第六話 絶品料理に舌鼓
「うーん! どれもこれも美味しい!」
芳ばしいふかふかのミルクパンにカボチャの冷製スープ。ぷりっぷりのエビをボイルして野菜と一緒に炒めてエビミソのソースを絡めた料理に、分厚いミディアムレアのステーキ。
一人で食べるにはちょっと多い気もしたが、せっかくヘリオンに来たのだからとオススメ料理を注文したら注文した料理全部が美味しくてあっという間に全てペロリと食べ尽くしてしまった。
「お気に召していただけてよかったです」
フェリシアの食べっぷりを見て、スタッフが皿を下げながらニコニコと笑う。
それにつられてフェリシアも照れながら笑顔を返した。
「本当に美味しかったです! ミルクパンは芳しい香りが食欲をそそって、外はこんがり中はふかふかで美味しかったですし、カボチャの冷製スープも滑らかな舌触りで甘くほどよい口当たりでとても上品なお味でした。エビはぷりっぷりの肉厚でジューシーで、野菜も本来の味を殺すことなくソースが絶妙に絡み合って美味しかったです。お肉もとっても分厚いのに柔らかくて! 脂も口内の熱でとろけちゃうくらいに甘くて美味しくて……!」
こんなにもフェリシアが饒舌になるほど、料理はどれも美味しかった。
何となく店構えがよく内装が綺麗で接客もよさそうだと選んだ店だが、これは大当たりを引いたとフェリシアは内心ほくほくしていた。
「どうもありがとうございます。そんなに手放しで褒めていただけるなんて、シェフも喜びます。ちなみに、当店自慢のデザートがあるのですが、もしお腹の余裕がございましたらご注文いかがでしょうか?」
「ぜひぜひ! ぜひ、いただきたいですっ」
フェリシアが前のめりになって頼むと、スタッフはニコニコと微笑みながらオススメのデザートを教えてくれる。
どうやらこの店のイチオシデザートは白亜のケーキというふわっふわの生クリームをたっぷり使ったショートケーキだそうだ。
「ソースにラズベリーソース、ストロベリーソース、リンゴンベリーソースがお選びいただけますがいかがなさいますか?」
「では、リンゴンベリーのソースで」
「かしこまりました。リンゴンベリーのソースですね。ただいまお作り致しますので、少々お待ちください」
(別腹別腹〜)
先程あんなにたっぷりと食べてもうお腹いっぱいだーと思っていたはずなのに、なんとも現金なものでデザートと聞いた途端に不思議とすぐさま食欲が湧いてくる。
デザートは別腹というのはあながち間違ってはいないらしい。
(それにしても、こんなに満腹になるまで食べたのっていつぶりだろう)
モルンにいたときは毎日高級フルコースをいただいていたが、どれもこれも量より質で正直物足りなかった。
フェリシアは細身ではあるが、王太子妃になるための勉強で頭を酷使しているぶんエネルギーをそちらに取られてしまうので、常に栄養を欲していた。
けれど、大食いは品位に欠けるとさせてもらえず。いつも腹八分目の状態で我慢をしていたのだ。
そのため、今回こんなにも美味しいものを心ゆくまで食べられて、フェリシアは非常に満足していた。
(外聞もマナーを気にせず美味しいものを食べられるって幸せ。デザートもそろそろくるわよね。白亜のケーキっていうくらいなのだから純白かしら。どんなショートケーキが来るのか楽しみだわ)
そうして、フェリシアがデザートを今か今かと待ちわびていると、不意に近くからスタッフの困惑した声が聞こえる。
思わずそちらを見ると、何やら会話が通じないのか必死に身振り手振りをしながら話しかけているスタッフの子がいるのが見えた。
「あ、あの、ですから、ソースはいかがなさいますか?」
「いやぁ、本当に美味しかったよ。シェフにもぜひ美味しかったと伝えてくれ。デザートもすごく楽しみだ」
戸惑っている女性スタッフとは対照的に、話しかけている男性客はニコニコとしていた。
どうやら会話が成り立っていないようだ。そもそも、スタッフと客、それぞれ話している言語が異なっていた。恐らく、お互いがお互いの言語を理解していないのだろう。
(あのお客さんが話してるのって……確か、遠方の島国の言語だったような……)
せっかくだし、いつか必要なときが来るかもしれないからついでに覚えちゃいましょうよ、とほぼ教育係の趣味の域であろうマニアックな言語もフェリシアは数多く学んだのだが、そのうちの一つが男性客が話している言語である。
モルンやヘリオンから遥か南西にいった場所にある地図でいうとかなり小さな島国で、名前はクローレ。人口は少ないものの輸出品で外貨を獲得し、主な輸出品は綿花や香辛料、果実に花である。
恐らく、ヘリオンの戴冠式に使われている装花もほとんどがクローレ産のものだろう。
(何気にクローレの品って多くて至るところにあるのに、その国自体はあまり知られてないのよね。と言っても、私も教わるまでよく知らなかったけど)
目の前にいる男性客は戴冠式ということでクローレからヘリオンに来ているのだろう。
だが、遠方な上に人口が少ない島国ということもあってクローレの言語がわかる人間は少ない。そのため、女性スタッフは言葉が通じずに困っているようだった。
女性スタッフが周りを見回して助けを求めてる素ぶりを見せるも、誰も対応できる人がいないのか、サポートに入ってあげようとしているスタッフは誰もいない様子。
いよいよ困り果ててしまって身動きが取れなくなった女性スタッフが見ていられなくて、フェリシアは彼女に助け舟を出すために席を立った。




