12-1.リセット
そんな事が数日続いたある日、悪い点が繋がり線となって動き始めてしまった。
授業が終わりいつもの様に七海は雪菜と保健室に行ってしまい。
俺も掃除を終えて帰ろうと席を立ったときにドアの方から名前を呼ばれた。
「日向真琴さんですよね。3年の先輩からこれを渡してくれって頼まれて」
「手紙? 先輩って誰?」
「そ、それじゃ。確かに渡しましたから」
同級生だろうか女の子2人が俺に手紙を渡すと走り去ってしまい。
手紙の内容を確認して俺は奥歯を噛み締めてドアに拳を打ちつけた。
「おい、真琴。そんな顔してどうしたんだ?」
「望か? なんでもない」
「なんでもない訳無いだろ。俺達はダチだろうが違うか?」
「すまん、3年に七海と雪菜が拉致られた。これから助けに行く」
「お前、1人じゃ無理だ」
「1人で屋上に来いと書いてある。手出し無用だ、いくらダチでも七海と雪菜を危険にさらす訳には行かないんだ」
「俺じゃ、足手纏いだな。判った、行って来い。でも必ず2人を連れ戻して来いよ」
「当たり前だ」
望と別れて校舎の屋上に向うと望はどこかに駆け出した。
屋上に着きドアを開けると目の前にナイフを着き付けられている七海と雪菜の姿が目に入り。
七海達に向って歩き出すと、後頭部に衝撃を受けた。
何かで強打され頭を押さえるとヌルッと血が着いた。
「下手な事するとお前の彼女の顔に傷が付くぞ」
頭を抱えて片膝を突いて男の方を見上げると背が高く痩せ型の男の横に見覚えがある金髪のピアス野郎が居た。
右手にギブスを巻いて三角巾で吊るしている、雪菜を襲っていた男だ。
「幸田さん、こいつは魔法みたいなものを使うから気をつけた方が良いすよ」
「はん、女が居たらそんな真似出来ねえよ」
幸田と呼ばれている背が高く痩せ型の男が鼻で笑いながら言った。
自分の手を汚したくないのだろう七海と雪菜は別の男がナイフを突きつけている、後ろで高みの見物と洒落込む気なのだろう。
「妙な気を起こすなよ、まぁ俺に掛かればこんなもんだ。殺すと問題があるから獲物は使うな、死なない程度にだぞ。動くなよ、お前さえ片付ければ女は返してやる」
こんな奴らの言葉など信用できないのは判るが今は身動きが取れなかった。
最初の一撃が効いていて、隙を見て何とかするしかなかった。
「やれ!」
幸田の掛け声で袋叩きに合う、頭を抱えて亀の様になるが数人の男相手にそんな事は無意味だった。
蹴りやパンチがまるで機銃掃射を受けているように降り注ぐ。
直ぐに意識が遠くなり目に見える画像が歪み遠くで雪菜と七海の声が僅かに聞こえてきた。
「駄目! 真琴が死んじゃう、彼は、彼は、駄目なの」
「マコちゃん! マコちゃん!」
何とか意識を繋ぎ、手を見ると実体が薄くなりかけていた。
いけない意識が吹き飛べば恐らく体が消える。
七海の前で消えるわけには行かない。
ゲームオーバーじゃ駄目なんだ。
しかし、意識も体も限界に近く俺が動かなくなると周りが静かになった。
「これで終わりか? もっと楽しませてくれよ。後輩とダチの真田が世話になったのだからな」
「幸田さん、どうするんすか?」
「女をひん剥け!」
幸田の合図で七海にナイフを突きつけていた男が後ろから七海のブラウスを引き裂き。
七海の絶叫と共に七海の気配が消えた。
俺の中で何かが壊れて弾け飛んだ。
それはガラス細工の様なものが粉々に砕ける感覚に似ていた。
目に映る映像が全てスローモーションの様に流れ、視界に入った男の顔が恐怖に歪む。
恐怖に歪んだ七海のシャツを引き裂いた男の顔に拳が打ち付けられ、前歯が吹き飛び口から血を噴出しながら後ろに吹き飛んでいく。
俺の体が回転すると雪菜が驚いて体を屈める。
雪菜を抑えていた男の顔面に裏拳が打ち付けられると鼻が潰れて男が吹き飛びフェンスに激突した。
目の前に3人の男の姿が見える、俺を袋叩きにした男だろう何かを叫びながら向ってくる。
パンチをかわし男の腹に蹴りを叩き込むと吹き飛んで屋上の鉄のドアに激突して動かなくなった。
直ぐに地面を蹴ると2人の男が逃げ惑う、構わず1人の膝に蹴りを入れるとあり得ない方向に足が向いて男がボールの様に転がり。
もう1人の男の首根っこを掴みフェンスの支柱に顔面を叩きつける。
雪菜の方を見ると何かを叫んでいたが俺には届かなかった。
幸田と金髪の方を向くと慌てて屋上のドアに向っているのが見える。
その距離数メートル、軽く足を蹴り出すと金髪男の目の前に着地する。
拳を鳩尾に叩き込むとフックに吊るされたように金髪男の体が浮き、口からドボドボと胃の内容物や血反吐を吐き出している。
手を引き抜くとボロ雑巾の様に床に落ちた。
幸田が後ずさりしながら雪菜に近づき雪菜に手を掛けようとした。
足を蹴り出し幸田の肩に膝を打ち付けると鈍い音がして幸田の腕が力なく垂れ下がった。
着地して振り向き様に逆の腕を掴み捻る。
骨が砕け幸田の顔が苦痛に歪み膝から崩れ堕ちた。
幸田が何かを言っているが俺には全く聞こえない。
幸田の腿に踵を振り下ろすと大腿骨が砕けるような感じがして。
激痛に歪む幸田の顔を鷲掴みにして持ち上げると、怯えきった目で何かを訴えている。
そんな物は今の俺には届かない。
『 殺してしまえ』
そんな声がどこからか聞こえる。
手に力を入れるとミシミシと頭蓋骨が軋む音がしている。
屋上の鉄の扉が蹴り開けられる音がして扉に目をやると喉元に木刀が突きつけられていた。
「その手を離しなさい。日向真琴」
手を離し声がする方を向くと生徒会長の神無崎が木刀を構えていた。
「日向、その赤い目は」
俺の顔を見た瞬間、人間離れした足捌きで生徒会長が後ろに飛んだ。
そして扉の所には白衣姿の月ノ宮先生の姿が見えた。
「あの……赤い目の男の子が……日向君なの? どうして……」
俺が雪菜の気配に気付くと雪菜が俺の額に手を当てて俺は意識を失った。