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花をも奪う

作者: 羽入 満月

「すみませんでした」


 めんどくさそうに謝る相手に私はチラリと視線を投げて、すぐに視線を戻す。


 今、私のクラスは体育だからみんな体育館にいるんだよね。

 先生に呼び出されて話が終わり、教室に帰ってきたら彼が登場したのだ。


 私は真面目な生徒なので、遅れてでも授業に出ようと思ったのにな。

 ペアを作れと言われても誰もいなくても、グループも声をかけても無視されて、先生に言われてグループに入れば「自分で言いに来いよ」と暴言を吐かれても、ほら、私は真面目だからさ。


「……で?」

「え?」


 え、ってなに?

 何をそんなに驚いているのかわからない。


 謝ったら「いいよ」って言われると思ってるの?

 幼稚園児じゃあるまいし、そんな簡単に許されると思ってんの?


 馬鹿なの?

 頭ん中お花畑なの?


 流石にその言葉は飲み込んだけど……


「流石に今回はやりすぎたって?それとも今回ばかりは謝ってこいって先生に言われた?」


 そりゃぁ、器物破損だからね。

 嫌がらせの域を超えている。


「……今まですみませんでした」


 どうやら今回の事だけを謝りにきただけではないらしい。


 だがしかし。


「それで?」

「……」


 一瞬イラッとしたけど、飲み込んだ。

 そうしたら相手も言葉を飲み込んだのか出てこないのか、黙り込んじゃった。

 散々黙り込んだ私に、悪口を言って、追い打ちをかけて、逃げただなんだと言っていたのに。


「許してもらえると思ったの?今まであなたたちのやってきたことは、『学校』と言うなの社会だったから『いじめ、いやがらせ』って纏められてるけど、一般社会のルールに入れたら犯罪だよ」


 まず、窃盗。

 生徒手帳を盗まれて、中の電話代の十円盗まれて通学路の溝に捨てられた。


 器物破損。

 今回だって荷物を破壊され、前回は美術の授業で作った作品を壊されてる。


 階段や教室で足を引っ掛けてころばして怪我をさせようとしているのは傷害未遂じゃない?暴行罪かな?


 本を買えば万引きだ!って噂を流したり、暴言だって毎日言ってるでしょう?

「死ね」「帰れ」「消えろ」は1日1回以上言わなきゃいけない呪にかかってるの?

 でもそれは名誉毀損なのでは?



 他にもやられたことや言われた事はいっぱいあるけど、挙げ出したらきりがないから、それくらいにしておくよ。


 それで体調悪くなっても、朝起きれなくても、夜寝れなくても、起き上がれなくても、ご飯食べられなくても、毎日欠かさず登校してる私の気持ちなんて考えたことないでしょう?



「やりすぎたって思うのが遅すぎる。2年ぐらい前に謝っても許さないって私は宣言したでしょう」


 その言葉に相手は、はっとした顔をする。

 どうやら心当たりはあるらしい。


「それでも態度を変えなかったどころか、楽しんでエスカレートしたのはそちら。先生たちも見て見ぬふりだし、相談も先延ばししていることをいいことにね」


 そう。

 こいつだけのせいじゃない。

 私の相談を「善処する」と先送りにする先生も、兄弟が大変だからと見向きもしない母親も、まともなのはお前だけだと期待を寄せた父親も。


 辛かったら電話して、と配られる命の電話だっと繋がったことなどない。


 私の小さな世界(学校)に助けてくれる人なんていなかった。


 だから私は、諦めた。




 本当ならこいつらみんな殺したい。

 こんな世界なんて壊れてしまえばいい。


「殺していい理由」なんてものはこの世に存在しないけど、これまでのことを振り返れば「殺す理由」には成り得るし、相手が反省もせずエスカレートさせたなら「殺される理由」にも成り得る。

 それは私の主観だけの話じゃない。


 法律で「殺してはいけない」と決まっているわけじゃない。


 それでも私が「殺さない」のは、ただ臆病だったから。

「殺す」より「殺される」ほうが楽だから。

 なのに殺してもくれなかった。


 そしてみんなより少しだけ、感情をねじ伏せるのがうまかったから。


 夜中に泣いて叫んで、暴れたかった。

 それをしなかったのは、ただ単にずっと我慢して感情を出さないで生きていたから。

 それはそのうち諦めになって、日常になった。


「謝ったからけじめはつけたって?思いたいならそうすれば?幼稚園児みたいに自分がやられてどう思ったの?とか、それはやっていいことだった?って、聞かれなきゃわかんないならやり直したほうがいいのでは?」


 彼は私の言葉になぜか傷ついた顔をする意味が分からない。


「どっちにしろ私は貴方がたを許す気はないから、自分たちのための謝罪は要らない」



 私にとってはこいつらからの謝罪はどうでもいい事。


 でもね。

 こちらに決定権があるのなら、私は「許されたい」「楽になりたい」なんて絶対に許さない。


 どうせすぐに忘れるんでしょ。

 今ここで心入れ替えても、この先助かるのは私しゃない見知らぬ誰か。

 私はその中に含まれないのだから、頷く義理はない。


 それにほら。

 主犯の二人は気にしていないみたいだよ。


 よっぽど彼奴等のが肝が据わってるのかもね。

「許される気がない」のか「そこまで考えが足りてない」のかは知らないけど。



 なにかに絶望してる彼を置いて、私はこれ以上話すことはないと、彼の隣をすり抜けて教室を出た。


 私からすれはたかが知れた絶望だけど、きっと彼の中では大問題なのだろう。

 でも問題を作ったのも出題したのもあちらなのだから、解答までたどり着いてもらわないと。


 この問題に正解があるのかわからないけど。

 私の答えは提示した。




 スノードロップの花束を先に渡したのはあなたたなのだから。

スノードロップの花言葉

「あなたの死を望みます」

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