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第十四話 お出迎え

「お前は、とんでもない約束をしたんだぞ! 俺の家の庭に神を祀るなんて、なんということだっ!!」

 

 古代の神アムンキが姿を消してから、迷宮ジジィは不機嫌そうにそう言ったけれど、家に帰るとボクが契約違反による神罰を受けずに済むようにと、お庭にアムンキの(ほこら)を建ててくれた。ボクのために建ててくれたんだ。そこは本当に感謝している。


 そして祠が出来ると不思議なことに目隠しなしでは出歩けないほど危険地帯だったはずの迷宮ジジィの庭は、祠を中心に神聖結界が生まれ、ボクは家屋から徒歩20歩程離れた祠のある場所までならば目隠しなしで出歩けるようになった。


 とはいえアムンキの祠を中心に生まれた結界は外界の情報を完全にシャットアウトしているので、ボクの眼にはアムンキの結界の外にどんな世界があるのか見る事が出来ない。まるで黒いカーテンでも降ろされているかのようにアムンキの結界の外は漆黒の闇が広がっているだけだった。


(この結界の外には何があるのだろう?)


 そんな興味心がなかったわけではないが、見れば身を滅ぼす見なくてもいい世界、知らなくてもいい世界ならば考えない方が良いのかなとボクは納得するのだった。


 ところで、祠が出来たことによってもたらされた幸福はお庭に出られるようになったことだけではなかった。

 お庭に出られるという事は、家の外から迷宮ジジィの家の外観を見る事が出来るという事だった。

 

 迷宮ジジィは祠を建ててすぐにボクの手を引いて外へと連れだしてくれた。

 好奇心に駆られたボクは家の外に出たときに振り返ってその姿を見た。

 家の外から迷宮ジジィの家を見るのは、初めての事だった。

 だから、気が付かなかったけれど、迷宮ジジィの家は神殿造りの立派な建物だった。それは王家の住まいというよりは神を祀る本殿だった。


「こ、こんな神聖な場所だったんだ・・・・」


 初めて迷宮ジジィの家を見たとき、ボクは驚きを隠せなかった。

 こんな場所を住居にし、数多くの神仙獣や妖精を下僕として従える迷宮ジジィ・・・・。もしかしたら、彼は本当に迷宮の意識の具現化した存在なのかもしれない。

 迷宮ジジィは否定した説だけれども、当たらずとも遠からずって可能性は高い。ボクはそう思った。


 そして迷宮ジジィは祠を建ててくれただけではなく、アムンキをお(まつ)り作法まで教えてくれた。

 朝晩に捧げる祝詞(のりと)と掃除をかかさないことを言いつけるように。やらなければ神との宣誓に違反して大変な報いを受けることになると説明してくれたんだ。

 妖精の時にボクは、迷宮ジジィの言いつけは守らないと大変なことになる事を身を持って知った。

 だから、その日からボクはその言いつけ守ってアムンキをお祀りした。


 すると、アムンキの祠を建てた7日後の朝。玄関の外に3つのガラクタが放置されていた。

 それらは、象の形を模した水差しだったり、太陽神に捧げる虫の形をしたブローチだったり、多面多腕の人形(ひとがた)(※呪術に用いる紙人形)だったりした。


 ボクが何事かと迷宮ジジィに尋ねると、迷宮ジジィはそれらを掌に乗せてから、口から吐いた炎で燃やした。


「これがお前を襲った付喪神だ。

 もう、死んでいる。

 どうやらアムンキは約束通り粛清を果たしてくれたようだ。

 本来は古代の民がアムンキに捧げたり、祈祷の際に使用した呪具だったのだろうが、それが時を経て霊魂を持ったんだろう。

 付喪神は往々(おうおう)にして自分達を粗末に扱った人間を恨む。

 だが、復讐を果たすべき古代人は消えてしまった。付喪神は復讐する相手を求めて迷宮を彷徨(さまよ)い歩いていたのだろう。」と、教えてくれた。


「なるほど。そう思うとこの子たちも哀れだね。

 復讐を果たすべき相手は千年以上前にいなくなり、道具としても使ってもらえることもない・・・・」


 迷宮ジジィの掌の上で燃える三種の道具を見つめながら、ボクは彼らの魂が安らげる事を祈った。

 そんなボクを見つめながら迷宮ジジィは言う。


(あわ)れむ必要はない。こいつらは恐らく迷宮で冒険者達を襲っていたはずだ。駆除しなくてはいけない存在だったのさ。

 それに、こいつらは7階7番目の部屋の主。つまりアムンキに自分達の悪事を知られることを恐れていた。

 悪いことを自覚して暴れていたんだ。憐れむ必要はない。」


「・・・うん」


 ボクは迷宮ジジィの言うことももっともだと思ったけれど、それでも彼らを(あわ)れだと思わずには、いられなかった・・・・


 


 さて翌朝から、ボクは朝食の準備の前にアムンキの祠への祭り事をしなくてはいけないので、より早起きしなくてはならなくなった。

 眠たい眼を(こす)りながら朝食の準備をするボクを迷宮ジジィは「それ見たことか、安請(やすう)()いは面倒の元なんだよ。」と言って笑うのだった。


 だって、仕方ないじゃない。あのまま戦い続けたら、亡者(もうじゃ)達が可哀想だったんだから。

 誰のせいでこんな事になったとおもってんの?


 ボクは少しムッとしながら、食卓に料理を並べると迷宮ジジィの対面の席に座る。

 その様子を見ていた迷宮ジジィも少し不機嫌そう。


「あのな、エイル。

 もしかしなくてもお前、俺に主人へ対する敬意を感じてなくないか?」


「なくないです。」


 ボクは手短に答えると、パン切包丁を使って一斤のパンから、乱暴なくらい厚切サイズを切り落とし、それの表面にジャムを塗りたくって迷宮ジジィの皿に盛り付けて渡す。


 迷宮ジジィはイラッとした様子でそのパンを掴むと鋭い犬歯でそれを引きちぎって飲み込む。


「お前、完全に俺を舐めてるな?

 そもそも迷宮ジジィってなんだよ? 二度と言うなよ、それ。

 お前は俺に仕えるメイドだって自覚を少しは持て。」


 迷宮ジジィは大変、御立腹(ごりっぷく)の様子。


「でもですよ? ご本人様には、ご主人様って言えばいいですけど、あの場合、第三者様にはなんて伝えればよかったんですか?

 お名前、封じられておられるでしょ?

 それに、そもそもボク。メイドじゃありません。

 女の子じゃないんですからっ!」


 ボクはそう言って反論する。しかし、その言葉は迷宮ジジィには刺さらず呆れさせるだけだった。


「いや、お前は女だろ。そんなバカみたいにデカい乳をぶら下げて何言ってんだ? ばか。」


「ボク、バカじゃないし、女の子じゃないもんっ!!」


 そう言って不貞腐れるボクを見ながら、迷宮ジジィは面倒くさそうにパンをもう一口(かじ)るのだった。

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