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第五話 ボクの新しいお名前

 ボクが迷宮ジジィの提案に快諾すると、迷宮ジジィはボクと契約成立の握手をしようと右手を出した。

 と、同時に何かに気が付いて「あっ」と言うと

「そういえば、お前。名前は?」と尋ねて来た。言われてボクも「あっ」となった。

「そういえば自己紹介がまだでしたね!!」


 当たり前のことがまだだと気が付き、ボクは胸に手を当てながら名乗った。


「ボクの名前はエール! ただのエールですっ!

 今年の誕生日で14歳になります。

 底辺階級の出自ですので文字はあまり読み書きできませんが、一生懸命頑張りますっ!」


 迷宮ジジィは僕の自己紹介を聞いて驚いて大きな声を上げた。


「エールっ!? お前の名前はエールと言うのかっ!?」


 迷宮ジジィは目を見開いてボクを見つめた。けど、そんなにビックリするような事ぉ?

 ボクは首をかしげたくなったが、ちゃんと返事をする。


「は、はい。ボク、エールと言います。」


 でも、迷宮ジジィは納得がいかないのか、「本当かっ!? 本当にエールという名前なのかっ!? 」 と、ボクを問い詰めて来た。

 ・・・・・でも、そんな事言われてもなぁ・・・・。


「はい。確かです。ボクはエールという名前です。」

 と言い切って答えると、迷宮ジジィは諦めたようにため息をつき、しばらく黙り込んでしまった。

 それから不意に何かに気が付いたようにボクの方をキッとにらみながら言った。


「しかし、エールなぁ? それは男の名前だろう?」

「・・・・だって、ボク。男の子ですよ。」


 ボクがそう言うと迷宮ジジィは、服を引き裂かれて(あらわ)になっていたボクのオッパイをムニュっと鷲掴(わしづか)みしながら

「これのどこが男だ?」

 と、言い放つ。


「きゃああああっ!!

 な、なにするんですかぁっ!!」


 突然のエッチにボクは悲鳴を上げながら条件反射的に迷宮ジジィの顔を平手で引っ(ぱた)く。

 しかし、鉄のように固い迷宮ジジィの体はノーダメ―ジで、逆に自分の手が痛くなるだけだった。

 

「お前が男なら、どうして男に乳を揉まれて恥ずかしがる必要がある。

 どうして胸を隠す必要がある。」


「・・・・・あっ!」


 迷宮ジジィにそう指摘されて、ボクは我に返って今の自分の姿に驚愕(きょうがく)する。

 ボクは無意識のうちに迷宮ジジィに胸を見られないように片腕で両乳房を隠していた。

 ・・・・恥ずかしがっているんだ。男性にこの乳房を見られることを・・・・。

 どうして?

以前のボクなら、男の子に胸を見られて恥ずかしがることなんかなかった。それこそ、銭湯では全裸で男風呂に入っていたんだから。


 なのに・・・・どうして?

 どうして、ボクは恥ずかしがっているの?


 困惑するボクを見ながら迷宮ジジィは「ふふん」っと、鼻で笑った。


「その恥じらいの精神は、その体の元の持ち主に由来している。

 いずれ、お前を完全に融合し、お前は文字通り精神まで完全に女になるだろう。」

「ええっ!? そ、そんなぁ~~~っ!?

 ど、どうにかならないんですか? ボク、男の子のままでいたいですっ!」

「諦めろ。

 魂と肉体は双方に影響を受ける。その体は女の魂が宿っていたもの。

 女の魂にフィットする仕様なのだ。お前が泣こうが喚こうが、これはどうしてやることも出来ん。

 それに女装を嫌がっていたが、お前のその乳をどうする気だ? 否が応でもお前は女装しなくてはならん。そこも諦めるんだな。」


 迷宮ジジィは困惑するボクを気遣うことなく言葉をつづけた。



「お前には新たな人生のために女性名を授けよう・・・・。

 そうだな。

 単純にエールの女性名『エイル』がよかろう。」

「か、勝手に決めないでっ!?」


 ボクは抗議したが、その抗議は通らなかった。

「やかましいっ!

 名前なんかどうでもいいだろうっ!!

 とにかく今日からお前の名はエイルっ!!

 天が割れ、地が裂けようとも、お前の名はエイルだっ!!

 いいなっ!?」


 迷宮ジジィは有無を結わさぬという剣幕でボクを怒鳴りつけるので、これ以上の交渉は無駄だと悟った。観念したんだ。


「わかりました。ボクの名は今日からエイルです。

 では、次はご主人様のお名前をお教えください。」


 ボクがそう尋ねると、迷宮ジジィは心底嫌そうにため息をついてから、小さな声で「名前なんかどうだっていいだろう?」という。

 それから、自分の事は単純に「ご主人様と呼べ」とだけ言った。


「それは、どういうことなのでしょう?

 ご主人様には名前を知られると不都合な理由がおありという事ですか?」


 ボクがそう尋ね返すと、迷宮ジジィはなおも不機嫌になって、僕を睨みつけると

「それがわかっていて、尋ね返すとはお前は頭が悪いのか? それとも俺をバカにしているのか?」

 何て言うから、ボクは怖くなって首を横にブンブン振って否定した。


「いいえっ!! いいえっ!

 わかりました。ご主人様。今日からあなた様をご主人様とお呼びします。」

「わかればいい。」


 迷宮ジジィはホッとしたようにため息をついた。

 名前についてはなにか相当事情があるらしい。今は尋ねるのはやめておくのが吉と判断したボクはもう一つ気になっていることを尋ねた。


「あのですね・・・・」

「なんだ?」


「服の着替えを頂けませんか?」


 ボクは腕では隠し切れない乳房を両腕で抱き締めるようにしながら真っ赤な顔でそう言うと、迷宮ジジィは「はははははっ!」と大笑いしてから、「ついて来いと」ボクを促し、衣裳部屋まで案内してくれた。

 冷静になった今、気が付いたけれど迷宮ジジィの家はお城の様に広かった。

 一間(ひとま)が6~7人寝泊まりできそうなほどのスペースがあり、しかも天井が異常に高い。床から4メートル以上ある。まるで()()けだ。そんな部屋が全部で6部屋あった。小部屋を含めると10部屋とかなり広い。(※吹き抜けとは複数の階層を貫通している建築様式のこと。現代の日本建築なら大体、玄関に作られる。)


「ここは台所と食事部屋。」

「ここが食糧庫。」

「ここが風呂と洗面。」

「ここがトイレ。」

「ここが俺の書斎。」

「ここが居間。」

「ここが調薬室。」

「ここが武器庫。」

 と、道すがら案内してくれた。


「こんな広い家が迷宮の中にあったなんて・・・・」

 

 案内されている途中、ボクは驚きを隠せずにいつの間にか声に出して呟いていた。

 ここは魔物が巣くう地下迷宮。

 こんな場所に家を建てて、それも誰にも見つかっていないなんて・・・・。


 ボクの疑問のつぶやきを聞いた迷宮ジジィは笑いながら教えてくれた。


「この迷宮は今は魔物が巣くう魔界となっているが、本来は今は滅んだ古代の地下王国の跡だ。

 そして、この家はかつての王家の住まい。今は我が住まいとなっているがな。」


「つまり、その・・・・古代の国王の住まいの一部をご主人様が拝借しているという事ですか?」

「さぁ、どうだろうなぁ。」


「・・・・・?」

 迷宮ジジィがボクの問いかけに対して明確に答えなかったので、ボクは余計に不思議になった。

 きっと、この迷宮と迷宮ジジィの出自が関係しているのではないだろうか、とボクは思った。

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