13話 秘密の茶会
この国ははるか昔に起きた大戦以降
4つの国と同盟を結んできた。
武力を主軸に置いた政治を行ってきた帝国
エルフ、ドワーフ、獣人など他国では差別の対象になるような種族の者たちを束ねてできた
共和国
この世界の唯一神である女神を信仰する
宗教国家 教国
数多くの剣士を育ててきた実績を持つ
鉄と鋼と剣の国 大和国
かつての大戦と同じ過ちを繰り返さないように
表面上は同盟国として国交を行なってきたが
それと同時に他国を出し抜いてよからぬことを企まないように牽制し続けあってきた。
その均衡がある出来事を境に崩れ始めていた。
「こうしてそれぞれの国の王女が顔を合わせるのも何年ぶりかしら?」
「忙しい中わざわざ時間を作ったんだからつまらない茶会だったら許さないわよ!」
「またこうして無事に顔を合わせることができたことを女神様に感謝します。」
「わた…拙者…やはりこういう場は苦手でござる…」
凛とした顔立ちで常に余裕な表情の帝国の王女
サマンサ=ヴェルグ
可愛らしい顔とは裏腹に常にツンツンしている共和国の王女
ミクリ=アドニス
お淑やかな雰囲気の中になにか神秘的なオーラを感じる教国の王女兼聖女である
ブラン=マロウ
美少女なのにどこか抜けているところがある
大和国の姫君
宮尾マコト
「みなさん集まったところで
そろそろ始めましょうか?楽しいお茶会を」
そしてこの茶会の主催者であり
我が主人である王国の第2王女
ミドラ=ブレイブロード
茶会が始まってからの様子はさまざまであった
あまり目にしない茶菓子に目を輝かせて頬張るミクリ様
景色と共に紅茶を楽しまれるブラン様
マナーを間違えていないかとソワソワされているマコト様
ティーカップのフチを指で撫でながらそれを眺めているサマンサ様
しばらくしてサマンサ様が口を開く
「ねぇ?そろそろ本題に入ってくれないかしら?同盟国の王女を全員集めておいてただ楽のしくお茶がしたいだけでした。なんてことはないんでしょ」
それまで和らいでいた雰囲気が一気に張り詰める。
皆の顔から笑顔が消える中
マコト様だけ「え?違うの?」って顔をされている
「もしかしてだけど例の襲撃者の話?」
「軍事に力入れてる帝国が一個大隊を全滅させられたんだっけぇ?よっわぁ」
「あら?共和国でも獣人で結成された組織が潰されたと聞いたわよ?」
「教国では枢機卿が亡くなられました…」
「拙者の故郷では独立を企んでいた反大和国の一派が根絶やしに…もしかして王国でも被害が?」
「えぇ。被害者は悪行を生業とするようなゴミ貴族でしたのでこちらとしては大した被害ではありませんでしたわ。後任のおじさまは真面目な方のようですし……ですが。
大型犯罪組織であるグリードと
その関係者の可能性があったとされた者たちのほとんどが一夜にして失踪したせいで騎士団も王宮内も大慌てですわ。」
大型犯罪組織であったグリードは
構成員だけでも1000はゆうに超える
更にそれに加担する貴族や商人たちを合わせたら数えきれない人数である。
それを1人ずつではなく一度に全員を誰にも悟らせることなく消せるとなれば
実行者はグリード以上の力を持った組織と考えるのが自然だ。
「そして犯行現場からは魔力の余波を一切検知できなかった。それはどの現場も同じだったと聞きます。」
「魔法でも使わなければ犯行不可能な状況であるにもかかわらず魔法は使われなかった。
ここから考えられるのは。
魔法なしで犯行が可能な超人的な存在であること。
もうひとつは魔法以外の力により犯行であること。」
「スキルですね」
「あら?恩恵という可能性もあるのでなくって?」
「はぁ⁉︎サマンサ!!アタシの国のやつがやったって言いたいのかよ!!」
「まぁまぁお二人とも。証拠もなく誰かを疑うのは良くないですわ。女神様も悲しまれます」
「スキル使用の可能性について…マコト様はどう思われますか?」
まさか自分が名指しで呼ばれるとは思わず
慌てまくっているマコト様
「え?え⁉︎いや…えっとそのぉ…」
慌てて持っていた紅茶を飲み干し
一息ついてから話し出す。
「えっと…まずスキルを使っての犯行も不可能だと思います……えっとたしかに痕跡を残さずにそういったことを行うならスキルの使用が疑われますが…通常のスキルではそこまでの力はありませんし、可能だとしたら生まれながらに持つ祝福スキルですが祝福スキルは犯罪行為に使用するとその力を剥奪されますから…まずないと…思います…はい。」
「私も同じ意見です。祝福スキルは女神様から賜った奇跡です。現に悪用した犯罪者たちはその力を奪われてきたのをこの目で見てきました。」
「だから恩恵持ちのアタシらが怪しいって言いたいの⁈」
「あっ⁈いえ!そういうわけではなくぅ…
そのぉ…えっと…」
「どうもありがとうマコト様。ミクリ様あまり虐めないであげてください。」
いじめてないわよ!!とテーブルをバンバン叩いて抗議するミクリ様
あのテーブルは高いのでどうか丁寧に扱って欲しい。
「もうひとつ可能性があるじゃない。
秘匿され消えていった力『魔術』が」
それを聞いてハンッとミクリ様が鼻で笑う
「バッカじゃないの?最後に魔術の使用が確認されたのが大戦中なのよ?『戦神』だけが使えた力なんて誰が使えるっていうのよ」
「あら?あなたの国ではアレを戦神と呼ぶのね?帝国では『厄災』と呼んでいたわ。」
「教国では『大戦の悪魔』でしたわ。」
「拙者の村では『北風』と…」
「北風?」
「あっえっと…拙者の故郷では冬には寒さと雪で毎年多くの者が亡くなったり苦しんだりしてきたのでそんな冬を運んでくる北風は恐ろしいものとされてきたので
戦場に1人で現れては全てを滅ぼして去っていく様を北風と例えるようになったとか…」
「……そして王国では魔術を操り全てを滅ぼす存在として『魔王』と呼ばれていましたわ。」
かつて12あった国を今の5つの国になるまで
滅ぼして回った最悪の存在
そしてそれを打ち倒すために5つの国が同盟を組みなんとか封印したとされている。
「私も魔術が使われたなんて普段なら冗談としか思わないでしょうね。けれど……」
「氷動レイドか?」
え?っとマコト様が声を漏らす
「えぇ。魔王と呼ばれた存在である『氷動ミカド』彼と同じ姓を持つ者が王国に現れた。」
「氷動の名は大戦後は存在そのものがタブーとして女神様の力によって名づけることも名乗ることもできないようになっているはずです。」
「そう。名乗ろうとすれば体の自由が効かなくなったり場合によっては天罰で命を落とすこともあるとされてる。まぁ…誰も使えないせいでだんだん忘れ去られていって今じゃ古い家の貴族くらいしかこのことを知らないけどね。」
「ですがたとえ忘れられていたとしても女神様の力が消えたわけではありません。
今でも名乗るだけでも罪となります。」
「なぜ彼がその名を名乗れているのか?
なぜ彼には女神の天罰が降らないのか
気になることはたくさんあるけれど……
一番は『導き子』である佐藤アルトが彼を敵視していることよ。」
導き子
女神の意思によって産まれる奇跡の子
産まれながらにあらゆる人類よりも優れた力を持ち
闇を祓い、世界に祝福をもたらす存在として全ての国で保護対象として秘密裏に監視されている。
「彼が敵視しているということは……」
「女神はそいつを敵認定してるってことよね?」
「女神様に仇なす存在とは…万死に値しますッ」
「あ…あの!」
マコト様が慌てて立ち上がる
そういえばマコト様は氷動レイドと面識があったと報告があった。
「殿…ッ…レイド殿は決して悪い方ではありません。確かにちょっと意地悪ではありますが
同じ名を名乗っているからといって悪と決めつけるのは…」
「確かに禁じられているからといって国の法律で罰則があるわけでもありませんし
彼が襲撃者であるという証拠もありません。」
「それに仮に本当にそいつが襲撃者なら
なんの手立てもないアタシたちじゃ太刀打ちできないし下手に刺激しないほうがいいわね」
「そうね。今はまだ要注意人物どまりってところかしら?」
「聖女の名にかけて…必ず悪行の全てを暴いて見せます…そして女神の名の元に裁きを!!」
1人を除き4つの国の姫たちが
氷動レイドを警戒対象とした
茶会の後 姫様は私に指示を出す。
「マキ。あなたは引き続き学園でアルト様と氷動レイドの動向を逐一報告しなさい。」
「はっ!」
佐々木マキ。私に与えられた学園内での偽名
この命にかえても必ずや使命を全うして見せる。