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第十二話 人外の戦い

「俺の女に手を出すというのなら、戦争だ。」


 迷宮ジジィがそう言って威嚇(いかく)すると、神殿中に迷宮ジジィの殺気が充満した。

 一角獣とボクは、その殺気に怯えて身がすくんでしまう。


 しかし、その殺気を向けられている古代の神アムンキは眉をピクリと動かして迷宮ジジィを(にら)みつけるだけで特に慌てた様子もない。


 アムンキと迷宮ジジィの睨み合いはしばらく続いたので、ボクも一角獣も生きた心地がしなかったけど、その睨み合いもいつしか収まっていく。


 きっかけは古代の神アムンキが作った。


「余がその者共を粛清(しゅくせい)したとして、その見返りはあるのかね?

 まさか神に願い事をして捧げ物無しとは言うまい?」


 アムンキは和平を望む姿勢を見せた。これは話し合いで解決すると思った矢先、迷宮ジジィはキッパリと拒否した。


「あるわけがない。」


 交渉に入ったのかと思いきや迷宮ジジィがキッパリと拒否したので、言われた古代の神は、拍子抜けしたかのように顔を歪めて「何?」と短く尋ね返す。


此度(こたび)の騒動。明らかにそちらの規律の問題。

 我々は被害者だ。

 (あが)める者がいなくなったとはいえ神ならば、秩序は守るべきだ。

 よって、こちらからは苦情を言う以外に対処することは無いっ!!」


 迷宮ジジィは古代の神を指差しながら批判した。

 神ならば秩序を守れ。かなり意味深長な言葉にアムンキは一瞬、息を詰まらせたが、すぐに冷静さを取り戻して反論する。


「信仰する者がいないのならば、何の秩序を与える必要があるものか。

 人が神への義務を(おこた)ったのならば、それ相応の報いを受けて当然であろう。

 (ゆえ)に此度のことは、人間の自業自得である。」


 アムンキはもっともらしい反論をする。

 その答えを良しとしない迷宮ジジィは美しい白髮を逆立てて、怒った。


「では、話し合いはここまでだな。

 崇める者を失った古代の神よ。さぁ、かかってくるがいい。」


 迷宮ジジィがそう挑発すると、アムンキの表情が魔神のように恐ろしい相貌(そうぼう)に変わった。

 と、ボクが認識したと同時か、それよりも少し早くかに一角獣がボクの後ろ襟に噛みついてボクの体をブンッと遥か高くに放り投げるっ!!


「きゃああああーっ!」


 いきなり空中高くに放り投げられたボクの体を空中を地面のように蹴り上げて走る一角獣が背中で受け止めてくれる。


「もうっ!! 何するんだよっ!?」


 と、ボクが抗議の声を上げた瞬間、アムンキの作り出した魔法の炎が迷宮ジジィを飲み込むように爆発を起こして、さらにボク達のいた場所まで巻き添えになる勢いで燃え広がっていた。


 もし、一角獣が助けてくれなかったら、死んでた。


 ボクは戦慄の事実を知って、助けてくれた一角獣の首筋をさすってあげながら、

「よしよし、お前のおかげで命拾いしたよ。お前は、良い子だね。何も知らずに怒鳴ってごめんなさい。」とお礼と謝罪の言葉を言う。

 すると一角獣は「気を抜くなっ!!」とボクを叱責しているかのように血走った目で(いなな)きながら、空中を蹴って空を駆け巡る。


 その様子を玉座から睨むアムンキは

「ええい、目障(めざわ)りな小娘だっ! 大体、なんだアイツはっ!

 逃げ回るわ悲鳴を上げるわ! 戦乙女の誇りはないのかっ!!」


 アムンキはボク達を見て苛立ちを見せたその瞬間、燃え盛る炎の中から迷宮ジジィが踊り出てきたかと思うといつの間にか手にしていた手槍(てやり)(※全長1.8メートル前後の短い槍の事)をアムンキに向けて投擲(とうてき)する。


 迷宮ジジィの手から解き放たれた刀身部分が十字形をしたその手槍は一直線にアムンキに向かって飛ぶ。

 その剣尖の輝きにアムンキは危険を感じたのか、空中に舞って槍をヒラリとかわす。(まと)を外して遥か彼方に飛んでいくハズの槍は的を超すと姿を消し、次の瞬間には不思議な事に迷宮ジジィの手に握られていた。


「空間魔法を付与された槍・・・・

 なるほど。どこで手に入れたか知らんが、その槍・・・・グングニル・・・・か?

 それも悪趣味に刀身を十文字に書き換えた。」


 宙に浮いたままでアムンキは迷宮ジジィの手にある十文字槍を指差しながら、その正体を言い当てた。そして、自分が出した答えに苛立ったのか苦々しい表情でツバを吐いて半身を切ると、握り拳を自分の顔の前に突き立てて「馬鹿者がっ!!」と迷宮ジジィを一叱する。


 すると、地面から大量の亡者が溢れ出てきて、地面から全身が出たかと思うと脇目も振らずに迷宮ジジィに向かって突撃してくる。

 迷宮ジジィは「ちっ」と舌打ちすると槍をブンブン振り回して亡者達を薙ぎ払ったり、突き殺したり、足蹴りまで使って亡者達の進行を許さない。


 しかし、いくら迷宮ジジィとは言え、無尽蔵(むじんぞう)に湧き出てくる亡者達に対すれば多勢に無勢。

 そのうちにドンドン亡者達との距離が縮まってくる。


「あああっ!! 面倒くせぇーっ!!」


 迷宮ジジィは一声吠えると口の前に手印を組んで息を深く吸い込んでから、口から炎を吐き出した。

 一瞬で辺り一面が火の海地獄と化した。

 亡者たちは悲鳴を上げながら死に絶えていく。それでもなお、アムンキは呪力の(こも)った拳を突き立て亡者たちを大地から呼び起こす。


「くそっ! (らち)()かんことをっ!!」


 迷宮ジジィは亡者たちを睨みつけながら、懐から出した扇子(せんす)と呪符を両手に持つと、大地を踏み鳴らしながら神楽を舞う。そして手に持った3枚の呪符を投げ放つと、その呪符から三柱(みはしら)の巨大な神仙獣が飛び出してきた。


 その神仙獣は巨大な白虎、巨大な人蛇(ナーガ)、巨大な雪男(イエティ)だった。

 三柱は各々が大暴れして亡者を地獄に送り返し、迷宮ジジィに近づく隙を与えない。

 迷宮ジジィはその様子を見てせせら笑う。


滑稽(こっけい)なっ!! 亡者ごときでこの俺を止められると思ったかっ!」

「抜かせっ! その強がり、いつまでも続くと思うなっ!!」


 二人の激闘は終わりが見えない。

 でも、気の毒なのは召喚された亡者たち・・・・。

 

(止めなくては・・・・)


 彼らの断末魔の叫びを聞いたボクはいたたまれなくなって、つい、「二人とも、もうやめてっ!! 交渉しましょう!」と叫んでしまった。

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