第十話 付喪神
「俺が留守中に起きたことをありのまま話せ。」
迷宮ジジィにそう言われて、ボクは今日起きたことをありのまま報告した。
本来ならば、迷宮ジジィが帰ってきてすぐ話さないといけないことだったけれど、全裸を見られたショックで全て飛んでしまっていたんだ。
「あのねっ! ご主人様がいない間にとっても大きな異形の神々が来たのっ!
それでボクを捕まえていけないことをしてやるって騒ぎ立てて・・・・でも、そうしたらバンギトグルスの大龍がやって来て、異形の神々を追い払ってくれたのっ!
でも、そのあと、ボクが妖精たちにお砂糖を上げるのを忘れてて、妖精たちが怒り出して服を引き裂かれたんだけど、どうにかお砂糖を上げるのを思い出して、事なきを得たのっ!!」
ボクは、やや興奮気味にテーブルから身を乗り出して迷宮ジジィに報告すると、迷宮ジジィはボクの前のめりになった姿勢から見えるオッパイを下からタプタプ揉みながら「見えてるぞ。」なんて言って笑った。
「きゃああっ!!」
ボクは反射的に迷宮ジジィの頬っぺたを引っ叩いて「エッチなことは見習い期間はしないって約束したじゃないかっ!!」と抗議してやる。
でも、迷宮ジジィは
「お前が誘った場合は無効の約束だ。」なんて言い返してきた。
「誘ってなんかいないっ!! 誰が男なんか誘ったりするもんか~~~っ!!」
よくも穢れを知らないボクのオッパイを揉んでくれたなっ!!
ボクは怒り心頭で文句を言ったけど、迷宮ジジィは相手にしてくれず、留守中に起きたことに話を戻した。
「ところで、その異形の神々とやらは、どんな姿形をしていた?
去り際になにか言い残してはいなかったか?」
迷宮ジジィは、何故か全てを見通していたかのように異形の神々が捨て台詞を吐いていったことを言い当てた。
ボクは驚いて何度も頷きながら、彼に全てを話した。
異形の神々の姿形から、彼らが残していった「7階7番目の部屋の主」にこの事を知られるのを恐れていたとを説明した。
迷宮ジジィは、ボクの話を聞いてジッと黙っていたけれど、やがて「付喪神の類だな・・・・」と、呟いた。
「付喪神? 付喪神って長い年月を経た道具類に魂が宿るってやつでしょ?
でも、あれは神というよりは妖怪の類でしょ? あの異形の神々は、とてもそんな低級な存在には見えなかったですよ?」
「まぁ、通常の付喪神だったらな。
忘れたのか? ここは既に滅びた古代の王国の城跡。道具の類は1000年を超えて霊位を上げ、今や下手な鬼以上の存在になった者共だ。」
迷宮ジジィの説明を聞けば、ボクにもアレが付喪神に思えてきた。
「でも、そんな恐ろしい神々をバンギトグルスの大龍は一人で追い払ってしまった。
あの大龍はそんなに強烈な存在なのですか?」
「ああ。
あれは古代王国が存在したころから番犬として飼われていた龍族で、由来的にあの異形の神々が絶対に乗り越えられない存在なんだ。」
迷宮ジジィはそこまで説明すると、ボクに昼食の後の洗い物をするように指示し、自分は「準備がある」とだけボクに伝えて武器庫の方へと向かっていった。
一人残されたボクは何が何だかわからないけど、台所で洗い物を済ませ、水を出してくれた水妖精のウンディーネにお礼の角砂糖を1個忘れずに手渡すと、彼が戻ってくるのを待った。
暫くすると、迷宮ジジィが武器庫から何やら鎧や剣を持って戻ってきた。
そして、それらを勢いよくテーブルの上に投げ出すと
「着ろ。
それはもともと前のエイルの装備だから、お前の体に合う。」
「え?」
ボクはそう言われて驚いた。だって、ボクの体は出るところはしっかり出ているけど、とても華奢な体だったからだ。だから、前のエイルが女戦士だと知って驚かずにはいられなかった。
・・・・こんな重い鎧なんかボクに着れるのかな?
不安で一杯だったけれど、ボクは迷宮ジジィに手伝ってもらいながら鎧を着こんでいった。
そうして着終わった時、ボクはその鎧が羽のように軽い事に気が付いた。
「これ・・・浮遊の加護が付与されている?」
「うむうむ。それがわかるか。
お前は意外に見どころがあるな!」
なんの見どころかわからないけれど、迷宮ジジィは満足そうにそう言うと、最後に手にしたレイピアを鞘から抜いて、その刀身に刻まれた呪紋を見せながら説明してくれた。
「このレイピアにはイフリートの加護がある。魔法が使える者は炎を出すことができるが、お前のような愚鈍な者でも、まるでケーキを切るように岩を切断できるだろう。」
と言って手渡してくれた。
・・・・・?
・・・・・・・あれ? ボク、なんで武装させられているんだろう?
ボクは今頃になって不穏な状況に気が付いて不安になった。
「あ・・・そうですか。へぇ・・・・
ところで、ご主人様。ボクはなんのために武装させられているんですか?」
ボクが不安そうに問いかけると、迷宮ジジィは呆れたように言った。
「なんの為って、俺と一緒に付喪神どもを退治に出かけるためだよ。」
・・・・・迷宮ジジィがあんまりにも事無げにそう言うので、ボクは理解が追い付かずに生返事をしてしまう。
「・・・・へぇっ! ああ、そういうことです・・・・か? ・・・・ボクが?
ご主人様と? 付喪神退治に・・・・?」
自分で頭を整理するために呟いた言葉にビックリして叫んだ。
「えええええええ~~~~~っ!?」
「なになに?
どういうことですかっ!?」
「やだやだっ!! 絶対に行かないよっ!!
ボク、戦闘なんかできないもんっ!!」
しかし、迷宮ジジィがボクの話なんか聞いてくれるはずもなく、
「やかましいっ!!
付喪神に目を付けられたままでいいわけないだろうっ!!
エイルっ!! お前はっ!!! 今から俺と付喪神退治に出かけるんだよっ!!
わかったか~~~っ!!!!」
と、一喝するだけで、強引にボクの体を抱き上げると家の外に連れ出すのだった・・・・・
「やだやだっ!! 家でお留守番していたいの~~~っ!!」
ボクの魂の叫びが家に鳴り響いた・・・・・。




