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第十九話 危険な侵入者たちとボク

 迷宮ジジィの手には人間の右手が握られている。

 ボクは、あまりにも異常すぎる光景だったので、すぐにはその意味が理解できずに呆然と彼の手に握られている右手を見ていたけれど、やっとそれがなんであるのか理解し・・・悲鳴を上げた。


「きゃああああ~~~っ!!」

「やかましいっ! 見たくないんなら目をつぶっていろっ! ボケっ!」


 迷宮ジジィは優しさの欠片もない態度でボクを黙らせる。

 この人、色々とメチャクチャだぁ・・・・

 なんで死体の腕を手に持ち歩けるのよ?


 でもそんな風にボクの頭が混乱している間にもキニチ・アハウと迷宮ジジィは会話を続けていた。


「ううむ。これはルーン文字か。」

「ああ。どうやらそうらしい。俺が撃沈した冒険者パーティの武器はこれ以外すべて破壊した。

 ただ俺がこいつらを殺す前に武器を与えた神の詳細を聞きだしたんだが、女神だったらしい。

 しかも厄介なことに他にもこういった武器を与えられた連中が5名いるらしい。」

「女神か・・・・・。まぁ、フレイヤだろうな。確か3階12番目の部屋にいたはずだ。」

「・・・・ちっ。3階か。どうりで偶発的遭遇が起きるわけだ。あんな浅い階層なら実力者パーティなら徘徊する可能性があるからな。」



 迷宮ジジィとキニチ・アハウの話し合いが終わると、一度ボク達は獅子人一族を置いて家に帰ることになった。

 獅子人は同じネコ科のよしみでジャガーの神キニチ・アハウの世界で住む。ここならば人間と遭遇することはないだろうとのことだった。

 ワイオーとニャアムは改めて僕らに何度も何度も感謝の言葉を述べていたのが印象的だった。


 迷宮ジジィがこういう性格じゃなく彼らのように人並みだったら、ボクももっと素直に彼を受け入れたんだろうか?

 そんな風に思ってしまうのだった。


 一度、家に戻るとボクは疲れからか貧血を覚えた。

 ボクの顔色が悪いことに気が付いた迷宮ジジィは「今日はもう家事はせず休んでいろ。」と言ってくれた。

 それから自分は残っている5名の冒険者を探しに行くと言って行った。

 探しに行くというか・・・・殺しに行くんだろうなぁ。可哀想に・・・・。


 でも、冒険者たちは獅子人を殺して回った人たちだ。無罪とは言わない。無罪とは言わないけれども、人間達からすると獅子人は討伐対象の魔物だ。狩人が人食い熊を退治するのと何も変わらない。

 これを罪と呼べるのだろうか?

 ボクは人間の世界に生まれ育った。同時に獅子人とも触れ合って愛着もある。

 どちらにも味方できないボクの頭は貧血も相まってグチャグチャだ。何も考えがまとまらなかった。

 ただ、地下迷宮(ラビュリントス)内の秩序を保つために行動をしている迷宮ジジィの行為を受け入れるしかなかった。



 

 それからどれくらい時間が経っただろうか? ボクは貧血を理由にいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 騒がしい様子に目を覚ました時、自分は寝ていたんだと気が付くほど、眠っていた。

 それほど深い眠りから覚めるほど、家の外が騒がしかったんだ。


 何事だろう? そう思ってカーテンを少しだけ開いて窓の外を見てみると、数人の冒険者が家の外で「なんだ、この家はっ!?」「ワープの罠に飛ばされたんだっ!」と言って騒ぎ立てていた。

 冒険者たちは自分たちに何が起きているのかわかっていない様子だった。彼らは彼らが言う通り、意図せずワープでここに飛ばされて来たんだろう。


 窓から狼狽(うろた)える彼らを観察していると、彼らが手に持っている武器に迷宮ジジィが言っていた紋様(※ルーン文字)が刻まれているのが見えて、ボクはハッと息を呑んだ。


(いけないっ! このままここにいたら、迷宮ジジィに全員殺されちゃうぞ!)


 そう思ったボクは家のドアを開けて彼らに声をかけた。


「あなた達っ! ここにいたらいけないっ、隠れてっ!!

 ここは迷宮ジジィの家だ。全員、殺されちゃうっ!」


 冒険者たちは家の中から突然現れたボクを見て驚いた。そして、すぐに武器を構えた。


「気を付けろっ!! 戦乙女だぞっ!!」


 ボクは慌てて訂正する。


「ち、違う違うっ! ボクの中身は人間だよ。迷宮ジジィがボクの魂を戦乙女の中に封じただけっ!

 ボクはアナタたちに何もしないっ!」


 そう言いつつも、実はボクは戦乙女とは何か知らない。アムンキとキニチ・アハウもボクの側が戦乙女と言っていたから、そうなんだろうけどさ。

 でも、冒険者たちは戦乙女が何なのか知っているんだな。そして、それは武器を構えないと危険な存在らしい。


「大丈夫。ほら、ボクは武器を持っていない。魂は人間だ。アナタたちに何もしない。」

 

 冒険者たちは最初(いぶか)しがっていたけれど、やがて本当にボクが何もしないと判断したのか、武器を下ろして聞いてきた。


「・・・・お前は何者だ?

 それにさっき、迷宮ジジィに魂を封じられたって言ってたな? ここに迷宮ジジィがいるのか?」


 そう言われて、ボクはハッとなった。そうそれどころじゃなかったんだ。


「逃げてっ! それか武装を解いて迷宮ジジィに降伏してっ!

 地下迷宮の秩序を守っている迷宮ジジィは、貴方達を決して許さないっ!

 武器を捨てて差し出せば、見逃してくれるかもしれないっ!」


 時間がない。ボクは多分、迷宮ジジィが家を出ていってから、それなりの時間寝ていたはずだ。いつ迷宮ジジィが帰って来るのかわからない。

 今のまま見つかれば、全員、殺されてしまう。最初、隠れてと言ったが、隠れられる場所なんかここにはない。

 だったら、もう降伏しか助かる道はない。ボクは必死で説得しようと試みた。

 だが・・・。


「ああっ!? お前何言ってんだ?

 武器を捨てろだと? そんなこと出来るわけねぇだろうがっ!」

 

 冒険者たちは、反発した。

 いや、それどころか「この女、すげぇいい女だぜっ! やっちまおうっ!」と、血走った目でボクに近づいてきた。


「な、なに言っているの? そんな場合じゃないよ。迷宮ジジィがっ・・・・」

「うるせぇ、バーカ! 俺達には女神さまから手に入れたこの武器があるんだっ!

 迷宮ジジィなんかこわくねぇよ! お前こそ痛い目見たくなかった大人しくやらせろっ!」


 説得は無駄だった。ボクのいう事なんか聞く耳持たない。それどころか、ボクに襲い掛かって来た。

 身の危険を感じたボクは慌てて家に引き返しドアを閉めようとしたんだけれども、すんでのところでドアは彼らの手によって止められ、こじ開けられてしまう。


「きゃああっ! こ、来ないでぇ~~~っ!!」


 冒険者たちはボクの悲鳴を聞いて興奮したのか、家になだれ込んでくると発情期が来た雄犬のような目でボクを見つめていた。

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