第5話 優しい首相の活動
美咲は黒塗りの車に乗せられて家に帰った。時刻は22時。誰もいない静かなリビングに置かれた大きなソファに寝転び、家族の写真を抱きしめ慟哭した。復讐を果たしても、両親や兄姉が戻ってくるわけではない。あの日の悪夢のような出来事は、現実なのだ。彼女は一生、この傷に押しつぶされないよう、食いしばって生きていくしかない。ただ仇は取れた。肉体的にも精神的にも疲れ、いつの間にか眠っていた。
遠くでスマホが鳴っている。手を伸ばしスマホと掴む。半目で眩しく光るスマホの画面を見ると、23時過ぎ。もしかしてさっきの事についての知らせかと思い、起き上がって通話ボタンを押す。
「こちら〇△病院です。美咲さんの携帯でよろしいでしょうか?」
「はい」
慌てたような女性の声に、イヤな予感がし鼓動が跳ねる。
「健太くんが、目を覚ましました!」
その知らせに、美咲は堰を切ったように感情を爆発させた。
「ほ、本当ですか!? 健太が? 私の弟ですよね!? 間違いないですよね!?」
「はい、間違いありません。今さっき目を覚ましました。」
「すぐ行きます!」
急いでタクシーを呼び、病院に駆けつけると、入り口の前で看護師の女性が待ち構えていた。小走りで病室へ向かうと、医者と看護師に囲まれている弟の姿があった。
弟はゆっくりと美咲に目を合わせると、安心したような声で、
「お姉ちゃん……」
と呟いた。
「健太! 健太ぁぁぁぁぁぁっ!」
美咲は小さな弟の顔を両手でそっと包み込み、泣き叫んだ。
周りにいた医者や看護師も、つられて涙した。
理不尽な悪意に4人もの尊い家族の命を奪われたが、最後に奇跡が起こった。
その頃、首相公邸の執務室では、伊達宗一が新たな報告書を手にしていた。
「次の被害者様は、この方ですね」
伊達は報告書に書かれた被害者の氏名と顔写真をじっと見つめた。そして隣にある加害者の名前と顔写真に目を移す。その眼差しは、優しい首相のそれではなく、絶対に理不尽な犯罪を許さない覚悟と、冷たい復讐者の目をしていた。彼の秘密の活動は、これからも続いていく――。
第一話、終わり。




