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7-2.生徒会

放課後、俺は雪菜と生徒会室に向っていた。

七海はお姉さんと用事があるからと保健室に寄ってから帰るとの事だった。

「雪菜、なんだか悪いな、巻き込んでしまったみたいで」

「そんな事無い。巻き込んだのは私。私が助けを呼んだのだから」

相変わらず抑揚の無い雪菜の声だった。

雪菜の案内で校舎の4階に向う、4階は殆ど3年生の教室で。

確かこの奥に新聞部の部室がなんて考えていると明らかに周りの視線が違い。

恐らく生徒会長が俺に会いに来た事が瞬く間に学校中に知られているのだろうと言う事が実感できた。

昨日は気付かなかったが新聞部の横のちょうど廊下の突き当りが生徒会室だった。


「失礼します」

ドアをノックしてから重厚な木のドアを開ける。

生徒会室の中は普通の教室と変らない広さだったがそこは別世界だった。

深紅の絨毯が敷き詰められ壁際には木の本棚が並び様々なファイルや本が綺麗に並べられていて、窓のほうを見ると大きな社長室にあるような木の机が在り生徒会長がこちらを向いていて座っていて、その斜め後ろには新聞部の野辺山先輩が立っていた。

「こちらにどうぞ」

野辺山先輩に案内され俺がソファーに腰掛けると雪菜が俺の右側に腰掛けた。

思わず室内を見渡してしまった。

生徒会長の机の横には校旗が掲げられていて壁には賞状などが飾ってあった。

「へぇ、凄い」

思わず声を上げてしまった。

「何が凄いのかしら? 日向真琴君」

「いや、生徒会室ってもっと簡素なものかと思ったんで」

「それは褒め言葉と取らせていただくわ」

生徒会長が俺と雪菜の前に座ると野辺山先輩が紅茶を運んできてくれた。

ふっと疑問に思った、確か野辺山先輩は新聞部のはずで。

そんな俺の疑問を生徒会長は見抜いていた。

「彼女は生徒会の広報を担当してもらっているの」

「そうなんですか、それじゃ他の人はどうしているんですか?」

「私が一声かければ直ぐに集まるわ。集めましょうか?」

生徒会長はそう言うと上品にカップを手に取り紅茶に口をつけた。

他の人間は待機させているのに広報がここに居る。

野辺山先輩がどれほど生徒会長に信用されているのかが良く判った。

恐らく広報と言っているが後方つまり影みたいな物なのだろう。

「暴行事件の話とは何ですか? そもそも雪菜は被害者ですよ」

「でも、加害者はみな大怪我をしている」

「正当防衛とまでは言いませんが悪くって過剰防衛です。まぁ相手は3人ですから過剰防衛にはなりませんよね」

「そうね、素手どうしだったものね。それでも大きすぎる力は危険な事に変わりが無いのよ。危険な物を排除するのも生徒会の仕事なの」

確実に俺と雪菜が排除対象者になっているのが判るけど、俺は従う気は更々無かった。

「大きすぎると言っても俺の力はそんな物じゃないですよ。多少武術の心得があれば人に大怪我させる事は可能なはずです」

「そうね、男の腕の骨を赤子の手を捻るように折ることも可能だわ。そんな事は私にも判っている」

生徒会長の言葉で彼女にはかなりの武術かなにか心得があるのが読み取れる。

雪菜が横に居るのが少し心配だったが、俺が全力を出せば2人をねじ伏せるのは容易だった。

しかし、彼女の本意が判らない。

排除したいのなら学校側に圧力をかけて退学処分にすればいい事なのだから。

「排除するのなら他に排除するべき人間が居るんじゃないですか?」

「それは雪菜さんを襲った不良のことかしら。あなたなら判っているのでしょう日向真琴、彼らはただの駒に過ぎないわ。異物を排除するための捨て駒にね」

思わずビンゴ! と叫びたくなり。そして完全に敵である事を認識した。

「そこまで言うのなら用件は何ですか?」

「私に協力しなさいそうすれば今回の件は見逃しましょう」

「随分勝手な言い草ですね。雪菜は被害者で俺は雪菜を助けただけです。俺等には非は無い」

「それじゃ七海さんでしたか? 彼女に……」

「やれるものならやってみろ。もし七海に手を出したらただじゃ済まさない」

七海の名前を出されて怒りが一気に膨れ上がり、俺の力の所為か窓ガラスがカタカタと音を立て始めた。

「どう済まさないのかしら」

言い終わらない内に生徒会長がコインの様な物を俺の顔ではなく雪菜の顔目掛けて弾き飛ばしてきた。

咄嗟に掴み取り力任せに指で弾く。

コインは銃弾のように一直線に生徒会長の黒髪を数本弾き飛ばして後ろの柱にめり込んだ。

野辺山先輩が瞬時に反応して半身に構えた。

「止めなさい、野辺山。私達が敵う相手じゃないわ。あなたは一体何者なの?」

「化け物か何かに見えますか? 人間には見えませんか?」

「あなたの履歴にある学校に照会しても全て照会不能だったわ。戸籍や住民票まで本物かどうかわからない」

「俺は藤高1年A組の日向真琴です。俺が知って居るのは今ここに俺が存在していると言うことだけです」

生徒会長が常に俺に向けていた鋭い視線を始めて逸らした。

それは恐らく力ずくで押し通せないのが判ったからだろう。

「呆れたわ、私の負けね。野辺山さがりなさい」

生徒会長の指示で野辺山先輩が一礼して退室した。


「これは個人的な事で、だからこそ野辺山以外は待機させておいた」

「聞くだけ聞きましょう」

「あなた達の得体の知れない力を借りたい」

「言っている意味が判らないのですが」

「私は幽霊や超能力など非科学的な事は一切信用しない。しかし高度な現代医学や科学を持っても証明できない事の方が多いのも知っている。それを踏まえた上で」

「馬鹿馬鹿しい。雪菜、帰ろう。信用していない人間に協力するほど俺は馬鹿じゃない。散々脅しをかけておいて力が借りたい? 虫が良すぎる。人を馬鹿にするのもいい加減にしろ」

生徒会長の言葉を遮り雪菜の手を掴んで立ち上がると、生徒会長の瞳が微かに揺らいでギリッと奥歯を噛み締めたのが判った。

「駄目、真琴。お願いだから座って」

「雪菜。こんな事されてまで話を聞く必要は無い」

「お願いだから」

立ち上がった俺の腕を雪菜が掴んだ。

抑揚の無い雪菜のいつもの声だったが、俺を見る瞳はどこまでも真っ直ぐで揺るぎが無く吸い込まれそうで。

仕方なく雪菜に押し切られる形で腰を下ろした。

「妹さんの事で話があるのでしょう」

雪菜の言葉で生徒会長が動揺するのがはっきり見て取れた。

「妹の様子が異常なのだ。医者に見せても精神的なものだとしか言わない。しかし、どう見てもあれは病気じゃない」

「それで、霊的なものだと。信じてもいないのに、ふざけている」

「真琴、駄目。真琴も妹さんを見たわけじゃない。明日で構わないのなら私が様子をみて対処する」

生徒会長は何かを躊躇っていた。

恐らく自分でも辻褄の合わない事を言っている事に戸惑っているのだろう。

「万が一手遅れになれば取り返しの付かない事になる。それは病気も悪霊も一緒」

雪菜のその言葉が決め手になった。

明日、学校の正門に迎えの者を遣す事を生徒会長が雪菜に告げた。

しかし、1つだけ問題が明日は七海と約束をしている。

そんな俺の事すら雪菜は見通していた。

「明日は私1人で大丈夫だから。真琴は七海を宜しくね、七海は私の大切な友達だから」

「しかし、危険じゃないのか?」

「それは妹さんに会って見ないと判らない。でも私はシャーマンの末裔、もし霊の事で苦しんでいるのなら助けてあげたい。それは私にしか出来ない事だから」

「判った、雪菜に任せる。でも危険を感じたら七海の携帯に連絡をくれ、俺に出来る事があれば手伝うから。それと雪菜は俺にとっても大切な友達だ、無茶はしないでくれ」

「ありがとう、嬉しい」

「生徒会長、これで構わないかな」

俺はそれに続く言葉を飲み込んだ。雪菜の覚悟が痛いほどに判ってしまったから。

そして雪菜は最後に生徒会長にこう告げた。

「私はザルツ家の末裔。もし大切な友達に指一本でも触れたら容赦しない」

雪菜の言葉を聞いた生徒会長は妹の事を見抜かれた時より動揺して、そして怯えていた。


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