第九話 エッチな罰ゲーム
先程まで怒り狂っていた妖精達は、いつの間にか消えていた。
きっとボクが対価を支払ったのを見て安心したのだろう。
それにしてもアレほど優しかった妖精達があんなにも恐ろしい存在だったなんて思いもしなかった。
あの妖艶な水妖精ローレライですら、まるで鬼女のように迫ってきていたもの。
そこでボクは妖精達が自分達、人間よりも高位の存在で恐ろしいモノだったことを思い出し、改めてそう認識した。そして、同時に
~こんな恐ろしいモノ達を迷宮ジジィは角砂糖一つでこの家に縛り付けているのか?~
と思い、改めて迷宮ジジィとは何者なのだろう?と疑問に思わずにはいられなかった。本当に一緒にいて良い存在なのだろうか?と。
ボクがそんな事を思い悩んでいると、食器棚の隙間から妖精が1人姿を現して「家主のご帰還だ!エイル、この家の主のご帰還だっ!!お出迎えしなさい。」と叫んだ。
言われてフト窓の外を見ると迷宮ジジィが歩いていた。
ボクは慌てて出迎えようとしたけど、この知らせをしてくれた対価を支払わないといけないことに気がついて、急いで角砂糖の入った瓶を開けて角砂糖一個を知らせてくれた妖精に与えると妖精はキャーキャー声を上げて喜んだ。
こんな可愛い妖精が先程まで恐ろしかった存在と同じモノとは到底思えず、ボクは首を傾げなければならなかった。
しかし、そんな間にも迷宮ジジィが玄関扉を開けて家の中に入ってきてしまった。
「お、おかえりなさいませ、ご主人様。」
慌てて出迎えたボクを見て、嬉しそうに笑った。
「フッ、随分と挑発的な姿をしているじゃないか。」
「え?」
言われて初めてボクは妖精に服を脱がされて全裸だったことを思い出して悲鳴をあげる。
「きゃあああっ!
見、見ないで下さいっ!!」
妖精達の前では平気だったのに、今、慌てて胸と股を隠すボクは、どうやらこの枯れ果てた迷宮ジジィの事を異性として認識しているらしい。
無意識のうちに秘所を隠し、恥ずかしさに顔が真っ赤になっているのが何よりの証拠だ。この感情はボクのものなのだろうか? それともこの体に宿った前のエイルの残滓なのだろうか?
今のボクには分からない。
「わかった、わかった。見ないから、さっさと服を着替えてこい。」
迷宮ジジィは面倒くさそうに、「シッシッ」とてを払ってボクを部屋から追い出した。
もうボクは全裸を見られた気恥ずかしさに涙を目に滲ませながら、慌てて自分の寝室に戻り、服を着替える。
とりあえず、先ずは下着からなのだが、パンツは自分で履ける。びっくりするほど小さな下着が、この大きなお尻に収まるのだから、驚きだ。
しかし、ブラジャーはそうはいかない。
ボクのオッパイは無駄に大きい。これをブラのカップに綺麗に収めるのにはコツがいるようだ。昨日、迷宮ジジィはアッサリとつけてくれたのが不思議なくらいに着けにくい。しかも、背中側のフックが上手く止められない。
努力すること、四半刻(※30分の事)。とうとうボクは自力で着ることを諦めて、迷宮ジジィのいる書斎に行って頼み込む。
「あの、もう一度ブラをつけて下さい。自分ではまだ難しいのです。」
「お前はアホか?」
迷宮ジジィは呆れたようにそう言うと、ボクにブラをつけてくれた。その手際の良いこと。見た感じでは窮屈そうに見えてしまう肌着の中にアッサリと乳房が収まり、フィットしてしまう。迷宮ジジィはそれから簡単な付け方まで指導してくれた。
その手慣れた感じにボクは男として憧れてしまう。
一体、幾人の女性と逢瀬を交わしたら、こんな男になるのだろう?
ボクは迷宮ジジィを試してみたくなって、さらにお願いをしてみる。
「ボクは男の子なので、この肌着の上にどの服が似合うかわかりません。好きなお洋服を選んでくださいませ。」
大人の男の人がどういう衣装を選ぶのか知りたくなったんだ。
ボクが頼むと迷宮ジジィは、イタズラっぽく「フフフ、そんな事を言って良いのか?」と笑うとボクの手を掴んでボクの部屋へと連れて行く。
迷宮ジジィは衣装が沢山入ったクローゼットの中を吟味すると、その中から、とりわけ露出の多い三着を選び、下着姿のボクと照らし合わせてから、一着を選んだ。
「コレを着ろ。エイル、お前が俺に選ばせたのだ。拒否権はないぞ!」
そう言われた衣装は、極端に丈の短いワンピース型のドレスでしかも、脇から太ももにかけて大きなスリットが入っているものだった。
「こ、こんなのっ! 脇からパンツとブラが見えちゃうじゃないかっ!!」
と、ボクが猛抗議するのだけれども、迷宮ジジィは相手にせず
「お前の主人に服を選ばせた自業自得だ。罰ゲームと思って今日1日残りの時間は、その服で俺に奉仕するんだ。」
と言って笑うのだった。
しかもボクはこの時は気がついていなかった。この服は前かがみになると胸元が大きく覗き見えてしまうことに。
それに気がついたのは、着替えが終わったあとの食事の時だった。
迷宮ジジィが朝ごはんの不手際に業を沸かし(※腹を立てるという意味)、お昼ご飯の指導をしながら一緒に作ってくれた。
今日のお昼ごはんは、簡素なスープと豪勢な厚切り肉を沢山のお米と一緒に脂で炒めた焼き飯を大量に作り、テーブルの真ん中に置いた特大の皿に盛り付け、銘々で取り皿に取り分けて食べるスタイルの献立だった。
「いただきます」の挨拶と共にボクが自分の取り皿に焼き飯をよそおうとした時、ボクは迷宮ジジィの好色な視線に気が付いた。
見ていたのだ。ボクの胸元を。
取り皿によそおう為に前かがみになったボクの乳房は重力に従って下に流れ、服の胸元はその重量に耐えきれずに服に大きな隙間を作ってしまい、そこから零れそうな上乳が完全に露出してしまっていた。
「ああっ! な、なんてエッチな服なんだっ!
や、やだっ!! み、見ないでくださいっ!!」
びっくりして胸元を隠すボクを見て、迷宮ジジィは愉快そうに笑った。
全く、ボクは男なんか嫌いだっ!!
そんなわけでプリプリ怒りながら食事を始めたものの、やはり迷宮ジジィは料理の達人だ。あまりの美味しさに途中から言葉を失ってボクは食べ続け、いつの間にかお昼ごはんは消えていた。
「全く、よく食うやつだ。」
迷宮ジジィは少し呆れた様子だったけれど、すぐに真面目な顔に戻り、
「これで少しは落ち着いたか? ん?
なら今日、何があったのか、話してみろ。」と、聞いてくれるのだった。




