13-2.黒い騎士団
年末が近づき街中が色づき浮き足だってきた。
街の至る所にはクリスマスツリーがディスプレーされ街路樹にはイルミネーションが光り輝いている。
日本人のお祭り好きを実感する。
あまり意味の分からないお化けカボチャが出てくるハロウィンと言う行事までするようになった。
そのうち、年中お祭りになりそうな気がする。
しばらくすると街中に赤と白の衣装を着けたサンタが溢れだす。
今、何をしているかと言うと何だかんだと考えながらもクリスマスプレゼントを物色しに来ていた。
「七海は何を買うんだ?」
「ん、予算が決まってるから可愛いステーショナリーかな」
「そうだな、実用性があったほうが良いよな」
望や数人の男子の提案でクリスマスパーティーをする事になり。
プレゼント交換に使うプレゼントを買いに来ている。
当たり障りのない文房具を購入してラッピングをする事にして足早に家に帰ることにした。
クリスマスパーティーは生徒会に許可をもらい教室で執り行われる事になった。
日程は流石に終業式の後では許可が下りなかったので仕方なく期末テストが終わった後になっている。
望の話では最近の生徒会は教師に対しては今まで通りだが生徒に対しては柔軟に対応してくれるようになったと言う事だった。
まぁ、目に見えるものしか信じていなかった生徒会長の考えが少し変わったと言う事なのだろう。
「真琴のおかげだよ」
「俺は何もしてないけどな」
「へぇ~ 3大美女とデートしていた真琴がそんな事を言うんだ」
「その3大美女の事だけど。神無崎先輩が知らないと言っていたから説明しておいたよ。美少女研の武原 望の話なんだけど、ってね」
あっという間に望から血の気が引いてまるで魂が抜けてしまったようだ。
生徒会長が教室に現れただけで凍り付いて生きた心地がしない様な事を言っていたのだから当然だろう。
それでも望は立ち直りが早く吹っ切れたようにはしゃぎ回っている。
奴の良い所だ。
そして生徒会長だけでなく七海と雪菜もクラスメイトと打ち解けてきている。
それも良い事だと思うしそうあるべきだろう。
今後の事が頭を過るけど今は今を楽しむのが最優先な事だと言い聞かせ皆の輪に入っていく。
司会が色々なゲームを進めていきプレゼント交換も終わりそろそろお開きの時間の様だ。
「マコちゃんは何をもらったの?」
「目つきが悪い猫のぬいぐるみ」
「うふふ、マコちゃんに似てる」
「それ……私が買ったやつ」
七海の横で雪菜が恥ずかしそうに呟いた。
「ん、まぁいいや。これも思い出だな」
「うん」
「それでは皆さん、よい年を!」
司会者が声を上げてクリスマスパーティーが幕を閉じ、カラオケに行こうだのファミレスで話をしようなど各々が2次会の話をしていると携帯が着信を告げる。
「ん? 生徒会長からメールだ」
「生徒会長はなんて?」
「この後、時間が取れるかって。悪いけど雪菜と先に帰っていてくれないか」
「うん、判った。雪菜ちゃん、帰ろう」
七海に声を掛けられ雪菜が七海と一緒にドアに向かって歩き出す。
クラスメイトに声を掛けられると首を横に振っているのでまっすぐ帰るのだろう。
片づけをし始めている実行委員に声を掛けて生徒会長室に向かう。
ノックして重厚な木のドアを開けると生徒会長と野辺山さんが待ち構えていた。
案内される間もなくソファーに座ると野辺山さんが透かさずお茶を入れてくれる。
「神無崎先輩、今日は何の用ですか?」
「これを見てくれ」
神無崎先輩が差し出したのは古い新聞をコピーした物だった。
連続婦女暴行魔・病院から脱走。それとその後、数回起きた婦女暴行事件の記事だった。
「これが何か?」
「最初の事件が時期と場所から恐らく月ノ宮が関係していたものだろう」
「それじゃ全ての事件は同一犯と言う事ですか?」
「未解決だが警察の見解はそうらしい」
だが神無崎先輩が何を言いたいのかがいまいち掴めない。
「七海が関係していた事件がどうしたんですか? 警察が動いていれば問題ないんじゃないですか?」
「そうなんだが」
「実は犯人の動きが無くなった時期と例の噂が流れ始めたのが同時期なんだ。それで噂を辿ってみたんだが」
「もしかして犯人の顔写真と酷似していたと言う事ですか?」
神無崎先輩と野辺山さんが顔を見合わせて黙ってしまった。
俺が起こした殺人未遂的な暴行事件もどんな手を使ったのか判らないが隠ぺいしてしまうのだから警察の資料くらい簡単に入手できるのかもしれない。
それに神無崎先輩や野辺山さんのポテンシャルは半端ない筈だ。
「それじゃ、先輩方は黒い騎士団が七海を襲った奴らだと思っているんですね」
「確証は何も無い。それに何故彼らが失踪し黒い騎士団になったのかも判らない」
ポーターのミィーの言葉が蘇る。
『同調すれば憑りつかれる』悪人が悪霊を惹きつけ憑りつかれたと言う事なのだろう。
そしてその可能性を神無崎先輩は妹の事例から導き出し、対処する事がどれだけ困難なのか身を以て知っているからこそ俺を呼び出した。
しかし、俺ですら雪菜が居たからこそ何とか出来ただけの事で今度同じような事があれば対処できるか判らない。
生徒会室を沈黙が包み込んだ。
すると微かに悲鳴のような声が聞こえ…… 目の前に怯える七海の姿が現れた。
現れたと言うより俺が瞬間移動したのだろう。
七海がトラックの前に飛び出した時と悪霊が七海に近づいた時の様に。
危険を感じ咄嗟に七海の体を突き飛ばすと体に衝撃を受けて地面を転がる。
「痛っ!」
「真琴、大丈夫?」
「雪菜、何があったんだ?」
「黒い騎士団だと思う。七海がいきなり襲われて」
七海は俺の傍らでワナワナと震え雪菜の視線の先には土気色をした顔でゾンビ映画に出てきそうな男の姿が見えた。
「相手は独りなのか?」
「判らない、気配を消しているのかも」
県立藤ヶ崎高校は住宅街の中にあり最近の住宅は夜になると防犯の為にシャッターを下ろしてしまう。
そして校内にも殆ど明かりは無く広い校庭は闇に紛れているた。
しかし、初めて悪霊と対峙した時より遥かに臭う。
「雪菜、俺が何とか食い止めるから七海を」
「判った」
抑揚のない雪菜の返事が聞こえ七海の元に行き七海を中心に陣の様な物を掻き始め、俺は得体のしれない者と対峙する。
恐らく雪菜と七海は先に帰れと言った俺の事を待っていたのだろう。
理由なら至極簡単、生徒会長に呼び出されたからだ。
俺が初めて出会った悪霊はズルズルとした動きで、何かに憑りつかれた神無崎先輩の妹はまるでネコ科の猛獣の様な動きだった。
目の前には見た目は悪霊だが容姿や動きは人と大差なく様子を伺いながら対処する。
神無崎先輩達の調査が正しければ憑りつかれて何年も経っている可能性があり迂闊に動けない。
攻撃を何とか受けるがリミッターが外れている所為で常人なら一溜りもないだろう。
背後に気配を感じた時には何かが俺に向かって放たれていた。
目の前からの攻撃を受け全身に力を込めて耐えると背中に殺気が走り鈍い音がした。
「日向、隙だらけだぞ」
「生徒会長?」
声がする方に目をやると神無崎先輩が薙刀の柄でゾンビの腕を払い上げながら歯を食いしばっていた。
「日向、こいつらは何なんだ?」
「黒い騎士団の正体です」
「しかし、この臭いは何なんだ?」
「恐らく人の腐敗臭だと思います。黒い服は恐らく」
少し離れた場所で嘔吐する音がする。
体制を立て直すためにゾンビの様な男から離れると木刀の様な物を持った野辺山先輩が口を押えて必死に堪えていた。
「野辺山、情けないぞ」
「す、すいません」
神無崎先輩に責められているが野辺山先輩が普通の反応だと思う。
それでも野辺山先輩は気合入れて立ち上がった。
七海と雪菜の方を見ると雪菜が七海を抱きかかえる様にして呪文の様な物を唱え、魔法陣が紫色に光っている。
「野辺山、星合の陣には決して近づくな。万が一、陣の一部でも消えれば2人が危険だ」
「は、はい」
「日向、何か手立てはないのか?」
攻撃を受け流しながら神無崎先輩は的確な指示を出している。
俺自身も攻撃をかわすので精一杯で案など浮かんでこない。
相手との距離を考え雪菜に声を掛ける。
「雪菜! 除霊は出来るのか?」
「もう手遅れ。悪霊になるのも時間の問題。だから」
雪菜と七海の後ろで何かが動いた気がした時には走り出していた。
「伏せろ!」
俺の声に瞬時に反応して雪菜が伏せ。
力を解放して陣を飛び超え相手の肩口に足を蹴りだす。
ヌルっとした感触と共に骨が砕ける様な音がした。
陣が再び光を放ったがバランスを崩した俺の体に向けて蹴りが飛んでくる。
受ける間もなく全身に激痛が走り咳き込むと地面に血だまりが出来た。
「ふざけるな!」
体を起こし低い体制から渾身の力を込めて相手の膝の内側を蹴りぬくと鈍い音がして相手が倒れたが直ぐに立ち上がろうとしてバランスを崩した。
恐らく膝が潰れたのだろう。
それでも痛みを感じないのが足を引きずりながら近づいてくるのを後ずさりしながら陣から引き離す。
「日向、早く対処法を」
「もう、潰すしかないです。それにこいつ等は」
「そうだったな。極悪非道の輩、情け容赦無用と言う事だな」
「はい」
「行くぞ、野辺山」
神無崎先輩の声で野辺山先輩からも殺気が上がる。
そして2人が持っている獲物が僅かな光を反射した。
「先輩方の獲物って」
「これは居合などに使う模擬刀だ。切れはしないが骨は砕く。が、脅しにしか使ったことはないがな」
何とかなるかも知れないと思ったのは一瞬だった。