シナモンティー
シナモンティーが好きだ。濃いめに入れたアッサムティーにシナモンの枝をクルリと泳がす。
すると、ふんわりとしたシナモン特有の香りが紅茶に溶け出して、何とも言えない幸福な紅茶の出来上がり。
「これで薔薇の形の角砂糖2つだと完璧なんだけど」
シナモンの枝をくるくる泳がせながらそう呟けば、目の前で私と同じ動作をしているチハ君が首を傾げた。
「薔薇の形の角砂糖?」
「あれ、知らない?」
「角砂糖を?」
「そんな歌があるの。私も小さい頃聞いた歌だからうろ覚えなんだけど」
薔薇の形の角砂糖と言うフレーズにやけに惹かれた。そんな美しい形の角砂糖が溶け出した紅茶は、どんなに美味しいことだろう、と子供心にもドキドキしながらその歌を聞いたのを覚えている。
「どんな形をしてたって、結局は角砂糖でしょ?」
チハ君てば、妖精が見えるって言う素敵な力があるくせ、こうやって言うことなす事、結構現実的なんだよねぇ。
何処か大人びた面差しで、紅茶を口に運ぶチハ君を眺めながら私は苦笑する。
「気持ち次第で、砂糖だって味が変わるかも」
「甘いものは甘いよ」
そんな憎まれ口をたたきながら、チハ君は何の変哲も無い角砂糖を1つ紅茶に落とす。
そして、もう1つ取ったと思えば、それをそっとテーブルの端に置いた。
「?」
そんな行動に首を傾げていると、じゃあさ、ってチハ君が今度は私に角砂糖を1つ差し出した。
促されるまま、角砂糖をティーカップで受けとる。
「なあに?」
「今、とっておきのおまじないをかけたから、ただの角砂糖じゃないよ」
ちょっと照れるみたいにそう言ったチハ君。
私は何だか嬉しくなってチハくんの魔法の砂糖入りのシナモンティーを、いそいそと一口。
「どんな味?」
「幸福の味」
問われるままにそう言えば、納得したのかしてないのかわからない表情で、ふうん。とチハ君が呟く。
「ねえ。どんなおまじないなの?」
わくわくしながら尋ねれば、チハ君が、つとテーブルの端を指さした。
「あれ?角砂糖無くなちゃってる」
ついさっきチハ君が置いていた角砂糖が影も形もない。
「妖精がもっていったよ」
チハ君が事も無げにそう言い、紅茶を一口。
「ええっ。じゃあさじゃあさっ。チハ君の紅茶の中のと、私の紅茶の中のと、妖精さんが持って行った角砂糖っておそろいってことでしょ?」
すごーいすごーい。どんな角砂糖より貴重だよってはしゃいでたら、呆れたようにチハくんが一言。
「元を正せば、きなこさんが買ってきたお徳用パックの角砂糖」
またそうやって夢を壊すようなこと。って頬を膨らませたけど、やっぱり今日のシナモンティーは今まで飲んだどの紅茶より幸福の味がする。
チハ君と私を眺めながら、小さな彼らが甘い砂糖を頬張るのを想像すると、たまらなく不思議で、たまらなく幸せな気持ちになった。