その後の王都2
毎週木曜日に20:40に投稿予定です。
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「先ほどの怒号は、アッシュか?兄上。」
宰相であり、王弟であるベンジャミン・ド・ルードヴィンクは、アッシュと入れ違いに入ってきて、執務室の宰相机に座った。
銀色にも見える艶やかな黒髪をかきあげて、「廊下まで響いてたぞ。」と、軽口を叩きながら王を諌める。
「ぐ…。だが本当に困ったものだ。アッシュは王族としての自覚が足りん。私もお前も、昔は我々も同じように王族としての姿勢を説かれていたが、それとはわけが違うと感じるんだ。どうしたらいいのか…。」
「自覚が芽生える瞬間を待つしかないだろう。それがいつになるかわからないが…ね。」
ベンジャミンは、頭を抱える兄レオポルトを前にし、飄々と言う。
「私もお前も歳を重ねていく。間に合えば良いがな…。そういえば、お前の息子のリンデンはどうだ?社交の場に出てこないせいで、ここ数年まったく見かけていないが。」
「残念ながら息子は、ここ数年騎士団と家の往復しかしていないよ。」
そうつぶやきながら、ベンジャミンは、書類の山から書類を取り出し、もくもくと仕事を片付けていく。
「私の息子といい、お前の息子といい、なぜ王族の血を引きながら…。そういえば、リンデンの病気は治ったのか?」
「あの病気か?いや、ちっともだ。妻も頭を抱えているよ。」
「そうか…そろそろ立太子を考えなければならん。アッシュの成長をみようと先送りにしていた評議会を押さえておくのにも限界だ。…マルヴァーニャ侯爵令嬢が王太子妃であれば、アッシュの立太子を推薦したが…困ったものだ。」
「レオポルト…これを見てくれ。」
顎を撫でながら記憶を引っ張りだしているレオポルトに、ベンジャミンは書類を2枚渡す。
「……なんだこれは?次の評議会の議題案?」
レオポルトは、突然渡された書類の束を読み進めると、真剣な表情になっていく。
「これは騎士団の…いや、リンデンの提案書か?西の山間部の魔物の討伐編成について…」
そこには、西の魔物討伐における課題点、それに応戦するための個々の能力や役割を細分化して、再構築しなおす過程で課題を解決していく素晴らしい編成案があった。
「これを、リンデンが?」
「あぁ、私も初めて見たよ。騎士団のことにはあまり明るくないが、予算も極めて妥当で、得られる効果も高そうだ。」
ベンジャミンは、少し自慢げな口ぶりで、眉を動かす。
「こんな才覚、どうしてほっといたんだ?」
「いや、息子とあまり会話がないから知らなかったが…それ以前にリンデンは、そもそも王位に興味がない。もちろんアッシュの補佐になるよう育ててきたのもあるが、本人の執着のなさによるところが大きい。跡目争いがおきないという意味ではよいが…それにあの病気だ。」
「ふむ。だがリンデンも王位継承権は持つ。国の義務が発生すると前向きになるだろう。だがこれは、国が割れるか?」
「どうだろうな。リンデンを候補にするのは悪くないと思うが…まぁ、なんだ。兄上もリンデンを説得してみればよいさ。私は関わらんからな。」
「含みがある言い方だな。」
レオポルトが怪訝そうに言う。
「骨が折れるということだ。期待しているぞ、兄上。」
(まぁ、無理だろうな。)
そう呟いたベンジャミンの脳裏に、騎士団の訓練場で、ひたすら剣を振るう息子の姿が浮かんだ。
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