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第二十二話 浮気じゃないかっ!!

 迷宮ジジィとボクは火の海の中を歩いて進む。

 ボクは火の蛇『ペルボナハ』の魔力のおかげで火に焼かれずに済むけれど、迷宮ジジィはどういうカラクリで守られているのかわからない。燃え盛る炎の中、なんの影響もなく歩いていく。

 

 そうして、やはり蛇に乗って移動していることさえくたびれるほど歩いたのち、迷宮ジジィは歩みを止めて「着いたぞ。」と教えてくれた。

 その言葉と同時に、みるみるうちに周りの景色が変わっていく。燃え盛る炎はあっという間に沈み、代わりに石像が立ち並ぶ神殿が姿を現す。


 その石像は、全てが裸の男女だった。(ひと)つがいの男女が互いに愛し合う姿。そのような破廉恥な石像の山がそこにあった。


「えっ・・・・ええええええ~~~~っ!?

 なに、これぇ~~っ!!」

「フレイヤは豊穣神だ。豊穣とは即ち雌雄の交わりによって生ずるもの。これらの石像はフレイヤの象徴そのものという訳だ。」

「え、エッチな神様ってこと?」

「正確に言えば、多くの男神からエッチなことを要求され、受け入れてしまう女神だな。」

「えええ~~~?」


 な、なんて破廉恥な。そんな神様が存在するのか。

 あまりに衝撃的な情報に僕が狼狽えていると、神殿の奥から女神が姿を現した。

  


「あら、管理人の坊や。それと可愛い()

 今日は何の御用かしら?」


 あまりにも美しい人だった。腰に薄衣一枚(まと)っただけのフレイヤは妖艶で、顔も肉体も全てが備わっていた。きっと男の人なら誰も彼女を放ってはおかないだろう・・・・そう思った。


 ボクが見惚れていると姿を見せた女神フレイヤは、クスッと笑いながら神殿奥の神台に寝そべった。

(こんなポーズとったら全部見えちゃうぞっ!?)

 ボクは慌てて、股間を隠すように身振り手振りでフレイヤに伝えたが、鼻で笑われた。


「ふっ・・・・んんっ?」


 ただ、鼻で笑ったすぐ後にボクを凝視して、迷宮ジジィを問い詰める。


「ちょっと、 ○×◆★Z□っ!!

 この娘、戦乙女なのに魂が男じゃないっ! どうなってるのよっ!」


 フレイヤは、そう叫んだあとに、やはり迷宮ジジィの名前が封じられていることに気が付いて、忌々(いまいま)しそうに舌打ちした。


「・・・・ ○×◆★Z□。

 この私に名前を封じるなんて、何様のおつもりっ!?」


 言われた迷宮ジジィは説明するどころか、フレイヤを指差しながら不敵に笑った。


「ガタガタ抜かすな。

 それよりもお前が無計画に武器を与えた人間どもが迷宮を荒らして、魔物どころか俺の女に手を上げようとしたぞ。今日来たのは、その代償を支払ってもらうためだ。

 さぁ、フレイヤ。お前も神ならば、神妙に代償を支払え。」


 言われたフレイヤは「はぁっ!? 貴方の『女』?」と、顔を歪めた。


「とぼけても無駄だ。ガタガタ抜かすのなら、この場で私刑(リンチ)にかけるだけだ。」


 フレイヤのすっとぼけた態度をみた迷宮ジジィはあからさまに不機嫌になった。何もない空間からグングニルを召喚すると右手に握ってフレイヤを(にら)みつける。

 

 ところが脅されたフレイヤは、怯えるどころか、嬉しそうに体を起こして迷宮ジジィの元まで可憐に駆け寄ると、迷宮ジジィにシナを作って抱き着いた。


「や~ん。もう、怒らないでえ~。

 ねぇ、 ○×◆★Z□。私の事を好きにして良いから、許してぇ~・・・・。」


 そう言って、フレイヤは迷宮ジジィの手や胸に口づけをした。

「ああっ! な、なにやってるのっ!?」

 驚いたボクは2人に駆け寄って、その体を引き離そうとするんだけれども、びくともしない。それどころかフレイヤに「あん。もう、いけずな娘っ!」と、言ってデコピンされる始末。


「いたっ!!」

「・・・・・大丈夫か? エイル。お前はフレイヤに触るな。

 本来、フレイヤは戦乙女のボスの一角。反抗するなどもってのほかだ。

 今のデコピンだって、アヌンキから貰った呪いを吸収する杖が無かったら、ガマガエルに変えられている所だったぞ。」

「ええっ!?」


 ボクが慌てて後ずさるとフレイヤは残念そうに「あら残念。そんないいものを貰っていたの?」と、呟いた。どうやら迷宮ジジィの言ったことは大げさなことじゃなく、本当にボクはガマガエルに変えられてしまうところだったようだ。

 アムンキ様、ナイスっ!!


 ・・・・・とはいえ。これ以上フレイヤに近づくのは危険そうだ。ボクは遠巻きで見ているしかない。

 が、邪魔する者がいなくなった以上、フレイヤは好き放題やり始める。


「ねぇ~ ○×◆★Z□。私、豊穣神なのよ?

 なのに、この地下迷宮(ラビュリントス)の中じゃ男日照りになっちゃうでしょう?

 私、寂しかったのぉ~。

 だから・・・ね? 私の事をちゃんと可愛がってくれるのなら、これからはちゃんと地下迷宮の秩序を守るから。

 ・・・・ね? わかるでしょう?」


 フレイヤはそう言いながら、迷宮ジジィの手を自分の肌に導く。

 迷宮ジジィはそれに動じる様子はないが、だからといってフレイヤの誘いを断るつもりもないらしい。

 いやらしくフレイヤの体をまさぐると甘い声でフレイヤの耳元で囁いた。


「俺が欲しいのか? あばずれめ。

 ならば、くれてやろう。百年覚めることがないほど燃え盛る夜をお前にくれてやる。」

「ああんっ! 大好きっ!!」


 囁かれたフレイヤは、喘ぐようにそう言いながら迷宮ジジィの唇に自分の唇を重ねる。

 その様子を見た瞬間、ボクの中で何かが壊れた。


 気が付けば、『ボカリっ!』と大きな音がなるほどの勢いで迷宮ジジィの頭を杖で引っ叩いていた。


「迷宮ジジィのバカぁっ!!

 ボ、ボクに夜伽させるって言っておきながら、よくも他の女なんかにっ・・・・・ばかぁっ!!」

「は・・・・はぁ?」


 迷宮ジジィは、ボクに殴られても当然、無傷なわけだけれども、それ以上に困惑したような目でボクを見ていた。

 またフレイヤもボクの行動を見て呆然としていたけれど、やがて『迷宮ジジィ』というワードに気が付いて爆笑し始めた。


「あはははははっ!! なに、アナタ。人間からは迷宮ジジィなんて呼ばれているのっ!?

 バカねぇ、そんなヒゲ面(さら)しているから年寄りに見られるのよっ!!

 あははははっ!!」


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