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淡々とした短文

あがる

作者:

孤独を強く感じる時もありますよね。

【ふと空を見上げると、雨は上がっていた。】


 小さいときから孤独だった。

 

 親は6歳のときに俺を親戚の養子に出し、そのまま姿をくらました。

何も知らないまま、俺は育った。

何不自由なく生きていたのに、いつも心が空いていた。

 中学に上がる頃、育ての両親が死んだ。

俺は祖母に育てられることになり、そこで俺の本当の両親のことを知った。

祖母は可愛がってくれたが、俺は自分の心の虚しさをより強く感じ始め、荒んでいった。

女には見境なく声をかけ、次々と乗り換えていった。

男とは毎日殴りあい、全身がぼろぼろになった。

女が途切れることはなく、また、殴りあう男の数も減らなかった。 

 それでも、俺の心は空いたままだった。


 そして、祖母も死んだ。

 一人に戻った。

『お前は私の可愛い孫であり、子どもなんだよ』

俺の手を握り、にっこりと笑いながら祖母は毎日俺にそう言っていた。

『自分の信じる道を歩みなさい』

傷口を消毒してくれながらそう言っていた。


 葬式も終わったある日、一人の女が俺の前に現れた。


 女は見知らぬ子どもを連れていた。

『迎えに来たよ・・ごめんね』

そう言うと、泣きながら俺を抱きしめた。

温かくて懐かしい、その感触と同時に俺は、おぞましさを感じた。

「離れろ」

自分でも無意識のうちにそう呟いていた。

今まで出した中で最高に低く、感情の伴わない声だった。

女はびくっと肩を震わせ、俺から離れた。『ごめんね』と泣きながら。

そばに居た子どもはじっと突っ立ってそれを見ていただけだった。

そして、俺が予想していた最悪の言葉を女は言った。

『・・私が貴方のお母さんよ』


 【心の穴が広がった】



【 ふと空を見上げると、雨は上がっていた。 】


 小さいときから孤独だった。

何不自由なく生きていたのに、いつも心が空いていた。

漠然とだが、正体のわからぬ不安が俺の周りを取巻いていた。


 そして、其の日がやってきた。

 

 見知らぬ子どもを連れた女が俺の前に立っていた。

「迎えに来たよ・・ごめんね。」

そう言うと、泣きながら俺を抱きしめた。

温かくて懐かしい、其の感触と同時に俺は、おぞましさを感じた。

『離れろ』

自分でも無意識のうちにそう呟いていた。

女はびくっと肩を震わせ、俺から離れた。「ごめんね」と泣きながら。

そばに居た子どもはじっと突っ立ち、俺と女を見ていただけだった。

そして、女は言った。

俺が予想していた最悪の言葉を。


 「私が・・貴方のお母さんよ」


 【 心の穴が広がった。 】



広がる心の穴。


『カアサン・・・』

言えなかった言葉を飲み込む。


俺と女と見知らぬ子ども。

手をつなぎ歩きたいわけじゃないのに。

並んで立つ3人と3本の影。

抱きしめるいやらしい感触。

女から感じる、心が癒される生ぬるい感情。

振りほどき、逃げたい俺と逃げたくない俺。

「お・・にぃちゃん。」

小さな口から切なそうに振り絞られた声。

『やめてくれ』

『やめてくれ!』

叫び、駆け出し、今度こそしっかり、堕落した感覚から逃げる。

やめてくれ、やめてくれ


後ろを小さく振り返ると

手を伸ばし涙を流す女とかけてくる小さい影。

来るな・・来るな・・・・!

声にならない声を吐き出し前に逃げる。駆ける。


『さようなら!さようなら!』

走ることをあきらめた子どもが大きく叫んだ。

俺は声を捨て、走り続けた。


心臓の鼓動が止まらない。

息を整えるために大きく息を吐く。

大丈夫、俺は生きている。

鼓動が収まるにつれて、俺は気づいた。


俺の不安はどこにいった・・・?

渦巻く孤独感と絶望。そして、不安。

其のすべてが汗と共に流されていったというのか。

今まで曇っていた空から晴れ間が見え、光が差し込む。

女の涙と子どもの叫び声。

『サヨウナラ』


ふと空を見上げると、雨は上がっていた。



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