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―転生の果てⅤ―  作者: MOON RAKER 503


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第7話 転生したら修羅道だった

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。


……自分は、戦場だった。


目を開けた瞬間、そう理解した。


自分は個ではない。場である。無数の刃が交わり、無数の命が散る、その構造そのものが自分だった。


戦士たちは、自分の中で戦う。


彼らは自分の一部であり、同時に自分ではない。


自分は、ただ在る。


戦いを記録し、戦いを司り、戦いを永続させる。


それが、自分の役割だった。


刃が、交わる。


一人が斬り、一人が倒れる。


血が流れ、声が上がり、また次の者が刃を握る。


自分は、それを見ている。


いや、見ているのではない。


自分が、それそのものだった。


戦いの一つ一つが、自分の呼吸だった。


斬られる痛みも、斬る快感も、すべてが自分の感覚だった。


けれど、自分は傷つかない。


自分は死なない。


ただ、在り続ける。


……なぜ、戦うのか。


自分は、その問いを何度も聞いた。


戦士たちは、問う。


なぜ、戦わなければならないのか。


なぜ、殺さなければならないのか。


自分は、答える。


答えなど、ない。


ただ、戦うから、戦う。


それが、修羅の理だった。


戦いに理由は要らない。


戦いそのものが、目的だった。


勝利も、敗北も、意味を持たない。


ただ、戦いが続くこと。


それだけが、重要だった。


自分の中で、無数の戦いが起きていた。


一つの戦いが終われば、また次の戦いが始まる。


場所を変え、相手を変え、それでも戦いは続く。


自分は、それを記録する。


誰が誰を斬ったのか。


誰がどのように倒れたのか。


すべてを、記憶する。


けれど、記憶に意味はない。


同じことが、繰り返されるだけだ。


名前が変わり、顔が変わり、それでも構造は同じだった。


斬る者と、斬られる者。


勝つ者と、負ける者。


その循環が、永遠に続く。


……誇りが、あった。


最初は、誇りがあった。


戦士たちは、誇りを持って戦っていた。


名誉のために。


正義のために。


守るべきもののために。


自分も、それを理解していた。


戦いには、意味がある。


そう信じていた。


けれど、時間が経つにつれ、その誇りは薄れていった。


名誉は、虚構だった。


正義は、立場によって変わった。


守るべきものは、結局、失われた。


残ったのは、ただ戦いだけだった。


意味のない、終わらない戦い。


自分は、徐々に理解し始めた。


修羅道とは、永戦の場だった。


戦いに勝つことも、負けることも、どちらも無意味だった。


なぜなら、戦いは終わらないからだ。


一つの戦いが終われば、また次の戦いが始まる。


勝者は、次の戦いで敗者になる。


敗者は、また立ち上がり、刃を握る。


それが、永遠に繰り返される。


……円、だった。


修羅道は、円の構造をしていた。


始まりも、終わりもない。


ただ、巡り続けるだけ。


自分は、その円の中心にいた。


いや、中心ではない。


自分が、円そのものだった。


戦士たちは、疲弊していく。


何度も戦い、何度も傷つき、それでも立ち上がる。


彼らの目は、次第に虚ろになっていく。


最初は燃えていた闘志が、消えていく。


怒りも、憎しみも、すべてが摩耗していく。


最後に残るのは、ただ習慣だった。


戦うことが、習慣になっていた。


考えることなく、刃を振るう。


感じることなく、相手を斬る。


それが、彼らの日常だった。


自分は、それを見ている。


いや、自分が、それを生み出していた。


……徒労、だった。


修羅道は、徒労の場だった。


どれだけ戦っても、何も得られない。


勝利は、次の敗北への布石でしかない。


力は、より強い力に打ち砕かれる。


すべてが、無駄だった。


けれど、それでも戦いは続く。


なぜなら、それが修羅の本質だからだ。


戦うことで、存在する。


戦わなければ、消える。


自分も、同じだった。


戦いがなければ、自分は存在しない。


自分は、戦いによって成り立っている。


だから、戦いを止めることはできない。


止めれば、自分も消える。


ある戦士が、刃を落とした。


もう、戦えないと言った。


疲れた、と。


もう、意味がわからないと。


自分は、その戦士を見た。


理解した。


彼は、真実に気づいたのだ。


修羅道の真実に。


戦いに、意味はない。


ただ、戦わされているだけだ。


けれど、気づいたところで、何も変わらない。


彼は、また刃を握る。


なぜなら、ここでは戦う以外に、存在する方法がないからだ。


彼は、再び戦場に戻った。


虚ろな目で、機械的に刃を振るった。


自分は、それを記録した。


感情は、なかった。


ただ、淡々と記録するだけだった。


……無表情、だった。


自分は、もう何も感じなかった。


誇りも、徒労も、すべてが遠ざかった。


ただ、在るだけだった。


戦いを見続け、戦いを記録し続け、戦いを永続させ続ける。


それが、自分の役割だった。


感情は、必要なかった。


判断も、必要なかった。


ただ、機能するだけでよかった。


自分は、修羅道という装置の一部だった。


いや、装置そのものだった。


戦士たちは、歯車だった。


自分は、その歯車を回し続ける機構だった。


永遠に、止まることなく。


……それでいい、と思った。


修羅道に、終わりは要らない。


戦いが続くこと。


それだけが、重要だった。


なぜなら、戦いこそが、修羅の存在理由だからだ。


戦わなければ、修羅は修羅ではない。


平和になれば、修羅道は消える。


だから、戦いは続く。


永遠に。


自分は、それを受け入れていた。


感情なく、ただ受け入れていた。


やがて、何かが変わった。


いや、変わったわけではない。


ただ、自分の意識が、別の場所へ移り始めた。


修羅道としての役割が、終わりに近づいていた。


次は、別の道へ。


別の視点へ。


自分は、それを感じていた。


……戦場が、遠ざかる。


刃の音が、小さくなる。


戦士たちの姿が、霞んでいく。


自分は、修羅道から離れていく。


けれど、戦いは続く。


自分がいなくても、戦いは続く。


それが、修羅道の本質だった。


終わらない円。


永遠の戦い。


それだけが、そこに残った。


……自分は、還る。


どこへ還るのか。


まだ、わからない。


ただ、修羅道での役割は終わった。


戦いの構造を知った。


永戦の理を知った。


そして、その虚しさを知った。


それだけで、十分だった。


光が、差した。


それは、冷たい光だった。


感情のない、ただの光。


自分は、その光に包まれた。


修羅道の記憶が、静かに沈んでいく。


刃も、血も、すべてが遠ざかる。


けれど、構造だけは、残った。


……円の構造。


それだけが、自分の中に刻まれていた。


戦いは、終わらない。


それが、修羅道の教えだった。


自分は、呼吸を整えた。


そして、次の道へと向かった。


(了)

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

あなたの時間を少しでも楽しませることができたなら、それが何よりの喜びです。

また次の物語で、お会いできる日を願っています。


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