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11-2.キス

翌日、重い足取りで学校に向っていた。

時間が経つにつれ、事の重大さがのしかかってくる。

七海の事で頭に血が上っていたとはいえ男女数人を病院送りにしたわけで。パトカーも救急車も来ていた。

俺がどこの高校かなんて直ぐに調べが付くはずだろう。

「マコちゃん、何でそんなに辛そうな顔をしているの? もしかして昨夜の北口の事を考えているの?」

「七海には敵わないな。警察が動いているかもしれない、覚悟は出来ているんだけど……」

「私なら平気だよ。マコちゃんが信じていてくれるから、マコちゃんが警察に連れて行かれるのなら私も警察に行って全部話す」

「そっか、ありがとう」

七海は笑顔で言ってくれた。

今は考えるのをよそう最悪の場合は俺が終わらせれば良い。


学校の正門まで来るといつもと変らぬ風景だったが……

校内に入ると一変していた。

好奇・嫌悪・興味本位・千差万別の視線が突き刺さる。

すると武原 望が何かを見つけたように俺と七海に向って走ってきた。

「おーい、真琴。大変だぞ」

「朝から何をそんなに大騒ぎしているんだ。望は」

「これが騒がずに居られるか、校内新聞見てないのか?」

「今、来たばかりだからな」

「こっちに来い」

望に連れられて掲示板の前に行くとモーゼの奇跡のように人垣が綺麗に2つ割れて、その先の掲示板に貼られた新聞が目に飛び込んできた。

『謎の転校生とスクリームプリンセスの熱愛か? それとも……』

そんなゴシップ記事の見出しがありその横には写真が掲載されていた。

「ま、マコちゃん。この写真て……」

「クソ、生徒会長達の仕業だ」

その写真は昨夜、ホテル街を七海の手を引きながら歩いている俺の写真だった。

俺は直ぐに生徒会室に向かい歩き出していた。

「マコちゃん、どこに行くの?」

「生徒会室だ。真意を確かめてやる」

「待ってよ」


4階にある生徒会室の重厚な木の扉をノックもせずに開けると生徒会長の神無崎と広報の野辺山が待ち構えていた。

「おはようございます。日向真琴さん」

「聞きたい事がある」

「唐突に何のことかしら、挨拶ぐらいするのが礼儀よ」

俺はそんな事には一切構わずに話を続けた。

「何の目的があってあんな事をした」

「さぁ」

大きな木の机に手を突いて生徒会長に詰め寄るが生徒会長からは全く敵意が感じなかった。

七海はどうしていいのか判らずに入り口で俯いたまま立っている。

「お礼と言った。ほうが良いかしら」

「お礼? 俺は別に何もしてはいない」

「あなたは妹を救ってくれた。そのお礼に北口で起こった事はちょっと手を入れて隠蔽しました。彼らは退院したらそれなりに処罰は受けると思いますが、その事件を隠す為に少し痛み分けにさせていただきます。ご自分の力でそちらの方は乗り切ってください。お2人で」

「はぁ~ それじゃ先生方にも手を回したと言う事ですか?」

「新聞部の記事に対して先生方は一切介入してこない。それが暗黙の了解になっている」

「野辺山先輩までそんな事を。礼は言いませんよ、いざとなれば……」

「いざとなれば何なのですか? まだ、何かを隠しているようね」

「俺にだって切り札くらいありますよ」

「あら、そう。そろそろ予鈴が鳴るから教室にお戻りなさい」

一礼して生徒会室を後にする。

「七海、行こう」

「う、うん」


予鈴が鳴り始め教室に俺と七海が入るとざわついていたものが急に静かになりヒソヒソ話に変った。

「ま、マコちゃん」

「七海は何を聞かれても何も答えるな、俺が何とかする。俺を信じてくれるか?」

「うん、信じる」

休み時間にトイレに向おうと席を立つと望が後を追いかけてきた。

「なぁ、真琴。お前と月ノ宮って……」

「付き合っているよ、俺から告った」

「でも、月ノ宮には」

「黒い噂だろ、それも知っているし。それは解決したんだ」

「でも、他の皆は」

「望、お前に頼みたい事がある。友達として……いや、男として」

望にしか出来ない事だけど、今の俺には望しか頼る奴が居ないのもまた本当だった。

七海の黒い噂を一掃するにはこの方法しか思いつかない。

言葉で言ってもそれだけじゃ足りず、賭けるしかない。俺がいくらでも悪者になれば良い事だ。

「本当にそれで良いのか真琴? 俺はこんな性格だからなんて事ないけど、それじゃお前が」

「良いんだ、俺は七海が笑っていてくれるなら。頼む」

望に頭を下げると望が俺の頭を軽く叩いた。

「真琴、頭なんか下げるな、友達なんだろ俺達は。それに美少女研究会(非認可)としても黒い噂なんか払拭したいからな」

「悪いな望、責任は俺が全て取るから」


昼休みになるとクラスメイトのみならず他のクラスや他の学年の生徒が1―Aの教室を覗きに来ていた。

教室というより俺と七海を見にと言うほうが正しいだろう。

「ねぇ、月ノ宮さん。聞いていいかな」

「な、何? 武原君」

「月ノ宮さんは真琴と付き合っているの?」

「えっ! あの、その……う、うん」

七海が俯いて赤くなってしまった。

望の無駄? 今は無駄では無いかの大きな声で周りの視線が集まってきた。

「なぁ、真琴。あの写真って、まさか……」

「バーカ、そんなわけ無いだろ。デートしていて近道しようとしたら、あんな所に迷い込んじゃったんだよ。俺はあんまりこの辺の道に詳しくないからな」

「デートはしていたんだ。で、どこまでいったんだ?」

「いくら友達のお前にもそんな事は教えねぇよ。でも、七海は特異体質だからな」

「男嫌いのか?」

「アレルギーって言ったほうがいいかな。男アレルギーだな、俺は特別らしいけどな。七海は他の男に抱きつかれると……」

「こうか?」

「嫌ぁー!!」

俺の示した合言葉で望がいきなり七海に抱きつくと七海が叫び声を上げて気を失い望の腕の中で崩れ堕ちた。

「ま、真琴? これって」

「大丈夫だよ。直ぐに気が付く。七海は男に抱きつかれたりすると気を失ってしまうんだ。だから黒い噂の援交だか売りだかしらねぇけど、あり得ないだろ」

「俺だったら、驚いて逃げ出すよな。でも、本当に大丈夫なのか?」

「悪い、保健室に連れて行ってくれるかな。雪菜、手伝ってくれ」

雪菜は呼ぶまでもなく七海が絶叫を上げた時点で七海の側に寄り添い俺を睨みつけていた。

望と雪菜に体を支えられながら七海は保健室に向った。

(雪菜、すまない。屋上に居るからと伝えてくれ)

雪菜にしか聞こえない声で伝言を頼んだ。

「そこら辺で、コソコソ・ヒソヒソとしている奴ら。聞きたい事があるのなら俺に聞け、これ以上、七海の事をとやかく言うのなら生徒会であっても情け容赦しねぇからな」

声を荒げて言い放ち席に着き窓の外を眺める。

しばらくすると潮が引くように集まっていた生徒達が居なくなった。

「あれじゃ男がドン引きだよ」

「なんだか日向の方が黒くない」

「援交なんて無理ぽくねぇ」

などと口々に言いながら。


クラスメイトも少しは納得したのかいつもと変らない雰囲気になってきたのを確かめて俺は屋上に向った。

屋上でフェンスに持たれてこれからの事を考えていると、屋上のドアが開いて白衣を着けた七海のお姉さんの月ノ宮先生が向ってくる。

俺の顔を見るや否や頬に平手打ちした。

「あなたはどうして七海を危険な目に遭わせるの? 確かに私は嘘でも良いから七海の側に居てあげて欲しいと言った。でも、これ以上は七海に近づかないで。あなたは得体が知れない危険すぎる」

俺は何も答えなかった。

答えなかったと言うより答えられるはずがない。自分自身でも何者か判らないのだから。

そこに七海と雪菜が飛び込んできた。

「お姉ちゃん! マコちゃんに酷い事を言わないで! マコちゃんは私の噂を消してくれたの、本当は」

「七海! それ以上はもういい」

「でも」

「悪者は俺だけで良いんだ。七海は何も悪くない」

俺の言葉など聞く耳持たないかの様に月ノ宮先生が七海を連れて屋上から出ていった。

「真琴、あなたは本当に七海の事を」

「雪菜、それは違う。俺は七海が断れないのを良い事に七海に自分の気持ちを押し付けた。結末は七海が辛い思いをするだけなのに」

「でも、ゲームをクリアーすれば」

「誰にも結末は判らないんだ。クリアーしたとしても俺が七海の側に居られる保障は何も無い。それに俺にはクリアーする為の自分自身の望みすら思い出せない」

「それじゃ、七海は……」

「大丈夫、俺が何とかする。必ず」

その日から七海は俺の部屋に現れなくなった。

お姉さんに行かないように言われているのだろう七海はお姉さんの事を思い、お姉さんは七海の事を思って。

それでも学校では七海はいつもと変らず俺に接してくれた。


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