第四話 ヘリオン到着
関所を越え、ヘリオンに入国したあと王都に入ってしばらくすると、上り坂になって荷車のスピードが落ちたタイミングで周りに誰もいないのを見計らって荷車から降り立つフェリシア。
「ふぅ。バレずに入国できたようでよかった」
途中、関所での検問ではバレないかどうか心臓が飛び出しそうなくらい緊張したが、予想通り検査がザルだったおかげで無事に誰にもバレることなくヘリオンへと入国することができてホッとする。
正直、一番の鬼門がヘリオンに入国することだった。
もしあそこでバレていたら、フェリシアはモルンへと逆戻り。そのまま拘束、投獄ののち処刑されることになっていただろう。
「あー、身体が痛い」
ずっと積荷の隙間に入ったきり、ジッと息を殺して身動きもまともに取れなかったせいで、首から足の先まで全身が固まってカチコチ。さすがに痛すぎて、思わず「うーん」と大きく伸びをすると、幾分か身体が楽になったもののまだ痛みは残っている状態だった。
「はぁ。早くベッドで眠りたい……」
とりあえず、第一目標であるヘリオン入国を果たしたので、今はとにかく身体を休めたかった。
今まで生きてきて、こんなにもベッドを恋しく思うのは初めてだ。
以前、両親がいないという後ろ盾がない状態での王太子妃教育で毎日大変だと嘆いたときもあったが、まさかそれ以上に困難なことが待ち受けているとは夢にも思っていなかったフェリシア。
住まいや地位、自分の居場所があることがどれほど安心できるのか、今更ながらに実感する。
(昨日まで王太子の婚約者だったのに、まさか今や逃亡者の身の上になるなんてね。人生どう転ぶかわからないものね)
正直、今も信じられない気持ちがあるが、こうして自分がヘリオンにいることでこれが現実だと突きつけられる。
信じたくはないものの、そんなことも言っていられないので、フェリシアは目の前の光景を見て現実だと受け入れてとにかく前に進むしかできなかった。
(後ろを振り返ったってしょうがない。過去は戻らないもの。戻ったところで死があるのみ)
だったら、前を向くしかない。
フェリシアにはくよくよしている暇などなかった。
「さて、まずは宿屋を探しましょうか。人間、睡眠を取らないと碌なことにならないわ」
心身共に健康でいるためには、最低限の食事と睡眠が必須である。
処刑なんてされたくないと勢いのまま飛び出す形で国外逃亡したが、無事に国外に出られた今、フェリシアは安堵と同時に張り詰めていた緊張の糸が切れてドッと疲れが押し寄せてきていた。
今までにないほど頭も身体もフルに使って満身創痍なので、すぐにでもどこかで休みたかった。
周りを見回せば、どうやらここは王都の近くにある市街地らしい。戴冠式のお祝いのためか、そこかしこに国旗や装花が飾られているのが見える。
夜まではお祭り騒ぎでもしたのか、ところどころにゴミが散らかっていたり椅子や机が乱雑な状態だったりしているが、まだ日の出前の早朝だからか王都の市街地だというのに静寂で、誰も外には出ていなかった。
「あまり高級なとこに泊まって他国の顔見知りに会っても困るから、ワンランク落とした宿屋に泊まったほうがよさそうね。確かこっちには高級宿屋がたくさんあるから、反対側のこっちに行きましょう」
一応フェリシアは王太子の婚約者だったということで、他国の王族や貴族とも交流があった。そのため、現在戴冠式を行なっているヘリオンには各国の要人が集結している状態なので、知り合いがいる可能性が非常に高い。
高級宿屋のエリアに行って万が一知り合いに会ってヘリオンにいることがバレてしまったら目も当てられない。ましてや、モルンの国王でエドワードの父であるオズワルドなんかに会ったら大惨事である。
そんなわけで、恐らく来賓が泊まっているであろう高級宿屋があるエリアには近づかないほうがいいだろうとフェリシアは結論づけ、宿屋があるエリアでも比較的庶民向けの宿屋があるエリアのほうに向かうことにする。
「どこか空きがある宿屋がありますように。というか、今でもやってる宿屋がありますように……!」
以前ヘリオンに来たときのことを思い出しながら、宿屋を確保するため祈るようにフェリシアは歩き出す。
今のフェリシアにはとにかく寝ること以外頭にはなかった。




