【第3話 村を揺るがす依頼人】
《ひだまり》に突然訪れた謎の男からの依頼。
「知り合いの少女を助けてほしい」という短い説明だけ。
情報が少なすぎる中、カエデたちは森へ向かうことに――。
【第3話 村を揺るがす依頼人】
その日、《ひだまり》のギルドハウスに、重い足音が響いた。
現れたのは、日に焼けた肌と鋭い目を持つ壮年の男。腰には使い込まれた大剣。
「ここが《ひだまり》で間違いないか」
低く落ち着いた声。
「はい。ご依頼ですか?」
カエデが答えると、男は一枚の依頼書を机に置いた。
――依頼内容:村外れの森で行方不明となった少女の救出。
危険度:Eランク相当。魔物出現の可能性あり。
報酬:銀貨20枚+救出時の追加謝礼。
「少女って……どなたですか?」
「……知り合いの子じゃ。それ以上は話せん」
依頼人の名はザック。それ以上の情報はなかった。
カエデは一瞬迷ったが、「助けを求められて断る理由はない」と判断した。
私たちはすぐさま探索の準備をして、リンの案内で森にむかった。
森の入口は湿った空気に包まれ、昼間でも薄暗い。
カエデは後方に位置取り、荷物と回復ポーションを背負う。
前衛はザックとリン、メイが中衛に立つ。
「少女は最後、この辺りで見かけたらしい」ザックの声は短い。
そのとき、茂みが揺れ、低い唸り声が響いた。
三体のフォレストウルフが飛び出す。
「リン、右を頼む!」
ザックが叫ぶと同時に、リンの矢が唸りを上げて狼の額を射抜く。
メイは詠唱を始めた。
「ウインドカッター!」
鋭い風の刃が、もう一体の脇腹を切り裂く。
ザックは残る一体を大剣で押し返し、リンが矢で追撃。
「みんな、気を付けて!」
カエデは応急ポーションを構え、戦況を見守る。
戦闘に加わることはできないが、倒れた仲間がいればすぐ駆け寄るつもりだ。
短い激闘のあと、三体の魔物は地に伏した。
森の奥、倒木の陰で小さな人影が蹲っていた。
金色の髪、泥にまみれた服、怯えた瞳。
「……だれ?」
「大丈夫、私たちは味方だよ」
カエデがしゃがみ込み、そっと声をかける。
その背後で、木々を押し分ける重い音が響いた。
姿を現したのは、巨大なフォレストウルフの親玉。
「来るぞ!」
ザックが大剣を構え、リンが矢を番える。
メイはすでに詠唱に入っていた。
「ウインドカッター!」
風の刃が親玉の肩を切るが、致命傷にはならない。
リンの矢もかわされる。
「ポーション準備してるから!」
カエデは後方で叫び、万一の回復に備える。
ザックが正面から剣を振り下ろし、メイの魔法が追い打ちをかける。
親玉がひるんだ一瞬、リンの矢が喉元を貫き、巨体が地に崩れた。
少女――リナは震える声で「ありがとう」とだけ言って気絶した。
ザックは無言で彼女を抱き抱え、森を後にした。
ギルドに戻ると、報酬と引き換えに「世話になった」とだけ言い、二人は去っていった。
(あの子……ただの村の子じゃない気がする)
カエデの胸に、疑問が残ったままだった
【カエデのギルド経営日記】
今日の依頼は救出任務。報酬は銀貨20枚、追加謝礼で計銀貨25枚。
魔物討伐と違い、依頼主の満足度が直接信頼につながる案件だった。
今回の成功で「危険だが迅速対応するギルド」という印象を与えられたはず。
【経営Tips】
「ブルーオーシャン戦略」
競争の激しい依頼(高額討伐など)を避け、他がやりたがらない“救出・雑務・小規模護衛”を丁寧にこなすことで差別化を狙う。
依頼主の感謝は、金額以上の価値を生む。口コミで広がれば需要は必ず増える。
次回予告
第4話 「依頼はないが、策はある」
救出劇で信頼を得た《ひだまり》。
しかし依頼件数は依然少ない。
そこでカエデが考えた新戦略とは――?
今回は初めての救出依頼。
カエデは戦闘には加わらないものの、支援役として仲間を見守りました。
皆となら能力Gでも怖くない(本当は怖いが)これからも「ひたまり」の活躍を期待してください。