プロローグ 1
世界は終わった、私にとっての世界は閉じてしまった。
……いや別に私が死んだとか、住む場所が変わったとかではない。
私は寝ていた体勢から体を起こし、ガラスの張ってない窓から空を見る。とても良い天気だ、気持ちのいい風も感じて目を細めた。
人によって世界は違う、命より大切にしていた物だったり愛する人だったり。もっと大きな規模でいえばこの国とか、もしくは自分の理想なんか。
私にとって世界が終わったと感じるのはそれのどれでもない。
かつては朝の6時30分にきっちり目を喧しく鳴る時計で覚まし、メイクをして身なりを整え、朝食をとって仕事へ向かう。でも今は眠たかったら寝て起きたい時に起きる。
社会の秩序と価値観に縛られて暮らしていた私は何処にもいない。
私、大塚麻衣という人間はもう影も形もなく、消えた。
世界の終り、私にとっての世界の終りはこの地球にとって食物連鎖の頂点に立っていた人間が他の生き物に蹴り落とされた、それを示す。
そして新しい世界と新しい私というと……。
廃墟と化したビル街の中でも一番高いビルの高層部から一体の黒い物体が飛び立った、それは巨大であり鳥ではない。鳥類の翼は羽毛の付いたものであるが黒い物体には一切の羽どころか毛すら生えておらず翼は飛膜でコウモリにのそれとうり二つだが明らかにこちらの方が堅く冷たい印象を与えた。
それは一度翼をはためかせると信じられない速度で一直線に飛翔していった、その様はまるで弾丸のように。
そして放置され手入れのされていない小さな公園の池に降りると水面に映った自分と目があった。
全身真っ黒な鱗に包まれ顔は爬虫類のトカゲに似ている、目の色は真っ赤。
私はため息をついた、水面に映る巨大な物体も同じ仕草をする。当たり前ね私は―――ドラゴン風の生命体に生まれ変わってしまった。
これもさっき懐かしい夢を見た所為よ、まだ人間として会社に向かう夢を人の要素の何もかもなくした私がみるなんて……。
体は頭から尻尾にかけて三メートルはあり、歩き方は四足歩行、背中には体を包める程大きい皮膜が収縮して畳んでいた。頭のてっぺんには緩やかに曲がった角が頭の形に沿って包むよう頭部を守っている。
舌を出せば人間であった頃の腕ほどの長さもあり体を舐めるのに苦労はない、手が人間よりも器用でなくなった。だから口や尻尾でそれらを補うしかない。例えるなら熊の手くらいにしか動かせないでしょう。
人間が爪にネイルをして飾る繊細な指の動きは、瓦礫を踏んでもまったく痛みなんか感じない頑丈になったこの手……いや前足では夢のまた夢だ。
水面に映る自分に向かって私は口を小さく開く、鋭利な牙がズラッと並んだ口内から凄まじい速度で何かが水面に向かって放たれた。
ドボンっと水しぶきが激しく上がり、私の顔もろとも周囲を池の水が濡らす。顔を左右に振って私の顔にとびちった水を払うと乱れた水面を見詰めた。
今のは私の最大の武器、外見がドラゴンに似ているからって口から炎まで出せるまで似なくてもよかったろうに。
口から炎を凝縮したエネルギーの塊を目標に向かって放出するのに一秒もかからない、それに加えこのエネルギー弾は私の高速で飛行する速度と同じくらいに速い。ふつうの人間だったら気が付かないうちに熱の塊をぶつけられて死んでいるだろう。
元に戻り始めた水面に私は気を取り直し、もう一度翼を広げ空へ向かって羽ばたいた。
成人女性で新しい世界と新しい自分を受け入れた結構可愛くない性格の主人公です、人によっては好き嫌いがわかれる主人公だと思いますが気に入ってくれましたら嬉しいです。
そして舞台は広島でしてこの小説読んで一度は寄ってみたいな~って思ってくれたら跳ね上がって喜びます。