするのなんかいいんじゃないか?」


 新たな血を持つ支族長という感じなら、なり手も多いのではないかと思う。


「今後、他の部族との交流にも効果があるかもしれないし、戦争ばかりしてても部族の発展は望めないと思うぞ。支族を増やして族長の配下を増やして行けばいいんじゃないか」


 人は同族を強化したがるが、同族で集まると血が濃くなり弱体化する。

 そうなってから新たな血を入れても手遅れになるのが普通なのに、大体権力者や金持ちは寄り集まって家柄がどうのと始める。

 まあ、弱体化した方がいいのか。

 源氏も平家もいつかは滅ぶのだ。


 タキは頭をフルに使って通訳している。

 シャケパワーで乗り切れ。


 大筋で了承され、明日にでも支族制度の発表となったが、その場で婚姻も決めていきたいという。


「女が選ぶというのは、どうだろう」

「そんな前例はないのだが」

「そうだ、勝手なことばかりされてしまう」

「いいや、婚姻の命令は族長が出す。花婿も用意してやるんだよ。ただし、相手を選ぶのは花嫁の権利にする」


 カリモシもスルトも理解出来ないようだ。


「カリモシは花嫁を用意して、スルトは花婿を用意するんだ。その中から気に入ったものと婚姻できるようにする。スルトの花嫁の場合はカリモシが花婿を用意するんだ」


 婚姻を決めるのは族長だが、相手を選ぶのは本人、それも女性側が選べることにする。


「花嫁を出したくない、反対派は花婿と向き合ってもらうさ」


 カリモシもスルトも目を白黒させているようだった。

 だが、俺に任せろ、というと少し興味が湧いたようだ。


 婚姻を命令するのは族長であることは変わらない。


 婚姻反対派も、本人が嫁ぎたいといい、族長が認めるのなら反対はできない。

 そうなれば、族長たちのメンツは保たれるという事だろう。


 まあ、俺の考えは、簡単な集団見合いだ。


 このあたりでタキの機能は切れてしまったので、族長二人に「明日までに結婚させたい奴を選んでおけ」とだけ伝えて終わりにした。


 領地に帰りたかったが、タキが情報を整理したいとぐずったしラーマが心配して離れないので、八さんに色々頼むことになった。

 その夜、毛皮の上で寝る男ども、干し草や下草の多い場所で寝る女どもからなるべく離れたところで、タキに腕を取られ、ラーマに背中にくっつかれた母娘サンドイッチ状態で寝ることになった。


 何、この天国で地獄のような状態。


 しかし、二人とも異常興奮と疲労が重なっていたので、リーナさんもオペレッタも仕方がないと思ってくれたようだった。

 朝には、いつの間にかラーマを抱いて寝ていたので、タキにもの凄く怒られました。


 しかし、サバイバル訓練で野宿は得意だと思ったが、この二人は野宿しかしたことないんだろうな。


 凄いよな全裸で野宿って、地球にいた様々なサバイバルの鬼教官たちでも思い付かないと思う。


 朝から両部族の婚姻のために、舞台準備をした。


 硬めの土の場所に一本の丸太を打ち込む。

 直径10センチくらいの奴だ。

 タキに丸太を左手につかませ両手を広げさせる。

 大体120センチぐらいだろう。

 そのタキの右手を俺が左手でつかんで、右手で持った木の枝を丸太から2mちょっと離れた地面をこすりながらぐるりと回る。

 念のため何回か回る。


 まあ人間コンパスである。

 円が描けたらシャベル(大竹を半分に割って斜めに切って作った細身のシャベルだったが、結構使えた)で円の外側を掘って幅30センチ、深さ25センチぐらいの溝を作っていく。


 直径4mと少しの簡単な土俵である。


 たわらが無いから、土俵の端は崩れやすいが、そこは勘弁してもらおう。

 土俵の縁は良く踏み固めてから石灰で白くした。

 観客にわかりやすいし。

 中央に対戦者の仕切り線2本(正式名称は知らない)を引き、中心の丸太を抜いて穴を埋める。


 完成した土俵で、タキと模擬戦をした。

 タキは弱すぎて参考にならなかったが、ルールは理解したらしく、本番前のルール説明は任せようと思った。


 清めの塩と水の壺も用意した。

 仕切りも一回入れた方が、いきなり勝負より良さそうだ。

 花嫁が観察する時間もあった方がいいだろう。


 相撲は神に見てもらう競技だと伝えたし、仕切り前に名乗りをさせよう。

 俺には名前も発音もわからんが、手順はタキに覚えさせられるし、相手の名乗りを他の部族連中も覚えてくれるからいいだろう。

 好都合である。


 殴る、蹴る、噛みつく、髪を引っ張るは、反則負け。

 コブシを握らない張り手はOK。

 相手を転ばせる為の、足攻撃もOK。

 同体は引き分け、やり直しもあり。

 タキに色々なルールを覚えさせる。


 午前中、支族の発表、婚姻の準備、明日の出発などを説明された両部族は、支度と後片付けを終え、徐々に会場に現れた。

 土俵の北側に部族長たちを座らせ、東側にスルト族、西側にカリモシ族を座らせた。

 南側には花嫁候補だが、まだ準備が整っていないようだった。

 俺とタキは、土俵の中央に立ち、ルールの説明を行った。


 しかし、この星にはスポーツは当然存在しない。

 武術もない。

 親子で、狩猟のワザを伝授することもないらしい。


 精々、子供の頃の駆けっこ、鬼ごっこくらいか。

 大人でも、100mを16秒で走れるかどうか。

 俺は、ちゃんとした競技場のトラックでなら、12秒を切るか切らないかぐらいだ。


「タキ、鬼ごっこ負けたことない。走るの一番だった」


 確かに、タキは痩せているくせに、背は男の子たちに混ざっても大きい方だ。

 顔も美人だが、性格のせいか、明るい美少年タイプである。

 男だったら、かなりのイケメンで、女たちに騒がれる事だろう。


「イケメンは敵だ。お前も男だったら、俺の敵だぞ」

「何言ってるの? ユウキは男らしい。誰よりも強いでしょ?」

「だが、イケメンは敵だ」

「イケメンって強いの?」

「大抵は弱い」

「弱いとあんまり人気無い。ユウキがイケメンじゃなくて良かった」


 別に、良くはないんだけどな。


「でも、強いだけじゃ、もてないだろ。タキも強いだけでいい男だと思うのか」

「うーん、カカ強いけど、最低!」

「そうだろ、強いだけじゃ駄目なんだよ。優しくないと駄目だし。イケメンじゃないと相手にされないし。頭悪いと馬鹿にされるし」


 何だか悲しくなってきた。


「ユウキ、大丈夫。タキがいる。タキが良い女になるから安心して」


 俺はタキのおっぱいを見て、ため息をつく。


「ユウキ、失礼、おっぱいだけが良い女とは言わない」

「でも、やっぱり、おっぱいだよなあ」

「そんなことない、ユウキがおかしい」


 タキにポカポカ叩かれるが、全然痛くない。


 しかし、戦士が格闘技とか競技をしてないなんて、訓練不足じゃないのか。


 弓隊が時々ウサギ狩りで、腕を競うことがあるぐらいで、戦士はワザ比べや格闘技もしないようだ。


 弓隊は戦士ではないのだと初めて知ったのは、この時だった。


 弓隊は、衰えた戦士や元々身体が弱い男などがやる仕事だという。

 偵察したり、追い込んだり、待ち伏せしたりして、戦士たちをサポートする、言わば勢子の役割で、獲物と直に戦う戦士とは異なるらしい。

 まあ、あんまり強い弓は存在しないし、作る気もないようだ。

 作っても引けないからだろう。


 近代戦、つまりは集団戦闘を覚えれば、最強の部族が作れると言うことか。

 俺なら、弓隊と槍隊だけでエリートの棍棒野郎たちなど直ぐに潰してみせるがな。


 定住化、農耕、兵農分離、この世界は随分と先が長いなあ。

 まあ、相撲は集団戦ではないから、少しぐらいは覚えてもらった方が張り合いがあるかも知れない。


 俺は小さな戦士たちを眺めながら、のんきに考えていた。



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