5.
やっと自分の欠点を自覚したのか、とノアは感心するより先に呆れた。
「普通あれはないってわかると思うんですけど」
「……悪魔だからな」
「自分の不器用さを属性のせいにしないでください」
ばっさり切り捨ててやると、ファウストはしかめ面をますますきつくして睨みつけてくる。もちろん今更怯えるノアではない。
「契約相手までだましてあちこちに迷惑かけた挙げ句兄さんを追い詰めておいて、好きですとか言われたって何を根拠に信じるっていうんですか? ってかそれでめでたしめでたしってくっついたら奇跡ですよ。まさかそれを考えてなかったとか言いませんよね?」
「……」
考えてなかったのか。
ノアはおもむろに席を立とうとしたが、ファウストに腕を掴まれた。
「反省してるんですか?」
「……ああ」
「本気で何とかしたいんですね?」
「ああ」
溜息をついて、ノアはもう一度椅子に腰を下ろす。
「兄さんは絶望的に傷ついています。原因があなたであることも百も承知です。だから出発点としては、ものすごく名状しがたい勢いでマイナスに振り切ったところからになりますね」
というか、あきらめた方がいいくらいの見込みのなさだ。
「落ち着いて現状を受け入れることも、先のこととか考えることもできないでしょうから、まずそれを癒やしてあげるところからです」
「……うむ」
頷きはしたものの、ファウストが何一つそのための手段を思いつけずにいるのは明白だった。
先が思いやられる。
ノアは唸り、とりあえず無難な提案をしてみた。
「毎朝、花を届けてあげてください」
「花?」
「花屋で買うより、自分で薔薇でも一輪摘んで行った方がいいでしょうね」
キザである。限りなくキザである。今時そんなことをやったものなら、恐らく鼻で嗤われる。昨今の女性は実際的なのだから。
それはともかく。
「あと、必要以上のスキンシップは逆効果です。今の兄さんにとって、あなたに触れられることは攻撃以外の何物でもないです」
「攻撃……」
「あなたにそのつもりがあろうとなかろうと、兄さんにとってはそうなんです」
釘を二本くらい刺してやる。こうでもしないとこの男は学習しない。と言うか理解しない。
「とにかく、兄さんのそぶりをちゃんと気をつけて見るようにしてください。ちょっとでもいやがったらすぐやめること。いいですね?」
「……仕方あるまい」
憮然とした返事に、ノアはまた一抹の不安を覚えずにはいられなかった。