【幕間】エドワード
「フェリシアがいなくなった?」
翌朝、待てど暮らせどフェリシアは登城せず。
いよいよおかしいとフェリシアの家に騎士を派遣させた結果が今の報告だった。
「どこにもいないのか?」
「はい、どこにも。家の中が少々乱れておりましたので、もしかしたら逃亡したか、もしくは賊に入られたのかも……。探しますか?」
「いや、いい。いないならいないでそれでいい。そのほうが手間が省けるしな」
エドワードがそう言うと、騎士は困惑した様子を見せながらも「承知しました」と言って下がっていった。
(処刑まではさすがにやりすぎかもと思っていたしな。とはいえ、占い的にこのまま国には置いてはおけないし、自らいなくなってくれたなら好都合だ)
エドワードはフェリシアがいなくなって心配するどころか安堵する。
元々、いくら占いで言われたからといって元婚約者を適当な罪状をつけて処刑をするというのは、遠回しに自分の手にかけることに値するため、それは外聞的によろしくないことは理解していた。
そういう意味でも自らの手を汚さずに問題が片付いたのは、エドワードとしてもとてもありがたかった。
「でも、よろしいんですか? もしフェリシアが実はどこかに潜んでいて、謀反など起こしたら……」
エドワードにしなだれかかるように寄り添うエミリー。
フェリシアと婚約破棄した今、新たな婚約者としてエミリーはフェリシアの処刑を見るためにエドワードと共にいたのだが、処刑がなくなったせいか不安そうに瞳を揺らせながらエドワードに進言する。
「ないない。両親もいない、婚約という後ろ盾もなくなった彼女にそんな大それたことはできないさ。きっと気の強いフェリシアのことだ、どうせもう国を出ているよ。……まぁ、国を出る途中で賊に遭ってしまうことはあるかもしれないけどね」
「それはそうかもしれません。フェリシアは我が強くて、エドワード様の気持ちも考えずに自分の賢さをひけらかしていましたから。……ですが、これで問題なくエドワード様と結婚ができますね」
「そうだね。これで占い通り、国の安泰が約束されたよ」
エドワードとエミリーが見つめ合うと、そのまま口づけを交わす。
全てが思い通りになって、エドワードは幸せだった。
◇
エドワードが、エミリーと出会ったのは彼女がフェリシアに会いにきているときだった。
フェリシアはときおりエミリーに用事を頼んで使いっぱしりにしているらしく、エミリーがたまたまその用事を引き受けに来たときにエドワードはエミリーと出会った。
彼女はとても可愛らしく、健気で守ってあげたくなるような印象だった。趣味や嗜好が合うので、会話も楽しく、フェリシアと違って専門用語や難しい政治のことなどを話すわけでもないので、エドワードは頭を使わずに会話ができることが何よりも楽しかった。
「私でしたら、フェリシアと違ってもっとエドワード様に合わせますのに」
「フェリシアはエドワード様のことをわかっておりませんね。こんなにもエドワード様は頑張っていらっしゃるのに」
エミリーは常にエドワードの言動を受け入れ、褒め立てていた。
フェリシアの行いは間違っていると下げ、エドワードの行いは正しいと正当化する。
エドワードはエミリーといると、自分の行い全てが正しいのだと思うようになっていった。
だからか、エドワードはだんだんとフェリシアとの会話が億劫になってきた。
毎度毎度難しい単語を使ったり今後の国の未来を憂うことを言ったりするフェリシアが煩わしく思うようになっていった。もっとお気楽に過ごしたいのに、フェリシアといると余計な心労ばかり感じるようになっていた。
そして、フェリシアが頑張れば頑張るほどエドワードは自分は無能だと突きつけられているような気持ちになり、ついにはフェリシアと喋るのどころか存在さえ疎ましく感じるようになっていった。
(フェリシアさえいなくなれば……)
そのため、エドワードはエミリーに薦められるがままマリーンの占いを受け、自分が思った通りの答えが返ってきたときは歓喜した。
これでもう、フェリシアとは結婚しなくて済む、と。
フェリシアに劣等感を感じず、自分に寄り添ってくれるエミリーという素晴らしい女性を新たに伴侶にできると。
エドワードはマリーンという最強の占いからお墨付きをもらえて意気揚々としていた。
全てが自分の思い通りになるのだと、そう信じ込んでいた。
現国王、エドワードの父オズワルドが帰ってくるまでは。




