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第一話 迷宮ジジィと女の子になったボク

「う・・・いててて・・・・」


 体に感じる激痛に目を覚ましたボクは、天井を(にら)みながら身動き一つできないほどの怪我を負っていたことを思い出した。

 ・・・・思い出された最後の記憶。

 王都の近くにそびえ立つアララト山の麓に作られた地下迷宮(ラビュリントス)。難攻不落のそのラビュリントスは数百年に渡り、踏破(とうは)されたことが無い。多くの冒険者にとって、数百年に渡って仕事を与えてくれる恵みの地下迷宮だが、その分、そこは生存することも厳しい弱肉強食の世界だった。


 多くの冒険者が挑み、死んでしまう事も珍しくないその迷宮に今日、挑んだパーティーがあった。

 ボクはそのパーティーの荷物持ちとして雇われていた。


 しかし、迷宮内でオーガの群れに奇襲を受けた時、冒険者パーティが逃走するための(おとり)にボクは使われたんだ。裏切られ捨てられたんだ、ボクは。

 それも逃げられないように剣で足を切られて・・・・。


「どうしてっ!? (ひど)いよぉーーーっ!!

 助けてよぉ――――っ!!」


 歩くことも出来ない体で地面を()いながら必死に叫んだ。でも誰もボクを助けてはくれなかった。誰も後ろを振り返ることなく走り去っていった。

 それはそうだろう。所詮(しょせん)、ボクは冒険者に雇われた荷物持ち。戦闘の役には立たない。それでも、それでも・・・・まさか人間を捨て石にして逃げるだなんて思いもしなかった。

 ボクは冒険者たちの逃げ去る姿を見て絶望を覚えた。そして、その絶望を恐怖にかえるオーガ達の笑い声が迷宮内にこだました。


 それから先は地獄だった。オーガに(なぶ)りものにされた。

 奴らは猫が捕まえた獲物のように人間をいたぶる。

 これ以上の地獄がこの世にあるのだろうか?

 しかし、その地獄もいつまでも続いたりはしない。やがて救いは訪れる。


 破壊の限りを尽くされたボクの体は、やがて痛みすら感じなくなった。思考すら失われ、妄想にとりつかれた。

 ありもしない幻影。一人の白髪老人がオーガの群れを蹴散らしてボクを救い出してくれる。そんな幻影を見た気がする見た。

 老人がオーガの群れを蹴散らす? バカげている。

 きっと脳が地獄に耐えられなくなってこんな夢をみてしまうのだろう。

 そんな事を考えながら、次第にボクの意識は消えていく。


「ほう、驚いたな。お前、定着したのか。」

 薄れていく意識のどこかで、そんな声が耳に聞こえてきた気がした。



 でもきっと、ボクはその時に死んだのだろう。

 あれからどれくらいの時間が過ぎたのだろう?

 ボクは真っ暗な闇の中を当てもなく歩いていた気がする。そうして、やがて自我が目覚めてきた。


(・・・・・・・・・死んだのなら、今のボクの思考は誰のものなのだろう?)


 そう気が付いた時、ボクは自分がまだ生きていると悟って、目を覚ました。

 パチリっと音が立つほどに勢いよく(まぶた)を開けたら、木目の綺麗な天井が目に入った。

 それから横を見ると質素だが、清潔感のある部屋の景色が目に入った。

「ここは?」

 そう言いながら、体を起こそうとしたが、体に力が入らない。腕さえ動かすのがやっとだった。

「ううっ。いてて、なんだこりゃ、ボクの体はどうなったんだ?」


 痛みに(うめ)きながらボクがそう呟くと、それに(こた)えるように男の声が聞こえた。

「まだ動いちゃだめだ。他人の身体にはすぐには合わないんだ。」

 ボクが声のした方向を見ると、長い白髪とヒゲに顔を覆われた老人がイスに座ってボクをみていた。どうやら、ボクを看病してくれていたらしい。


「夢じゃなかったのか・・・・」


 ボクは自分がこの人に救けられたと理解しホッと安堵した。

 そうして頭が混乱から覚めると、一つの伝説を思い出した。


 迷宮ジジイ。 

 それはもう二百年も前から語り継がれている冒険者達の妄想的伝説だ。

 

 それはこんな伝説。

 モンスターの軍団に襲われている冒険者が一人の老人の手によって救い出されるというのだ。髪もヒゲさえも真っ白な老人は、老人とは思えぬ動きでモンスターを蹴散らし、何も言わずに去って行くという。

 しかし、逆にAクラスの冒険者パーティーが一人の老人に襲撃され全滅させられたと言う事も何度かあったともいう。老人に襲われても瀕死(ひんし)の状態で奇跡的に助かった者の証言では、その老人は「この世の者とは思えぬ」ほど強かったそうだ。


 冒険者にとって敵になったり、味方になったりする謎の存在である老人は、その絶大な力から、きっと迷宮の意識が具現化した姿で、迷宮の秩序の番人なのであろうと噂された。


 Aクラスパーティーすらたった一人で全滅させてしまうという圧倒的な強者。

 しかし、誰も彼もが何者か知らない。だからいつしか彼には「迷宮ジジィ」という仇名(あだな)がついて冒険者たちから恐れられるようになった。


 もしかしたら、ボクの目の前にいるこの白髪の老人こそが迷宮ジジィなのかもしれない。

 いや、きっとそうなのだ。オーガの群れを一人で蹴散らす老人なんて他にいるわけがないのだ。

 しかし・・・・


 迷宮ジジイに救われた人間の話の最後はいつも彼が何も言わずに去っていく終り方だったはず・・・。どうして、ボクは彼に看病までしてもらえたのだろう?

 そんなことを考えながら彼の顔を見た。


 しかしジッと彼を見つめるボクの視線がくすぐったいのか、彼はクスリと笑うと「さぁ、もう数日寝ているがいい。他人の体になれるのにはまだ時間がかかるのだ。」と言いながらボクの顔をその大きな掌で(おお)った。

 その掌には魔力で形成された魔法陣が浮かび上がっていた。


(・・・・あ、睡眠の魔法だ・・・・)

 そう思った瞬間にボクは眠りについていた。ただ、夢に落ちる瞬間、「他人の身体?」という疑問が頭をよぎったのだった。



 しかし、その疑問は次にボクが目を覚ました時に解けた。

 目を覚ました時のボクは体を起こしても無事なくらいに元気になっていたのだ。

 迷宮ジジイの眠りの魔法が若干(じゃっかん)残ったけだるさ(・・・・)はあったものの体を起こしてベッドから立ち上がって歩くことができた。


 こうして無事に自力で立って部屋を観察するほどの余裕が出来てわかったが、部屋に飾られた調度品はどれもがシンプルなデザインであったが、かなりの高級品だと貧乏人のボクにもわかるほど見事なものばかり・・・・。本当に一体、迷宮ジジイとは何者なのだろうか?

 ボクがそんな疑問を感じながら部屋を観察していると、一枚の立派な姿見の鏡に映る自分の姿を見つけた。


「な・・・なんだ、これ・・・。」

 ボクは鏡に写った自分の姿に絶句した。何故なら、そこに映っていたボクの姿はこの世の者とは思えぬほどの美少女だったからだ・・・・。

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