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第十八話 救出された者たち

 迷宮ジジィの案内に従ってボク達は、鬱蒼(うっそう)とした森林の中を歩いていく。

 アムンキの神殿を向った時と同じく、その道のりは遠く、幼いニャアムはくたびれてしまい途中からワイオーに背負われたまま進んだ。

 そうして、とうとうボクがくたびれた頃に迷宮ジジィが不意に「着いたぞ。」と呟いた。

 それと同時にボク達の目の前にあった森林の景色がパアッと光り輝き、それから景色が巨石でくみ上げられた神殿へと姿を変える。


「おおっ! こ、これは一体っ!?」


 前回、アムンキの神殿の時に経験しているボクは今更驚かないが、人知を超えた幻覚魔法を目にしたワイオーは驚愕の声を上げた。

 迷宮ジジィはそんなワイオーには取り合わず、神殿の中央にいる恐ろしい顔をした神を指差した。


「見ろ。あれがお前たち獅子人の受け入れを許可してくれたジャガーの神キニチ・アハウだ。」


 周りの風景の変化に心を奪われていたワイオーだったが迷宮ジジィに指摘されて、神殿の中央に獣頭人身(じゅうとうじんしん)の神が玉座に座っていることに気が付き、慌てて跪き「ははぁ~~~っ!」と言って地面に頭を付けるほど平伏(へいふく)した。

 その行動を見たキニチ・アハウは満足そうに「よしよし。礼儀をわきまえておるな。」と言って笑った。


「そして、我が眷属(けんぞく)をよく引き連れて来てくれたな。○×◆★Z□・・・・。」


 ジャガーの神キニチ・アハウは迷宮ジジィに労いの言葉を述べようとして、迷宮ジジィの真名を封印されていることに気が付き、アムンキの時と同じように怒りだした。


「おのれっ、○×◆★Z□! 俺に対して名を封じたなっ!

 なんというこましゃくれたガキだっ!!」


 でも、迷宮ジジィは悪気なさそうに「こちらにはこちらの事情がある。」とだけ答えて相手にしない。

 それどころか自分勝手に話を進め始めるのだった。


「見ての通り異界から飛ばされて来た獅子人の親子を連れて来た。

 お前の話では、この迷宮には他にも獅子人が隠れ住んでいるというが、それは確かか?」

「お・・・・お前なぁ・・・・。

 お前の落ち度である獅子人の面倒をこちらに押し付けておきながら・・・・・それが他神(ひと)に物を頼む者の態度かっ!?」


 迷宮ジジィの言い草にキニチ・アハウは怒りを通り越して最早、あきれ返ったように両手を広げて眉間にしわを寄せる。

 しかし、すぐに(らち)が明かないことに気が付いて話を進める。


「・・・ああ、確かだ! 眷属の気配を感じている。息をひそめて隠れ潜んでいるのがわかる。

 だが、いつまでも隠れ住んでいるわけにもいくまいよ。いつかは奴らも食事のために・・・・生きるために姿を見せなくてはいけなくなる。その時、再び愚かな人間どもの襲撃を受けることになるやもしれん。

 時間に余裕はないぞ。助けに行くならすぐにした方が良い。」

「そうか。つまり人間はまだ獅子人を追っているという事か・・・・。」


 キニチ・アハウの言葉から迷宮ジジィは人間の脅威を危険視する。


「人間が手にした武器で獅子人を狩る。俺はこれを行き過ぎた祝福だと思う。

 キニチ・アハウ。奴ら人間にこれほどの武器を与えた神について心当たりはあるか?」


 迷宮ジジィに問われてしばらく考え込んでいたキニチ・アハウだが、答えは出なかった。

 ただ、「生存者の情報を集めれば武器の詳細も分かろう。そうすれば武器を与えた神も絞り込めるかもな。」と答えた。

 その答えに納得し、了知したことを告げ返するように小さく頷くと「では、しばらくここで待て。お前の眷族、俺が連れてきてやろう。」と言って、背を向けてどこかに向かって迷宮ジジィは歩き始めた。

 ボクが慌ててその後についていこうとすると、迷宮ジジィは「足手まといになるからここで待て。」と突っ返すように拒否した。


 なんだ。じゃぁ、ボクは何のためにここに連れてこられたんだ?


 結界の外へ消えていく迷宮ジジィの後姿を見ながら、そんな不満を感じていると、ボクの心を見透かすようにキニチ・アハウが答えた。


「お前は人質なのだ。大人しくここで○×◆★Z□を待て。」

「ひ、人質?」


 聞き捨てならない言葉が耳に入って来た。

 人質? 人質って何のために? いや。そもそもそんなことボクの了承もなく勝手に決めるなんて・・・・ボクがこのジャガーの神の勘気(かんき)に触れて食べられちゃったらどうする気なんだよっ!(※勘気に触れる=立場が上の者の怒りを買う。)


 ボクがそんなことを考えていることもキニチ・アハウには、お見通しの事の様で何も言わなくても答えを言ってくれた。


「人質というのはな。奴が途中で仕事を投げ出したり、獅子人を見捨てたりするようなことがないということの誓いの証としてお前を置いていったという意味だ。

 それは裏を返せば、お前は○×◆★Z□にとって人質になりうる存在だという事だ。

 これは驚きだ。全く、あの○×◆★Z□がこれほど人に執着するとは思わなんだ。一体、こんな小娘の何がいいんだか。」


 キニチ・アハウはそこまで言ってから「ん?」と、眉をしかめてから驚いたように声を上げた。


「な、なんとっ! 其方(そなた)(がわ)は戦乙女であるのに、その内に秘めた魂は人間の男ではないかっ!?」

「ええっ!? お、男? こ、これがっ!?」


 ワイオーもキニチ・アハウの言葉につられて大声を出して驚いた。

 ま、気持ちはわかる。ボクだって驚きなんだから・・・・。


「・・・・・わかっているつもりだったが・・・・・やはり、あいつはイカレている。」


 キニチ・アハウは言葉もないとばかりにあきれ返って黙ってしまった。



 それから数刻の間、キニチ・アハウにボクと迷宮ジジィの関係について話して聞かせて時間を潰していると、結界の向こうから迷宮ジジィが十数名の獅子人を引き連れて入って来た。


「ああっ!! ニャーゴっ!! い、生きていたのかっ!?」

「ママっ!!」


 ワイオーとニャアムは迷宮ジジィが引き連れてきた人々の中から一人の女性の姿を見つけて、声を上げ、走って駆け寄り抱きしめた。

 それがワイオーの妻であることは言うまでもないことだった。

 生き残りの到着を見届けたキニチ・アハウは感謝の言葉を述べる。


「よく無事に我が眷属を連れて来てくれた。

 礼を言うぞ、迷宮ジジィ。」

「誰が、迷宮ジジィだっ!!

 エイルっ! またお前、いらんことを言いふらしたなっ!!」


 迷宮ジジィは左手でボクの頭にゴチンとゲンコツを入れると、右手に持っていた(・・・・・・・・)人間の右手(・・・・・)を高々と掲げた。


「途中で冒険者と遭遇したので撃沈した。

 だが、こいつの持っていた武器を見ろ。」


 人間の手には、魔法陣の描かれた大きな斧が握られていた。

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