【幕間】オズワルド
オズワルドは上機嫌で帰国するも、城に戻ってエドワードに会うなりフェリシアのいない現状を知り、先程までの上機嫌が一気に吹っ飛んだ。
その表情は今まで見たことないほどどす赤黒く、人は怒りでこれほどまでに変わるのかとその場にいた部下たちが恐れ慄くほどだった。
「お前はバカなんじゃないか!?」
怒声で城が揺れるのではないかと錯覚するほどの音量。ビリビリと身体が震える罵倒に、当事者でないにも関わらず、その場にいた誰もが震え上がった。
「フェリシアがどれほどお前のために尽くしてきたかわからないのか! 占いだと!? そんなものに振り回されて判断を見誤るなど、お前はそれほど愚かだったのか!! しかも、その占いとやらに唆されてフェリシアを処刑しようなどと、気でも触れたか!? 王太子が聞いて呆れる! 我が息子がこんな鬼畜だったとは情けなくて涙が出るわ!」
オズワルドにまさか反対されるとは思っていなかったエドワードは、呆気にとられる。
今までオズワルドはエドワードの言うことを何でも聞き、エドワードが何をお願いしてもオズワルドは反対することはなく、常にエドワードに寄り添う言動をしていた。
だからこそ、そんな父親がこんなにも反対するとは思わず、エドワードはわけがわからなかった。
「何でだよ! そもそも、フェリシアとの婚約は父さんが勝手に決めたことだろう!? 僕の人生なんだから、僕がどう勝手したっていいじゃないか!」
「そうやって勝手することが、よりにもよって占いに左右されることだと?」
「そうだよ! マリーンの占いは百発百中、そのマリーンがエミリーと結婚すれば国は栄えて発展していくと言ってたんだ! 国の未来を思うんだったら、その通りにすべきだろう!?」
「はぁ……信じられん。それで、占いとやらの結果を信じてフェリシアとの婚約を破棄して、彼女を無実の罪で処刑しようとしたというのか……? 国の未来のために?」
「そうだよ。僕は未来の国王だ! 一人の犠牲で多くの民が救えるなら願ったり叶ったりだ! 僕は正しい選択をした!!」
自分の選択を正当化し、自分の所業をハッキリと言い切るエドワードに呆れ返るオズワルド。
まだ反省し、しおらしくするならまだしも、これほどまでにエドワードが自分の行いを正当化するとは思わず、これほどまでに自分の息子は木偶の坊だったのかと嘆いた。
エドワードの婚約相手を勝手に決めたことに関して、多少なりともオズワルドは負い目を感じていた。だからこそ、エドワードの言うことは散々聞いてきたのだが、それがこのザマとはオズワルドは自分の行いが誤っていたことに今更ながら気づく。
(何と愚かなことをしてしまったのか。あぁ、それもこれもフェリシアばかりに負担をかけてしまった弊害だな)
オズワルドはできの悪いエドワードを早々に見切りをつけ、エドワードを飾りとして国王にし、影でフェリシアの助力によって国を支えていってもらおうと密かに考えていた。
だからこそ、エドワードには期待せずにフェリシアにばかり教育を行っていた。
まるでスポンジのようにみるみる知識などを吸収していくフェリシアは、誰がどう見ても優秀で、最高の王太子妃になりうる器だった。
それが隣国に行っている間に事態が一変しているとは、オズワルドは夢にも思わなかった。
しかも、新たな婚約者というのがエミリー・エーベル。
彼女は愛嬌はあるが、それだけだ。教養もなければ知識もない。ただの一介の男爵令嬢である。
(フェリシアを探したところでもう国内のどこにもいないだろう。家の中を捜索した騎士が言うには、金品含め荷物はほとんど残していたらしいが一部の服や食料品がなくなっていたとのこと。ということは、恐らく必要最低限だけの物だけ持って逃亡したということだろう。素養もあって賢い彼女なら、どこの国に行っても通用するはずだ)
オズワルドはかつての約束のこともあったが、それ以上に惜しい人材を逃してしまったことを悔やんだ。そして、それをしたのが自分の息子であるエドワードだと思うと、はらわたが煮える思いだった。
(仕方ない。もう過去は戻らない。今更もっとエドワードを躾けていればと思っていても後の祭りだ。私にも責任がある。……だが、このような事態にしたエドワードにも責任をとってもらわねばなるまい)
オズワルドはゆっくりと溜め息をついて自分の気持ちを落ち着かせたあと、エドワードをジッと強い眼差しで睨んだ。
「そうか、わかった。ならば、今までフェリシアが頑張ってきたものは全てお前がやってみせろ。占いとやらでどうにでもなるんだろう? だったら、それをお前自身で証明してみせろ」
「え?」
オズワルドの言葉に固まるエドワード。
どうやらそこまでの考えはなかったらしい。
「何だ、聞こえなかったか? フェリシアが覚えた知識、マナー、教養、言語……全て習得せよと言っている。フェリシアができたのだ、未来の国王となるお前にできぬはずがないだろう? そもそも、フェリシアに教えたことはこの国に必須なものばかり。この国を慮るのなら、会得することは容易いだろう?」
「それとこれとは……」
「何も違わないが? 占いとやらで国のためならこうするのがベストだと言われたのだろう? ならば証明してみせろ。もちろん、一人で難しいと言うのなら、新たな婚約者であるエミリー嬢と共に手分けしてもよい。もし見事フェリシアと同等のものを身につけたらその占いとやら……いや、エドワードが正しかったと認めてやろう」
オズワルドがエドワードを焚きつけるようにそう言うと、エドワードの瞳がキラリと輝く。その瞳は、言質をとったことへの喜びを隠しきれない子どものようだった。
「父さん、言ったね!? 約束だよ! 僕が達成できたら、僕の言っていることは正しかったと認めて僕に国王の座を譲ってね!」
「あぁ。正しかったなら、な。だが、もしできなかったら、そのときは覚悟しておけよ?」
オズワルドから向けられる冷ややかな視線に、竦み上がるエドワード。
だが、もうここで引くわけにはいかなかった。
フェリシアを排除してしまった以上、残された道はこれしかない。
もはやこれはエドワードの意地であった。
「占い通りになるのならできるはずだろう?」
「あぁ、もちろんだとも! マリーンが言うのだから間違いない。僕は必ずや立派な国王になってみせるよ!」
エドワードはそう胸を張って意気揚々とオズワルドの私室から出ていく。
「バカ息子め……」
オズワルドはエドワードの背を見送りながらひっそりと溜め息をつくと、国と共に沈む覚悟をするのだった。




