その後の王都1
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プリマヴェーラの後――王城
「何を考えているのだ、お前は!!」
金色のたてがみを持つ獅子――そう形容される男の怒声が、彼の執務室に響き渡った。
現帝国を統べる国王、レオポルト・グレイス・ハミルトン。
五十代半ばにして力強さを感じさせる鋭い眼光と、黄金の髪が特徴的だ。冷静沈着な現実主義者で、時に冷酷とまで言われるが、その判断力と統治の才で「賢王」の名を得ている。
だが、目の前の男――息子であるアッシュに対しては、その冷静さが度々破られる。
「父上!どうしてそこまでお怒りになるのですか!」
アッシュは、母譲りの端正な顔立ちを台無しにするような、苦々しげな表情を浮かべていた。
すでに成人しており、立太子もまもなくという考えていたにもかかわらず、振る舞いには未熟さが漂い、後先を考えない軽率な行動と言動は、レオポルトを苛立たせる要因となっている。
「怒られる理由が分からないだと?」
レオポルトは机を拳で叩き、さらに声を荒げた。
「お前が公の場で、マルヴァーニャ侯爵令嬢との婚約破棄を勝手に宣言したからだ!これが一国の王子のすることか!」
「しかし、父上!私は何度も婚約破棄を嘆願しました!それを聞いてくださらなかったのは父上ではありませんか!」
「当たり前だ!あのような軽率な嘆願書など、読む気にもなれんわ!」
レオポルトは手元の書類の束から、一枚を取り出して掲げる。
それは、アッシュが提出した婚約破棄の嘆願書だった。
内容は稚拙そのもので、「バーベナは笑顔が少ない」「ウィットに富んだ話題に反応しない」といった不満ばかりが並んでいた。
「“彼女の笑顔が外交に適さない”だと?王子が口にする言葉として、これ以上愚かなものがあるか?」
「笑顔は外交の基本です!バーベナはその資質に欠けています!王妃として不適切なのは明らかです!」
「ならば聞くが、お前が選んだローザリア男爵令嬢が王妃に必要な資質を備えているとでも言うのか?」
「もちろんです!彼女は誰にでも笑顔を向け、周囲を和ませることができる!」
「では、当然のように外交に必要な諸外国の言語やマナーを心得ているということだな?」
「そ、それはこれから学べば良いことです!」
「お前自身はどうだ?諸外国の言語に通じ、礼儀を全うしているのか?」
「それは……まだ完璧ではありませんが……」
レオポルトは一瞬、言葉を失い、深く息を吐いた。
「そんなお前が、王妃となる者を教育し直すだと?笑わせるな。お前自身が王子としての自覚を持たなければ、誰も説得できん。侯爵令嬢との婚約は帝国の安定に不可欠だ。婚約破棄は許さん。」
レオポルトは冷然とそう言い放ち、議論を終わらせた。
――
自室に戻ってきたアッシュは苛立ちを隠さず、部屋の中を大股で歩き回っていた。
「父上は分かっていない!笑顔や雰囲気こそが外交の鍵、もしくは土台だというのに!父上も貴族たちもバーベナを買い被りすぎているのだ!執務能力や外交など、そんなことよりも…いや、とにかく私とマリーナは愛し合っているというのに!」
「アッシュ様、どうかお怒りにならないでください。」
そう言って微笑むのは、マリーナ・デ・ローザリア男爵令嬢だった。
淡い栗色の髪をゆるく巻いた彼女は、控えめな物腰と柔らかな笑顔で座っている。
「陛下は、今はまだ取り乱しておいでですが、いつかわたくしたちの愛を分かっていただけますわ。」
「そうだな……」
アッシュはそう言いながらも、レオポルトの剣幕から一筋縄ではいかないことを、どこかで理解していた。
「それに、マリーナも男爵令嬢として一通りの教育は受けさせていただきましたわ。きっとマリーナが立派な王子妃になれば、陛下も認めてくださいます。ほら!見てくださいませ。」
マリーナは立ち上がり、カーテシーを披露して見せた。
ただ、その動作はどこかぎこちなく、洗練されているとは言い難い。
王族であるアッシュもそれに気がついていたが、それは練習によって補えるし、マリーナの素晴らしい点を損なうものではないと考えている。
「あぁ、マリーナは美しいよ。」
アッシュはそう言って、マリーナを柔らかく抱きしめる。
バーベナには一切手を触れなかった彼だったが、マリーナには自然と触れたくなる。
「アッシュ殿下、マリーナはいつも笑顔でいますわ。王妃様は、皆に愛されることが大切ですものね。」
アッシュは、この違いこそがアッシュ自身の正しい選択の証だと、父に理解させたいと強く思った。
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