密告と血の朝
オクヤスがプール掃除から戻る頃、リンは同じ寮部屋の二人の先輩に呼び出されていた。
四人部屋の薄暗い空間で、先輩たちの目は冷たく光っていた。
「おい、リン。お前、オクヤスと仲が良いそうだな」
「はい。入学式で助けてもらいました」
リンは、オクヤスへの感謝と尊敬の念を隠さなかった。
「フン。助けられただと?あんな生意気な一年、すぐにでも叩き潰してやる。だが、我々が直接手を下すのは面倒だ」
先輩の一人が、低い声で言った。
「この学舎には、風紀執行部というものがある。生徒の懲罰、あるいは処刑の執行の可否は、部員に委ねられている。過去には、男女が体育倉庫で性行為をしているのが、イカれたオカマ部員にバレて、指を詰めることになった例もある。我々は、オクヤスの弱みを風紀執行部に密告し、処罰を受けさせるつもりだ」
「弱み…ですか?」
リンは、オクヤスがユキと密会していたことを思い出し、心臓が跳ねた。
「そうだ。お前は、オクヤスの親友だろう?奴の弱みを探し出せ。些細なことでも構わない。協力しろ」
先輩は、リンの肩に手を置き、囁いた。
「協力すれば、お前にもいい思いをさせてやる。三年に声を掛けて、女をあてがわせるよう手配してやるぞ。お前のような美形なら、すぐにでも手に入るだろう」
リンの脳裏に、ユキの顔が浮かんだ。
将来を誓い合った、愛しい幼馴染。他の女など、考えられない。
リンは、きっぱりと首を横に振った。
「結構です。オクヤスは、俺の命の恩人です。そんなことは、絶対に」
先輩たちの顔が、怒りで歪んだ。
ガチャ
ちょうどその時、オクヤスが掃除から部屋に戻ってきた。
「…後悔することになるぞ、リン」
先輩たちは、そう吐き捨て、リンを解放した。
リンは、オクヤスへの忠誠心と、これから自分に降りかかるであろう苦痛への恐怖に、身を震わせながら布団に潜り込んだ。
夜が明けきらぬ、まだ暗い時間。
けたたましいベルの音が、学舎全体に響き渡った。全生徒が、叩き起こされる。
「起きろ!点検だ!」
寮部屋の先輩たちが怒鳴る。
オクヤスたちは、反射的に飛び起き、急いで布団を片付けた。この学舎では、一瞬の遅れが命取りになる。
布団を完璧に片付けた後、オクヤス、リン、そして先輩たちは、部屋の入り口を出た廊下に、直立不動で並んだ。
廊下には、三年のゴウリキを筆頭とする風紀執行部の面々が、威圧的な雰囲気を纏って立っていた。
ゴウリキは、その名の通り、岩のような肉体を持つ男で、その手には、血の滲んだ鞭が握られていた。
「始め!」
ゴウリキの漢らしい号令と共に、風紀執行部が各部屋を見て回り始めた。
少しでも布団のズレや、寝癖がある場合、その部屋の生徒全員が連帯責任で、その場で鞭打ちを喰らう。
ビュッ!ビシッ!
廊下には、乾いた鞭のしなる音と、**「うぐっ!」「やめ…」**という悲痛な叫び声が響き渡る。
オクヤスは、その音を聞くだけで、背筋が凍りついた。
やがて、風紀執行部がオクヤスの部屋の前にやってきた。ゴウリキが、部屋をチェックする。
「よし。問題なし」
部屋は完璧に整頓されており、ゴウリキは部屋を出た。オクヤスたちは、安堵の息を心の中で漏らした。
すると、ゴウリキは、オクヤスの前で足を止めた。
ゴウリキは、まるで獲物の匂いを嗅ぎつける獣のように、オクヤスの首筋に顔を近づけた。
クン、クン…
「貴様…」
ゴウリキの漢らしい低い声が、廊下に響き渡った。
そして、ゴウリキは、オクヤスの耳元に顔を寄せ、小声で囁いた。
「あら、やだ。女の匂いがするわねぇ」
オクヤスの顔から、血の気が引いた。ユキと密着した際、ユキの黒髪長巨乳から移った、甘く、微かな香水の匂い。
「貴様、誰と会っていた。女と接触したな!」
ゴウリキの目が、オクヤスを射抜いた。その視線は、入学式で見た上級生の冷酷な目よりも、遥かに恐ろしいものだった。
オクヤスは、何も答えることができなかった。彼の脳裏には、ユキの豊満な胸の感触と、下腹部に感じた熱が、鮮明に蘇っていた。




