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第二十三話 ボク、女の子になりました

「迷宮ジジィですってっ!?

 あ~、おかしいっ! 人間って妙な仇名を思いつくのねっ!

 あははははっ!!」


 フレイヤは笑うだけ笑うと、ボクの方に歩み寄って来た。頭と頭がくっつくほど顔を近づけたかと思うとまっすぐにボクの目を見た。

 その目は全てを見通すのではないかと思うほど、いや、見ている方が吸い込まれてしまうのかと思うほど深い。真黒そのものだった。


 フレイヤはその目でボクを見た。否。間違いなくボクの表面ではなく、ボクの(うち)を見ていた。それは見透かされたボクには体で感じられた。

 先ほど迷宮ジジィはボクにフレイヤは戦乙女を束ねる一角だと言っていた。きっと、それは霊的に支配されてしまう存在と言う意味なのだろう。なにより彼女に見つめられたボクの体は彼女に臣従しようとしている。


(ちがうっ! ボクのご主人様は迷宮ジジィだっ!

 負けないもんっ!!)


 必死でフレイヤの束縛に抗った。

 だが、フレイヤの方はそんな気は毛頭なかったらしく、急にボクの頭を抱きしめたかと思うと、迷宮ジジィの方を呆れたような目で見つめていった。


「あ~、この子。今、生理が始まってるわね。

 対処の準備で来てる?」


 生理?

 そう、思った瞬間。ボクは強い貧血を覚えて倒れそうになった。フレイヤが抱きしめてくれていなかったら、倒れていたかもしれない。

 

「・・・・整理。ああ、生理か。

 どうりでここ二日ほど、様子がおかしかったわけだ。

 なるほど。しかし、そういうことは男が手を出す話じゃない。前のエイルがどうしていたのか俺は当然、知らん。フレイヤ、お前に頼む。」


 迷宮ジジィはフレイヤに言われて合点が言ったようにポンと拳と掌を叩き合わせた。

 が、フレイヤは今度は迷宮ジジィの言葉が引っ掛かったようで、再び大きな声を上げた。


「エイルですってっ!? そ、そっか! この子の体、エイルなんだわっ!

 ど、道理で見たことがある顔だと思ったわっ!

 迷宮ジジィっ! 話してちょうだい!! 一体、どういう了見(りょうけん)でネームドの戦乙女の中に人間の男の魂なんか入れたのかっ!!」


 フレイヤは、恐ろしいほどの剣幕でまくしたてた。その剣幕にさすがの迷宮ジジィも肩をすくめて笑った。


「ああ、わかった。わかった。お前は戦乙女の元締め。無名ならともかくネームドの体をどうこうされたら、怒りもするか。

 ただし・・・・説明するのはコイツが眠ってからだ。」


 迷宮ジジィは、そう言うとボクの頭を指先でコツンと小突いた。

 すると、一瞬で目の前がブラックアウトした。

 



 それから、どれくらい時間が経っただろう。ボクが目を覚ました時、ボクは神殿の寝台の上に寝かされていた。

 

「こ、ここは?」


 何があったのかを必死で思い出す。そして、自分が迷宮ジジィに眠らされたことを思い出す。


「アムンキ様の杖を持ったうえで眠らされたってことは、あれは魔術じゃなく、頭を叩いた波動で眠らされたってことなのかな?」


 と、ボクが推測したことを呟いた時、迷宮ジジィとフレイヤが姿を現した。フレイヤはもう、迷宮ジジィにべったりと寄り添って、うっとりとした目で見つめていた。

 

「・・・・・・ボクが眠っている間に、何をしてたの? 何をっ!?」


 さすがのボクも何があったのか察せられる。浮気の現場だ。

 だけど暴君は浮気の現場を隠すことも狼狽えることもなく、何をしていたのか答えた。


「なにしてたって・・・・・いけないこと。」

「い・・・・いけないことだってっ!? この、浮気者っ!!」


 ボクはアムンキ様の杖を手に取ってもう一度殴り飛ばしてやろうと構えたけれど、迷宮ジジィは杖をあっさりかわしてボクを抱きあげてしまった。


「わぁああっ! お、下ろしてくださいっ!!」


 ボクは困惑する。抱きあげられたときの視線の高さから迷宮ジジィの体の大きさを改めて実感してしまったからだ。

 迷宮ジジィは、高さに驚くボクを見て愉快そうに「はははっ!」と笑うと、ボクを地面に降ろしてくれた。


「主人に手を上げるとは、なんというじゃじゃ馬だ!

 フレイヤ! ちゃんとこいつに女としての心得を教えてやってくれ。」


 女としての心得・・・・?

 って、なにそれ?


 と、ボクが首をかしげている姿をフレイヤは楽しそうに目を細めて見つめていた。

 やがて、何か面白いことを思いついたかのようにニッコリ笑うと、再び迷宮ジジィに身を添わせ、その右手を手に取って自らの乳房を握らせる。


「女のしての心得を教えるって・・・・こういうことを教えたらいいのかしら?」

「・・・ああ。今回はそう言う事ではないことをお前もわかっているだろうが、もちろん。お前が手取り足取り、肌寄せあって教えてやってくれたら助かる。」

「あら・・・・いやらしい子。

 まぁ、それは構わないけれど。ちゃんと私にご褒美をくれるんでしょうね?

 それもとびっきり燃え上がるような夜のご褒美を・・・・」

「・・・・・お前が望むのなら、泣いて許しを請うまで与えてやろう。」


 二人はただならぬ空気を放って見つめ合った。

 その雰囲気にボクは何故だか非常に苛立ってくるのだった。 


「いったい、どういうつもりか、せちゅめ・・・。説明してくださいっ!

 場合によっては、家を出ていきますからねっ!!」


 怒りのあまり噛んじゃったけど、ボクは気にせずに言い切る。

 でも、そこはやはり迷宮ジジィ。一切、動ずることなく「主人の俺が何人の女を抱こうが、お前の知ったことか。」と言い返すだけだ。


「そもそもいいか。お前は当家のメイドだぞ。それも俺に恩を返すためになった。

 そんなお前がどういう了見で家を出ていくって言うんだ。

 ガタガタ言ってないで、今日はもうフレイヤから女としてどう生きるべきか学べ。」


 迷宮ジジィは僕の肩を掴んでから両手で押してフレイヤの方へ突き飛ばした。


「・・・・・とにかく今日から、お前は本当に女になったんだ。

 それについて俺から言えることは何もない。」


 って、当たり前のこといってんの? ボクは今、女の子の体の中にいるんだから・・・・。

 もうとっくに女の子になってるよ。



 と、何気に考えていたボクだったけど、迷宮ジジィが言いたいことが何だったのか知ったのは、その10分後の事。

 フレイヤから生理について色々説明を受けてからのことだった。

 最初は異次元の話を聞かされているのかと思った。だって男の体には絶対に起こらないことだし、なによりも神秘的な事象すぎてボクの頭が正しく理解できるようになるまで、少し時間が必要だった。


「ボクが女の子になったっていうのは・・・・そう言う意味だったのか。」

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