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6-3.呼び出し

学校を出ると外はすっかり暗くなっていた。

帰り道の途中のコンビニエンスストアーで弁当を買ってマンションに戻り。

ドアを開けようとすると部屋の中から歌声が聞こえてきた。

七海でも居るのかと思い「ただいま」と声を掛けて部屋に入ると「おかえり」と返事が返ってくる。

部屋を見ると見たことも無い女の子が『犬のおまわりさん』を歌いながら段ボールに入っている俺の服を片付けていた。

その女の子はツインテールと言うのだろうか、それ程長くはない黒髪を2つに縛り。

ベージュ色の膝丈のワンピースを着ていて、そのワンピースは胸の下の黒いリボンで少し絞られていた。

そして黒いズボンの様なものを穿いている。

「だ、誰だ?」

「へぇ? 酷いよ。僕だよ」

空っぽな俺の頭で考えても判らなかった。

判らない事の方が多いのだが、そして考えてもしょうがない事も判っていた。

「誰だか判らない、自分の家に帰れ!」

「うぐぅ……ひ、酷いよ……僕の事を忘れるなんて」

涙目になり、俺の顔を女の子が見上げていた。

大体だな、自分の事を僕なんて言う女の子が…… 僕? まさか、背中に冷たいものが走る。

「み、ミィーなのか?」

「うん」

そう言いながら女の子が飛びついてきた。俺が驚いて尻餅をつくとペロペロと俺の顔を舐めてじゃれ付いてきた。

「お前、♀だったのか?」

「うう、酷いよ。酷過ぎるよ。僕、女の子だよ」

「僕は男言葉だろ、それにベタベタするな離れろ」

「嫌だ、人になるのが僕の夢だったんだから」

その時、七海の声がした。

「マコちゃん、入るよ」

そう言って制服のブラウスとスカート姿の七海がベランダから入ってきて、俺は頭の中が真っ白になっり先程よりさらに冷たい物が背中に走る。

俺の格好は誰がどう見ても女の子に抱きつかれているようにしか見えないのだ。

「もう、返事ぐらいしてよ。ミィーちゃんとじゃれて遊んでないでさ」

「へぇ?」

間の抜けた締りの無い顔になってしまった。

どうやら七海の反応を見る限り七海には、ミィーが猫にしか見えないのだろうと言う事が瞬時に理解できた。

本当に面倒臭い事この上ない状況で。しかし七海は別だ。

気を取り直して七海の顔を見るとどこと無く元気がなかった。

「七海、もう大丈夫なのか?」

「う、うん。ゴメンね。もう大丈夫だよ」

「全然、そんな風に見えないぞ」

「大丈夫だよ、マコちゃんは心配しすぎだよ。ご飯まだでしょ、一緒に食べよう」

七海が部屋に戻り、しばらくすると少し大きめのトレーに2人分の食事を乗せて運んできてくれた。

食事中も七海は殆ど何も喋らずどうして良いものか考えていると七海が片付けを始めた。

ミィーを見ると何かを感じたのかベッドの上で眠っている。

「なぁ、七海。少しここに座らないか?」

俺は七海にそう言いながらフローリングの床に座ってベッドに寄りかかっている俺の横を叩くと、七海は少し躊躇っていたが小さく頷いて俺の横に座った。

「知り合って間もない俺がこんな事を言うのはどうかと思うんだが、誰かに話せば楽になるって事があるだろ。まぁ、七海が話したくない事は話さなくて良い。俺も七海に無理に話しを聞く事はしない。だから……」

「優し過ぎるんだよ、マコちゃんは。私は大丈夫だから、ありがとう」

そう言って七海は自分達の部屋に帰ってしまった。

自分には何も出来ないのだという無力感と心にぽっかり穴が開いた気がして、天井を気が抜けたように眺めていた。


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