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13-3

人間の体に何故リミッターが付いているかと言えば自分自身の力で自分自身を傷つけない為で。

リミッターを解除した力で攻撃をすれば自分自身の肉体が耐えられない。

それは相手も同じことだが相手は痛みを感じず何度でも向かってくる。

そして神無崎先輩と野辺山先輩が常人離れしているとは言え女の子で、スピードはあるが力では男に敵わず。

相手はリミッターを解除し痛みを感じない化け物で既に2人の獲物はボロボロになっていた。

「動きは封じたがこれ以上は……」

神無崎先輩と野辺山先輩は息が上がり。

俺と言えば全身の骨や筋肉が悲鳴を上げ指は骨が砕けているのか握ることさえ出来ない。

「流石に、消耗戦になると無理がありますね」

「日向、それ以上は言うな!」

「それじゃ、ヒーローでも現れるんですか?」

3人とも息が上がり限界がすぐ向こうに見える。

それは相手も同じで手や足の骨を砕かれ動きは遅くなっているが痛みを感じないので容赦ない攻撃がヒットすればかなりのダメージを受けてしまう。

「私が何とかしてみる」

「雪菜?」

背後から抑揚のない声がして振り返ると雪菜が鋭い眼光をして立っていた。

そして陣の方に目をやるとミィーが七海を守る様にして陣がオレンジ色の光を放っている。

何かを感じたかポーターだからなのかは判らない。

「俺が奴らから悪霊を引き剥がす」

「そんな骨が砕けた指では掴めない」

「日向、お前」

神無崎先輩と野辺山先輩がギョッとした顔で俺を見た。

「まだだ。それに雪菜に祓えたとしても前の様な事があれば助けるのは難しいだろ」

「でも、これ以上ダメージを受ければ真琴は存在できなくなる。そんな事になれば七海は」

「それは本当なのか? 星合」

「本当、真琴は生霊のような存在。ここに居る真琴のダメージは恐らく本来の体にも影響しているはず」

「良いんだよ。これで」

俺の言葉に3人とも唖然としている。

「多分、俺は七海に会いたかったんだと思う。だからこの世界に現れた。そして七海が危険に晒されているのなら全身全霊で守る」

「七海が悲しんでも?」

「この先にゲームの答えがある筈だから」

「許せ、星合」

神無崎先輩に目配せをすると薙刀の柄を雪菜の鳩尾に差し込むと呻き声を上げて雪菜の体が崩れ落ちた。

それを見届けて足を蹴り出す。

殆ど感覚を無くした掌を奴らの体叩き込んで力の限り引き剥がす。

聞くと死ぬと言うマンドレイクの悲鳴はこんな声かも知れないと言う悲鳴を上げ。

苦し紛れに振り回した腕が俺の体に振り落とされる。

一体目は覚えているがその後の記憶はなかった。


気が付くと微かに瞬く星が見え。

俺はグラウンドに横たわっているようでまだ消えていないらしい。

「マコちゃん……」

今にも消えそうな七海の声が聞こえる。

「情けない声だな」

「だって、マコちゃんが」

起き上がり自分の手を見ると指と言い掌と言い包帯でグルグル巻きにされていた。

神無崎先輩が誰かを呼び処置させてのだろう。

起き上がると皆心配そうな目で見ている。

「大丈夫だ。心配し過ぎだ。まだ消えてないだろう」

「でも……」

「ほら、この通りだ」

指を動かすと七海の顔が少しだけ緩んだ。

「日向、お前。まさか」

「何ですか? 生徒会長。それより腹が減ったので帰りましょう」

俺が歩き出すと七海とミィーが俺の両脇に小走りでやってきた。

雪菜は普段でも表情が判りづらいがとても強張った顔をして口を噤んでいる。

神無崎先輩の思っている通り既に痛みすら感じなくなっていた。ある意味、霊体に近づいたと言う事なのだろう。

それでも何故かほっとしたと言うよりすっきりしていた。


翌朝、私はいつもの様に登校すると生徒会室に向かう。

生徒会室の無駄に重い木の扉を開けると生徒会の執行委員が顔を揃えていた。

そして執行委員から各学年及びクラブの問題等の報告をうけるのが日課の始まりになっている。

一通り報告を受け解散し野辺山を引き留めた。

「野辺山、体は大丈夫か?」

「生徒会長、何を言っているんですか。私は元気ですよ」

「夕べの日向の件だ」

「日向とは誰の話ですか?」

野辺山との会話が噛みあわず嫌な予感がして書庫にある日向のファイルを探すが見当たらず生徒会室を飛び出した。

後ろから野辺山の声がするが今は振り返る余裕はない。

まずは確かめなくてはいけないと思い階段を駆け下りると月ノ宮と星合が走り去るのが見えた。


「月ノ宮! 星合!」

2人の名を呼ぶと青ざめた顔をして振り返った。

「日向はどうした?」

「朝、部屋に呼びに行ったら荷物が無くて……学校に来たら誰もマコちゃんの事を……」

それだけ言うと月ノ宮が泣き出してしまった。

「泣くな。何処に行く気だったんだ?」

「七海が付き合ってと。保健室だと」

「行くぞ」

月ノ宮の言葉から武原 望ですら日向の事を忘れてしまっていると言う事が伺える。

それならば月ノ宮の姉である保健医が覚えている可能性は低い。

それでも保健室に向かうと言う事は何か考えがあるのだろう。

保健室のドアを開けると保健医である月ノ宮の姉が不思議そうな顔をしている。

「朝から何事かしら? もう直ぐ始業のチャイムが鳴るわよ。生徒会長まで、仕方がないわね」

「お姉ちゃん、大事な話があるの。私が幼い時に何があったの。教えて」

「何もないわよ」

「何もない筈ないじゃない。お姉ちゃんは気付いてないかもしれないけれど。ここに引っ越してくる前の事を思い出したの」

みるみる月ノ宮先生の顔が青ざめていく。

そんな事に構わずに畳みかける様に月ノ宮が続ける。

「お姉ちゃんが悔やみ続ける必要は無いの。今はそんな事はどうでも良い。その前にあった事故の事を知りたいの。私の身代わりで事故に遭った男の子がいたでしょ」

「マーちゃんの事ね。その子は七海の幼馴染の男の子よ。七海がマーちゃんと遊んでいる時にお菓子を強請られて3人で買い物に行ったの。その時に七海が通りの向こうで歩いている猫に気を取られ飛び出してしまい」

「マコちゃんが私の体を突き飛ばしてマコちゃんが事故に遭った。マコちゃんはそれからどうなった?」

「意識不明の重体だと聞いたわ。日向君の両親は私達を責めたりしなかったけれど周りの目は違った。それに耐えられなくなって逃げ出したの。ゴメンなさい」

月ノ宮先生が両手で顔を覆い泣き出してしまった。

恐らく昨晩の事で月ノ宮は日向との間にあったことを思い出したのだろう。

そしてそれを確認するために姉の元に来たのだ。

「それじゃ、日向は消えてしまったのか?」

「それは不自然。何故、私達だけが真琴の事を覚えているの。まだ、何処かに存在しているはず」

星合の言葉を聞いた月ノ宮が保健室を飛び出した。


月ノ宮の後を星合の手を引きながら追いかける。

4人で行ったアクセサリーショップ。

駅前の携帯ショップにファミリーレストラン。

繁華街から少し外れた裏通りの駐車場や大通りの交差点。

恐らく日向との思い出の場所を片っ端から探しているのだろう。

しかし、何処にも日向の姿は無かった。

「マコちゃん、どこに居るの?」

「七海、真琴と初めて出会った場所は何処?」

泣き出した月ノ宮に星合が優しく声を掛けている。

「初めて会った場所は……海辺の……防波堤に……マコちゃんが座ってて」

「早く!」

星合が何かを感じたのか月ノ宮の腕を取って走り出した。


どれだけ時が過ぎたのだろう。

何かに引き上げられていく感覚がする。

これも夢の中なのだろうか。

そんな事を考えていると、とても穏やかな波の音が聞こえ、冷たい風が頬をすり抜ける。

ゆっくりと目を開けると膨大な光が目に飛び込んでくる。

眩しくて堪らず目を細めた。

それはまるで周波数が合わないラジオを聞いていた状態から、急にチューニングが合った様に全ての感覚が覚醒した。

「ここはどこだ?」

辺りを見渡すとそこは海岸沿いの防波堤の上だった。

膨大な光は澄んだ空から輝く太陽とその光を反射して煌いている波間の光だった。

「真琴、大丈夫?」

不意に声がした。

どこから声がするのか判らずにあたりをキョロキョロと見回すが誰も居ない。

居るのは俺の足の側に三毛猫ともシャムネコとも言えない様な、耳と尻尾の黒い猫が1匹座っていて俺の顔を見上げていた。

まさか猫が喋るなんて事は無いよな、俺が生きてきた? 

あれ? 俺って生きているのか?

すると光が走る様にここから始まったことが蘇ってきた。

「ミィー。ゲームオーバーなのか?」

「未だだよ。でももう直ぐタイムオーバーかも」

掌に目を落とすと包帯は無く指もしっかり動く。

でも、実体が薄くなり消えかけている。どうやら動き回る力は残っていないようだ。

視線を上げると片側一車線の歩道に植えられている桜並木はすっかり葉を落とし寒そうにしている。

そしてその下に七海の姿と雪菜に神無崎先輩の姿が見えた。

3人は俺の姿を認識する事は出来るのだろうか。

そんな事が過ると七海が踏み出し駆け出してきたけど、左右を見ても車は無く飛び出す必要は無さそうだ。

胸に軽い衝撃を受け七海の柔らかい体を感じる。

「マコちゃん、ゴメンなさい。私の所為で」

「七海の所為じゃない。七海とここで出会えたから答えを見つけることが出来たんだ」

「それじゃ、クリアー出来るの?」

「ああ、でもクリアーしても何が起こるか誰にも分からないよ」

「それでも私は信じてる。また、真琴と出会えるって。いつまでも真琴を待っているから。生きて、お願いだから生きて!」

見上げる七海の唇に静かに唇を合わすと七海の腕が空を切り。

雪菜が相変わらず立ち尽くしながら涙を流し。

神無崎先輩が桜の木に拳を打ち付けるのが見え意識が遠のいた。


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