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第二十話 行き過ぎた者達

 家の中になだれ込んでくる冒険者たちに怯えて逃げようとしたボクの襟首は、あっさりと冒険者に掴まれてしまった。

 冒険者の腕力は女神の武器の加護を受けて強化されているらしく、ボクの体を軽々と放り投げた。


「きゃああああ~~~っ!!」


 ビリビリと服が引き裂かれる音と同時に宙に舞う自分の体。一瞬、遅れて壁に叩きつけられてしまいボクは衝撃と痛みで床をのたうち回る。


「うひょー、見ろよ。こいつすんげぇ、デカパイ。」

「おお、見たか? 倒れ込むときに水風船みたいにタプタプ跳ねてたぞっ!」


 ドレスが引き裂かれ、(あらわ)になったボクの下着姿に冒険者たちはご満悦らしい。

 嬉しそうにボクに近づいて来て、逃げられないボクの髪を掴んで引き上げると舐めまわすように見つめた。


「・・・・・おお~。マジできれいだ。シミの一つもねぇ肌。絹の様にきめ細かいってこういうのを言うんだろうなぁ・・・・。」


 冒険者たちが僕の体を観察していた時だった。家中がガタガタと振動しだした。


「な。なんだ?」

「家全体が揺れてるぞっ!! 何が起きているんだ?」


 慌てた冒険者たちはボクを(にら)みつけながら「これは何だ? 何が起きている?」と問い詰めるがボクにだって見当がつかない・・・・そう思った瞬間。低い恐ろしい声が響き渡った。


「俺達のエイルを離せ。」

「私のエイルに手を出したら許さない。」

「お前たちは皆殺しにしてやる・・・・。」


 この声は・・・・。


 ボクが聞き覚えのある声の主たちに察しがついた時だった。

 (かまど)から恐ろしい形相のサラマンデルがはい出て来た。そして同じように家の隅々から小さな妖精たちがワラワラと出てくるのだった。


「な、なんだ、こいつら?」

「妖精? この家は妖精の住処(すみか)なのかっ!?」

 

 冒険者たちは自分を取り囲む妖精たちの姿に思わず恐れおののいた。


「エイルを離せ。」「離さないと殺す。」「いや、離しても殺す。」「皮をはいで親でも見分けがつかない顔にしてやろう。」


 妖精たちは口々に物騒なことを言う。

 最初はその殺気に押されていた冒険者たちだったが、彼らのその体の小ささに、やがて小馬鹿にするようになる。


「俺達を殺す? チビ助共が偉そうに何言ってるんだ?」

「返り討ちにしてやろうぜっ! こいつ等の死体を串で通して焼肉にしよう。」

「はははっ! 妖精の肉ってどんな味がするんだろうなぁ?」


 冒険者がそうせせら笑った時だった。恐ろしい形相をしていたサラマンデルの体が見る見るうちに大きくなっていく。

 そしてその姿も最初は小人だったのに、どんどん広い翼を持った巨大な爬虫類のそれとなっていった。


「お、おい・・・・。」


 冒険者がその変化に絶句した時にはサラマンデルはドラゴンの姿になっていた。


「ド、ドラゴンだぁッ!!」


 冒険者たちがサラマンデルの正体に気が付き、慌てて逃げようとした瞬間、突如、足下に流れ込んでくる鉄砲水に足元をすくわれて転倒してしまう。


「きゃあっ!」


 冒険者と同じく水に足元を(すく)われて床に倒れたボクの目の前に身長3メートル近くまで大きくなったウィンディーネがボクを守るように近づいてきた。


「エイルに危害を加えたものは許さないっ!」

「殺せっ! 殺せっ! 誰も生かして返すなっ!

 全員、殺してしまえっ!」


 その言葉を合図に妖精たちは見る見るうちに大きく恐ろしい姿になって冒険者たちに襲い掛かった。


「う、うわああああ~~~っ!!」


 冒険者たちは女神の武器を持っていても勝ち目がない相手だと本能的に察したのか、すっかり闘志を失って逃げ出した!

 妖精たちは、家のドアまで彼らを追いかけたが、家の外には出ていかない。きっと、迷宮ジジィに家に縛り付けられているんだろう。


「殺せっ! 殺せっ!!」


 家の外に出た冒険者たちは、恐ろしいことを叫びながらも家の外に出てこない様子の妖精たちに気が付き、ホッと息を吐いた。

 その次の瞬間。外に飛び出した冒険者の一人に迷宮ジジィの番犬、バンギトグルスの大龍が飛び掛かって、その恐ろしい牙で鎧ごと頭を噛み砕いた。


「う、うわああああ~~~っ!」


 仲間があっさりと食われた姿に怯えた冒険者たちは、すっかり闘志を失ってアムンキの祠のところまで、地を這うようにして逃げた。

 だが、祠の近くまで逃げ切った時、突如として逃げる姿勢のまま彼らは石像になってしまった。


「余の祠を素通りとは慮外者(りょがいもの)どもが・・・・。」


 冒険者たちは、それが死の国の神アムンキの祠とは知らず、祠に対して礼をしない無礼に無礼を重ね、それで神罰を受けちゃったということなのかな? って思ったけど、「余の氏子に対して何をするか」と言っていたから、どうやらボクのために怒ってくれたみたい。

 これって、やっぱりボクの氏神としてもっと敬意を払うべきだよねぇ。ここまでしてもらったんだから。

 そう思いながらも、石になった冒険者がやっぱり可哀想(かわいそう)な気がしてアムンキ様(・・・・・)に尋ねてみた。


「アムンキ様。この人達って元に戻るんですか?」


 ボクがそう言うと、アムンキ様は「おお。やっと表面上ではない敬意を持つようになったな。」と少し嬉しそうに笑ってから、冒険者が戻らないと仰った。


「エイル。人間は石になったらもう元に戻らぬ。

 まぁ、こ奴らは獅子人を虐殺し、お前を凌辱しようとし、余の祠を無下にした。

 優しいお前は心を痛めたかもしれんが、これがこの地下迷宮(ラビュリントス)のルールだ。」


 そう、これが地下迷宮のルール。冒険者たちが可哀想だけれども、もう仕方がないことだった。

 納得しつつも悲しい気持ちにならずにいられない。手をそっと合わせて黙祷する。


「エイル。殊勝な心掛けじゃが、いつまでそんな扇情的(せんじょうてき)な恰好をしているつもりじゃ?

 さっさと家に帰って服を着替えてから妖精にお礼をしろ。」

「えっ・・・・? きゃああああっ!!」


 そうだった。さっき冒険者に襲われてて気が回らなかったけど、ボクは今、上着を冒険者たちに引き裂かれて裸同然だったんだ。それに気が付かされて、慌てて家に戻ると、「服を着替えてからお礼しま~す!!」と叫びながら自分の部屋に戻って服を着替える。


(な、なんでボク。男の子なのに裸を見られて恥ずかしがっているの?)


 ボクはもう、自分の気持ちを整理できなかった。

 複雑な気持ちのままに服を着替え、砂糖を一つづつ皆に配ってお礼を言う。

 皆はボクを待っている間に怒りが収まっていたのか、いつもの可愛らしい姿に戻っていた。

 良かった。お礼を待たせたから怒られるかと思ったのに・・・・みんな本当に優しい。


 そんな風に皆が嬉しそうにしている様子に目を細めていると、迷宮ジジィが帰って来た。

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