バーベナの異変
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「ごめんなさい。明日、屋敷に多くの商人が訪れるらしいの、リリー。」
ハンスと共に街へ出かけたバーベナが屋敷へ戻ると、いつもとは違い、どこか夢心地の様子で、意味深い謝罪の言葉をリリーに告げた。
商人が屋敷にくること自体は珍しくない。
いちいち城下にいかなくても、行商や商人が定期的にやってきて、買いたいものを取り揃えてくれる。
ただ、バーベナの言いっぷりはおかしかった。
商人が屋敷に来ることをハンスが許可するわけがないので、バーベナが許可したはずだ。であるにもかかわらず、バーベナは、自分が許可したようには話していない。
「お嬢様が屋敷に呼ばれたのでは?」
「ええ、ハンスが言うにはそうらしいのだけれど…。」
バーベナの様子がいつもと違うと踏んだリリーはハンスに話を聞いてみることにした。
―――
「お嬢だろ?あそこの丘に群生している青い花を見てから様子がおかしいんだ。どこに行きたいか聞いても、『そうねぇ』なんて曖昧な返事しかしねぇ。じゃあと思って、マルヴァーニャで流行ってる雑貨屋や、宝石店や、市場に行ったが、どこもぼーっとして『いいわね』で終わるんだ!」
ハンスは、興奮して捲し立てる。
バーベナは、侯爵令嬢として莫大な予算を与えられているにもかかわらず、無駄な買い物は決してしなかった。
自分のものは登城の際に最低限ふさわしい豪奢なドレスが何着かと、宝石、そして普段の動きやすいシンプルなドレスだけだ。
新しいものを買う際は、多くのサンプルを比較し、時間をかけ、厳選したものを大切に使っていた。
「いつもは、たとえドレス一着を買うにしても、『このドレスの縫製、ほつれやすくないかしら?』とか、『この色、新色だけど、色落ちは大丈夫かしら?』と、面倒なことばかり尋ねるのに!」
「お嬢様は真面目で責任感がお強いですから。それで?それがどうして多くの商人が屋敷に来ることにつながるのですか?」
「そりゃ、考えてもみろよ?ボケっとしているお金持ちの侯爵令嬢だぞ?商魂たくましい商人にとったらいいカモさ!『ご令嬢。お気に召しましたら、明日お屋敷へ全種類届けさせます』『ご令嬢、ご自宅でゆっくり吟味されてはいかがでしょう?屋内だと素晴らしい音色が響きます。』とか、こんなのに全部お嬢は『そうね』だ!」
「お嬢様が…?」
リリーはバーベナらしからぬ行為に、半信半疑だ。
だが、玄関に山積みになった荷物をチラリと見ると、その可能性も否定できない。
ドレスや宝石もあるが、およそ令嬢の買い物品とは思えない代物まであったからだ。
「これは…なに?」
それは、瓶や樽に入った液体――
「全部、酒だ。こっちはウォッカで、あっちはりんご酒とー、」
「ちょ、ちょっと待って。お嬢様はお酒を嗜みませんが…?」
リリーは、マルヴァーニャ領で王城規模の舞踏会をするのかというほどの酒を目の前に、ポカンとする。
「俺も言ったさ。でも、お嬢は量をちゃんと聞いていなかった。俺が目を離した時はすでに支払いの後だ。」
「…。わかりました。とにかく明日は商人が大勢いらっしゃるということですね。準備しましょう。」
「そうだな…。」
リリーとハンスは、やはりまだ半信半疑ながらも、主人の顔を潰してはならないと、準備を始めた。
――
その夜、バーベナは久しぶりに深い眠りに落ちた。
青い花の香りが、まるで誰かに呼ばれるように、夢の底へと彼女を誘っていくとも知らずに。
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